34 / 39
27、広がる異変(前編)
しおりを挟むその日、ニュースでは落下した航宙艦の事件が報道されていた。
どのチャンネルもほぼ同じ内容をつたえ続けている。
「マーズシティ・ロメロ145近郊に落下したのはアビスゲートの警備に就いていた連邦統制軍の航宙艦と思われます。被害は予想外に少なく、直撃でなかった事が幸いしたのではないかと専門家はみています」
落下したのは友軍によって撃沈された航宙駆逐艦だったが報道では詳細をつたえていない。軍が正式な発表をしていない為だった。
長年かけて火星に建設された幾つもの大気発生プラントにより造られ続ける酸素や地球型生物が生存可能な成分により、火星の大気は60%まで充実していた。それより大気摩擦が発生し、船体がいくつかに分解された。その一番大きな破片がマークシティ11近くに落下したのだ。
それをニュース番組では報道し続けているのだ。
連邦統制軍の地上のレーダーではシティに方向転換した時は最悪の事態を予想したが、結局、直撃は回避される。
だが衝撃は激しく大きなクレーターを作っていた。舞い上がった粉塵は周辺の各ドームシティにも達していた。
99式偵察戦闘車がクレーターに近づいていた。
火星仕様に改装されている最新型の偵察車両だ。装甲の耐熱、耐衝撃性も高く、探査システムも充実している。
「フィレット、現場に到着。放射能反応なし。今より接近する」
99式偵察戦闘車は、歩行形態に変形すると落盤した地表を降りて行った。
「生命反応な……いや、待て。何か動いている」
カメラがズームアップした。
画面には黒い液状のものが破片から漏れているのが映っている。
「燃え残ったオイルのようだ。または冷却液かもしれない。漏れ続けている。船内に大量に残っていそうだ」
死角を撮影しようと偵察戦闘車は方向転換した。てきたのは動力炉のある船体ではないようだ。薄い酸素のせいか炎上している箇所がみえた。
「ちょっとまて、何かいる。生存者かもしれない」
一瞬、人影が破損した船体の中に見えた。
「生命反応はないが、目の前に人がいる。計器の故障かもしれない。救助に降りる」
船体へ、ぎりぎりまで接近すると後部ハッチが開き戦闘甲化服の兵士が二人降りてきた。
兵士のひとりが破損した部分から内部を覗き込む。
その瞬間、兵士は頭を何かに掴まれ引きずり込まれた。
§
ロメロ145は火星の遺跡発掘地区を中心としたドームシティである。
半径20キロには移住してきた市民が暮らす都市がある。彼らの多くは大気発生プラントやドームシティ、そして遺跡の発掘設備を維持することに従事している。それと彼らにサービスを提供することを生業とした移住者たち。その規模は約10万人。火星に点在するドームシティの的なな人口であった。
ドーム内大気は地球と同じレベルまでにし、航宙艦に使用される人工重力発生装置と同じ構造のものを大規模化し設置されている。
これにより、移住者が長期生活により起こる身体への影響を最小限にまで抑えていた。
初期の頃でこそ問題も発生したが、今では長期生活者が地球へ帰還しても、ケアもほぼ必要なく順応できるようになっていた。
すべては火星の遺跡で発見されたテクノロジーの賜物であった。
ドームシティは緊急態勢に入っていた。
火星の天候状況の変化に度々発動されていた緊急事態だったが今回のものは違っていた。
近郊に航宙艦の破片が落下したからである。
情報の少ない曖昧な報道、自体を把握していない市民たちが不満の声を上がり始めていた。
都市内で開催されていた様々イベントもこの事態により中止になっていた。そのことがより市民を不安にさせていた。
そのころ発掘現場ロメオ145では再生を始めていた巨人の骨格だけだった遺骸は、原型を取り戻しつつあった。
発見された巨人の遺骸、その中でも最大の大きさである通称“キング”。数時間前から、その“キング”から正体不明の電気信号が流れ始めている。それは奇しくもアビスゲートで異変が起き始めた時間とほぼ同時刻であった。
信号を分析すると規則的なパターンであり単純な信号の可能性があった。
その兆候に歓喜する研究者たち。その中にいてヘルマン・ペイジ博士は、これをモールス信号のようなメッセージではないかと推測すしていた。
量子コンピュータで電気信号や採取した細胞の解析を急ぐ研究スタッフたちであったが、アビスゲートでの事故と落下した航宙艦のニュースは、ここにも入ってきた。
「ペイジ博士。ニューズ、聞きましたか? ここも危険になるかもしれませんよ」
しかし、ヘルマン・ペイジ博士は助手の言葉にも耳を貸さない。
「今、ここで去れるか! 見てみろ。目の前で起きてることを」
再生を続ける巨人を指さす博士。巨人は皮膚の再生まで完了し、血管のようなものが脈打っていた。
「し、しかし……」
「ロメロ145のドームはとりわけ頑丈に造られている。たとえ隕石の直撃でも大丈夫だ!」
「いや、いくらなんでもそれは」
目の前で起き続ける未知の現象にヘルマン・ペイジ博士は完全に取りつかれてた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる