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23、浸食開始
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発生したワームホールから現れたのは黒い液体に見えるものだった。
それはアビスゲートの周囲に点在していた作業ポッドを覆う様に広がり、アビスゲート自体にも絡みつこうとしている。
ポッドの救助にあたっていたクレムソン級巡洋艦マーブルヘッドのカメラがその映像を映し出していた。
「あれはなんだ? 燃料か? それとも冷却剤なのか?」
艦長のマクダネル中佐が眉をしかめながら言った。
「いえ、アビスゲートで使用している液体燃料はこれほど大量ではありません。冷却剤、推進剤でもこれほどの量は積んでいないはずです」
「では一体なんだ?」
「何かの化学反応の可能性もありますが現在では不明だとしか……」
部下が言葉を濁す。
映像の中で数基の逃げ遅れた作業ポッドが巻き込まれ始めた。
「艦長……!」
「密閉された宇宙用の作業ポットであるならすぐにどうこうなる事はない」
そうは言っても正体のわからない物質に迂闊に接触するのも危険だった。
そうしている間に黒い液体は、アビスゲートに一番近い位置にいるトライバル級航宙駆逐艦グルカにも届きそうな勢いで広がっていた。
「念のため、グルカに救助活動を中断してアビスゲートから距離をとるように伝えろ」
旗艦からの指示に従い、方向転換するグルカだったが拡散していく黒い液体の方が予想以上に速かった。
反転しようとした時に推進口に液体が取りついてきたのだ。
それはまるで意思を持っているかのような動きだった。
「速力上がりません」
「エンジンに異常は?」
「正常です。推進出力も正常値を示しています。おそらくですが何かが接触して推進の障害になっている可能性があります」
推進を止められたグルカに後から伸びてきた液体が覆っていく。船体左舷に接触した液体はまるで紙に水が染み込むように広がっていった。
その様子はマーブルヘッドからも見えていた。
「グルカ、状況を知らせろ」
しかしノイズがひどく返答の音声は聞き取ることはできなかった。
それからものの数分で黒い液状のものはグルカ船体全部を覆いつくしていた。
§
半壊した作業用重機のコントロールルームの中にカーターとサヤが取り残されていた。
「これって本当に君が引き起こした事じゃないよな」
「爆発がなければ私は計画どおりシステムを破壊できてた」
「……聞かなきゃよかった」
そこへ誰かが入ってくる。
「あんたら無事か?」
どうやら作業員のようだ。
連れてきていたオートワーカーが残骸を撤去して入口を作ると作業員たちが入ってくる。
「助かった。ありがとう!」
「大丈夫か?」
「怪我はしてないよ。一体、何があったんだ?」
カーターはとぼけて訊ねてみる。
「攻撃だよ。外部からミサイル攻撃を受けたらしい。詳しい事は俺たちもわからないがね」
「攻撃? 自由同盟か?」
「まだわからない。でも、たぶんそうさ。でなけりゃ、航宙駆逐艦が警戒しているその中にミサイルなんて撃ち込むもんか」
「そうだな」
カーターはサヤをちらりと見た。彼女はミサイル以外の方法でアビスゲートを破壊しようとしていたのに表情も変えずに話を聞いている。
「あと聞きたいんだが取材に来ていたジャーナリストたちはどうなった? 無事かい?」
「爆発したエリアから離れた場所だし大丈夫じゃないかな。確証はないが。それより早く安全な場所に行こう」
「ああ、そうだね。ステーション内部での火災は危険だしね」
「いやいや火災じゃない。いや、火災も危険なんだがもっとやばいのがいるんだ」
「いる? 何が?」
「得体のしれない何かだよ。エイリアンかも……」
「エイリアン? 冗談だろ?」
最初、カーターは自由同盟の兵士か武装オートワーカーが侵入した事を大げさに言っているのかと思った。武装した兵士や戦闘用オートワーカーの容姿はある意味、特殊で異様な姿に感じるのは過去の取材での経験だ。
だが、作業員の表情と口調からそういったものとは違うニュアンスを感じる。
「俺にも何かよくわからないがオートワーカーとかそういった類のものじゃない。見たこともない生き物だ」
「生き物だって?」
「ああ……とにかく早くここから離れよう。連中はかなり近い場所にいる」
作業員が合図をすると入口の残骸をどけてくれた二体のオートワーカーが背負っていたライフルを構える。
「雑務用のオートワーカーを戦闘モードにした。何かあってもこいつらが守ってくれる」
オートワーカーがライフルを構えて通路に向かった。
「さあ、行こうぜ」
その後を作業員とカーターが続く。
「サヤ、君も早く」
立ち尽くすサヤにカーターが立ち止まって声をかけた。
「……間に合わなかった。奴らが入って来てしまった」
サヤがつぶやくように言った。
意味ありげな言葉にカーターは眉をしかめる。
「君は何か知ってるのか?」
「私は彼らを止める為にここまで来たの。でも間に合わなかった」
「彼ら?」
「深淵から来る者たち……古の神……宇宙を滅ぼす者たち」
その時、通路から銃声が聞こえてきた。
先に行っていた作業員が残骸に足をとられながら慌てて戻ってくる。
「逃げろ! 奴らだ! 奴らが来た!」
それはアビスゲートの周囲に点在していた作業ポッドを覆う様に広がり、アビスゲート自体にも絡みつこうとしている。
ポッドの救助にあたっていたクレムソン級巡洋艦マーブルヘッドのカメラがその映像を映し出していた。
「あれはなんだ? 燃料か? それとも冷却剤なのか?」
艦長のマクダネル中佐が眉をしかめながら言った。
「いえ、アビスゲートで使用している液体燃料はこれほど大量ではありません。冷却剤、推進剤でもこれほどの量は積んでいないはずです」
「では一体なんだ?」
「何かの化学反応の可能性もありますが現在では不明だとしか……」
部下が言葉を濁す。
映像の中で数基の逃げ遅れた作業ポッドが巻き込まれ始めた。
「艦長……!」
「密閉された宇宙用の作業ポットであるならすぐにどうこうなる事はない」
そうは言っても正体のわからない物質に迂闊に接触するのも危険だった。
そうしている間に黒い液体は、アビスゲートに一番近い位置にいるトライバル級航宙駆逐艦グルカにも届きそうな勢いで広がっていた。
「念のため、グルカに救助活動を中断してアビスゲートから距離をとるように伝えろ」
旗艦からの指示に従い、方向転換するグルカだったが拡散していく黒い液体の方が予想以上に速かった。
反転しようとした時に推進口に液体が取りついてきたのだ。
それはまるで意思を持っているかのような動きだった。
「速力上がりません」
「エンジンに異常は?」
「正常です。推進出力も正常値を示しています。おそらくですが何かが接触して推進の障害になっている可能性があります」
推進を止められたグルカに後から伸びてきた液体が覆っていく。船体左舷に接触した液体はまるで紙に水が染み込むように広がっていった。
その様子はマーブルヘッドからも見えていた。
「グルカ、状況を知らせろ」
しかしノイズがひどく返答の音声は聞き取ることはできなかった。
それからものの数分で黒い液状のものはグルカ船体全部を覆いつくしていた。
§
半壊した作業用重機のコントロールルームの中にカーターとサヤが取り残されていた。
「これって本当に君が引き起こした事じゃないよな」
「爆発がなければ私は計画どおりシステムを破壊できてた」
「……聞かなきゃよかった」
そこへ誰かが入ってくる。
「あんたら無事か?」
どうやら作業員のようだ。
連れてきていたオートワーカーが残骸を撤去して入口を作ると作業員たちが入ってくる。
「助かった。ありがとう!」
「大丈夫か?」
「怪我はしてないよ。一体、何があったんだ?」
カーターはとぼけて訊ねてみる。
「攻撃だよ。外部からミサイル攻撃を受けたらしい。詳しい事は俺たちもわからないがね」
「攻撃? 自由同盟か?」
「まだわからない。でも、たぶんそうさ。でなけりゃ、航宙駆逐艦が警戒しているその中にミサイルなんて撃ち込むもんか」
「そうだな」
カーターはサヤをちらりと見た。彼女はミサイル以外の方法でアビスゲートを破壊しようとしていたのに表情も変えずに話を聞いている。
「あと聞きたいんだが取材に来ていたジャーナリストたちはどうなった? 無事かい?」
「爆発したエリアから離れた場所だし大丈夫じゃないかな。確証はないが。それより早く安全な場所に行こう」
「ああ、そうだね。ステーション内部での火災は危険だしね」
「いやいや火災じゃない。いや、火災も危険なんだがもっとやばいのがいるんだ」
「いる? 何が?」
「得体のしれない何かだよ。エイリアンかも……」
「エイリアン? 冗談だろ?」
最初、カーターは自由同盟の兵士か武装オートワーカーが侵入した事を大げさに言っているのかと思った。武装した兵士や戦闘用オートワーカーの容姿はある意味、特殊で異様な姿に感じるのは過去の取材での経験だ。
だが、作業員の表情と口調からそういったものとは違うニュアンスを感じる。
「俺にも何かよくわからないがオートワーカーとかそういった類のものじゃない。見たこともない生き物だ」
「生き物だって?」
「ああ……とにかく早くここから離れよう。連中はかなり近い場所にいる」
作業員が合図をすると入口の残骸をどけてくれた二体のオートワーカーが背負っていたライフルを構える。
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「さあ、行こうぜ」
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「彼ら?」
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その時、通路から銃声が聞こえてきた。
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