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22、黒天に漂う怪
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火星の軌道上にはいくつかの人工物が周回軌道上に点在していた。
連邦統制軍と自由同盟の双方の衛星や補給基地。それと関連する民間の衛星だ。
その中の自由同盟宇宙軍の衛星基地から発進した偵察機がアビスゲートに接近していた。
アビスゲート周辺に飛び交っていた通信を傍受しての対応だった。
常に自由同盟宇宙軍はアビスゲートの状況を監視している。分析の結果、緊急な事態が起きていると判断したのだった。
遠隔操作の偵察機は高速処理され電波の時間差を極力抑えている。
長距離での時間差もほぼ解消されている。
映像は衛星を経由して演習中の自由同盟派第一航宙機動艦隊に送られた。
第一航宙機動艦隊の旗艦・空母ヴァリャーグの艦橋内でレンナー大佐と副官のサヴィン少佐は映像を見つめる
「事故かな?」
「どうでしょうか。不明艦からの攻撃によるものだという内容の通信も傍受しております」
映像の中で周辺に破片を漂わせたアビスゲートがゆっくりと回転し始めていた。
「その様な作戦は聞いていませんが……」
「我々の知らされていない作戦かもしれない。そもそもこの急な演習も何か引っかかる」
「演習が陽動だと?」
「演習を開始して間もなくのこれだ。そして我々の演習に伴って火星方面に展開中だった連邦統制軍の艦隊が警戒して集結した。当然、ビッグアルファ(アビスゲート)の警備も手薄になったろうな」
「私にはなんとも……」
「とにかく偵察機には監視を継続だ。おそらく演習よりこちらの方が重要になる」
レンナー大佐は画面に映るアビスゲートを指さした。
§
突如、作動したアビスゲートから何かが噴き出て始めた。
宇宙空間に黒い液体がまき散らされた様に見える。黒い液体の中から時折、赤い稲妻のようなものが光っていた。
その周辺には避難が遅れている作業ポッドの作業チームがいた。
ラリー・ホームは作業ポッドの仕事について1か月が経っていた。
新型のロボットアーム操作や建設作業にも慣れてきた矢先にこのトラブルだ。スラスター操作をしながら思わず悪態をつく。
「嘘だろ……これじゃ入れないじゃないか!」
宇宙空間に広がっていく黒い液体が目の前の搬出口を塞いたのだ。
「慌てるな。まだ隙間があるかもしれない」
チームリーダーからの通信にラリーは、カメラをズームアップさせた。
ライトに照らされた液体の表面が生き物のように蠢いていた。搬出口への侵入路は見当たらない。だがその代わりにラリーは驚くべき事を見つけてしまう。
「液体じゃない」
黒い液体と思われたものは無数の小さな生物が集まったものだった。目のようなものが見えたが類似する生物は思い出さなかった。さらに驚いたのは個体の姿はどれも違ったものであった。
「ボス、こいつら生き物だ!」
「ああ、見えてる……とにかく搬出口は無理だ。少し離れているが航宙駆逐艦に向かおう」
幸いなことに航宙駆逐艦が外縁部作業に従事していた作業ポットチームの救助をしていた。残りの推進剤量でも十分な距離だ。アビスゲートの内縁部に位置していたラリーのチームは作業ポッドは外縁部の先に停泊している駆逐艦に進路を変えた。
チームは4機いたが新人のラリーが最後尾になってしまう。
漂う液体に見える生物の集合体液体が近づいていることに気が付いた。
「ボス、こいつら俺たちを狙っているみたいだ」
「落ち着け。駆逐艦までは大して距離はない。推進剤の出し惜しみはしないでぶっ飛ばせ」
ラリーは指示のとおり、推進剤の出力を上げた。これ以上、チームから離れたくない思いだ。
だが突如、作業ポッドに振動が起きる。
嫌な予感がした。前を進む他の作業ポッドが遠のいていく。
俺の機体の方が動いていないのか?
コンピューター画面上は推進剤の噴出装置は作動している事になっている。ラリーは必死に操作を繰り返した。だがチームの作業ポッドとの距離は離れていくばかりだ。
ラリーは、何かが接触しているのかと思いたち、船外カメラを操作してみた。
そこに映し出されたのは、生物の集合体が作業ポッドに絡みついている様子だった。
冗談じゃない!
ラリーはスラスターを全開にした。
しかし状況は変わらない。
「ボス! 連中に掴まった! 助けて」
通信を入れたのと同時に生物の集合体がラリーの作業ポッドを覆いつくしてしまった。
§
椅子に座った男はミスター・イエローと名乗った。
「誰?」
フェルミナは思い当たらない名前に首を傾げる。
「君の古い友人。ずっと君を見守ってきた。小さな子供のころからね」
「私にはまるで覚えがない」
「危険が迫っている。君を助けたいので、こうしてコンタクトした」
「私に何か起きるっていうの?」
「既に起きている。それと正確には君たちを助けたいのだ」
「君たち? 航空隊……いえ、キリシマに何かが起きるの?」
「もっと広い範囲だよ」
目深に被ったフードからは表情は読み取れないが、淡々とした口調から無表情だというのはわかる。
男は言葉を続けた。
「人類に脅威が迫っている」
§
意識を失ったフェルミナは”キリシマ“の医務室に運ばれ診察を受けていた。
意識はまだ戻っていない。
心配した航空隊のメンバー達は医務室の前に集まっていたが、フェルミナの症状の理由を想像して口々に話すだけだ。
「俺たちがここにいても何もできない。後はドクターに任せてとりあえず待機室に戻ろう」
チームリーダーのニック・ウォーカー大尉が言う。
「トブルクへ上陸は?」
「お前、こんな状況で飲めるのか?」
「まあ、そうだよな」
そんな話を話していると航空隊指揮官のクエーツ少佐がやって来た。
「ハーカー少尉の容態は?」
「意識を失っています。今、ドクターが診ていますが……」
「そうか、ここはドクターに任せよう。ハーカー少尉のアクシデントは気の毒だが、全員集まっているのは都合がよかった」
クエーツ少佐が口早で続ける。
その様子からニック・ウォーカー大尉が何かが起きた事を感じ取った。
「アビスゲートが何らかのテロ行為を受けている。正体は不明だが、輸送任務中に我々が攻撃を受けた新兵器が関わっている可能性があるらしい。キリシマは救援のために向かうことになる」
連邦統制軍と自由同盟の双方の衛星や補給基地。それと関連する民間の衛星だ。
その中の自由同盟宇宙軍の衛星基地から発進した偵察機がアビスゲートに接近していた。
アビスゲート周辺に飛び交っていた通信を傍受しての対応だった。
常に自由同盟宇宙軍はアビスゲートの状況を監視している。分析の結果、緊急な事態が起きていると判断したのだった。
遠隔操作の偵察機は高速処理され電波の時間差を極力抑えている。
長距離での時間差もほぼ解消されている。
映像は衛星を経由して演習中の自由同盟派第一航宙機動艦隊に送られた。
第一航宙機動艦隊の旗艦・空母ヴァリャーグの艦橋内でレンナー大佐と副官のサヴィン少佐は映像を見つめる
「事故かな?」
「どうでしょうか。不明艦からの攻撃によるものだという内容の通信も傍受しております」
映像の中で周辺に破片を漂わせたアビスゲートがゆっくりと回転し始めていた。
「その様な作戦は聞いていませんが……」
「我々の知らされていない作戦かもしれない。そもそもこの急な演習も何か引っかかる」
「演習が陽動だと?」
「演習を開始して間もなくのこれだ。そして我々の演習に伴って火星方面に展開中だった連邦統制軍の艦隊が警戒して集結した。当然、ビッグアルファ(アビスゲート)の警備も手薄になったろうな」
「私にはなんとも……」
「とにかく偵察機には監視を継続だ。おそらく演習よりこちらの方が重要になる」
レンナー大佐は画面に映るアビスゲートを指さした。
§
突如、作動したアビスゲートから何かが噴き出て始めた。
宇宙空間に黒い液体がまき散らされた様に見える。黒い液体の中から時折、赤い稲妻のようなものが光っていた。
その周辺には避難が遅れている作業ポッドの作業チームがいた。
ラリー・ホームは作業ポッドの仕事について1か月が経っていた。
新型のロボットアーム操作や建設作業にも慣れてきた矢先にこのトラブルだ。スラスター操作をしながら思わず悪態をつく。
「嘘だろ……これじゃ入れないじゃないか!」
宇宙空間に広がっていく黒い液体が目の前の搬出口を塞いたのだ。
「慌てるな。まだ隙間があるかもしれない」
チームリーダーからの通信にラリーは、カメラをズームアップさせた。
ライトに照らされた液体の表面が生き物のように蠢いていた。搬出口への侵入路は見当たらない。だがその代わりにラリーは驚くべき事を見つけてしまう。
「液体じゃない」
黒い液体と思われたものは無数の小さな生物が集まったものだった。目のようなものが見えたが類似する生物は思い出さなかった。さらに驚いたのは個体の姿はどれも違ったものであった。
「ボス、こいつら生き物だ!」
「ああ、見えてる……とにかく搬出口は無理だ。少し離れているが航宙駆逐艦に向かおう」
幸いなことに航宙駆逐艦が外縁部作業に従事していた作業ポットチームの救助をしていた。残りの推進剤量でも十分な距離だ。アビスゲートの内縁部に位置していたラリーのチームは作業ポッドは外縁部の先に停泊している駆逐艦に進路を変えた。
チームは4機いたが新人のラリーが最後尾になってしまう。
漂う液体に見える生物の集合体液体が近づいていることに気が付いた。
「ボス、こいつら俺たちを狙っているみたいだ」
「落ち着け。駆逐艦までは大して距離はない。推進剤の出し惜しみはしないでぶっ飛ばせ」
ラリーは指示のとおり、推進剤の出力を上げた。これ以上、チームから離れたくない思いだ。
だが突如、作業ポッドに振動が起きる。
嫌な予感がした。前を進む他の作業ポッドが遠のいていく。
俺の機体の方が動いていないのか?
コンピューター画面上は推進剤の噴出装置は作動している事になっている。ラリーは必死に操作を繰り返した。だがチームの作業ポッドとの距離は離れていくばかりだ。
ラリーは、何かが接触しているのかと思いたち、船外カメラを操作してみた。
そこに映し出されたのは、生物の集合体が作業ポッドに絡みついている様子だった。
冗談じゃない!
ラリーはスラスターを全開にした。
しかし状況は変わらない。
「ボス! 連中に掴まった! 助けて」
通信を入れたのと同時に生物の集合体がラリーの作業ポッドを覆いつくしてしまった。
§
椅子に座った男はミスター・イエローと名乗った。
「誰?」
フェルミナは思い当たらない名前に首を傾げる。
「君の古い友人。ずっと君を見守ってきた。小さな子供のころからね」
「私にはまるで覚えがない」
「危険が迫っている。君を助けたいので、こうしてコンタクトした」
「私に何か起きるっていうの?」
「既に起きている。それと正確には君たちを助けたいのだ」
「君たち? 航空隊……いえ、キリシマに何かが起きるの?」
「もっと広い範囲だよ」
目深に被ったフードからは表情は読み取れないが、淡々とした口調から無表情だというのはわかる。
男は言葉を続けた。
「人類に脅威が迫っている」
§
意識を失ったフェルミナは”キリシマ“の医務室に運ばれ診察を受けていた。
意識はまだ戻っていない。
心配した航空隊のメンバー達は医務室の前に集まっていたが、フェルミナの症状の理由を想像して口々に話すだけだ。
「俺たちがここにいても何もできない。後はドクターに任せてとりあえず待機室に戻ろう」
チームリーダーのニック・ウォーカー大尉が言う。
「トブルクへ上陸は?」
「お前、こんな状況で飲めるのか?」
「まあ、そうだよな」
そんな話を話していると航空隊指揮官のクエーツ少佐がやって来た。
「ハーカー少尉の容態は?」
「意識を失っています。今、ドクターが診ていますが……」
「そうか、ここはドクターに任せよう。ハーカー少尉のアクシデントは気の毒だが、全員集まっているのは都合がよかった」
クエーツ少佐が口早で続ける。
その様子からニック・ウォーカー大尉が何かが起きた事を感じ取った。
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