深淵から来る者たち

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17、第一機動師団

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 最大の発掘現場R145では発見される遺物が一番多い地域だ。
 文明で主要な都市だったのかもしれないし中心地なのかもしれなかった。
 最近、発見された中では巨人が一番のものだ。
 生物の痕跡は初めてであった
 その中でも一番重要性の高いものは保存度が最も高い巨人
 通称“キング”である。
 ある時期を境に細胞部分はいまだに“生きている”事が判明
 R145では最需要案件となる。

 防護服に身を包んだ研究者たちが“キング”に取り付けられた調査用の機器を操作してた。
 その中で数人の研究者が集まりデータを覗き込んでいる。
「今朝の“キング”は、寝起きが良いな。このままジョギングに行きそうな勢いだ」
 細胞の活性化が極度に上がっている。
 セラミックの骨格を覆う枯れ果てていた細胞が“新鮮”ジューシーになっている。
 今まで死んでいると思っていた細胞もだった。
 特に頭蓋骨格内の細胞も分裂は顕著だった。既にバケツ大の大きさまで再生をしている。
 超音波によるエコー撮影で内部の様子をみながら科学者たちのテンションは上がっていた。
「かなり微弱ですが静電気信号が確認できます」
「読み取れる?」
「はい、ばっちり記録中だ」
「一体、細胞分裂する為の栄養はどこから得てるんだ?」
“コア”“”の温度が上がっています。もしかしたら細胞の分裂のエネルギーはここから供給されているのでは?」
 画面には人間いうと肝臓部分にあたる箇所が赤くなっている。表示される数字のカウントは上がり続けていた。
「熱でならライトの光や気温でも多少の反応はあってもおかしくなかったろう」
「熱だとは言ってない。何か観測されてないものだ」
「観測されてなければ存在してるとはいえない」
「まあ、ここで推論は止めておこう。今はデータの収集を最優先にしようじゃないか。データが多ければ多いほど解明に役立つ」
 その時、静電気信号をモニターしていたひとりがある事に気づく。
「博士、これって同じパターンが繰り返されてるんじゃ……」
 この言葉に科学者たちが一斉にモニターを覗き込んだ。


 研究者たちの話し合いの様子を制御室から軍の士官が伺っていた。
 R145を警備する軍の責任者である。
 危険な徴候かもしれない。
 彼はそう感じていた。理屈はわからない。何かそういう思いが強く浮かぶのだった。
 強化ガラスの窓から背を向けると受話器を取った。
「私だ。警戒レベルの段階を引き上げる。部隊を呼び戻せ」
 士官がもう一度、巨人の姿を見下ろした。

 同時刻
 火星・アケローンクレーターでは第一機動師団が定期演習を行っていた。
 第一機動師団は脚式戦闘車を中心とした戦闘師団だ。
 脚式戦闘車は、不整地な火星の地表に対応する為に“脚”と車輪を使い分けて移動する戦闘車両である。
 動物的な“四本脚”を採用しているWM2(ウォーカーモデル2)が師団の主力であったが、“二本脚”のWM3(ウォーカーモデル3)で編成した部隊も少数あった。
 二脚歩行のWM3の姿は、まるで鎧に身を包んだキングコングだった。
 それは非公式の呼称としても兵士の間で使われている。

 重装甲の戦闘指揮車で作戦指示を出していた指揮官に通信兵が報告にする。
「“クレイヴ・ヤード”から要請です。“周辺に待機し有事に備えよ”」
 グレイブ・ヤードは遺跡R145の軍事コードネームである。
「なにかあったのか?」
「いえ、理由は言っていません」
 指揮官は少し考えた。
「演習の中止命令を出せ。展開した部隊を集結後、“グレイブ・ヤード”に移動を開始する」
「イエッサー」

 アサルトライフルを抱えた軍事オートワーカーたちが車輪装甲に切り替わった装甲脚式車両に乗り込んでいく
 定員に達すると順に装甲脚式車両は走りだしていった。
 その横を105mm超電磁砲や小口径の機銃、ロケットランチャーを備えた大型のWM2が戦列を組んでいた。
 火星の荒れた大地を鋼鉄の軍団が移動し始めた。
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