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14、ニューイヤー・オブ・スペース(後編)
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火星のコロニーを目指して航行中のゴライアス号は約全長400mの大型貨物輸送船だ。
船内の多くは火星に送る物資で満載だが、2割のスペースは旅客エリアだ。旅客のユニットコストを抑える為に始まったスタイルだが多くの旅客便はこの方式をとっている。
そしてゴライアス号が火星に近づいたこの時、2199年の12月31日を迎えていた。
展望ルームを会場として、ささやかなニューイヤーパーティーが開かれていた。
そこでフリージャーナリストのボブ・カーターは宇宙空間に浮かぶ奇妙な物体を見つけていた。
「君の指摘する通り、あれはデブリじゃないのかもしれない」
そう言いながらカーターはカメラを物体に向けるとズームアップした。
「君、名前は?」
撮影をしながら隣にいる黒髪の女性に聞いてみる。先に物体に気がついたのは彼女の方だった。
「え……? 名前……名前はサヤ。エジマ・サヤ」
「僕はボブ・カーターだ。よろしく。ほら、サヤ、これで見てごらん」
カーターはカメラをサヤに手渡した。
ぎこちなくカメラを覗き込むサヤ。見るとゴライアス号と平行して進んでいるはずの物体には推進剤を使用している様子も見えなかった。
「あれは軍の偵察ドローンかもしれないな」
「ドローン?」
「そうさ。さっき接近してきた戦闘機みたいに僕たち乗ってるこの船を監視してるんだ」
「それはどうして?」
「この先に何か軍事的に重要なものがあるのか、軍事作戦が行われているのかもしれない」
カーターの推測は半分当たり、半分外れていた。
物体は潜航次元から現宇宙空間を偵察する為の索敵ユニットだった。単独で稼働しているのではなく、本体に接続されている。
索敵ユニットにリンクしているのは自由主義同盟の宇宙軍の秘密兵器、次元潜航艦アブデュルハミトだ。
その任務は火星へ向かうアビスゲートの動力源となるハイパー核融合炉の輸送妨害。輸送コースに配置した衛星トラップを見破られ、作戦変更を余儀なくされていた。
通常の宇宙空間からは認識されない次元潜航だったが、潜航次元では速力を出せないという欠点があった。そこで宇宙空間に“浮上”し、ブースターと通常の各パルスエンジンを使用。輸送船団と航路が交差する火星を目指す他の船に近づき、再び次元潜航に入っていたのだった。
そして、キリシマの輸送船団に近づくこの時、次元潜航艦アブデュルハミトは攻撃のチャンスを待っていた。
「このゴライアスという船は対艦ミサイル1発では沈みません。少なくとも船体中央、推進動力部分の二箇所の直撃が必要でしょう」
戦術行動士官のベルント・クルツ大尉が画面に映し出された船の構造図を指差した。
「輸送船にしては頑丈だな」
エメリッヒ・トップ大佐は顎に手を当てながら言った。
「こいつは元々、ヘリウム紛争時代に建造中だった空母を民間払い下げた船なんです。当然、武装は外されてますが、フレームは強固、装甲はそのまま残ってる。厄介な相手ですよ」
クルツ大尉が険しい顔で続ける。
「だが、撃沈する必要なない。デリケートな核融合炉に損傷を与えられればいいなら船体中央に一撃与えればいいんです」
「とはいえ、先に推進動力を潰して足止めたいな」
副長のダニエル・メイソン中佐が言った。
「しかし、一撃を受ければ護衛の艦隊が防御陣形になります。そうなると二撃目が困難になる」
どうやらメイソン中佐は一撃離脱戦法を取りたいらしい。
「まあな……それなら、できるだけ速く攻撃位置につくのが重要だ。この艦と乗組員ならできるだろ? ん?」
いたずらっぽい笑顔を見せるエメリッヒ・トップ大佐。彼がそうやる時は、作戦の成功に確信がある時だ。
「困難ですが、うちの乗組員たちならいけるでしょう」
「結構だ。本艦はまずゴライアス号の下部に位置してそのまま巡航する。輸送船を射程距離に捉えたところで熱追尾ミサイルで一撃、船の足を止める。同時に輸送船の下部に入り込み船体中央部を攻撃する。戦術は、一番管と二番管は熱追尾式を装填、三番、四番管はレーダー誘導式を装填しておくんだ」
「アイサー、艦長」ベルント・クルツ大尉が返事をする。
「護衛艦隊の防御陣形がどう動くかは分からない。きつい操舵になるのを覚悟しなければならないだろう。だが、アブデュルハミトと、この乗組員であれば十分可能であると信じている」
こうして作戦ブリーフィングは終わった。
直後、次元潜航艦アブデュルハミトは第二種戦闘態勢に入るのだった。
ゴライアス号の存在を報告したフェルミナの91式はキリシマへの帰艦へのコースをとっていた。
後部座席のマックは機体の速度が落ちているのに気づく。
「ミナ、何かトラブルか? 速度が落ちてる」
「ビレイ大尉、何か気になりませんか?」
「気になる?」
「あの船……何か変な感じがします」
「スキャンでおかしいところはでていなかったが、何か見たのか?」
「見たというか……感じるんです。何かの敵意みたいな」
「偽装艦っていいたいのか? そりゃ、可能性はあるがな。確認するには臨検だが、もし偽装艦なら俺たち二人だけで乗り込むのは危険だぞ」
「……ですよね。ごめんなさい。単に気にしすぎてるだけかもしれない」
マックは思案していた。
ニック・ウォーカー大尉からフェルミナが不安定なところがあるのは聞いている。しかし、フェルミナが勘が良いのも何回かの哨戒任務でわかっている。
「燃料にはまだ余裕がある。ギリギリまで様子を見るか。キリシマには俺が連絡する」
「すみません、大尉」
「いいさ、代わりにこの前のムーンフラッグで負けた俺の賭け金を建て替えてくれ」
「えっ! あれに賭けてたんですか?」
動揺するフェルミナ。
「お前、一点賭けだったのに大損だったぜ」
「それは……」
「冗談だよ。お前の勘は馬鹿にならないところがあるからな」
「すみません、大尉。それから、その……ムーンフラッグの方も、すみませんでした」
「ふはは、いいさ」
真面目に詫びるフェルミナにマックはつい笑ってしまった。
「こちら、マイティ・ワン。先ほどの輸送船が少し気になる点がある。少し監視を続けたい」
マックはキリシマに連絡した。
「艦長、マイティ・ワンがゴライアス号の監視を求めてますが」
通信オペレーターの報告を聞いた艦長のキーラ・アストレイは、通話を外部スピーカーに切り替えさせるとヘッドセットを取った。
「こちら艦長のアストレイ。船の何がおかしい?」
隣で副長のガイ・ウエルチ少佐が険しい表情になっている。
「うまく説明できませんが、フェルミナ少尉が船に何か違和感があると言ってます」
キーラ・アストレイは思案しているのかヘッドセットマイクを持ったまま動かない。
「どうします? 艦長」
副長の言葉に促されてキーラは結論を出した。
「フェルミナ少尉は勘がいいわ。何か微細な違いを感じ取っているのかもしれない。少し様子を見させましょうか」
ウエルチ少佐は無言で軽く頷く。
「マイティ・ワン、ゴライアス号への監視行動を許可する。我々の船団に近距離接近するまで監視を続けろ」
「了解」
交信は終了した。
「艦隊の警戒レベルを4に引き上げます」
副長のウエルチ少佐が即座に動いた。
「許可が出た。ゴライアスに戻ろう」
「了解、大尉」
フェルミナはスラスターを操作して機体を旋回させると機首をゴライアス号に向けた。
「しかし、何が違うんだろうな。俺にはさっぱりわからんよ」
「すみません、私の思いつきに付き合わせちゃって……」
「いいって、気にすんな」
思ってたより良い人だ。ウォーカー大尉と気が合うのもわかるような気がする。
91式の機体姿勢を整えながらフェルミナは思った。
実はフェルミナが気になっているのはゴライアス号への違和感だけではなかった。
ちらりとディスプレイに目をやる。画面の隅に小さく表示されているのは軍のネットワークを介してのメッセージだ。
『ハッピーニューイヤー、セイバーワン。ゴライアスは危険だ。注意せよ』
差出人はマルス・ワン。
ムーンフラッグでフェルミナが戦った相手だ。
日付は2200年1月1日を迎えていた。
船内の多くは火星に送る物資で満載だが、2割のスペースは旅客エリアだ。旅客のユニットコストを抑える為に始まったスタイルだが多くの旅客便はこの方式をとっている。
そしてゴライアス号が火星に近づいたこの時、2199年の12月31日を迎えていた。
展望ルームを会場として、ささやかなニューイヤーパーティーが開かれていた。
そこでフリージャーナリストのボブ・カーターは宇宙空間に浮かぶ奇妙な物体を見つけていた。
「君の指摘する通り、あれはデブリじゃないのかもしれない」
そう言いながらカーターはカメラを物体に向けるとズームアップした。
「君、名前は?」
撮影をしながら隣にいる黒髪の女性に聞いてみる。先に物体に気がついたのは彼女の方だった。
「え……? 名前……名前はサヤ。エジマ・サヤ」
「僕はボブ・カーターだ。よろしく。ほら、サヤ、これで見てごらん」
カーターはカメラをサヤに手渡した。
ぎこちなくカメラを覗き込むサヤ。見るとゴライアス号と平行して進んでいるはずの物体には推進剤を使用している様子も見えなかった。
「あれは軍の偵察ドローンかもしれないな」
「ドローン?」
「そうさ。さっき接近してきた戦闘機みたいに僕たち乗ってるこの船を監視してるんだ」
「それはどうして?」
「この先に何か軍事的に重要なものがあるのか、軍事作戦が行われているのかもしれない」
カーターの推測は半分当たり、半分外れていた。
物体は潜航次元から現宇宙空間を偵察する為の索敵ユニットだった。単独で稼働しているのではなく、本体に接続されている。
索敵ユニットにリンクしているのは自由主義同盟の宇宙軍の秘密兵器、次元潜航艦アブデュルハミトだ。
その任務は火星へ向かうアビスゲートの動力源となるハイパー核融合炉の輸送妨害。輸送コースに配置した衛星トラップを見破られ、作戦変更を余儀なくされていた。
通常の宇宙空間からは認識されない次元潜航だったが、潜航次元では速力を出せないという欠点があった。そこで宇宙空間に“浮上”し、ブースターと通常の各パルスエンジンを使用。輸送船団と航路が交差する火星を目指す他の船に近づき、再び次元潜航に入っていたのだった。
そして、キリシマの輸送船団に近づくこの時、次元潜航艦アブデュルハミトは攻撃のチャンスを待っていた。
「このゴライアスという船は対艦ミサイル1発では沈みません。少なくとも船体中央、推進動力部分の二箇所の直撃が必要でしょう」
戦術行動士官のベルント・クルツ大尉が画面に映し出された船の構造図を指差した。
「輸送船にしては頑丈だな」
エメリッヒ・トップ大佐は顎に手を当てながら言った。
「こいつは元々、ヘリウム紛争時代に建造中だった空母を民間払い下げた船なんです。当然、武装は外されてますが、フレームは強固、装甲はそのまま残ってる。厄介な相手ですよ」
クルツ大尉が険しい顔で続ける。
「だが、撃沈する必要なない。デリケートな核融合炉に損傷を与えられればいいなら船体中央に一撃与えればいいんです」
「とはいえ、先に推進動力を潰して足止めたいな」
副長のダニエル・メイソン中佐が言った。
「しかし、一撃を受ければ護衛の艦隊が防御陣形になります。そうなると二撃目が困難になる」
どうやらメイソン中佐は一撃離脱戦法を取りたいらしい。
「まあな……それなら、できるだけ速く攻撃位置につくのが重要だ。この艦と乗組員ならできるだろ? ん?」
いたずらっぽい笑顔を見せるエメリッヒ・トップ大佐。彼がそうやる時は、作戦の成功に確信がある時だ。
「困難ですが、うちの乗組員たちならいけるでしょう」
「結構だ。本艦はまずゴライアス号の下部に位置してそのまま巡航する。輸送船を射程距離に捉えたところで熱追尾ミサイルで一撃、船の足を止める。同時に輸送船の下部に入り込み船体中央部を攻撃する。戦術は、一番管と二番管は熱追尾式を装填、三番、四番管はレーダー誘導式を装填しておくんだ」
「アイサー、艦長」ベルント・クルツ大尉が返事をする。
「護衛艦隊の防御陣形がどう動くかは分からない。きつい操舵になるのを覚悟しなければならないだろう。だが、アブデュルハミトと、この乗組員であれば十分可能であると信じている」
こうして作戦ブリーフィングは終わった。
直後、次元潜航艦アブデュルハミトは第二種戦闘態勢に入るのだった。
ゴライアス号の存在を報告したフェルミナの91式はキリシマへの帰艦へのコースをとっていた。
後部座席のマックは機体の速度が落ちているのに気づく。
「ミナ、何かトラブルか? 速度が落ちてる」
「ビレイ大尉、何か気になりませんか?」
「気になる?」
「あの船……何か変な感じがします」
「スキャンでおかしいところはでていなかったが、何か見たのか?」
「見たというか……感じるんです。何かの敵意みたいな」
「偽装艦っていいたいのか? そりゃ、可能性はあるがな。確認するには臨検だが、もし偽装艦なら俺たち二人だけで乗り込むのは危険だぞ」
「……ですよね。ごめんなさい。単に気にしすぎてるだけかもしれない」
マックは思案していた。
ニック・ウォーカー大尉からフェルミナが不安定なところがあるのは聞いている。しかし、フェルミナが勘が良いのも何回かの哨戒任務でわかっている。
「燃料にはまだ余裕がある。ギリギリまで様子を見るか。キリシマには俺が連絡する」
「すみません、大尉」
「いいさ、代わりにこの前のムーンフラッグで負けた俺の賭け金を建て替えてくれ」
「えっ! あれに賭けてたんですか?」
動揺するフェルミナ。
「お前、一点賭けだったのに大損だったぜ」
「それは……」
「冗談だよ。お前の勘は馬鹿にならないところがあるからな」
「すみません、大尉。それから、その……ムーンフラッグの方も、すみませんでした」
「ふはは、いいさ」
真面目に詫びるフェルミナにマックはつい笑ってしまった。
「こちら、マイティ・ワン。先ほどの輸送船が少し気になる点がある。少し監視を続けたい」
マックはキリシマに連絡した。
「艦長、マイティ・ワンがゴライアス号の監視を求めてますが」
通信オペレーターの報告を聞いた艦長のキーラ・アストレイは、通話を外部スピーカーに切り替えさせるとヘッドセットを取った。
「こちら艦長のアストレイ。船の何がおかしい?」
隣で副長のガイ・ウエルチ少佐が険しい表情になっている。
「うまく説明できませんが、フェルミナ少尉が船に何か違和感があると言ってます」
キーラ・アストレイは思案しているのかヘッドセットマイクを持ったまま動かない。
「どうします? 艦長」
副長の言葉に促されてキーラは結論を出した。
「フェルミナ少尉は勘がいいわ。何か微細な違いを感じ取っているのかもしれない。少し様子を見させましょうか」
ウエルチ少佐は無言で軽く頷く。
「マイティ・ワン、ゴライアス号への監視行動を許可する。我々の船団に近距離接近するまで監視を続けろ」
「了解」
交信は終了した。
「艦隊の警戒レベルを4に引き上げます」
副長のウエルチ少佐が即座に動いた。
「許可が出た。ゴライアスに戻ろう」
「了解、大尉」
フェルミナはスラスターを操作して機体を旋回させると機首をゴライアス号に向けた。
「しかし、何が違うんだろうな。俺にはさっぱりわからんよ」
「すみません、私の思いつきに付き合わせちゃって……」
「いいって、気にすんな」
思ってたより良い人だ。ウォーカー大尉と気が合うのもわかるような気がする。
91式の機体姿勢を整えながらフェルミナは思った。
実はフェルミナが気になっているのはゴライアス号への違和感だけではなかった。
ちらりとディスプレイに目をやる。画面の隅に小さく表示されているのは軍のネットワークを介してのメッセージだ。
『ハッピーニューイヤー、セイバーワン。ゴライアスは危険だ。注意せよ』
差出人はマルス・ワン。
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