15 / 39
13、情報部第6局
しおりを挟む
空港は雪で覆われていた。
全翼タイプの大型旅客機が着陸と離陸を繰り返している。
その日、任務を終えたばかりのジョン・ウォルターズは早々にアジアから呼び戻された。
空港のカフェで一息ついていた後、彼はタクシー乗り場に向う。せっかくコーヒーで温まったのもつかの間、外に出るとすぐに体は冷え込んだ。
タクシー乗り場の先頭に停まる一台に近づくとドアが開いた。
後部座席に乗り込むと初老の男が運転席から振り向いた。珍しく人間のドライバーだ。
「どちらまで?」
オートドライバーでない事を嫌う者もいるが、ジョンは人間の方が好きだ。
ドライバーに目的地を告げると愛想のいい声が返ってきた。
タクシーは雪の降る街の中に走り出した。
外を眺めているとカサーン・ベイ社の大きな広告が目に入ってきた。
最近は、テレビCMもウェブ広告もこの会社ばかりだなとジョン・ウォルターズは思った。カサーン・ベイ社の名前でなくとも関連の企業の場合も多い。まるで世の中の全てがこの企業が関わっていると思えるほどだ。あのアビスゲート計画にもカサーン・ベイ社が主導で行われていると聞いたことがある。
ひとつの企業が多くの事に関わりすぎるのが正しいことなのかと疑問の感じている者も多い。この批判的な者たちの中には過激な者もいる。破壊的行動を起こして状況を変えようとする連中だ。
そうした者たちに対処する事もジョン・ウォルターズの仕事のひとつだった。
気がつくと見覚えの町並みになっていた。
腕時計を見るといつもなら二十分はかかるところを十五分程で目的のビルに到着していた。
それもこれもドライバーの荒っぽい運転のお陰だ。その代わり、何度も接触事故を起こしそうになったが、それもご愛嬌だ。実に人間らしい。
ジョン・ウォルターズは、タクシーを降り、ビルに入った。
ビルは何の変哲もないビルだった。ありきたりで平凡で特徴的なデザインではない。
中に入っているのは情報部の第6局。連邦の保安と防諜を職務としている。敵は過激なテロ集団や、自由同盟の強硬派。彼らは常に連邦の弱体化を望み、工作を仕掛けてくる危険な相手だった。
オフィスに入ると上司のフェリックス・チヘーゼがコーヒー飲みながらタブレットでニュースを読んでいた。
「ニューヨークは記録的大雪だそうだ。氷河期が到来したのかな? 君も飲むか? ジョン」
「ありがとう。でも先程……」
見ると既にカップにコーヒーが注がれている。
「ありがとうございます。どうも」
仕方なくカップを受け取ると一口だけ口につけてカップを置いた。
フェリックス・チヘーゼはいつもこんな感じだ。彼の言うことは絶対であり、逆らうことはできない。
「座っても?」
「ああ、そこに座ってくれていい。タブレットが置いてあるからその上には座るな」
ウォルターズはタブレットを手に取ると椅子に腰掛けた。
画面をタッチすると誰かの顔写真と経歴が映しだされた。
「レイ・チャオ……何者です?」
「そこに書かれているとおりの人物だよ。レイ・チャオ、32歳、独身、血液型はB型。宇宙航空管理機関に勤務する真面目な男だ。その彼が不幸な事故に巻き込まれてね。現在昏睡状態で入院中だ」
「気の毒に」
「そうだな。だが彼に同情するのが君の仕事じゃない」
「僕に彼を調べろと?」
「それはもうやっているし、やらせるとしても、君にそんな簡単な事はやらせんよ。そんなのは新人連中にやらせる。調べてほしいのは彼が何に巻き込まれたのかだ」
「というと事故は誰かの工作?」
「彼は報告書を書き越えた後、貨物トレーラーに追突され重症を負った。トレーラーはオートドライブタイプ。運送会社によるとバージョンは古いが今まで使用に問題はなかった。問題は信号システムの方でハッキングの形跡があった。つまり事故は意図的というわけだ」
「だから僕は、車は人が運転する方が好きなんです」
「君の好みはさておき、彼は電磁フレア障害について報告書を作成していたが、その報告書は削除されていた」
「書き直したかったとか?」
「どうかな。上司から翌日の提出を求められていたのに報告書を削除するなんて事をするだろうか。それに急ぎの仕事を押し付けられたら、終わってから帰宅するものではないかね?」
「しない者もいますがね」
局長のフェリックス・チヘーゼはコーヒーカップを置くとジョン・ウォルターズを見た。
「ジョン、君にはレイ・チャオを口封じしようとした不届き者を突き止めてもらいたい。また何故、彼が狙われた理由もだ」
全翼タイプの大型旅客機が着陸と離陸を繰り返している。
その日、任務を終えたばかりのジョン・ウォルターズは早々にアジアから呼び戻された。
空港のカフェで一息ついていた後、彼はタクシー乗り場に向う。せっかくコーヒーで温まったのもつかの間、外に出るとすぐに体は冷え込んだ。
タクシー乗り場の先頭に停まる一台に近づくとドアが開いた。
後部座席に乗り込むと初老の男が運転席から振り向いた。珍しく人間のドライバーだ。
「どちらまで?」
オートドライバーでない事を嫌う者もいるが、ジョンは人間の方が好きだ。
ドライバーに目的地を告げると愛想のいい声が返ってきた。
タクシーは雪の降る街の中に走り出した。
外を眺めているとカサーン・ベイ社の大きな広告が目に入ってきた。
最近は、テレビCMもウェブ広告もこの会社ばかりだなとジョン・ウォルターズは思った。カサーン・ベイ社の名前でなくとも関連の企業の場合も多い。まるで世の中の全てがこの企業が関わっていると思えるほどだ。あのアビスゲート計画にもカサーン・ベイ社が主導で行われていると聞いたことがある。
ひとつの企業が多くの事に関わりすぎるのが正しいことなのかと疑問の感じている者も多い。この批判的な者たちの中には過激な者もいる。破壊的行動を起こして状況を変えようとする連中だ。
そうした者たちに対処する事もジョン・ウォルターズの仕事のひとつだった。
気がつくと見覚えの町並みになっていた。
腕時計を見るといつもなら二十分はかかるところを十五分程で目的のビルに到着していた。
それもこれもドライバーの荒っぽい運転のお陰だ。その代わり、何度も接触事故を起こしそうになったが、それもご愛嬌だ。実に人間らしい。
ジョン・ウォルターズは、タクシーを降り、ビルに入った。
ビルは何の変哲もないビルだった。ありきたりで平凡で特徴的なデザインではない。
中に入っているのは情報部の第6局。連邦の保安と防諜を職務としている。敵は過激なテロ集団や、自由同盟の強硬派。彼らは常に連邦の弱体化を望み、工作を仕掛けてくる危険な相手だった。
オフィスに入ると上司のフェリックス・チヘーゼがコーヒー飲みながらタブレットでニュースを読んでいた。
「ニューヨークは記録的大雪だそうだ。氷河期が到来したのかな? 君も飲むか? ジョン」
「ありがとう。でも先程……」
見ると既にカップにコーヒーが注がれている。
「ありがとうございます。どうも」
仕方なくカップを受け取ると一口だけ口につけてカップを置いた。
フェリックス・チヘーゼはいつもこんな感じだ。彼の言うことは絶対であり、逆らうことはできない。
「座っても?」
「ああ、そこに座ってくれていい。タブレットが置いてあるからその上には座るな」
ウォルターズはタブレットを手に取ると椅子に腰掛けた。
画面をタッチすると誰かの顔写真と経歴が映しだされた。
「レイ・チャオ……何者です?」
「そこに書かれているとおりの人物だよ。レイ・チャオ、32歳、独身、血液型はB型。宇宙航空管理機関に勤務する真面目な男だ。その彼が不幸な事故に巻き込まれてね。現在昏睡状態で入院中だ」
「気の毒に」
「そうだな。だが彼に同情するのが君の仕事じゃない」
「僕に彼を調べろと?」
「それはもうやっているし、やらせるとしても、君にそんな簡単な事はやらせんよ。そんなのは新人連中にやらせる。調べてほしいのは彼が何に巻き込まれたのかだ」
「というと事故は誰かの工作?」
「彼は報告書を書き越えた後、貨物トレーラーに追突され重症を負った。トレーラーはオートドライブタイプ。運送会社によるとバージョンは古いが今まで使用に問題はなかった。問題は信号システムの方でハッキングの形跡があった。つまり事故は意図的というわけだ」
「だから僕は、車は人が運転する方が好きなんです」
「君の好みはさておき、彼は電磁フレア障害について報告書を作成していたが、その報告書は削除されていた」
「書き直したかったとか?」
「どうかな。上司から翌日の提出を求められていたのに報告書を削除するなんて事をするだろうか。それに急ぎの仕事を押し付けられたら、終わってから帰宅するものではないかね?」
「しない者もいますがね」
局長のフェリックス・チヘーゼはコーヒーカップを置くとジョン・ウォルターズを見た。
「ジョン、君にはレイ・チャオを口封じしようとした不届き者を突き止めてもらいたい。また何故、彼が狙われた理由もだ」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ハミット 不死身の仙人
マーク・キシロ
SF
どこかの辺境地に不死身の仙人が住んでいるという。
誰よりも美しく最強で、彼に会うと誰もが魅了されてしまうという仙人。
世紀末と言われた戦後の世界。
何故不死身になったのか、様々なミュータントの出現によって彼を巡る物語や壮絶な戦いが起き始める。
母親が亡くなり、ひとりになった少女は遺言を手掛かりに、その人に会いに行かねばならない。
出会い編
青春編
ハンター編
解明編
*明確な国名などはなく、近未来の擬似世界です。
*過激な表現もあるので、苦手な方はご注意下さい。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
怪獣特殊処理班ミナモト
kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる