深淵から来る者たち

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12、巨人

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 ロッキー山脈西部 ー 旧ネバダ州 ー
 2199年12月11日

 頑丈な岩盤の下に作られた施設は連邦統制軍が管理する研究エリアである。
 入り口のゲートパネルの前には武装した兵士たちが厳重に警備している。
 周囲の森林にはカモフラージュを施した対空ミサイルが配備されていて防空対策も万全だ。
 さらには入り口を監視するように数人のスナイパーが配置されていた。
 その厳重な基地に一台の車が近づいていた。
 もちろん車は、十数キロ前から把握されている。

 車が入り口まで来ると警備兵が呼び止めて許可証の提示を求めた。険しい顔つきの警備兵は運転席から差し出された許可証のコードをスキャンする。異常のないことが確認されるとゲートパネルを開ける合図を出した。
 トンネル状の通路を進むと車両用の大型エレベーターに誘導された。中に入り停車させるとエレベーターが降下し始めた。
「さすがに軍の施設は厳重だな」
 後部座席に陣取る上等なスーツを着た男の言葉に正面に座るボディーガードが頷く。
 エレベーターが目的の階まで来て停止すると研究責任者ベン・ゴールドバーグが出迎えた。
「ミスター・ミュラー。お待ちしていました」
「博士、あれの調査は順調かね?」
「はい、様々な事が判明しています」
「歩きながらでいいから聞かせてもらおうか」

 その地下には火星から運び込まれたあるものが厳重に隠されていた。
 通称“火星の巨人”。火星の古代遺跡で発見されたミイラ化した生物の死体だ。
「骨格はチタンに似た合金、構成は専門部署で分析中です」
「時間がかかり過ぎじゃないか?」
「何しろ未知の元素も発見されましたので」
「未知の? それはいい」
「それから干からびた脳にはチップらしきものが埋め込めれています。つまり、この生き物は……」
「一種のサイボーグみたいなものか?」
「ええ、そのとおり」
「興味深いが、要するに“彼ら”ではないのだな。要するに“彼ら”の労働用とか、なんとか……」
「そうとは言い切れませんが、可能性はあります」
 カサーン・ベイ社の重役であるミュラーは科学者を質問を続けた。ミュラーがいう“彼ら”とは火星のテクノロジーを生み出した知的生物のことを言っている。
「そのチップというのは取り出せるのか?」
「はい、もちろん」
「優先させろ。データが入っているかもしれないからな」
「わかりました……それと、新しい発見もあります」
 通路が研究エリアに入ると強化ガラス越しに横たわる“火星の巨人”が横たわっていた。
 10mを超える巨人の周囲には防護服を着た科学者たちが検査器具を使って何かを調べている。
 科学者はコンピュータ端末のボードを見せた。ディスプレイにはなにかの細胞の拡大画像が映し出されていた。
「これはなんだ?」
「細胞膜の拡大画像です。“火星の巨人”の」
 ミュラーは、博士の顔を見た。
「ある時期を境に細胞の活性化が始まっています。原因は調べている最中ですが」
 ゴールドバーグ博士は真剣な顔つきで言った。ミュラーは強化ガラスの先に横たわる“火星の巨人”を見上げた。
「つまり、は生き返り始めてるのか?」
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