7 / 39
7、デブリ
しおりを挟む西暦2199年11月8日
新造のハイパー核融合炉を積んだ輸送船ダンガロイが地球圏を出発して二週間が過ぎようとしていた。
核融合技術の発明は宇宙開発に多くの影響を与えている。いまや殆どの航宙艦船の推進エンジンとして利用されていた。
膨大なエネルギーを発生させるものであったが“アビスゲート”のワームホール型ワープの状態を維持するの通常の核融合炉では物足りない。計算では恒星クラスのエネルギーが必要とされた。
そこで設計されたのがこのハイパー核融合炉である。
アビスゲート建造の中心的企業であるカサーン・ベイ社のプラント産業部門最大の事業であった。
通常航宙艦に使用される核融合パルスエンジンと比べると蟻と象程の出力差がある性能だった。
あまりにも高いエネルギー出力に危険視、または技術を得ようとする輩は多くいる。
警戒しているのは物資を略奪し、困窮した宇宙コロニーに転売する宇宙海賊。或いは、宇宙開発と進出に反対する過激な環境テロリストたち。または、かつて月面の“ヘリウム戦争”での敵対勢力“自由主義同盟”強硬派と様々だ。
故に輸送船の護衛に艦隊規模の戦力を配したのは当然といえた。
護衛の艦隊は、デアフリンガー級航宙戦艦キリシマを中心したガングート航宙駆逐艦四隻で構成されていた。
輸送艦一隻を護衛するには十分すぎる戦力である。
その日、フェルミナ・ハーカーは初めての哨戒任務についていた。
キリシマの艦長で護衛艦隊の指揮を執るキーラ・アストレイ中佐は、現在の宙域に待ち伏せやトラップの可能性があるとして哨戒を命じた。
艦載機を搭載するキリシマの優位性である。
搭載している91式艦上空間戦闘攻撃機は戦争中に開発された最後の機種だった。フェルミナの搭乗していた旧式の80式より出力も耐久性をずっと優れている。
91式のパルスエンジンのピーキーな出力もクイックな操縦性もフェルミナは気に入っていた。
後部座席にはレーダーやその他の探査装置を担当をするマック・ビレイが喋り続けていた。
マックはパイロットのひとりで腕も良いが今回は索敵管制担当だ。
ところがこの男、キリシマから発進してからの小一時間、ずっと喋りっぱなしだった。
人付き合いが苦手なフェルミナは最初のうち無理をして話を合わしていたものの、やがてそれも苦痛になり、ついには黙り込んでしまった。
それでも一方的に話続けるマックは無反応なフィルミナにも気にしていないようだった。
その長い一方的な会話の中で、ようやくまともな事を言い出す。
「航続距離が限界になる。そろそろ引き返す頃合いだな」
やっと戻れると思うのと同時に、あと半分も彼の話に付き合うのかと気が重くなる。
91式を大きく旋回させるフェルミナだったが視界に何かを捉えた。
気になり、速度を落として再び反転する。
「どうした? なぜ戻る?」
方向を変えた機体にフェルミナにマックが訊いた。
「10時方向に何か見えました」
「レーダーには何も映ってない。星の光じゃないのか?」
「確かにありました。探してみる」
「了解、任せる。レーダーと念の為、熱源探知スキャンもしてみる」
「了解」
フェルミナは、速度を緩めて目撃した宙域で目を凝らした。そこに宇宙空間に浮かぶ何かを捉えた。
「いた!」
マックはモニターを確認したが何も反応していない。
「やはり、レーダーには映っていないな。熱源スキャンも捉えてない。デブリかな」
「デブリにしてもレーダーに反応しないのはおかしいです」
「だよな。接近するなら注意しろよ」
91式がさらに距離を詰めていく。やがてマックも肉眼で相手の姿を捉えた。
「いた、本当にいた」
偵察ポッドのカメラを操作して対象物をズームアップさせる。
「停止しているブイ・衛星みたいだが……スキャンを全部試してみたい。もう少し接近できるか?」
「了解」
その時だった。正体不明のデブリから熱源反応がある。
咄嗟に操縦桿を切るフェルミナだったが熱源は主翼に直撃してしまう。
「レーザーだ。右主翼を……貫通! 出力落ちない。まだ飛べる!」
機体が大きく震動していた91式の機体をなんとか立て直すフェルミナ。
「今度はレーダーを照射してきた! ミサイルを撃ってくるぞ!」
すぐに91式はロックオンされた。レーダーが追尾してくるミサイルを探知する。
フルスロットルで推進力を上げ大きく旋回していく。ミサイルは逃げる91式の飛行をトレースして距離を詰めてくる。
ミサイルが直前まで接近した時、フェルミナは進行方向と反対側に一気に急旋回をかけた。
急激な方向転換にミサイルはついていけず、そのまま遥か彼方に直進していった。ミサイルの探知装置が91式を見失ったのだ。
「正体不明物体を撃墜する」
フェルミナは、デブリに機首を向けるとミサイルの安全装置を外した。しかしデブリはレーダーには映っていない。何かのステルス処置を施しているようだ。フェルミナは攻撃をミサイルから機関砲に切り替えると目視で狙いをつけた。
レーザー攻撃を受けた距離は把握している。その前に撃つ!
フェルミナは覚悟を決めた。
照準装置のAIが出してる目安ではない。いわゆる勘だった。
フェルミナは瞬きもせずにトリガーをひいた!
連続して放たれる20ミリ粒子弾がデブリに直撃した。
撃たれたデブリは大爆発を起こした。その大きさからは考えられない規模の爆発だった。
爆発の破片に巻き込まれないようにフェルミナは全速力で宙域から離れていく。
爆発の影響下から離れた距離でようやく速度を落とした。
「トラップだ。あれには何か仕掛けられていたな」
マックが言った。
確かに爆弾規模の爆発だった。何者かが護衛艦隊の進行方向を知っていて罠を仕掛けたのだ。
一体誰が……?
フェルミナは、小さくなっていく爆発の光を確認すると機首を護衛艦隊に向けた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

日本国宇宙軍士官 天海渡
葉山宗次郎
SF
人類が超光速航法技術により太陽系外へ飛び出したが、国家の壁を排除することが出来なかった二三世紀。
第三次大戦、宇宙開発競争など諸般の事情により自衛隊が自衛軍、国防軍を経て宇宙軍を日本は創設した。
その宇宙軍士官となるべく、天海渡は士官候補生として訓練をしていた。
候補生家庭の最終段階として、練習艦にのり遠洋航海に出て目的地の七曜星系へ到達したが
若き士官候補生を描くSF青春物語、開幕。
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

大航海時代 日本語版
藤瀬 慶久
歴史・時代
日本にも大航海時代があった―――
関ケ原合戦に勝利した徳川家康は、香木『伽羅』を求めて朱印船と呼ばれる交易船を東南アジア各地に派遣した
それはあたかも、香辛料を求めてアジア航路を開拓したヨーロッパ諸国の後を追うが如くであった
―――鎖国前夜の1631年
坂本龍馬に先駆けること200年以上前
東の果てから世界の海へと漕ぎ出した、角屋七郎兵衛栄吉の人生を描く海洋冒険ロマン
『小説家になろう』で掲載中の拙稿「近江の轍」のサイドストーリーシリーズです
※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載します

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる