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1、月面演習区域
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西暦2199年10月21日
月面上トップガン養成演習区域
静寂と暗闇
フェルミナ・ハーカーはこの空間が好きだった。
暗闇の中に吸い込まれ意識と身体が別々になるようなそんな感覚。ふと自分の状況を忘れそうになる。
彼女はこの僅かな時間を楽しんでいた。
「セイバー・ツー」
通信が入るまで。
スリープモードにしていた生命維持装置以外を装置を慌ててオンにした。
『セイバー・ツー、何かトラブルか?』
フェルミナは一息深呼吸をすると通信に応答した。
「問題ない。偽装していただけ」
苦しい言い訳だった。
『偽装? 今、偽装って言ったか?』
予想通りの反応だったが追求はされたくない。
「戦闘に戻る。通信終了」
一方的に通信を終えるとフェルミナは80式空間戦闘機の推進スロットルを上げた。
模擬戦闘宙域に戻った早々、敵であるレッドサイドの機体を見つけた。
80式空間戦闘機が2機、月面地表近くを飛行している。
相手もフェルミナの機体に気がついたようで急上昇を始めていた。
フェルミナのブルーサイドはすでに多くが撃墜判定を受けて離脱している。僚機だった2機も対空ミサイルにマークされ撃墜判定を受け離脱していた。フェルミナは、もはや孤立無援といっていい。
「アルファ・ワン、周辺に他の敵機はいないようだ。どうやら相手は1機らしい」
「こいつが今日最後の獲物になりそうだ。一気に平らげようか」
「アルファ・ツー了解」
レッドサイドの80式の2機編隊がフィルミナに襲いかかった。
「アルファ・ツー、こいつは、お前に譲る。ケツはまかせておけ。」
「了解! アルファ・ワン」
先陣を切ったアルファ・ツーは、フェルミナの機体の背後を目指し急接近していく。
フェルミナはロックオンを避けるために機体を大きく切った。機体が大きく旋回していく。強烈な加速Gだったが耐えれないほどではない。
だがフェルミナ機の後方についた敵機はぴたりと飛行をトレースしてきた。
良い腕だ、とレーダーを横目に見ながらフェルミナは思った。流石に集団空間戦を勝ち抜いただけの事はあるパイロットだ。
食いついてくる敵機を振り切ろうと必死で機体をロールさせてみるが相手も冷静だった。無駄なコースのトレースを無視して確実に距離をつめてきたのだ。
しかもその僚機はアルファ・ツーがフィルミナ機を見失えば、すぐさまフォローできるように適度な距離をとって追尾しきている。
レーダーが照射されコンピューターが照準のロックをかけ始める。
「いただきだ!」
昇順のロックオン。勝利を確信したパイロット。このドッグファイトは、わずか数秒で勝負がついかに思われた。
だがフェルミナの機体はロックオン寸前で機体をロールさせる! かと思うと信じられない角度で方向変転を決めたのだ。方向転換用のスラスターと逆噴射させてたスラスターを微妙に操作しての荒業だった。通常の旋回よりも加速Gは高く身体が押しつぶされそうになる。それを堪えて機体の方向を180度転換させてみせた。
敵機はフェルミナ機が目の前の光景が一瞬、CGかなにかではと思ったほどだった。
ロックオンから逃れたフェルミナ機は猛然と敵機に突っ込んでいく。
「う、嘘だろ?」
相手機は慌てて衝突を避けようと操縦桿を傾けた。だがフェルミナのボタンを押す方が早かった。相手機に命中判定がくだされる。
後方からバックアップについていたアルファー・ワンは一瞬、別の機体が現れたのかと錯覚していた。慌てて追尾しようと機体を傾けた時にはフェルミナ気を見失ってしまう。
「どこへいきやがった!」
パイロットがコクピットの中で周囲の宇宙空間を見渡していたその時、ロックオンのアラームが鳴り、続けて撃墜判定のコールが入る。
「ああ、くそっ! やられた!」
アヅファ・ワンのパイロットは思わず悪態をつく。
「こちらアルファ・ツー。撃墜された。離脱する」
「アルファ・ワン、同じくだ」
撃墜判定を受けた2機はルール通り敗北宣言の後、戦闘宙域から離脱していく。
宇宙空間は再びフェルミナの80式だけになっていた。
フェルミナは、再び静寂と暗闇の世界に浸る
月面の管制基地では、二人の士官がモニター越しに戦闘訓練宙域でのドッグファイトを観戦していた。
一人は体格の良い長身の男で腕組みしながらモニターを眺めている。もうひとりは椅子に座り、コンピュータ端末に見届けた模擬戦闘の評価採点を入力していた。
「一瞬で2機撃墜か。良い腕だな」
席の後ろに立つクエーツ少佐は興味津々でそう言った。
採点を続けながら月面上トップガン養成所教官のタカギは肩をすくめる。
「まあ……ドッグファイトならあいつは、今期のトップクラスだよ。少し問題はあるがね」
「問題?」
「哨戒中に僚機との接触事故をしてな。どうも状況によってメンタルが少し不安定になる時がある。そいつは技術面にも影響が出てる」
そのあとクエーツはしばらくドッグファイトのリプレイ映像を見ていた。
「気に入った。こいつをもらおうか」
「おい、おい、まだ訓練期間中だぞ」
「こいつにこれ以上、何を教えるってんだ? 不足していることは俺が教え込む。だからうちのチームにまわしてくれ」
「相変わらず強引な奴だ」
タカギ少佐は、旧友のリクエストにうんざり気な表情を見せた。
「決断が早いんだよ。ドッグファイトと同じさ」
「なんだ、現役自慢か? どうせ俺は引退したロートルパイロットだよ」
「ひがむな、爺さま。とにかく俺のチームにくれ」
タカギはもう一度肩をすくめた。
「了解、少佐。手続きしておく」
数時間後、フェルミナのアカウントに司令部からメールが入った。
『フェルミナ・ハーカー少尉。航宙巡洋艦キリシマへの異動を命じる』
月面上トップガン養成演習区域
静寂と暗闇
フェルミナ・ハーカーはこの空間が好きだった。
暗闇の中に吸い込まれ意識と身体が別々になるようなそんな感覚。ふと自分の状況を忘れそうになる。
彼女はこの僅かな時間を楽しんでいた。
「セイバー・ツー」
通信が入るまで。
スリープモードにしていた生命維持装置以外を装置を慌ててオンにした。
『セイバー・ツー、何かトラブルか?』
フェルミナは一息深呼吸をすると通信に応答した。
「問題ない。偽装していただけ」
苦しい言い訳だった。
『偽装? 今、偽装って言ったか?』
予想通りの反応だったが追求はされたくない。
「戦闘に戻る。通信終了」
一方的に通信を終えるとフェルミナは80式空間戦闘機の推進スロットルを上げた。
模擬戦闘宙域に戻った早々、敵であるレッドサイドの機体を見つけた。
80式空間戦闘機が2機、月面地表近くを飛行している。
相手もフェルミナの機体に気がついたようで急上昇を始めていた。
フェルミナのブルーサイドはすでに多くが撃墜判定を受けて離脱している。僚機だった2機も対空ミサイルにマークされ撃墜判定を受け離脱していた。フェルミナは、もはや孤立無援といっていい。
「アルファ・ワン、周辺に他の敵機はいないようだ。どうやら相手は1機らしい」
「こいつが今日最後の獲物になりそうだ。一気に平らげようか」
「アルファ・ツー了解」
レッドサイドの80式の2機編隊がフィルミナに襲いかかった。
「アルファ・ツー、こいつは、お前に譲る。ケツはまかせておけ。」
「了解! アルファ・ワン」
先陣を切ったアルファ・ツーは、フェルミナの機体の背後を目指し急接近していく。
フェルミナはロックオンを避けるために機体を大きく切った。機体が大きく旋回していく。強烈な加速Gだったが耐えれないほどではない。
だがフェルミナ機の後方についた敵機はぴたりと飛行をトレースしてきた。
良い腕だ、とレーダーを横目に見ながらフェルミナは思った。流石に集団空間戦を勝ち抜いただけの事はあるパイロットだ。
食いついてくる敵機を振り切ろうと必死で機体をロールさせてみるが相手も冷静だった。無駄なコースのトレースを無視して確実に距離をつめてきたのだ。
しかもその僚機はアルファ・ツーがフィルミナ機を見失えば、すぐさまフォローできるように適度な距離をとって追尾しきている。
レーダーが照射されコンピューターが照準のロックをかけ始める。
「いただきだ!」
昇順のロックオン。勝利を確信したパイロット。このドッグファイトは、わずか数秒で勝負がついかに思われた。
だがフェルミナの機体はロックオン寸前で機体をロールさせる! かと思うと信じられない角度で方向変転を決めたのだ。方向転換用のスラスターと逆噴射させてたスラスターを微妙に操作しての荒業だった。通常の旋回よりも加速Gは高く身体が押しつぶされそうになる。それを堪えて機体の方向を180度転換させてみせた。
敵機はフェルミナ機が目の前の光景が一瞬、CGかなにかではと思ったほどだった。
ロックオンから逃れたフェルミナ機は猛然と敵機に突っ込んでいく。
「う、嘘だろ?」
相手機は慌てて衝突を避けようと操縦桿を傾けた。だがフェルミナのボタンを押す方が早かった。相手機に命中判定がくだされる。
後方からバックアップについていたアルファー・ワンは一瞬、別の機体が現れたのかと錯覚していた。慌てて追尾しようと機体を傾けた時にはフェルミナ気を見失ってしまう。
「どこへいきやがった!」
パイロットがコクピットの中で周囲の宇宙空間を見渡していたその時、ロックオンのアラームが鳴り、続けて撃墜判定のコールが入る。
「ああ、くそっ! やられた!」
アヅファ・ワンのパイロットは思わず悪態をつく。
「こちらアルファ・ツー。撃墜された。離脱する」
「アルファ・ワン、同じくだ」
撃墜判定を受けた2機はルール通り敗北宣言の後、戦闘宙域から離脱していく。
宇宙空間は再びフェルミナの80式だけになっていた。
フェルミナは、再び静寂と暗闇の世界に浸る
月面の管制基地では、二人の士官がモニター越しに戦闘訓練宙域でのドッグファイトを観戦していた。
一人は体格の良い長身の男で腕組みしながらモニターを眺めている。もうひとりは椅子に座り、コンピュータ端末に見届けた模擬戦闘の評価採点を入力していた。
「一瞬で2機撃墜か。良い腕だな」
席の後ろに立つクエーツ少佐は興味津々でそう言った。
採点を続けながら月面上トップガン養成所教官のタカギは肩をすくめる。
「まあ……ドッグファイトならあいつは、今期のトップクラスだよ。少し問題はあるがね」
「問題?」
「哨戒中に僚機との接触事故をしてな。どうも状況によってメンタルが少し不安定になる時がある。そいつは技術面にも影響が出てる」
そのあとクエーツはしばらくドッグファイトのリプレイ映像を見ていた。
「気に入った。こいつをもらおうか」
「おい、おい、まだ訓練期間中だぞ」
「こいつにこれ以上、何を教えるってんだ? 不足していることは俺が教え込む。だからうちのチームにまわしてくれ」
「相変わらず強引な奴だ」
タカギ少佐は、旧友のリクエストにうんざり気な表情を見せた。
「決断が早いんだよ。ドッグファイトと同じさ」
「なんだ、現役自慢か? どうせ俺は引退したロートルパイロットだよ」
「ひがむな、爺さま。とにかく俺のチームにくれ」
タカギはもう一度肩をすくめた。
「了解、少佐。手続きしておく」
数時間後、フェルミナのアカウントに司令部からメールが入った。
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