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第4話 恋いに狂う人は(前編)
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次の日の朝、凜夏は、窓から差し込む日差しで目を覚ました。
起き上がり、昨夜の傷を確認した。脇腹に赤く痕が残っているが治癒はしている。
しかし治癒に時間がかかり過ぎた。そのせいで必要以上に血が流れてしまった結果がこれだ。意識を失い回復にも時間がかかったのだ。
失態だ。
しかも何の関係もない人間を巻き込んでしまった。
昨日の出来事を凛夏は激しく後悔した。
ふと、机の上に置かれた隠しバッグが目に入る。
ベッドから降りて机の上のバッグを手に取ると中身を取り出した。
それは古めかしい本だった。
革張りの表紙には不気味な人の顔が象られている。リアルすぎる人の顔は造形ではなく本物の人間にしかみえない。もしくは本物の人の皮なのかもしれなかった。
品物は無事だった。
未冬は、これを見たのだろうか……?
凛夏はそれが少し気になった。
そういえば部屋を見渡しても未冬の姿が見当たらない。
隣のベッドの様子を見ると誰かが寝た形跡はある。シーツに触れるとわずかだが温もりが残っていた。ベッドにいたのは恐らく1時間、もしくは2時間前までだろう。
もしかしたら自分が意識を失っているうちに何かあの娘の身にあったのだろうか……?
「あれ? 凜夏さん、おはようございます」
その声に振り向くと未冬が部屋に戻ってきていた。凜夏は持っていた本を慌ててバッグに戻す。
屈託のない笑顔を凛夏に向ける未冬。
それを見て凛夏は安堵した。
同時に何故そんなにもこの娘の事を気にしているのか自分の感情に戸惑う。
「身体、大丈夫ですか?」
「君こそ、だめじゃないか。勝手に外を出歩いて」
「朝食を買って来ただけですよ」
「朝食?」
小首をかしげる凜夏に未冬が笑顔でコスタカフェの紙袋を掲げて見せた。
ベッドの上にクロワッサンが置かれる。
「凜夏さんの好みはわからなかったから、コーヒーは私の好みで」
未冬は、凜夏にコーヒーカップを渡した。
「ありがとう……」
カップを受け取ると両手で持ち口に運ぶ。
「熱っ……!」
慌ててカップを口から離す凜夏。
昨夜からの凛々しい姿を見ていた未冬は熱がる凜夏の仕草が可笑しくて思わず笑ってしまう。
「もしかして凜夏さん、猫舌にゃんですか?」
未冬の言葉に凜夏は、罰が悪そうにうつむいた。
クロワッサンを食べた後、未冬はコーヒーを口にした。
凜夏も十分に冷めたコーヒーを飲み始めている。
「あの……不思議なんですけど」
未冬が切り出した。
「確かに凜夏さんの脇腹から血が流れていた筈なんですけど。脈も弱くなっていたし……それが今は傷も治ってる。一体、どういうことなのかよくわからなくて」
凜夏はカップをベッド横のナイトテーブルに置いく。
「私、特異体質で」
「特異体質って……体質で怪我が数時間で治りますか? それテレビ出れますよ」
未冬の言葉に凜夏はくすりと笑う。
「これ、実は呪いなんだ」
「バカにしないでください。子供じゃあるまいし、呪いだなんて」
頬を膨らます未冬。
凜夏は、スラックスの裾をめくると隠し持っていたナイフを取り出した。
「まだ、そんな物も隠し持って!」
凜夏は何の躊躇もなく自分の左手の指をナイフで切る。
「ちょ、ちょっと何を」
未冬は慌てて凛夏の左手を掴んだ。
だが、指の傷口から出血したかと思うと、見る間に傷口はふさがってしまう。
「ねっ?」
にっこりとしながら凜夏は指を見せた。
未冬は凜夏の左手を握ると傷を確かめた。けれど傷痕はどこにも残っていない。
「なんで……?」
「これが私にかけられた"呪い"なの。私は死ぬことのないし、傷つくこともない。怖がらせちゃったかな……ごめんね」
そう寂しそうに語る凜夏。
ところが……
「凜夏さん! これって病気でもいけます?」
興奮しながら未冬が凜夏に詰め寄った。予想していた反応と少し違う未冬の様子に凜夏は少し戸惑う。
「う、うん……まあ」
「食中毒も?」
「たぶん……大丈夫だと思う」
「すごいですっ!」
「そんなに自慢できることでもないけど」
「だって、これてって医療保険いらずじゃないですか!」
「そ……そこなの?」
だがこの"不死の呪い"には続きがある。
愛する人と想いが通じ合えた時……お互いを愛しい人だと思えた時、"呪い"の効力は消える。
そしてその想い人が命を落としたその時は、自らも命を枯らすのだ。
凛夏は、その事は口にしなかった。
起き上がり、昨夜の傷を確認した。脇腹に赤く痕が残っているが治癒はしている。
しかし治癒に時間がかかり過ぎた。そのせいで必要以上に血が流れてしまった結果がこれだ。意識を失い回復にも時間がかかったのだ。
失態だ。
しかも何の関係もない人間を巻き込んでしまった。
昨日の出来事を凛夏は激しく後悔した。
ふと、机の上に置かれた隠しバッグが目に入る。
ベッドから降りて机の上のバッグを手に取ると中身を取り出した。
それは古めかしい本だった。
革張りの表紙には不気味な人の顔が象られている。リアルすぎる人の顔は造形ではなく本物の人間にしかみえない。もしくは本物の人の皮なのかもしれなかった。
品物は無事だった。
未冬は、これを見たのだろうか……?
凛夏はそれが少し気になった。
そういえば部屋を見渡しても未冬の姿が見当たらない。
隣のベッドの様子を見ると誰かが寝た形跡はある。シーツに触れるとわずかだが温もりが残っていた。ベッドにいたのは恐らく1時間、もしくは2時間前までだろう。
もしかしたら自分が意識を失っているうちに何かあの娘の身にあったのだろうか……?
「あれ? 凜夏さん、おはようございます」
その声に振り向くと未冬が部屋に戻ってきていた。凜夏は持っていた本を慌ててバッグに戻す。
屈託のない笑顔を凛夏に向ける未冬。
それを見て凛夏は安堵した。
同時に何故そんなにもこの娘の事を気にしているのか自分の感情に戸惑う。
「身体、大丈夫ですか?」
「君こそ、だめじゃないか。勝手に外を出歩いて」
「朝食を買って来ただけですよ」
「朝食?」
小首をかしげる凜夏に未冬が笑顔でコスタカフェの紙袋を掲げて見せた。
ベッドの上にクロワッサンが置かれる。
「凜夏さんの好みはわからなかったから、コーヒーは私の好みで」
未冬は、凜夏にコーヒーカップを渡した。
「ありがとう……」
カップを受け取ると両手で持ち口に運ぶ。
「熱っ……!」
慌ててカップを口から離す凜夏。
昨夜からの凛々しい姿を見ていた未冬は熱がる凜夏の仕草が可笑しくて思わず笑ってしまう。
「もしかして凜夏さん、猫舌にゃんですか?」
未冬の言葉に凜夏は、罰が悪そうにうつむいた。
クロワッサンを食べた後、未冬はコーヒーを口にした。
凜夏も十分に冷めたコーヒーを飲み始めている。
「あの……不思議なんですけど」
未冬が切り出した。
「確かに凜夏さんの脇腹から血が流れていた筈なんですけど。脈も弱くなっていたし……それが今は傷も治ってる。一体、どういうことなのかよくわからなくて」
凜夏はカップをベッド横のナイトテーブルに置いく。
「私、特異体質で」
「特異体質って……体質で怪我が数時間で治りますか? それテレビ出れますよ」
未冬の言葉に凜夏はくすりと笑う。
「これ、実は呪いなんだ」
「バカにしないでください。子供じゃあるまいし、呪いだなんて」
頬を膨らます未冬。
凜夏は、スラックスの裾をめくると隠し持っていたナイフを取り出した。
「まだ、そんな物も隠し持って!」
凜夏は何の躊躇もなく自分の左手の指をナイフで切る。
「ちょ、ちょっと何を」
未冬は慌てて凛夏の左手を掴んだ。
だが、指の傷口から出血したかと思うと、見る間に傷口はふさがってしまう。
「ねっ?」
にっこりとしながら凜夏は指を見せた。
未冬は凜夏の左手を握ると傷を確かめた。けれど傷痕はどこにも残っていない。
「なんで……?」
「これが私にかけられた"呪い"なの。私は死ぬことのないし、傷つくこともない。怖がらせちゃったかな……ごめんね」
そう寂しそうに語る凜夏。
ところが……
「凜夏さん! これって病気でもいけます?」
興奮しながら未冬が凜夏に詰め寄った。予想していた反応と少し違う未冬の様子に凜夏は少し戸惑う。
「う、うん……まあ」
「食中毒も?」
「たぶん……大丈夫だと思う」
「すごいですっ!」
「そんなに自慢できることでもないけど」
「だって、これてって医療保険いらずじゃないですか!」
「そ……そこなの?」
だがこの"不死の呪い"には続きがある。
愛する人と想いが通じ合えた時……お互いを愛しい人だと思えた時、"呪い"の効力は消える。
そしてその想い人が命を落としたその時は、自らも命を枯らすのだ。
凛夏は、その事は口にしなかった。
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