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第2話 冒険の始まりは危険な夜に(後編)
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橋の上から覆面の男たちが覗き込む。
彼らも信じられなかったのか、しばらく何もしてこないでいた。
しかしそれもつかの間、男たちの背後で何かが動き出していた。炎上していた半壊のBMWが空中に浮かんだのだ。
炎上するBMWは男たちの頭上を通り越し、逃げる凜夏たち目がけて飛んでいった。
「危ない!」
凜夏は未冬を押し倒した。その頭上をBMWが飛び越えるとアスファルトに叩きつける!
車体は大きくひしゃげて細かい破片が飛び散った。燃えるあがる炎が周囲を明るく照らしていく。
「あ、危なかった……ありがとう、凜夏さん……凜夏さん?」
凜夏の様子がおかしい。視線も合わせず俯いている。
「大丈夫?」
未冬が声をかけると凜夏はよろめいて倒れかかってきた。
「凜夏さん?」
見ると凜夏の脇腹にナイフが突き刺さっている。
「た、大変だ!」
凜夏はナイフを引き抜くと地面に投げ捨てた。
「車は……あれはブラフだった。やられた」
「ブラフって? ああ……いや、それより傷を手当しないと!」
「大丈夫よ。それよりこっちへ」
凜夏は強引に未冬の手を引き建物の陰に隠れる。
覆面の男たちは未冬たちを追って橋からロープを下し懸垂下降した。着地するとアサルトライフルを構えながら未冬たちが逃げ込んだ物陰に向かっていく。レーザーサイトの赤い光の線が暗闇の中に交差していた。
しかし凜夏と未冬の姿はどこにもない。
「遠くには行っていないはずだ! 周辺を探せ!」
リーダーの一声で覆面の男たちはアサルトライフルを構えたまま周囲の捜索に散っていった。
その中のひとりが地面に落ちている血のついたナイフを見つけて拾い上げる。
「ナイフを発見しました。血がついています。ターゲットは負傷している模様」
インカムで報告を入れると、ナイフは男の手から離れて空中を飛んでいってしまう。その様子に男たちは顔を見合わせた。
ナイフは架橋の上まで飛んでいき、そこに立つ不気味な仮面をかぶった女の手に収まる。
仮面の女はナイフの刃先につく真っ赤な血を確かめると凜夏たちが逃げた方向を見つめた。
「До встречи римна(また会いましょう、凜夏)」
追跡から逃れ、路地裏で息を切らす凜夏と未冬。
前を行く凜夏が突然、立ち止まる。
「り、凜夏さん?」
見ると凜夏は脇腹の辺りから血で滲んでいる。やはり大丈夫なわけはないのだ。
「心配しないで。こういうの慣れてるから」
「慣れてるからって……血が止まってないんですよ。すぐに病院にいかないと」
「平気だよ……あれ? おかしいな」
凜夏がよろけて再び未冬に倒れかかる。
「ごめんね……未冬」
凜夏は、苦しそうな声で囁いた。
「やっぱり、病院へ行かないと」
「病院はだめだ。奴らに見つかる」
「で、でも」
「怪我は……怪我は自分で処置できる。だから、どこか休める場所へ連れて行って」
「休める……じゃあ、私のアパートへ」
「君の身元はばれてるわ。アパートは、奴らが監視しているはず」
「じゃあ、どこへいけば……」
途方に暮れて周囲を見渡すと薄汚いモーテルの看板が目に入った。
彼らも信じられなかったのか、しばらく何もしてこないでいた。
しかしそれもつかの間、男たちの背後で何かが動き出していた。炎上していた半壊のBMWが空中に浮かんだのだ。
炎上するBMWは男たちの頭上を通り越し、逃げる凜夏たち目がけて飛んでいった。
「危ない!」
凜夏は未冬を押し倒した。その頭上をBMWが飛び越えるとアスファルトに叩きつける!
車体は大きくひしゃげて細かい破片が飛び散った。燃えるあがる炎が周囲を明るく照らしていく。
「あ、危なかった……ありがとう、凜夏さん……凜夏さん?」
凜夏の様子がおかしい。視線も合わせず俯いている。
「大丈夫?」
未冬が声をかけると凜夏はよろめいて倒れかかってきた。
「凜夏さん?」
見ると凜夏の脇腹にナイフが突き刺さっている。
「た、大変だ!」
凜夏はナイフを引き抜くと地面に投げ捨てた。
「車は……あれはブラフだった。やられた」
「ブラフって? ああ……いや、それより傷を手当しないと!」
「大丈夫よ。それよりこっちへ」
凜夏は強引に未冬の手を引き建物の陰に隠れる。
覆面の男たちは未冬たちを追って橋からロープを下し懸垂下降した。着地するとアサルトライフルを構えながら未冬たちが逃げ込んだ物陰に向かっていく。レーザーサイトの赤い光の線が暗闇の中に交差していた。
しかし凜夏と未冬の姿はどこにもない。
「遠くには行っていないはずだ! 周辺を探せ!」
リーダーの一声で覆面の男たちはアサルトライフルを構えたまま周囲の捜索に散っていった。
その中のひとりが地面に落ちている血のついたナイフを見つけて拾い上げる。
「ナイフを発見しました。血がついています。ターゲットは負傷している模様」
インカムで報告を入れると、ナイフは男の手から離れて空中を飛んでいってしまう。その様子に男たちは顔を見合わせた。
ナイフは架橋の上まで飛んでいき、そこに立つ不気味な仮面をかぶった女の手に収まる。
仮面の女はナイフの刃先につく真っ赤な血を確かめると凜夏たちが逃げた方向を見つめた。
「До встречи римна(また会いましょう、凜夏)」
追跡から逃れ、路地裏で息を切らす凜夏と未冬。
前を行く凜夏が突然、立ち止まる。
「り、凜夏さん?」
見ると凜夏は脇腹の辺りから血で滲んでいる。やはり大丈夫なわけはないのだ。
「心配しないで。こういうの慣れてるから」
「慣れてるからって……血が止まってないんですよ。すぐに病院にいかないと」
「平気だよ……あれ? おかしいな」
凜夏がよろけて再び未冬に倒れかかる。
「ごめんね……未冬」
凜夏は、苦しそうな声で囁いた。
「やっぱり、病院へ行かないと」
「病院はだめだ。奴らに見つかる」
「で、でも」
「怪我は……怪我は自分で処置できる。だから、どこか休める場所へ連れて行って」
「休める……じゃあ、私のアパートへ」
「君の身元はばれてるわ。アパートは、奴らが監視しているはず」
「じゃあ、どこへいけば……」
途方に暮れて周囲を見渡すと薄汚いモーテルの看板が目に入った。
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