37 / 46
黄昏の王
3、トルッペ・シュヴェールト 剣の部隊
しおりを挟む
「私の名は、グラーフ・マリア・フォン・ヴァイストール大尉。トルッペ・シュヴェールトの指揮官代理だ」
少女はそう名乗ると大人びた笑みを浮かべてみせた。
「トルッペ・シュヴェールト……思い出したわ。ナチス・ドイツの研究機関アーネンエルベ所属の護衛部隊ね」
「よくご存知で」
「第二次世界大戦中、連合軍の仕事でアーネンエルベとは何度か衝突した。でも、あなたの事は知らない」
「第三帝国消滅後、トルッペ・シュヴェールトは存在を隠し続け活動をしていた。知らなくて当然だわ」
「ドイツ帝国の復活を手伝わせる気?」
「あはは……我らには、もやそのような野望はないよ。古いファシズムなど一過性の風邪のようなもの。復活しても駆逐されるだけ」
グラーフ・マリア・フォン・ヴァイストールはそう言って笑ってみせた。
「“長年の労に報いて貴殿が探し求めた情報を与えよう”ってどういくこと?」
「ああ……私は君が完全なる死を求めているのを知っている。せっかくの吸血鬼になれたのに理解に苦しむがね」
「余計なお世話。吸血鬼なんてろくなものじゃない」
「そうかい? 人間の能力をはるかに超え、不死身。体外かの血の供給さえ途絶えなければ永久に活動できる。地上で最も優れた生物といえないか?」
「……あんたも吸血鬼ね」
「まあ……そうだな」
「でも、何か違う」
「ああ、よく気が付いたね。さすがは本家といったところかな。我々は、人工の吸血鬼。アーネンエルベで研究されていた強化兵士計画の産物だよ」
「我々?」
グラーフ・マリア・フォン・ヴァイストール大尉が右手を上げると周囲の陰から武装した兵士が現れた。顔を覆った黒いマスク以外はフリッツヘルメットを被ったナチス・ドイツの武装親衛隊そのままだ。
ただし武装は、当時の武装親衛隊が装備していたStG44アサルトライフルでも年代物のMP40短機関銃ではなく、近代アサルトライフルH&K G36Cを携えている。
「何の仮装?」
「仮装ではないよ。彼らはトルッペ・シュヴェールトがスカウトした本物の“武装親衛隊”だ」
赤いレンズ越しに爬虫類の様な眼球が見えていた。それが瞬きもせずミッシェルを注視している。
「彼らも人工の吸血鬼ね」
「初期タイプのね。改良型の私と違って特殊な装備をしていないと外観が保てない。故にこの様な厳重な防護をしている」
「要するに失敗作というわけだ」
「だが、人間の能力を遥かに超えている。外見の美的基準は無意味であり無価値さ。さて、本題に入ろうか」
そう言うとグラーフは一冊の古い本を取り出した。
「これは我がヴァイストール家の歴史と家系図を記した記録書だ。実は我が家系は直系ではないにしろ吸血鬼と呼ばれた者の家系と繋がっていてね。そのファミリーツリーを把握している。吸血鬼の起源を研究するにあたって君のグランドマスターにあたる吸血鬼を知りえたというわけだ」
「グランドマスター……」
ミッシェルの吸血鬼としての上位に位置する存在である。この存在がある限り、ミッシェルの死は吸血鬼の死のみで人間としての死は得られない。もし、ミッシェルのグランドマスターを消滅させれば、魂は解放され、吸血鬼化は解かれるだろう。それがミッシェルと彼女の相棒だった男と長年調べた末の結論だった。
この結論に至ったのは150年前だったが、肝心のグランドマスターを見つける事ができなかった。
「それは真実か?」
「トルッペ・シュヴェールトの調査能力と吸血鬼に関しての膨大な資料。そして我がヴァイストール家の歴史。信じるに値するだろうさ」
ミッシェルは迷っていた。
確かに可能性のある話ではあったが、相手は得体の知れない組織でしかも人工の吸血鬼だという。信じるには、さすがに躊躇する。
「私に何をさせたい?」
ここは選択肢を広げることにした。
情報の真偽は後で裏を取るとして、まずは相手の交換条件を提示させてみる。
「察しがいいのは好きよ。話が早くていい」
そう言うと部下の兵士に合図をする。すると一人がタブレットPCを持ってきてミッシェルに差し出した。
画面には黒髪の若い女性が映っていた。
「誰?」
「タチアナ・ヴァリアント。ある組織に所属する厄介な相手。裏の世界では“炎の魔女”とか“黒髪の魔女”呼ばれている」
「魔女と呼ばれる相手は大体、厄介な奴」
「そのとおり。よく分かっているじゃないか。タチアナ・ヴァリアントには今までに何度も煮え湯を飲まされている」
「それを私に?」
「ただ始末する……というわけではない。彼女の心臓を奪って欲しい」
「趣味が悪いわね。心臓を奪うのと始末するのと何が違うのかしら。それとも何かの見せしめ?」
「恨みはあるが心臓をえぐってそれを晴らそうというわけではない。我々が必要としているのは彼女の心臓そのものだ」
「心臓に何か秘密があるというわけね」
「まあね。実は彼女は呪われていてね。原因は、その心臓。邪神の心臓の一部を縫い付けてあると言われている」
「邪神?」
「彼女の存在がこのまま継続するならば、いずれ世界は滅びる引き金になるわ。我々に手を貸すのは世界破滅を防ぐ事にもなる」
ミッシェルは画面に映るタチアナ・ヴァリアントを見つめた。
悪人には見える相手ではない。
邪神の心臓? 世界破滅? どこまで信じればいい……?
少女はそう名乗ると大人びた笑みを浮かべてみせた。
「トルッペ・シュヴェールト……思い出したわ。ナチス・ドイツの研究機関アーネンエルベ所属の護衛部隊ね」
「よくご存知で」
「第二次世界大戦中、連合軍の仕事でアーネンエルベとは何度か衝突した。でも、あなたの事は知らない」
「第三帝国消滅後、トルッペ・シュヴェールトは存在を隠し続け活動をしていた。知らなくて当然だわ」
「ドイツ帝国の復活を手伝わせる気?」
「あはは……我らには、もやそのような野望はないよ。古いファシズムなど一過性の風邪のようなもの。復活しても駆逐されるだけ」
グラーフ・マリア・フォン・ヴァイストールはそう言って笑ってみせた。
「“長年の労に報いて貴殿が探し求めた情報を与えよう”ってどういくこと?」
「ああ……私は君が完全なる死を求めているのを知っている。せっかくの吸血鬼になれたのに理解に苦しむがね」
「余計なお世話。吸血鬼なんてろくなものじゃない」
「そうかい? 人間の能力をはるかに超え、不死身。体外かの血の供給さえ途絶えなければ永久に活動できる。地上で最も優れた生物といえないか?」
「……あんたも吸血鬼ね」
「まあ……そうだな」
「でも、何か違う」
「ああ、よく気が付いたね。さすがは本家といったところかな。我々は、人工の吸血鬼。アーネンエルベで研究されていた強化兵士計画の産物だよ」
「我々?」
グラーフ・マリア・フォン・ヴァイストール大尉が右手を上げると周囲の陰から武装した兵士が現れた。顔を覆った黒いマスク以外はフリッツヘルメットを被ったナチス・ドイツの武装親衛隊そのままだ。
ただし武装は、当時の武装親衛隊が装備していたStG44アサルトライフルでも年代物のMP40短機関銃ではなく、近代アサルトライフルH&K G36Cを携えている。
「何の仮装?」
「仮装ではないよ。彼らはトルッペ・シュヴェールトがスカウトした本物の“武装親衛隊”だ」
赤いレンズ越しに爬虫類の様な眼球が見えていた。それが瞬きもせずミッシェルを注視している。
「彼らも人工の吸血鬼ね」
「初期タイプのね。改良型の私と違って特殊な装備をしていないと外観が保てない。故にこの様な厳重な防護をしている」
「要するに失敗作というわけだ」
「だが、人間の能力を遥かに超えている。外見の美的基準は無意味であり無価値さ。さて、本題に入ろうか」
そう言うとグラーフは一冊の古い本を取り出した。
「これは我がヴァイストール家の歴史と家系図を記した記録書だ。実は我が家系は直系ではないにしろ吸血鬼と呼ばれた者の家系と繋がっていてね。そのファミリーツリーを把握している。吸血鬼の起源を研究するにあたって君のグランドマスターにあたる吸血鬼を知りえたというわけだ」
「グランドマスター……」
ミッシェルの吸血鬼としての上位に位置する存在である。この存在がある限り、ミッシェルの死は吸血鬼の死のみで人間としての死は得られない。もし、ミッシェルのグランドマスターを消滅させれば、魂は解放され、吸血鬼化は解かれるだろう。それがミッシェルと彼女の相棒だった男と長年調べた末の結論だった。
この結論に至ったのは150年前だったが、肝心のグランドマスターを見つける事ができなかった。
「それは真実か?」
「トルッペ・シュヴェールトの調査能力と吸血鬼に関しての膨大な資料。そして我がヴァイストール家の歴史。信じるに値するだろうさ」
ミッシェルは迷っていた。
確かに可能性のある話ではあったが、相手は得体の知れない組織でしかも人工の吸血鬼だという。信じるには、さすがに躊躇する。
「私に何をさせたい?」
ここは選択肢を広げることにした。
情報の真偽は後で裏を取るとして、まずは相手の交換条件を提示させてみる。
「察しがいいのは好きよ。話が早くていい」
そう言うと部下の兵士に合図をする。すると一人がタブレットPCを持ってきてミッシェルに差し出した。
画面には黒髪の若い女性が映っていた。
「誰?」
「タチアナ・ヴァリアント。ある組織に所属する厄介な相手。裏の世界では“炎の魔女”とか“黒髪の魔女”呼ばれている」
「魔女と呼ばれる相手は大体、厄介な奴」
「そのとおり。よく分かっているじゃないか。タチアナ・ヴァリアントには今までに何度も煮え湯を飲まされている」
「それを私に?」
「ただ始末する……というわけではない。彼女の心臓を奪って欲しい」
「趣味が悪いわね。心臓を奪うのと始末するのと何が違うのかしら。それとも何かの見せしめ?」
「恨みはあるが心臓をえぐってそれを晴らそうというわけではない。我々が必要としているのは彼女の心臓そのものだ」
「心臓に何か秘密があるというわけね」
「まあね。実は彼女は呪われていてね。原因は、その心臓。邪神の心臓の一部を縫い付けてあると言われている」
「邪神?」
「彼女の存在がこのまま継続するならば、いずれ世界は滅びる引き金になるわ。我々に手を貸すのは世界破滅を防ぐ事にもなる」
ミッシェルは画面に映るタチアナ・ヴァリアントを見つめた。
悪人には見える相手ではない。
邪神の心臓? 世界破滅? どこまで信じればいい……?
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
求不得苦 -ぐふとくく-
こあら
キャラ文芸
看護師として働く主人公は小さな頃から幽霊の姿が見える体質
毎日懸命に仕事をする中、ある意識不明の少女と出会い不思議なビジョンを見る
少女が見せるビジョンを読み取り解読していく
少女の伝えたい想いとは…
エロゲソムリエの女子高生~私がエロゲ批評宇宙だ~
新浜 星路
キャラ文芸
エロゲ大好き少女佐倉かなたの学園生活と日常。
佐倉 かなた
長女の影響でエロゲを始める。
エロゲ好き、欝げー、ナキゲーが好き。エロゲ通。年間60本を超えるエロゲーをプレイする。
口癖は三次元は惨事。エロゲスレにもいる、ドM
美少女大好き、メガネは地雷といつも口にする、緑髪もやばい、マブラヴ、天いな
橋本 紗耶香
ツンデレ。サヤボウという相性がつく、すぐ手がでてくる。
橋本 遥
ど天然。シャイ
ピュアピュア
高円寺希望
お嬢様
クール
桑畑 英梨
好奇心旺盛、快活、すっとんきょう。口癖は「それ興味あるなぁー」フランク
高校生の小説家、素っ頓狂でたまにかなたからエロゲを借りてそれをもとに作品をかいてしまう、天才
佐倉 ひより
かなたの妹。しっかりもの。彼氏ができそうになるもお姉ちゃんが心配だからできないと断る。
群青の空
ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
キャラ文芸
十年前――
東京から引っ越し、友達も彼女もなく。退屈な日々を送り、隣の家から聴こえてくるピアノの音は、綺麗で穏やかな感じをさせるが、どこか腑に落ちないところがあった。そんな高校生・拓海がその土地で不思議な高校生美少女・空と出会う。
そんな彼女のと出会い、俺の一年は自分の人生の中で、何よりも大切なものになった。
ただ、俺は彼女に……。
これは十年前のたった一年の青春物語――
煙みたいに残る Smoldering
梅室しば
キャラ文芸
剣道有段者の兄の伝手を使って、潟杜大学剣道部の合宿に同伴した生物科学科の学生・佐倉川利玖。宿舎の近くにある貴重な生態系を有する名山・葦賦岳を散策する利玖の目論見は天候の悪化によって脆くも崩れ、付き添いで呼ばれた工学部の友人・熊野史岐と共にマネージャーの東御汐子をサポートするが、そんな中、稽古中の部員の足の裏に誰のものかわからない血痕が付着するという奇妙な現象が発生した──。
※本作は「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。
追憶の君は花を喰らう
メグロ
キャラ文芸
主人公・木ノ瀬柚樹のクラスに見知らぬ女子生徒が登校する。彼女は転校生ではなく、入学当時から欠席している人だった。彼女の可憐ながらも、何処か影がある雰囲気に柚樹は気になっていた。それと同時期に柚樹が住む街、枝戸市に奇妙な事件が起こり始めるのだった――――。
花を題材にした怪奇ファンタジー作品。
ゲームシナリオで執筆した為、シナリオっぽい文章構成になっている所があります。
また文量が多めです、ご承知ください。
水崎ソラさんとのノベルゲーム化共同制作進行中です。(ゲームやTwitterの方ではHN 雪乃になっています。)
気になる方は公式サイトへどうぞ。 https://mzsksr06.wixsite.com/hanakura
完結済みです。
黎明のヴァンパイア
猫宮乾
キャラ文芸
仏国で対吸血鬼専門の拷問官として育った俺は、『オロール卿』と呼称される、ディフュージョンされている国際手配書『深緋』の吸血鬼を追いかけて日本に来た結果、霊能力の強い子供を欲する日本人女性に精子提供を求められ、借金があるため同意する。なのに――気づいたら溺愛されていた。まだ十三歳なので結婚は出来ないが、将来的には婿になってほしいと望まれながら、餌付けされている。そんな出会いと吸血鬼退治の物語の序幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる