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ゴルイニチ13
15、寒い国の夜明け
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陽が昇りかけたころ、蝙蝠の群れが森林の中を低く飛んでいた。
国境に近づくと何かを探すように高度を上げていく。
1キロ程先には、商用トラックが一台停まっていた。蝙蝠の群れはトラックに近づくと近くの林の中に舞い降りた。
群れは煙の様に四散すると再び集まり人の形に姿を変えた。
「着いたよ」
そこにいたのヴィスナとエリータだ。
エリータは無表情で立ち尽くしているがヴィスナの方は周囲の光景に戸惑っている。
「どうなってるの?」
「吸血鬼の手品。あまり深く考えないで。ほら向こうにCIAの連中が待ってる。行こう」
「何も見えないけど」
「私には見えてる。百メートルってことね」
ミッシェルはそう言うとトラックがあるであろう場所に向かって歩き始めた。
その後をヴィスナがエリータの手を引いた追いかける。
しばらく歩くとエンジンを切ったトラックが止まっていた。
ミッシェルはヴィスナたちに林の中に隠れているように言うとトラックに向かった。
トラックの周囲にいた男たちが足音に気付きミッシェルの方を見る。同時にポケットの↓に隠し持っていて拳銃に手をかけていた。
「здравствуйте(こんにちは)」
ミッシェルが先に話しかけた。
「どうしたの?」
「……故障だよ。今、修理が来るのを待ってる。あんたはこんなところで何してるんだ?」
「友達を探してるの。イワンって奴」
「……俺の知ってるイワンは嫁さんに殺されかけた」
「その嫁さんはゴルイニチって男と浮気してたんでしょ?」
「……レッドアイか?」
「ええ」
男たちは隠し持っていた拳銃から手を離した。
「”届け物‘は?」
ミッシェルは林の陰に隠れていたヴィスナたちを手招きする。
「予定の時間より遅くれてる。急げ」
男たちは段取り良くヴィスナを荷台に乗せたが、ついてきたエリータを見て眉をしかめた。
「そっちの子供の事は聞いていないぞ」
「一人くらいなんとかなるでしょ? この子も同じくらい重要よ」
男はリーダーの方を見て指示を仰いだ。
リーダーは小さく頷く。
エリータの身体に毛布が掛けられると荷台に乗せられた。荷台に乗るとエリータがヴィスナを引き寄せる。
「さあ、これでお別れだね」
ミッシェルが荷台の中を覗き込んで声をかける。
「ええ……吸血鬼もなかなかやるのね。見直したわ」
最後まで生意気な言葉にミッシェルはヴィスナのおでこを軽く小突く。
小突かれたヴィスナは、いたずらっぽく笑う。
「エリータの事、ありがとう」
「もののついでよ」
「それでも、ありがとう」
そう言ってヴィスナはミッシェルを抱きついた。
「СпасибоАнгел майкл(感謝します……天使ミハエル)」
トラックのエンジンが掛けられた。
質の悪いディーゼル燃料なのか古いエンジンのせいなのか思いのほか黒い煙がマフラーから噴き出す。
「この子たちはどうなる?」
ミッシェルがリーダーの男に訊ねた。
「知らんよ。俺たちは命令どおり運ぶだけだ」
「……無事に送り届けて」
「ああ。任せろ」
リーダーは、そう答えると助手席に乗り込んだ。途中、何かを思い出したのか窓から顔を出す。
「そうだ、レッドアイ。あんた、どうやら世界を救ったらしいぜ」
「はあ? 世界?」
「もしかしたら、大統領から勲章をもらえるかもな」
そう言い残すとトラックは走り始めた。
「世界? 大げさな……私は二人の小さな友達にほんの少し力を貸しただけよ」
ミッシェルはそうつぶやくと走り去るトラックの方を見た。
トラックは舗装されていない悪路に車体を揺らしながら遠ざかっていく。
その後ろ姿が見えなくなるまでミッシェルは見送った。
空が明るくなり始めた。
寒い国の夜が明ける。
国境に近づくと何かを探すように高度を上げていく。
1キロ程先には、商用トラックが一台停まっていた。蝙蝠の群れはトラックに近づくと近くの林の中に舞い降りた。
群れは煙の様に四散すると再び集まり人の形に姿を変えた。
「着いたよ」
そこにいたのヴィスナとエリータだ。
エリータは無表情で立ち尽くしているがヴィスナの方は周囲の光景に戸惑っている。
「どうなってるの?」
「吸血鬼の手品。あまり深く考えないで。ほら向こうにCIAの連中が待ってる。行こう」
「何も見えないけど」
「私には見えてる。百メートルってことね」
ミッシェルはそう言うとトラックがあるであろう場所に向かって歩き始めた。
その後をヴィスナがエリータの手を引いた追いかける。
しばらく歩くとエンジンを切ったトラックが止まっていた。
ミッシェルはヴィスナたちに林の中に隠れているように言うとトラックに向かった。
トラックの周囲にいた男たちが足音に気付きミッシェルの方を見る。同時にポケットの↓に隠し持っていて拳銃に手をかけていた。
「здравствуйте(こんにちは)」
ミッシェルが先に話しかけた。
「どうしたの?」
「……故障だよ。今、修理が来るのを待ってる。あんたはこんなところで何してるんだ?」
「友達を探してるの。イワンって奴」
「……俺の知ってるイワンは嫁さんに殺されかけた」
「その嫁さんはゴルイニチって男と浮気してたんでしょ?」
「……レッドアイか?」
「ええ」
男たちは隠し持っていた拳銃から手を離した。
「”届け物‘は?」
ミッシェルは林の陰に隠れていたヴィスナたちを手招きする。
「予定の時間より遅くれてる。急げ」
男たちは段取り良くヴィスナを荷台に乗せたが、ついてきたエリータを見て眉をしかめた。
「そっちの子供の事は聞いていないぞ」
「一人くらいなんとかなるでしょ? この子も同じくらい重要よ」
男はリーダーの方を見て指示を仰いだ。
リーダーは小さく頷く。
エリータの身体に毛布が掛けられると荷台に乗せられた。荷台に乗るとエリータがヴィスナを引き寄せる。
「さあ、これでお別れだね」
ミッシェルが荷台の中を覗き込んで声をかける。
「ええ……吸血鬼もなかなかやるのね。見直したわ」
最後まで生意気な言葉にミッシェルはヴィスナのおでこを軽く小突く。
小突かれたヴィスナは、いたずらっぽく笑う。
「エリータの事、ありがとう」
「もののついでよ」
「それでも、ありがとう」
そう言ってヴィスナはミッシェルを抱きついた。
「СпасибоАнгел майкл(感謝します……天使ミハエル)」
トラックのエンジンが掛けられた。
質の悪いディーゼル燃料なのか古いエンジンのせいなのか思いのほか黒い煙がマフラーから噴き出す。
「この子たちはどうなる?」
ミッシェルがリーダーの男に訊ねた。
「知らんよ。俺たちは命令どおり運ぶだけだ」
「……無事に送り届けて」
「ああ。任せろ」
リーダーは、そう答えると助手席に乗り込んだ。途中、何かを思い出したのか窓から顔を出す。
「そうだ、レッドアイ。あんた、どうやら世界を救ったらしいぜ」
「はあ? 世界?」
「もしかしたら、大統領から勲章をもらえるかもな」
そう言い残すとトラックは走り始めた。
「世界? 大げさな……私は二人の小さな友達にほんの少し力を貸しただけよ」
ミッシェルはそうつぶやくと走り去るトラックの方を見た。
トラックは舗装されていない悪路に車体を揺らしながら遠ざかっていく。
その後ろ姿が見えなくなるまでミッシェルは見送った。
空が明るくなり始めた。
寒い国の夜が明ける。
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