上 下
33 / 46
ゴルイニチ13

15、寒い国の夜明け

しおりを挟む
 陽が昇りかけたころ、蝙蝠の群れが森林の中を低く飛んでいた。
 国境に近づくと何かを探すように高度を上げていく。
 1キロ程先には、商用トラックが一台停まっていた。蝙蝠の群れはトラックに近づくと近くの林の中に舞い降りた。
 群れは煙の様に四散すると再び集まり人の形に姿を変えた。

「着いたよ」
 そこにいたのヴィスナとエリータだ。
 エリータは無表情で立ち尽くしているがヴィスナの方は周囲の光景に戸惑っている。
「どうなってるの?」
「吸血鬼の手品。あまり深く考えないで。ほら向こうにCIAの連中が待ってる。行こう」
「何も見えないけど」
「私には見えてる。百メートルってことね」
 ミッシェルはそう言うとトラックがあるであろう場所に向かって歩き始めた。
 その後をヴィスナがエリータの手を引いた追いかける。

 しばらく歩くとエンジンを切ったトラックが止まっていた。
 ミッシェルはヴィスナたちに林の中に隠れているように言うとトラックに向かった。
 トラックの周囲にいた男たちが足音に気付きミッシェルの方を見る。同時にポケットの↓に隠し持っていて拳銃に手をかけていた。
здравствуйтеズドラーストヴィチェ(こんにちは)」
 ミッシェルが先に話しかけた。
「どうしたの?」
「……故障だよ。今、修理が来るのを待ってる。あんたはこんなところで何してるんだ?」
「友達を探してるの。イワンって奴」
「……俺の知ってるイワンは嫁さんに殺されかけた」
「その嫁さんはゴルイニチって男と浮気してたんでしょ?」
「……レッドアイか?」
「ええ」
 男たちは隠し持っていた拳銃から手を離した。
「”届け物‘は?」
 ミッシェルは林の陰に隠れていたヴィスナたちを手招きする。
「予定の時間より遅くれてる。急げ」
 男たちは段取り良くヴィスナを荷台に乗せたが、ついてきたエリータを見て眉をしかめた。
「そっちの子供の事は聞いていないぞ」
「一人くらいなんとかなるでしょ? この子も同じくらい重要よ」
 男はリーダーの方を見て指示を仰いだ。
 リーダーは小さく頷く。
 エリータの身体に毛布が掛けられると荷台に乗せられた。荷台に乗るとエリータがヴィスナを引き寄せる。

「さあ、これでお別れだね」
 ミッシェルが荷台の中を覗き込んで声をかける。
「ええ……吸血鬼もなかなかやるのね。見直したわ」
 最後まで生意気な言葉にミッシェルはヴィスナのおでこを軽く小突く。
 小突かれたヴィスナは、いたずらっぽく笑う。
「エリータの事、ありがとう」
「もののついでよ」
「それでも、ありがとう」
 そう言ってヴィスナはミッシェルを抱きついた。
СпасибоスパシーバАнгел майклアーンゲル・ミハエル(感謝します……天使ミハエル)」

 トラックのエンジンが掛けられた。
 質の悪いディーゼル燃料なのか古いエンジンのせいなのか思いのほか黒い煙がマフラーから噴き出す。
「この子たちはどうなる?」
 ミッシェルがリーダーの男に訊ねた。
「知らんよ。俺たちは命令どおり運ぶだけだ」
「……無事に送り届けて」
「ああ。任せろ」
 リーダーは、そう答えると助手席に乗り込んだ。途中、何かを思い出したのか窓から顔を出す。
「そうだ、レッドアイ。あんた、どうやら世界を救ったらしいぜ」
「はあ? 世界?」
「もしかしたら、大統領から勲章をもらえるかもな」
 そう言い残すとトラックは走り始めた。
「世界? 大げさな……私は二人の小さな友達にほんの少し力を貸しただけよ」
 ミッシェルはそうつぶやくと走り去るトラックの方を見た。
 トラックは舗装されていない悪路に車体を揺らしながら遠ざかっていく。
 その後ろ姿が見えなくなるまでミッシェルは見送った。

 空が明るくなり始めた。
 寒い国の夜が明ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

求不得苦 -ぐふとくく-

こあら
キャラ文芸
看護師として働く主人公は小さな頃から幽霊の姿が見える体質 毎日懸命に仕事をする中、ある意識不明の少女と出会い不思議なビジョンを見る 少女が見せるビジョンを読み取り解読していく 少女の伝えたい想いとは…

エロゲソムリエの女子高生~私がエロゲ批評宇宙だ~

新浜 星路
キャラ文芸
エロゲ大好き少女佐倉かなたの学園生活と日常。 佐倉 かなた 長女の影響でエロゲを始める。 エロゲ好き、欝げー、ナキゲーが好き。エロゲ通。年間60本を超えるエロゲーをプレイする。 口癖は三次元は惨事。エロゲスレにもいる、ドM 美少女大好き、メガネは地雷といつも口にする、緑髪もやばい、マブラヴ、天いな 橋本 紗耶香 ツンデレ。サヤボウという相性がつく、すぐ手がでてくる。 橋本 遥 ど天然。シャイ ピュアピュア 高円寺希望 お嬢様 クール 桑畑 英梨 好奇心旺盛、快活、すっとんきょう。口癖は「それ興味あるなぁー」フランク 高校生の小説家、素っ頓狂でたまにかなたからエロゲを借りてそれをもとに作品をかいてしまう、天才 佐倉 ひより かなたの妹。しっかりもの。彼氏ができそうになるもお姉ちゃんが心配だからできないと断る。

群青の空

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
キャラ文芸
十年前―― 東京から引っ越し、友達も彼女もなく。退屈な日々を送り、隣の家から聴こえてくるピアノの音は、綺麗で穏やかな感じをさせるが、どこか腑に落ちないところがあった。そんな高校生・拓海がその土地で不思議な高校生美少女・空と出会う。 そんな彼女のと出会い、俺の一年は自分の人生の中で、何よりも大切なものになった。 ただ、俺は彼女に……。 これは十年前のたった一年の青春物語――

煙みたいに残る Smoldering

梅室しば
キャラ文芸
剣道有段者の兄の伝手を使って、潟杜大学剣道部の合宿に同伴した生物科学科の学生・佐倉川利玖。宿舎の近くにある貴重な生態系を有する名山・葦賦岳を散策する利玖の目論見は天候の悪化によって脆くも崩れ、付き添いで呼ばれた工学部の友人・熊野史岐と共にマネージャーの東御汐子をサポートするが、そんな中、稽古中の部員の足の裏に誰のものかわからない血痕が付着するという奇妙な現象が発生した──。 ※本作は「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。

狐小路食堂 ~狐耳少女の千年レシピ~

無才乙三
キャラ文芸
繁華街から外れた暗い暗い路地の奥にその店はある。 店の名は『狐小路食堂』 狐耳の少女が店主をしているその飲食店には 毎夜毎晩、動物やあやかし達が訪れ……? 作者:無才乙三(@otozoumusai)表紙イラスト:白まめけい(@siromamekei) ※カクヨムにて2017年1月から3月まで連載していたグルメ小説のリメイク版です。 (主人公を男性から少女へと変更)

人形の中の人の憂鬱

ジャン・幸田
キャラ文芸
 等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。 【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。 【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?

追憶の君は花を喰らう 

メグロ
キャラ文芸
主人公・木ノ瀬柚樹のクラスに見知らぬ女子生徒が登校する。彼女は転校生ではなく、入学当時から欠席している人だった。彼女の可憐ながらも、何処か影がある雰囲気に柚樹は気になっていた。それと同時期に柚樹が住む街、枝戸市に奇妙な事件が起こり始めるのだった――――。 花を題材にした怪奇ファンタジー作品。 ゲームシナリオで執筆した為、シナリオっぽい文章構成になっている所があります。 また文量が多めです、ご承知ください。 水崎ソラさんとのノベルゲーム化共同制作進行中です。(ゲームやTwitterの方ではHN 雪乃になっています。) 気になる方は公式サイトへどうぞ。 https://mzsksr06.wixsite.com/hanakura 完結済みです。

黎明のヴァンパイア

猫宮乾
キャラ文芸
 仏国で対吸血鬼専門の拷問官として育った俺は、『オロール卿』と呼称される、ディフュージョンされている国際手配書『深緋』の吸血鬼を追いかけて日本に来た結果、霊能力の強い子供を欲する日本人女性に精子提供を求められ、借金があるため同意する。なのに――気づいたら溺愛されていた。まだ十三歳なので結婚は出来ないが、将来的には婿になってほしいと望まれながら、餌付けされている。そんな出会いと吸血鬼退治の物語の序幕。

処理中です...