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ゴルイニチ13
11、見えない敵
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施設の屋上に設置されたアンテナを通して各人工衛星に向かって特殊な電波が送られていく。
電波を受けた人工衛星は予めプログラムされた命令によって位置を移動し始めていった。
それは中止されたある作戦の為に計画されたものだった。点在する敵国の軍事基地を行動不能に陥れる目的で膨大な予算が投入されたが、不確実性から中断された。
だがヴィクター・インユシン博士は諦めていなかった。
彼と一部の強硬派が計画の有効性を信じ、共産主義の勝利を信じていた。そして強硬派にバックアップされた彼は中止された計画を再開した。
元々の計画は、博士の開発した装置を使い、能力者の精神波を増幅させ、衛星経由で西側主要軍事基地に照射、兵士たちをマインドコントロールするという馬鹿げたものだ。
確かにヴィクター・インユシン博士も、この計画の成功には無理があることは感じていた。有能なマインド能力者を使ったとしてもである。
そこで彼は、少し規模を抑える事で実現性を高め、尚且つ、西側に大打撃を与える有効な手段を思いつく。
それは至って簡単な選択で解決できた。
狙うのはいくつかの核ミサイルの発射基地。核ミサイル発射に関わる一部の兵士たちのみをマインドコントロールすればいいのだ。
そして核ミサイルの標的をモスクワではなく、ニューヨークやロサンゼルス。そしてワシントンにして発射させる。
自国のICBMを使うことなくアメリカの主要都市を壊滅させる新たな作戦。
それが新たな計画、作戦名”ボイス・オブ・アメリカ“なのだ。
§
血だまりの中を何かが歩いていくる。
そいつは血だまりを超えると血の足跡をつけ、進み続けた。
物陰に隠れていたミッシェルは見えない敵の様子をうかがった。
い血の足跡は薄れ見えない敵の位置は見失われていた。
一体、どこにいる……?
強烈は敵意を感じミッシェルはその場から飛び退いた。
ミッシェルがいた場所の床が大きく陥没した。見えない敵が床を叩きつけたようだ。
陥没場所から距離をとり、銃を撃つ。
だが、弾丸は空しく壁に穴を開けるだけだった。
敵の位置は変わっている。ミッシェルは壁側に並んだ装置の陰に身を隠して様子を窺った。
相手の姿は見えない。
見えないのではなく、もしかしたらテレキネシスでの攻撃かもしれないけど……
そうミッシェルは思ったが、床に寝かせてあるヴィスナは意識を失ったままだ。他に念動力者がいるのかと周囲を見渡したが装置を操作するインユシン博士。それとその傍らにエリータが立っているだけである。そのエリータはマインド能力者の筈だ。テレキネシスは使えない。
とにかく態勢を立て直さないと。
ミッシェルは意識を集中させた。
すると床に転がっていた左腕が床に広がる血に溶けていく。そして血はミッシェルの元に集まっていった。生き物のように彼女の肩に上っていき腕を再生させた。
軽く腕を回すとミッシェルはもう一度様子を窺う。
エリータがミッシェルの方を見つめていた。
そうよね……さすがに居場所に気が付くわよね。
正面から強烈な敵意を正面から感じ取る。咄嗟に身を伏せると背後の荷物が叩き壊された。破片が周囲に飛び散る。荷物の中身は何かの実験器具のようだったらしくガラスのような破片が散っていった。
その破片に映り込んだものにミッシェルは気づく。それは異様な肌の色をした大男だった。
咄嗟に破片を手に取ると相手を映し出して位置を確認する。
そこか!
ミッシェルは高く飛びあがると大男の肩車されるように飛び乗った。
姿は見えないが感触はある。相手は確かにいる。
頭らしきものを掴むと思いきり引きちぎった。
「お返しだ!」
倒れていく大男から飛び退くと見えなかった筈の姿が現れていた。
その頭が傍らに転がり首の根本から流れる赤い血が床に広がっていく。皮膚は縫い合わしたかのような傷がいくつもあり、一部は金属で覆われている。頭を失っていてもなお2メートルを越える身長だ。
こいつも実験体ってやつなのか……
ミッシェルは床に倒れる異形な姿の死体を見下ろしながら思う。
離れた場所では無表情だったエリータの顔が一瞬歪んでいた。
次の瞬間、エリータはミッシェルの姿を見失う。慌てて辺りを見渡すエリータだったがミッシェルはすでに背後に回り込んでいた。
「吸血鬼を甘くみない方がいいわ」
ミッシェルはエリータの耳元でそう囁くと首を掴み、軽々と持ち上げた。
「あいつの姿が見えなかったのは、あんたが、マインドコントロールで私の思考に何かしたせいだね。吸血鬼の意識に入り込めるなんて少し驚いたわ」
苦しい筈なのにエリータの表情はあまり変わっていない。まるで人形だ。ミッシェルはそれが少し気になった。
「あんたもしかして……?」
その時、ミッシェルの足に何かがしがみついた。
「やめて!」
見ると意識を取り戻したヴィスナだ。
「エリータは悪くない! 殺さないで」
必死の表情で訴えるヴィスナにミッシェルも心が動かされる。
「心配しないで、彼女を殺すつもりはない。それより、この子……」
ミッシェルがそう言いかけた時だ。突如、扉が爆発した。
煙の中、AK-74アサルトライフルを構えたソ連兵がなだれ込んで来た。
「ヴィクター・インユシン博士! クーデター容疑で拘束する!」
隊長らしき兵士が叫んだ。
だが博士は爆発も突入した博士も無視して装置の操作を続けている。
博士を見つけると兵士はライフルを向けて近づいていった。
騒ぎに紛れてミッシェルはヴィスナたちを連れて物陰に隠れる。
「博士! 装置から離れてください!」
ライフルを突き付けられた博士が兵士たちに振り向いた。
その容姿に兵士が驚く。
「その姿はいったい……?」
目は充血し、皮膚は緑に変色。顔の骨格も変化している。
威嚇するかのように口を開いた様子はまるで獣だった。
ひるむ兵士たちをよそに博士は自らの首に再びアンプルを注射した。
「私の邪魔をするな!」
博士が叫ぶと兵士たちの様子が一変する。突入した全員がAK-47の銃口を下げ始めてしまう。表情も虚ろだ。
見ていたミッシェルは気がついた。博士もマインド能力者なのだ。
「エリータ! ヴィスナ!」
博士が叫ぶと二人の表情が変わり、博士の元に行こうとする。
「行ってはだめだ!」
止めようとしたミッシェルの身体が吹き飛ばされる。ヴィスナがテレキネシスを使ったのだ。起き上がろうとしたミッシェルだったが見えない力に押さえつけれれて身動きがとれない。
近づいたエリータを博士が強引に装置に備え付けられた椅子に座らせる。
「準備は整ったぞ。お前の出番だ」
エリータの頭に何かの器具をはめるとスイッチを入れた。
装置のランプがすべて点灯し、冷却装置のモーターの音が鳴り響いた。
本格的に装置が作動し始めたのだ。
その様子を通路にいたひとりの兵士が窺っていた。
突入が遅れた彼は博士のマインドコントロールを受けていなかったのだ。
だが、状況を見る限り一人ではどうこうできる事ではなさそうだ。
通信兵だった彼は無線機を使って外部の部隊に連絡を入れた。
「こちら突入部隊。部隊は行動不能、繰り返す、部隊は行動不能」
電波を受けた人工衛星は予めプログラムされた命令によって位置を移動し始めていった。
それは中止されたある作戦の為に計画されたものだった。点在する敵国の軍事基地を行動不能に陥れる目的で膨大な予算が投入されたが、不確実性から中断された。
だがヴィクター・インユシン博士は諦めていなかった。
彼と一部の強硬派が計画の有効性を信じ、共産主義の勝利を信じていた。そして強硬派にバックアップされた彼は中止された計画を再開した。
元々の計画は、博士の開発した装置を使い、能力者の精神波を増幅させ、衛星経由で西側主要軍事基地に照射、兵士たちをマインドコントロールするという馬鹿げたものだ。
確かにヴィクター・インユシン博士も、この計画の成功には無理があることは感じていた。有能なマインド能力者を使ったとしてもである。
そこで彼は、少し規模を抑える事で実現性を高め、尚且つ、西側に大打撃を与える有効な手段を思いつく。
それは至って簡単な選択で解決できた。
狙うのはいくつかの核ミサイルの発射基地。核ミサイル発射に関わる一部の兵士たちのみをマインドコントロールすればいいのだ。
そして核ミサイルの標的をモスクワではなく、ニューヨークやロサンゼルス。そしてワシントンにして発射させる。
自国のICBMを使うことなくアメリカの主要都市を壊滅させる新たな作戦。
それが新たな計画、作戦名”ボイス・オブ・アメリカ“なのだ。
§
血だまりの中を何かが歩いていくる。
そいつは血だまりを超えると血の足跡をつけ、進み続けた。
物陰に隠れていたミッシェルは見えない敵の様子をうかがった。
い血の足跡は薄れ見えない敵の位置は見失われていた。
一体、どこにいる……?
強烈は敵意を感じミッシェルはその場から飛び退いた。
ミッシェルがいた場所の床が大きく陥没した。見えない敵が床を叩きつけたようだ。
陥没場所から距離をとり、銃を撃つ。
だが、弾丸は空しく壁に穴を開けるだけだった。
敵の位置は変わっている。ミッシェルは壁側に並んだ装置の陰に身を隠して様子を窺った。
相手の姿は見えない。
見えないのではなく、もしかしたらテレキネシスでの攻撃かもしれないけど……
そうミッシェルは思ったが、床に寝かせてあるヴィスナは意識を失ったままだ。他に念動力者がいるのかと周囲を見渡したが装置を操作するインユシン博士。それとその傍らにエリータが立っているだけである。そのエリータはマインド能力者の筈だ。テレキネシスは使えない。
とにかく態勢を立て直さないと。
ミッシェルは意識を集中させた。
すると床に転がっていた左腕が床に広がる血に溶けていく。そして血はミッシェルの元に集まっていった。生き物のように彼女の肩に上っていき腕を再生させた。
軽く腕を回すとミッシェルはもう一度様子を窺う。
エリータがミッシェルの方を見つめていた。
そうよね……さすがに居場所に気が付くわよね。
正面から強烈な敵意を正面から感じ取る。咄嗟に身を伏せると背後の荷物が叩き壊された。破片が周囲に飛び散る。荷物の中身は何かの実験器具のようだったらしくガラスのような破片が散っていった。
その破片に映り込んだものにミッシェルは気づく。それは異様な肌の色をした大男だった。
咄嗟に破片を手に取ると相手を映し出して位置を確認する。
そこか!
ミッシェルは高く飛びあがると大男の肩車されるように飛び乗った。
姿は見えないが感触はある。相手は確かにいる。
頭らしきものを掴むと思いきり引きちぎった。
「お返しだ!」
倒れていく大男から飛び退くと見えなかった筈の姿が現れていた。
その頭が傍らに転がり首の根本から流れる赤い血が床に広がっていく。皮膚は縫い合わしたかのような傷がいくつもあり、一部は金属で覆われている。頭を失っていてもなお2メートルを越える身長だ。
こいつも実験体ってやつなのか……
ミッシェルは床に倒れる異形な姿の死体を見下ろしながら思う。
離れた場所では無表情だったエリータの顔が一瞬歪んでいた。
次の瞬間、エリータはミッシェルの姿を見失う。慌てて辺りを見渡すエリータだったがミッシェルはすでに背後に回り込んでいた。
「吸血鬼を甘くみない方がいいわ」
ミッシェルはエリータの耳元でそう囁くと首を掴み、軽々と持ち上げた。
「あいつの姿が見えなかったのは、あんたが、マインドコントロールで私の思考に何かしたせいだね。吸血鬼の意識に入り込めるなんて少し驚いたわ」
苦しい筈なのにエリータの表情はあまり変わっていない。まるで人形だ。ミッシェルはそれが少し気になった。
「あんたもしかして……?」
その時、ミッシェルの足に何かがしがみついた。
「やめて!」
見ると意識を取り戻したヴィスナだ。
「エリータは悪くない! 殺さないで」
必死の表情で訴えるヴィスナにミッシェルも心が動かされる。
「心配しないで、彼女を殺すつもりはない。それより、この子……」
ミッシェルがそう言いかけた時だ。突如、扉が爆発した。
煙の中、AK-74アサルトライフルを構えたソ連兵がなだれ込んで来た。
「ヴィクター・インユシン博士! クーデター容疑で拘束する!」
隊長らしき兵士が叫んだ。
だが博士は爆発も突入した博士も無視して装置の操作を続けている。
博士を見つけると兵士はライフルを向けて近づいていった。
騒ぎに紛れてミッシェルはヴィスナたちを連れて物陰に隠れる。
「博士! 装置から離れてください!」
ライフルを突き付けられた博士が兵士たちに振り向いた。
その容姿に兵士が驚く。
「その姿はいったい……?」
目は充血し、皮膚は緑に変色。顔の骨格も変化している。
威嚇するかのように口を開いた様子はまるで獣だった。
ひるむ兵士たちをよそに博士は自らの首に再びアンプルを注射した。
「私の邪魔をするな!」
博士が叫ぶと兵士たちの様子が一変する。突入した全員がAK-47の銃口を下げ始めてしまう。表情も虚ろだ。
見ていたミッシェルは気がついた。博士もマインド能力者なのだ。
「エリータ! ヴィスナ!」
博士が叫ぶと二人の表情が変わり、博士の元に行こうとする。
「行ってはだめだ!」
止めようとしたミッシェルの身体が吹き飛ばされる。ヴィスナがテレキネシスを使ったのだ。起き上がろうとしたミッシェルだったが見えない力に押さえつけれれて身動きがとれない。
近づいたエリータを博士が強引に装置に備え付けられた椅子に座らせる。
「準備は整ったぞ。お前の出番だ」
エリータの頭に何かの器具をはめるとスイッチを入れた。
装置のランプがすべて点灯し、冷却装置のモーターの音が鳴り響いた。
本格的に装置が作動し始めたのだ。
その様子を通路にいたひとりの兵士が窺っていた。
突入が遅れた彼は博士のマインドコントロールを受けていなかったのだ。
だが、状況を見る限り一人ではどうこうできる事ではなさそうだ。
通信兵だった彼は無線機を使って外部の部隊に連絡を入れた。
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