上 下
24 / 46
ゴルイニチ13

6、ゲー・ノーミル74

しおりを挟む
 ヴィクター・イワノビッチ・インユシンは埃を払いながら立ち上がった。
「ゲー・ノーミル74が暴走している」
「ゲー・ノーミル74ってエリータの事だよ」
 ヴィスナが付け足す。
「ゲー・ノーミル74はテレパシーに特化した能力者だ。その能力を増幅させる実験をしてた。だが能力を増幅させ過ぎてコントロールできなくなっている。いまや、この建物はあの能力者の支配下だ」
「テレパシーでどうやって支配する?」
「マインドコントロールだ」
「マインドコントロール?」
「相手の意思を思うがままにするんだ。ゲー・ノーミル74は、それを人間の脳に同調させ、支配する。我々はそれを“SPI波”と呼んでいるが、あいつはその能力で私の部下や、他の能力者、地下の不適合実験体たちを操っているんだよ」
「エリータは、ここから逃げ出したかった筈だ。この施設の警備体制を無効にさせた今でも何故、居残っている?」
「ゲー・ノーミル74の目的は知らん。だが私が考えるに装置を外したら支配していた職員や他の能力者たちを自由にさせてしまう。だからじゃないのかな? 特に不適合実験体の身体能力は人間を凌駕している。おまけに攻撃的で凶暴だ。何しろ、ここの警備をしていた兵士たちを全滅させたくらいだからな。おまけに一部が街に逃げ出してるようだ」
 街にあった銃痕はそいつらとの交戦の跡か。
 ミッシェルは思った。
「それは私たちが逃げる為の作戦よ。でも、不適合実験体が逃げ出したのは予定にはなかった。コントロールするのは警備の兵隊や職員たちだけの筈だったの」
「連中を従えてるなら元いた場所に戻るように命令できないのか?」
「あいつらの思考は複雑でうまく操れないって言ってた。激しい怒りを抑え込むのがやっとだって」
「だから他の能力者を使って止めてるってわけね」
 さきほど出会った発火能力者の事を思い出す。
「要するに、その凶暴な実験体とやらを抑え込むには装置を使い続けるしかないってわけね。まったく、面倒な……」
 ミッシェルはため息をつく。
「ねえ、所長さん。装置を止めたらどうなる?」
「今は大人しくしている実験体たちが暴れまくるだろうな。そうなったら我々が生き残る確率が極端に落ちる」
「装置を使わずに実験体たちを何とかする方法は?」
「ないだろうね。ひとりを眠らせるのに馬用の鎮静剤を三本以上が必要な連中なんだぞ?」
 エリータを見つけたらヴィスナと一緒にミッシェルの能力で一気に施設から脱出するしかない。子供二人なら何とか運ぶ事もできるだろう。
「OK、さっさと上に行きましょうか。エリータを見つけてすぐ脱出」
「早くした方がいい」
 横から所長が横から口を挟む。
「ええ、あんたに言われるまでもないわ」
「皮肉とかそういうんじゃない。特殊な能力を使えてもゲー・ノーミル74は子供だ。騒ぎが起きて二日目。増幅装置で機械的に能力を発動させているとしてもいずれ……」
「体力が持たない?」
「そういう事だ。“獣”……不適合実験体たちの遠吠えが増えてきてると思わないか? 連中を支配できなくなってきてるんだ」
 ミッシェルはエレベーター内のボタンに指をかけた。
「あんたは早くここから立ち去りな、所長さん」
「わ、私もあんたらについていく」
 意外な言葉にミッシェルは驚く。もちろんヴィスナもだ。
「何を企んでる?」
「ここから無事に逃げ出す為だよ。まだ“獣”たちがうろついている中を一人で逃げるより、あんたらと一緒の方が安全だと思う。そっちのゲー・ノーミル……いや、ヴィスナの能力も知っているし、あんたも只者ではなさそうだし何か逃げる手段があるんだろ?」
 ミッシェルは怪訝そうな顔をする。この科学者は変なところで鋭い。
「それに私がいれば装置をなんとかできるかもしれない」
「あんた、装置をコントロールできなくなったって言ってたと思うけど?」
「それは、ゲー・ノーミル74が意図的に邪魔していたからだ。何の専門知識もないあんたらが装置をなんとかしようとすると彼女に致命的ダメージを与えるかもしれないぞ」
 確かにこの科学者の言う事も一理ある。専門的技術が必要だった場合、ミッシェルの能力が有効かもわかない。
「装置はテレビとは違うんだ。コンセントを抜いて止まるようなものじゃない。それともサイコトロニクス装置について詳しいのか?」
「わかったよ。あんたをつれてく」
「レッドアイ!」
 嫌そうに抗議するヴィスナをミッシェルが手せ制する仕草をして嗜める。
「彼が何かおかしな事をしようとしたら即、45口径をぶち込むから大丈夫」
 所長はその言葉に生唾を飲み込む。
「それじゃあ、このまま8階に登りましょう」
「ちょっと待って!」
 ボタンを押そうとしたミッシェルをヴィスナが止める。
「何?」
 ヴィスナは所長の傍に行くと脚を思い切り所長の脚を蹴り上げた。痛みで声をあげる所長。
「あの子は、ゲー・ノーミル74なんて番号じゃない! エリータって名前なの! それも“ルール”に加えておきなさい!」
 そう言ってヴィスナな所長を睨みつける。
「わ、わかった」
 驚いた顔で頷く所長は脚を押さえながらエレベータの隅に逃げた。
「用事は済んだ?」
「ええ、すっきりした、さっ、早く上に行きましょう!」
 そう言ってにこりと笑うヴィスナにミッシェルは呆れる。、
 だがどういうわけか、この生意気なテレキネシストを気に入っている自分にも気づく。
「はいはい、わかりましたよ」
 ミッシェルはそう言って8階のボタンを押した。


 一階ではアサルトライフルの銃声が響き終わっていた。
 ソビエト兵がAK-47ライフルを構えながら用心深く、廊下を進む。
 その先には血を流して倒れる発火能力者の少年がいた。
「こいつは能力者のひとりだ」
 倒れている少年を足先で小突きいてみる。もちろんAK-47の銃口は頭に向けたままだ。
 小突かれた少年に反応はなかった。
 突然、廊下の先にある鉄の扉から音がしたのだ。
 驚いて一斉にライフルの銃口を扉に向ける兵士たち。鉄の扉を激しく叩く音が延々と続いている。鍵は掛かっているようだが今にも壊れそうだ。
「ここはなんだ?」
「地下施設に通じる出入り口のようです」
「何がいるんだ!」
「わ、わかりません」
 兵士たちはAK-47を構えると扉に向けた。引き金を指にかけ、隊長の合図を待っていた時だった。
 突然、扉を叩く音が止まり廊下には再び静寂が訪れた。
「お前、様子を見てこい」
「え?」
「命令だ!」
 隊長の強い口調に兵士は怯えながら扉に近づいていく。何も変化はない。
 何かがまだ扉の傍にいれば何か物音がする筈だ。兵士は様子を知る為にそっと扉に耳を近づけた。
 何も聞こえない。
 もう一度耳を澄ますと僅かに呼吸の音が聞こえてきた。
 扉の前にまだいるんだ!
 兵士がそれに気がついた時だった。
 鉄の扉が突然、破られ中から異様な姿の怪物が飛び出してきた!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...