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ゴルイニチ13

2、誰もいない街

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 車に乗り込んだ二人は誰もいない町の中を進んでいた。
 時折、何かの店を見かけるが客が入っている様子もない。
 ミッシェルはハンドルを握りながら助手席のヴィスナを横目で見た。
「この街に一体何があったの?」
「何がって?」
「どこにも人の姿が見えない」
「外が寒いからでしょ」
「銃撃の痕をいたるところで見かけた、何もないとは思えないけどね」
 ヴィスナはしばらく黙っていたが、ミッシェルが辛抱強く返事を待っているとようやく口を開いた。
「この街の事は知ってる?」
「軍事兵器を研究している秘密都市だと聞いている」
「研究してるのはこんなことよ」
 ヴィスナがそう言うとダッシュボードがひとりでに開き、中にあった何か書類らしき紙切れが宙に浮きだした。
「運転の邪魔になる」
 ミッシェルは興味なさげにそう言うと宙にに浮いていた紙切れを手で叩いた。
「あまり、驚かないのね。つまらないわ」
「似たような手品はよく見るからね」
「もっとすごい事もできるよ」
 ミッシェルは興味なさげに肩をすくめる。
「この能力だけじゃないわ。今から助けに行く子は私よりすごい能力を持っている。そんな子たちをのがこの町の目的。ここで私たち二人は幼いころから一緒に育てられたの」
「その娘の能力は?」
「彼女は、強力なテレバシー能力者。ソ連にいる私達がCIAにコンタクトが取れたのは、あの子のテレパシーのお陰なの。亡命の事を私達からCIA、CIAからあんたの組織へ。で、こういう事になってるわけ」
「お前の力なら、私の助けは必要なさそうだけどね」
「この街から出れてもソビエトからは出れないもの。この街の外の事は何も知らないし」
「それより、街に人影がみえない理由をまだ聞いてない」
「事故よ」
「事故? チェルノブイリみたいな?」
 ウクライナで起きた原子力発電所の事故の話を持ち出したが、何も知らないのがヴィスナはきょとんとした顔をした。
「知らないのか?」
「小さいころから、ずっと研究所の中だったから……テレビもほとんど見せてもらなしラジオもあまり聴かせてもらえない」
「そう……」
 それでなくても過剰な秘密主義のソ連だしね、とミッシェルは思った。
「一体何が起きた?」
「私達以外の作られた子たちが反乱を起こしたの」
「その子たちもお前やお前の友達のような能力を持ってるのか?」
「ええ……でもどんな能力かは知らない。それなりの戦闘力はあるとは思うわ」
「あまり仲良くないのね」
「だって顔を合わす事が無いんだもの。当然でしょ。ねえ、それより、どうやって国外に出るの?」
 ヴィスナは、子供のようにすり寄る。
「私はよく知らない。お前を指定ポイントまで連れて行くのが私の役目。そこたどり着けば、あとはCIAがどうにかしてくれる」
「なにそれ?」
「そんなものよ」
 ミッシェルの言葉にヴィスナはため息をつく。

 町の中央まで来ると巨大な建物が見えてきた。
 厳重な塀に囲まれた要塞のようなところだ。
「ここよ。ここに友達が取り残されてる」
 車から降りようとしたヴィスナをミッシェルが腕を掴んで引き止めた。
「ここは、軍事施設のひとつなんだろ? 警備の姿がないのは不自然だ。門に近づいているのに反応もないのもおかしい」
「誰もいないからよ」
 ミッシェルの腕を掴む力が強くなった。
「痛いわ」
「誰もいない建物から何故、お前の友達は娘は逃げ出さない? ちゃんとした理由を聞きたいね」
「いるからよ」
「いるって何が?」
「……獣」
 ミッシェルは建物を見上げた。
 空を覆う灰色の雲が厚くなっていた。

 その頃、街の入り口ではソビエト陸軍の戦車と装甲車、何台もの輸送トラックが集まっていた。
 空からは輸送ヘリ一機とガンシップ二機が接近していた。
「もう少しで到着です、大佐どの」
 黒い土の上に輸送ヘリが着陸する。
 止まっていない回転翼が巻き起こす風の中、ヘリから特殊部隊の兵士たちが降りてきた。
 続いて作戦指指揮官のスミルノフ大佐が降りて来ると、先に待機していた陸上部隊の大尉が小走りで近づいてくる。
「お待ちしておりました、大佐。ご命令通り通行できる道路は全て封鎖しております」
「街から出た者は?」
「確認しておりません!」
 スミルノフ大佐が街の方を見ると遠くに黒い煙が上がってた。
「恐らく、市内の警備部隊が交戦したものと思われます。ただ彼らとは一時間前より連絡が取れておりません」
 スミルノフ大佐は再び街の方を見た。
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