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■Ⅱ■IN BANGKOK■
[5]▽未知の秘密
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「待ってくれ……んなの信じられないって! どうしたらこんな完璧に、人間みたいなアンドロイドが造れるんだ!?」
視覚と聴覚から得た情報がイコールで繋げなくなり、クウヤの視点はグルグルと目まぐるしく動き出してしまった。それを何とか落ち着かせようと、引きつるこめかみを指で押さえる。それでもどうにもコントロール出来ず、結局立ち尽くしたまま疲れたように目を瞑ってしまった。
「なんか混乱してるみたいだね」
「そのようでございますね」
可哀想と云わんばかりのネイの言葉に、メリルは冷静な返事をした。
「クウヤ様、わたくしはアンドロイドの中でも、究極に人間を模した最新型なのでございます。ですからどこまで悟られずに行動を共に出来ますか、データを取らせていただいておりました」
「データって……」
もはや何を言われても、理解をするのに普段の十倍は掛かりそうな動揺振りだ。此処まで何とか信じがたい事実も呑み込み噛み砕いてきたが、さすがにこればかりは受け入れられない気がしていた。
「ねー、ちょっと今は無理なんじゃない? お部屋の鍵渡すからさ~クウたんを少し休ませてあげたら?」
「そうでございますね。ではネイ様、しばらくお世話になります」
クウヤはいつの間にか「クウたん」などと親しげに呼ばれていることにも気付けぬまま、目の前で呆然と突っ立ったままだ。女性陣はそれを「機能停止」と判断して、本人の意向を訊かずして──いや、実際には訊いたところで答えられないと思われるが──クウヤに心の平安を提供することに決めた。
「ところでソムチャーイ様はオフィスですか? まずは『ツール』のことをお願いしなければなりません」
「ポーはメリたんから連絡もらってすぐ、何処かに出掛けたんだよーきっと『ツール』を探しに行ったんじゃない? だから帰ってくるまでネイと遊ぼ!」
ちなみにソムチャーイはこの宿の主人、ネイは親しみを込めて父親を意味する「ポー」と呼んでいるが、もちろん彼女の父親ではない。
「それは恐れ入ります。ではクウヤ様をお部屋にお連れしましたら、ネイ様のお部屋に参ります」
「メリたんはアタシの部屋にお泊まりしない? 客室よりも快適だよー」
ネイはクウヤを一瞥後、相変わらず呆けた彼に苦笑いをして、カウンターへ鍵を取りに向かったが、
「申し訳ございません、ネイ様。今回はわたくしにも一室ご準備をお願い致します。色々と支度がございますので」
つれないメリルのやんわりとした断りの返事に、口を尖らせながら二つの鍵を渋々と差し出した。
「クウヤ様、どうぞこちらへ」
受け取ったメリルは、今度は寂しげにヘの字口をしたネイに「必ず参ります」と念を入れた。フロアーへ置き離していた荷を取り、何とかついて来たクウヤを右奥のリフトへ案内する。
「少しゆっくりされてくださいませ」
与えられた三階の客室に到着し、メリルはクウヤに鍵と幾つかの荷物を手渡した。自身も隣の部屋を解錠し、残りの荷物を置いて早速ネイの部屋を目指す。その時まだクウヤは廊下でぼぉっと立っていたが、目の前を過ぎるメリルの横顔を低いトーンで呼び止めた。
「……メリル」
「はい」
振り返る涼しげな眼差し。本当に彼女はアンドロイドなのだろうか? 戸惑う心がそれを確かめたい気持ちと、信じたくない想いで分裂していた。彼女があの西洋人との格闘で人間とは思えない身体能力を見せたことは覚えている。それでも今の時代なら、力を増幅させる装置などたやすく手に入るとも考えられた。クウヤは出来ればそうであってほしい、全ては嘘であってくれと、いつの間にか心の片隅で願っていた。
「お宅、本当に……」
結局彼女は今でもミニのドレスのままだ。その中身は柔らかそうな綺麗な肌をしているのに、これが全て人工物だというのだろうか?
「証拠をお見せした方が宜しいでしょうか?」
メリルは二の句の継げなくなったクウヤの意を酌み取った。左手で自分の右手首をおもむろに引っ張り、
「ひっ!?」
思わずクウヤは小さな悲鳴を上げた。
「どうぞご確認ください」
メリルがクウヤの掌に乗せた物は、メリルの右手首から先、だった。
◆ ◆ ◆
ネイは既に自分の部屋のフカフカのベンチに腰掛け、メリルを待ち焦がれながら、その短いプニプニの脚をパタパタと揺らしていた。
軽いノックが二度聞こえ、「はぁ~い」と嬉しそうな声で扉へ駆け寄る。
「お待たせ致しました、ネイ様」
「いえいえです~」
ネイは座っていたベンチにメリルを促し、自分はテーブルを挟んで向かい合わせとなるベッドに鎮座した。ネイの物とは思えないほど大きなベッドだ。
「さてさて~メリたん、色々と聞かなくちゃいけないことだらけみたいだけど?」
「ネイ様には敵いませんね。その通りではございますが……現状それほどお話出来ることはございません」
メリルはネイの探るような視線にも口調にも、たじろぐことはなかった──が、
「でもさー、アタシに一つ隠してること、あるよね?」
その言葉と共に向けられた意地悪そうな顔つきには、若干顔色を変えてみせる。ふうと一息、困ったように溜息をついたが、その隠し事をなかなか言い出そうとはしなかった。仕方なく代わりにネイが口を開いてみせる。
「まず! アタシが抱きついた時、いつもなら抱きしめ返してくれるのにしてくれなかったこと! 次に抱っこをお願いしたのにしてくれなかったこと! 最後の一つはココにお泊まりしてくれないこと! 以上三点から言えることは……?」
益々意地悪そうにニヤリと笑うネイ。メリルもさすがに観念した。
「はい……手のコントロールが上手くいかなくなっております。主に右手、ですね」
「やっぱり」
ネイの確信に、メリルは落ち着かないよう両手を絡めた。
「ねえ……もうどれくらいメンテナンスに行ってないの? そろそろ行かないとなんじゃない?」
「まだ三ヶ月も経ってはおりません。ですがこの状況はそういった期間の長さによるものではないと思います」
「……故意だってこと?」
「はい……」
メリルは端的に当てられた返しに、両手を見下ろすように俯いてしまった。
「あのマッド・サイエンティスト、何を考えてるんだか~?」
「わたくしにも分かりかねます」
「うーん……」
今度はネイが困ったように唸り声を上げる。ネイはベッドにうつぶせになり、膝を曲げて脚をパタパタさせた。
「今のところ、あの「マッド」しかメリたんを診られるヒトいないもんね。近い内には行かないとでしょ?」
「そうではございますが……今は時間がありませんので」
「時間がないってそれ、クウたんのこと?」
ネイはパッと好奇心の瞳を上げて、脚のパタパタを止めた。
「はい」
「そっちもちゃんと教えてよークウたんを守ってあげるんだからさ~」
「……はい。どうぞ宜しくお願い致します」
メリルは一度苦笑いのような表情を浮かべて、今までの経緯をネイに告げた。
◆ ◆ ◆
一方、あてがわれた部屋へ閉じこもったクウヤは──?
「何だって言うんだよ~ちくしょう!」
突きつけられた「事実」を「事実」と信じることが出来ず、ただひたすらに困惑する心を持てあましていた。
窓際を陣取るベッドに仰向けになり、大の字になって白い天井を見つめる。渡されたメリルの右手には人肌の温かさがあった。質感も指の腹にある指紋も、その裏側にあるネイルの施された爪の硬さも──全ては寸分の狂いもなく「人間」だった。なのに本体から離された手首の断面には、真ん中に接続するための小さな凹があり、そして本体側の前腕断面には右手を操るためのケーブルが露出していたのだ。その周りには特に導体などは見えなかったが、明らかに人工的な樹脂か何かで内部を保護する加工がされていた。
「俺が見てきたものって……」
もしかしたら『グランド・ムーン』のキャスト達も、本当にアンドロイドだったのではないだろうか? 全ては造られた物なのか? 自分の目が通して見た物全てが信じられなくなってしまう。それでなくとも信じられない現実が、鎖骨の真下で輝いていた。
──『エレメント』。
この隕石のカケラが何をもって此処に存在するのか、今後自分にどのような影響を及ぼすのか。見えない未来と、理解出来ない今という時。とにかく結論が欲しかった。出来れば安心出来る確実な何かが、例えたった一つでも。
クウヤの部屋はホテル中央を貫く中庭に向かって窓があった。まるで『グランド・ムーン』の吹き抜けみたいだな、と思い出したくもない繋がりにゲンナリする。そこから注ぐ日差しは強くても、室内は快適な温度と湿度を保っている。この空調もネイが管理する範囲の一つなのだろうか? ベッドに書斎机にバスルームにトイレ。アメニティは一揃いあるが、全ては必要最低限で時間を潰すための娯楽は何もない。お楽しみはカオサン・ロードへ求めよと言うのだろうが、この宿から一歩でも外へ出れば、自分はきっと捕獲される……つまらない人生の終着点がそこだなんて……いい加減にしてくれと叫び出したい気分だった。
「シャワーでも浴びるかぁ……」
思えば昨夜から拘束されていたのだから、朝方コミューター内で歯磨きと顔を洗わせてもらったくらいで、身体の方は汗と疲れでグッタリだった。
きっと水に流せば少しは洗われる。身体も──心も。アンドロイドはシャワーなんて浴びないんだろうな。ストレスも溜まらないのだろうから、心の澱も流す必要なんてないか。
だるそうに起き上がり、全てを脱ぎ去りシャワールームに向かう。その後清潔なシーツに包まれて、クウヤは昔むかしの不思議な夢を見た──。
視覚と聴覚から得た情報がイコールで繋げなくなり、クウヤの視点はグルグルと目まぐるしく動き出してしまった。それを何とか落ち着かせようと、引きつるこめかみを指で押さえる。それでもどうにもコントロール出来ず、結局立ち尽くしたまま疲れたように目を瞑ってしまった。
「なんか混乱してるみたいだね」
「そのようでございますね」
可哀想と云わんばかりのネイの言葉に、メリルは冷静な返事をした。
「クウヤ様、わたくしはアンドロイドの中でも、究極に人間を模した最新型なのでございます。ですからどこまで悟られずに行動を共に出来ますか、データを取らせていただいておりました」
「データって……」
もはや何を言われても、理解をするのに普段の十倍は掛かりそうな動揺振りだ。此処まで何とか信じがたい事実も呑み込み噛み砕いてきたが、さすがにこればかりは受け入れられない気がしていた。
「ねー、ちょっと今は無理なんじゃない? お部屋の鍵渡すからさ~クウたんを少し休ませてあげたら?」
「そうでございますね。ではネイ様、しばらくお世話になります」
クウヤはいつの間にか「クウたん」などと親しげに呼ばれていることにも気付けぬまま、目の前で呆然と突っ立ったままだ。女性陣はそれを「機能停止」と判断して、本人の意向を訊かずして──いや、実際には訊いたところで答えられないと思われるが──クウヤに心の平安を提供することに決めた。
「ところでソムチャーイ様はオフィスですか? まずは『ツール』のことをお願いしなければなりません」
「ポーはメリたんから連絡もらってすぐ、何処かに出掛けたんだよーきっと『ツール』を探しに行ったんじゃない? だから帰ってくるまでネイと遊ぼ!」
ちなみにソムチャーイはこの宿の主人、ネイは親しみを込めて父親を意味する「ポー」と呼んでいるが、もちろん彼女の父親ではない。
「それは恐れ入ります。ではクウヤ様をお部屋にお連れしましたら、ネイ様のお部屋に参ります」
「メリたんはアタシの部屋にお泊まりしない? 客室よりも快適だよー」
ネイはクウヤを一瞥後、相変わらず呆けた彼に苦笑いをして、カウンターへ鍵を取りに向かったが、
「申し訳ございません、ネイ様。今回はわたくしにも一室ご準備をお願い致します。色々と支度がございますので」
つれないメリルのやんわりとした断りの返事に、口を尖らせながら二つの鍵を渋々と差し出した。
「クウヤ様、どうぞこちらへ」
受け取ったメリルは、今度は寂しげにヘの字口をしたネイに「必ず参ります」と念を入れた。フロアーへ置き離していた荷を取り、何とかついて来たクウヤを右奥のリフトへ案内する。
「少しゆっくりされてくださいませ」
与えられた三階の客室に到着し、メリルはクウヤに鍵と幾つかの荷物を手渡した。自身も隣の部屋を解錠し、残りの荷物を置いて早速ネイの部屋を目指す。その時まだクウヤは廊下でぼぉっと立っていたが、目の前を過ぎるメリルの横顔を低いトーンで呼び止めた。
「……メリル」
「はい」
振り返る涼しげな眼差し。本当に彼女はアンドロイドなのだろうか? 戸惑う心がそれを確かめたい気持ちと、信じたくない想いで分裂していた。彼女があの西洋人との格闘で人間とは思えない身体能力を見せたことは覚えている。それでも今の時代なら、力を増幅させる装置などたやすく手に入るとも考えられた。クウヤは出来ればそうであってほしい、全ては嘘であってくれと、いつの間にか心の片隅で願っていた。
「お宅、本当に……」
結局彼女は今でもミニのドレスのままだ。その中身は柔らかそうな綺麗な肌をしているのに、これが全て人工物だというのだろうか?
「証拠をお見せした方が宜しいでしょうか?」
メリルは二の句の継げなくなったクウヤの意を酌み取った。左手で自分の右手首をおもむろに引っ張り、
「ひっ!?」
思わずクウヤは小さな悲鳴を上げた。
「どうぞご確認ください」
メリルがクウヤの掌に乗せた物は、メリルの右手首から先、だった。
◆ ◆ ◆
ネイは既に自分の部屋のフカフカのベンチに腰掛け、メリルを待ち焦がれながら、その短いプニプニの脚をパタパタと揺らしていた。
軽いノックが二度聞こえ、「はぁ~い」と嬉しそうな声で扉へ駆け寄る。
「お待たせ致しました、ネイ様」
「いえいえです~」
ネイは座っていたベンチにメリルを促し、自分はテーブルを挟んで向かい合わせとなるベッドに鎮座した。ネイの物とは思えないほど大きなベッドだ。
「さてさて~メリたん、色々と聞かなくちゃいけないことだらけみたいだけど?」
「ネイ様には敵いませんね。その通りではございますが……現状それほどお話出来ることはございません」
メリルはネイの探るような視線にも口調にも、たじろぐことはなかった──が、
「でもさー、アタシに一つ隠してること、あるよね?」
その言葉と共に向けられた意地悪そうな顔つきには、若干顔色を変えてみせる。ふうと一息、困ったように溜息をついたが、その隠し事をなかなか言い出そうとはしなかった。仕方なく代わりにネイが口を開いてみせる。
「まず! アタシが抱きついた時、いつもなら抱きしめ返してくれるのにしてくれなかったこと! 次に抱っこをお願いしたのにしてくれなかったこと! 最後の一つはココにお泊まりしてくれないこと! 以上三点から言えることは……?」
益々意地悪そうにニヤリと笑うネイ。メリルもさすがに観念した。
「はい……手のコントロールが上手くいかなくなっております。主に右手、ですね」
「やっぱり」
ネイの確信に、メリルは落ち着かないよう両手を絡めた。
「ねえ……もうどれくらいメンテナンスに行ってないの? そろそろ行かないとなんじゃない?」
「まだ三ヶ月も経ってはおりません。ですがこの状況はそういった期間の長さによるものではないと思います」
「……故意だってこと?」
「はい……」
メリルは端的に当てられた返しに、両手を見下ろすように俯いてしまった。
「あのマッド・サイエンティスト、何を考えてるんだか~?」
「わたくしにも分かりかねます」
「うーん……」
今度はネイが困ったように唸り声を上げる。ネイはベッドにうつぶせになり、膝を曲げて脚をパタパタさせた。
「今のところ、あの「マッド」しかメリたんを診られるヒトいないもんね。近い内には行かないとでしょ?」
「そうではございますが……今は時間がありませんので」
「時間がないってそれ、クウたんのこと?」
ネイはパッと好奇心の瞳を上げて、脚のパタパタを止めた。
「はい」
「そっちもちゃんと教えてよークウたんを守ってあげるんだからさ~」
「……はい。どうぞ宜しくお願い致します」
メリルは一度苦笑いのような表情を浮かべて、今までの経緯をネイに告げた。
◆ ◆ ◆
一方、あてがわれた部屋へ閉じこもったクウヤは──?
「何だって言うんだよ~ちくしょう!」
突きつけられた「事実」を「事実」と信じることが出来ず、ただひたすらに困惑する心を持てあましていた。
窓際を陣取るベッドに仰向けになり、大の字になって白い天井を見つめる。渡されたメリルの右手には人肌の温かさがあった。質感も指の腹にある指紋も、その裏側にあるネイルの施された爪の硬さも──全ては寸分の狂いもなく「人間」だった。なのに本体から離された手首の断面には、真ん中に接続するための小さな凹があり、そして本体側の前腕断面には右手を操るためのケーブルが露出していたのだ。その周りには特に導体などは見えなかったが、明らかに人工的な樹脂か何かで内部を保護する加工がされていた。
「俺が見てきたものって……」
もしかしたら『グランド・ムーン』のキャスト達も、本当にアンドロイドだったのではないだろうか? 全ては造られた物なのか? 自分の目が通して見た物全てが信じられなくなってしまう。それでなくとも信じられない現実が、鎖骨の真下で輝いていた。
──『エレメント』。
この隕石のカケラが何をもって此処に存在するのか、今後自分にどのような影響を及ぼすのか。見えない未来と、理解出来ない今という時。とにかく結論が欲しかった。出来れば安心出来る確実な何かが、例えたった一つでも。
クウヤの部屋はホテル中央を貫く中庭に向かって窓があった。まるで『グランド・ムーン』の吹き抜けみたいだな、と思い出したくもない繋がりにゲンナリする。そこから注ぐ日差しは強くても、室内は快適な温度と湿度を保っている。この空調もネイが管理する範囲の一つなのだろうか? ベッドに書斎机にバスルームにトイレ。アメニティは一揃いあるが、全ては必要最低限で時間を潰すための娯楽は何もない。お楽しみはカオサン・ロードへ求めよと言うのだろうが、この宿から一歩でも外へ出れば、自分はきっと捕獲される……つまらない人生の終着点がそこだなんて……いい加減にしてくれと叫び出したい気分だった。
「シャワーでも浴びるかぁ……」
思えば昨夜から拘束されていたのだから、朝方コミューター内で歯磨きと顔を洗わせてもらったくらいで、身体の方は汗と疲れでグッタリだった。
きっと水に流せば少しは洗われる。身体も──心も。アンドロイドはシャワーなんて浴びないんだろうな。ストレスも溜まらないのだろうから、心の澱も流す必要なんてないか。
だるそうに起き上がり、全てを脱ぎ去りシャワールームに向かう。その後清潔なシーツに包まれて、クウヤは昔むかしの不思議な夢を見た──。
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