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■Ⅶ■WITHOUT GARNET■
[3]メリルの右手 + 独りきりの夜 *
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クウヤは片っ端から屋内を探索した。
どれだけ甘いのだろうと我ながら呆れてしまうが、あれだけ騙されても今は啓太を信じるしかない──となれば、啓太を動かした張本人が少なくとも此処にいる筈なのだ。この住宅内か外庭か、はたまた自分が上がってきた『ムーン・ウォーカー』用の格納庫か……とにかく何処かしらに一人は隠れていなければおかしな話になる。まずは少女の声が仕掛けられていただだっ広いメイン・ベッドルームを、隣のやや生活感のあるベッドルームを、そしてクウヤに休めと促したゲストルームを隅から隅まで調べ上げた。
「腹、減ったな……」
何も見つからないままゲストルームのシングルベッドに突っ伏し、クウヤは疲れたようにぼやいた。
「腹が減っては戦が出来ぬ」と仕方なく一旦中断し、階下へ戻る。小綺麗なシステムキッチンに独り立つと、マザーシップでメリルと調理した楽しい場面が鮮明に思い出されたが、それもまだ数時間前のこととは驚きだった。
「……外は明日にするか」
目の前真っ直ぐ先の窓から見える暗がりと、そこから右手にある壁掛けの郭公時計を目にして思う。夜は既に更けていて、空腹ももはや耐えかねる状態なので、あのAIが勧めたセレクト機能で手っ取り早く料理を選ぶことにした。
「あ……」
メニューはかなりの数があり、和食も相当並んでいたが、クウヤの目に留まったのは、あのバンコク到着直後、チャトゥチャック市場で食べたカオマンガイだった。
クウヤの人差し指は考えるより先に、パネルのその文字をタッチしていた。
十分ほどで料理が出来上がり、トレイを運んでダイニングテーブルへ着く。おもむろにメリルの右手を見下ろし、何気なく対面の椅子の手前に置いてみた。
思えばこの一週間、共に食すことはなかったが、必ず誰かが自分の食卓を見守ってくれていたことに気付く。その前の二年はほぼ孤食で、いたとしても仕事仲間くらいだった。
メリルに拉致され訪れたバンコクで、初めて口にした食事──カオマンガイ。あの時はまさか彼女がアンドロイドなどとは思ってもみなかった。
「いただきます」
静謐な空間に響く自身の声によって、また時が流れ出した気がした。屋台の味とは趣が違い、レストランで出されるような少々上品な雰囲気だが、これはこれでなかなか美味だ。
「あ……そうか」
ふと思いついて、再びメリルの右手を取る。当てずっぽうで手の甲を軽く押していくと、上手いことカバーが開かれた。中に収めてあるオイル・カプセルを一粒取り出して、「お宅も食べろよ」とばかりメリルの掌に載せてやった。
既にムンバイのラヴィ邸には到着しただろうか? このカプセルを補給しなくとも、駆動出来ているのだろうか? シド邸に着くまでオイルなしで大丈夫なのか? 左手にも収納されているのなら良いが……色々と懸念は多いが、今は祈ることしか出来ない。
独り寂しく遅い夕食を済ませ、手の甲に戻してやろうとクウヤは再びカプセルを手に取った。何気なく照明に翳し、透かした粒の違和感に気付いてひたすらその中身を凝視する。
「悪い、メリル……一つ頂戴するぞ」
キッチンから見つけてきたトレイの上で、器用にフォークで中心を押し広げる。トロリと流れ出てきた液体に、クウヤは思わず言葉を洩らしていた。
「……こ、れは……!?」
◆ ◆ ◆
食器を片付け、クウヤは再び室内を捜索した。一階のリビングとダイニングに水回り、更にどうにか三階と呼べるほどの小さな屋根裏部屋も隅々まで、だ。だが二階と同様ほとんど何も見つからない。と言うのも、ありとあらゆる家具の戸棚や引き出し、クローゼットも全て施錠されて、何処も開けることが出来なかったからだった。
力に任せて破壊することも可能でありそうだったが、これからメリルが帰還することを考えると、そんな野蛮な行為に及ぶのは躊躇われた。ましてや此処がマリーアの生家であったとすれば、メリルがまたあの一度だけ見せた悲しい表情をしてしまうに違いない。
「あぁ、もう今日はおしま~いっ」
パウダールームはまるで使うことを見込んであったように、鍵のない引き出しからタオル類のみ拝借することが出来た。相変わらず着替えはないので、脱いだ先からポイポイと衣服を放り込み、ウォッシングマシーンのスタートボタンを押す。
どういう仕組みなのか、こんな上空でも水量はふんだんに使えそうだったので、洗濯している間に入浴することにした。バスタブにお湯を溜めながら、まずはシャワーで今日一日の汗を流し尽くした。ちょうど良い温度のお湯に肩まで浸かると、身体の疲れと心の混乱が体外へ溶け出していくように脱力した。
しかしこんな日本人仕様のちゃんとした浴槽、一体誰が使うというのだろう? クウヤはゆったり足を伸ばしながら、ぼんやり天井を見上げた。介助ロボットを使えば、マリーアも入ることが出来るだろうか? が、当のマリーアらしき少女の声は実体のないAIだった。やはり啓太を動かした別の誰かなのか? もしくはメリル……? 考えてみればあのジャングルの大河にも身を浸していたのだから、さすがにバスタブは使わないとしても表皮の洗浄行動くらいはするのかもしれない。
「ダメだ……頭が働かない」
メリルと出会ってからのこの一週間を遡ってみたが、どうにも辻褄が合わないことも多く、クウヤの脳内は依然混沌としたままだった。
「ねむ……」
瞼を閉じるとそのまま眠ってしまいそうな睡魔に襲われた。が、ちょうど良くウォッシングマシーンの完了を告げるアラームが鳴る。クウヤは気だるそうにバスタブから身を起こし、フカフカのバスタオルにくるまれた。
入浴中に乾燥まで終わるとは全くもって助かるが、これを着てしまっては明日の着替えがない。裸で寝るか……と諦めかけたところ、引き出しの奥に良い物を見つけて広げてみた。
「サイズもちょうどいい~」
フワフワの白いバスローブ。寝巻代わりに包まれて、客室のベッドに横たわる。と、すぐに意識が遠のいていった。
まるでぬいぐるみを片時も放さぬ子供のように、胸にメリルの右手を抱いたまま、クウヤは夢の中へと堕ちていった。この一週間見続けた放課後の夢──とは違う、過去の記憶の断片へと──。
◆ ◆ ◆
明朝クウヤは朝食もそこそこに、昨日以上に必死な形相で捜し始めた。良く眠れたことで頭も冴えたのだろう、沢山の原子や分子が見事なまでに、一つの結晶になるべく配列されてゆく。しかしまだまだ要素が足りなかった。完全な固体へと構成されるには……やはり完璧な確信が欲しかった。
今のところこの住宅にも庭園にも格納庫にも、一切その余韻が残されている様子はなかった。いや、一切ではない……自分の予想が正しいなら……今まで疑問に思ったことから導き出された答えは、仮定から確証へと変わりつつあった。
「あ~ちくしょっ! 見つからない!!」
それでも結局半日を棒に振り、クウヤはついに音を上げた。庭園の生えそろった芝生の上に、ボヤキながら大の字になる。見える物は『ムーン・シールド』に覆われたぼんやりとした空だけだ。
「なんだよ……マザーシップみたいに『ステルス』で隠れてるってのか? ……え、あっ!?」
ボヤいた台詞から導き出された手掛かりに、クウヤはハッとして飛び起きた。
もしも本当に『ステルス効果』で隠された「空間」があるのだとしたら……! 周囲に紛れ込んだ「出入口」が何処かに隠されているのかもしれない!!
クウヤはメリルの右手を胸ポケットに突っ込み、とりあえず地面から何から、手の届く場所全てに手を伸ばした。見ている物と明らかに違う形状や感触に当たればビンゴだ。が、外庭には見つからない……ならば屋内か? 格納庫か!? いや、簡単に触れられる場所では見えなくてもいずれ見つかってしまう……「なかなか触れないが、出入りのしやすい場所」……それは一体全体何処だ!?
「……階段、下……か?」
まずは住宅内の一階から二階、二階から屋根裏部屋への階段裏を覗いたが、どちらも段板のみのスケルトン階段で見通しが良く、特にそういった感触もなかった。残るは格納庫へ続く階段だが、長いステップは蹴込み板でしっかり塞がれている。降りきってサイドの狭い通路から回り込むと、特に何もない斜めに切り取られた空間が存在した。
頭をぶつけないように階段下へしゃがみ込み、人が出て来られそうな面積の位置で床を撫で回す。と、案の定見た目は明らかに平坦であるのに、指先の感触は扉らしき段差を感じた!
掌で執拗に探った境界の真ん中に、小さなボタンを発見した。押してみると引っ込んだが、残念ながら扉が開くことはない。力ずくで引き上げようにも、指を掛けるほどの凹凸も見つからなかった。
「あ~っ、イイところまで来てるのにっ!」
ガックリと首を曲げて、勢い良く床に両手を突く。途端胸ポケットからメリルの右手がずり落ちてしまった。慌てて受け止めようと掌を返したが間に合わず、右手は見えない扉の上に落ちた──その時!!
「──……わっ!?」
床面から湧き上がるように一気に風景が変わる! 拍子で舞い上がった右手を無事キャッチして、改めて見下ろした視界には、地下へと続く階段が数段見えた。
「跳ね上げ扉だったか……でも、何で……」
階段下にぶつからないよう角度調整された扉が、床面から斜めに開いたのだとクウヤは推察したが、
──メリルの指先に反応した……?
おそらく扉の中心に見つけたボタンへ、右手の指先が触れたことで解錠したのだ── 一瞬過ぎてハッキリとは分からなかったが、けれど何処となく指紋認証とは思えない状況だった。
──此処に全ての「首謀者」がいるのだろうか?
生唾を呑み込み、足先を階段へ下ろす。背中を反らせながら扉の奥へと進むと、十段ほどで降りきり地面に到着した。目の前にはクウヤの身長でギリギリほどの高さの長い通路が伸びていた。
クウヤは躊躇なく前進した。この先に全ての疑問の答えがある。未だ仮定である要素を確定してくれる相手がいる。
研究室の無菌室のような空気の流れも感じさせない廊下の終わりには、再び上りの階段があった。上がってみると今度は見える扉が天井を塞いでいる。同じように際の中心に押しボタンがあり、同じようにそれだけではビクともしなかったので、同じようにメリルの右手の先──人差し指の先端をボタンに触れさせた。
──開いた!!
解錠の音はしたが今度は跳ね上がらなかったので、恐る恐る両腕で扉を押し上げる。開かれた僅かな隙間に頭をひょっこり出して覗こうとしたその刹那、
「誰だっ! 両手を上げろ!!」
──え……!?
「……えと……両手は、上げて、ますが……?」
まさかの命令に、つい苦々しく笑ってしまう──も、
と同時にこめかみへ突き当てられた「硬く冷たい感触」に震え上がった。
「銃口」の先へとおっかなびっくり視線を向けたクウヤは、その声の主の正体に「おっかなびっくり」どころではない、恐怖と驚愕の眼差しを向けていた──!!
第七章・■Ⅶ■WITHOUT GARNET■・完結
どれだけ甘いのだろうと我ながら呆れてしまうが、あれだけ騙されても今は啓太を信じるしかない──となれば、啓太を動かした張本人が少なくとも此処にいる筈なのだ。この住宅内か外庭か、はたまた自分が上がってきた『ムーン・ウォーカー』用の格納庫か……とにかく何処かしらに一人は隠れていなければおかしな話になる。まずは少女の声が仕掛けられていただだっ広いメイン・ベッドルームを、隣のやや生活感のあるベッドルームを、そしてクウヤに休めと促したゲストルームを隅から隅まで調べ上げた。
「腹、減ったな……」
何も見つからないままゲストルームのシングルベッドに突っ伏し、クウヤは疲れたようにぼやいた。
「腹が減っては戦が出来ぬ」と仕方なく一旦中断し、階下へ戻る。小綺麗なシステムキッチンに独り立つと、マザーシップでメリルと調理した楽しい場面が鮮明に思い出されたが、それもまだ数時間前のこととは驚きだった。
「……外は明日にするか」
目の前真っ直ぐ先の窓から見える暗がりと、そこから右手にある壁掛けの郭公時計を目にして思う。夜は既に更けていて、空腹ももはや耐えかねる状態なので、あのAIが勧めたセレクト機能で手っ取り早く料理を選ぶことにした。
「あ……」
メニューはかなりの数があり、和食も相当並んでいたが、クウヤの目に留まったのは、あのバンコク到着直後、チャトゥチャック市場で食べたカオマンガイだった。
クウヤの人差し指は考えるより先に、パネルのその文字をタッチしていた。
十分ほどで料理が出来上がり、トレイを運んでダイニングテーブルへ着く。おもむろにメリルの右手を見下ろし、何気なく対面の椅子の手前に置いてみた。
思えばこの一週間、共に食すことはなかったが、必ず誰かが自分の食卓を見守ってくれていたことに気付く。その前の二年はほぼ孤食で、いたとしても仕事仲間くらいだった。
メリルに拉致され訪れたバンコクで、初めて口にした食事──カオマンガイ。あの時はまさか彼女がアンドロイドなどとは思ってもみなかった。
「いただきます」
静謐な空間に響く自身の声によって、また時が流れ出した気がした。屋台の味とは趣が違い、レストランで出されるような少々上品な雰囲気だが、これはこれでなかなか美味だ。
「あ……そうか」
ふと思いついて、再びメリルの右手を取る。当てずっぽうで手の甲を軽く押していくと、上手いことカバーが開かれた。中に収めてあるオイル・カプセルを一粒取り出して、「お宅も食べろよ」とばかりメリルの掌に載せてやった。
既にムンバイのラヴィ邸には到着しただろうか? このカプセルを補給しなくとも、駆動出来ているのだろうか? シド邸に着くまでオイルなしで大丈夫なのか? 左手にも収納されているのなら良いが……色々と懸念は多いが、今は祈ることしか出来ない。
独り寂しく遅い夕食を済ませ、手の甲に戻してやろうとクウヤは再びカプセルを手に取った。何気なく照明に翳し、透かした粒の違和感に気付いてひたすらその中身を凝視する。
「悪い、メリル……一つ頂戴するぞ」
キッチンから見つけてきたトレイの上で、器用にフォークで中心を押し広げる。トロリと流れ出てきた液体に、クウヤは思わず言葉を洩らしていた。
「……こ、れは……!?」
◆ ◆ ◆
食器を片付け、クウヤは再び室内を捜索した。一階のリビングとダイニングに水回り、更にどうにか三階と呼べるほどの小さな屋根裏部屋も隅々まで、だ。だが二階と同様ほとんど何も見つからない。と言うのも、ありとあらゆる家具の戸棚や引き出し、クローゼットも全て施錠されて、何処も開けることが出来なかったからだった。
力に任せて破壊することも可能でありそうだったが、これからメリルが帰還することを考えると、そんな野蛮な行為に及ぶのは躊躇われた。ましてや此処がマリーアの生家であったとすれば、メリルがまたあの一度だけ見せた悲しい表情をしてしまうに違いない。
「あぁ、もう今日はおしま~いっ」
パウダールームはまるで使うことを見込んであったように、鍵のない引き出しからタオル類のみ拝借することが出来た。相変わらず着替えはないので、脱いだ先からポイポイと衣服を放り込み、ウォッシングマシーンのスタートボタンを押す。
どういう仕組みなのか、こんな上空でも水量はふんだんに使えそうだったので、洗濯している間に入浴することにした。バスタブにお湯を溜めながら、まずはシャワーで今日一日の汗を流し尽くした。ちょうど良い温度のお湯に肩まで浸かると、身体の疲れと心の混乱が体外へ溶け出していくように脱力した。
しかしこんな日本人仕様のちゃんとした浴槽、一体誰が使うというのだろう? クウヤはゆったり足を伸ばしながら、ぼんやり天井を見上げた。介助ロボットを使えば、マリーアも入ることが出来るだろうか? が、当のマリーアらしき少女の声は実体のないAIだった。やはり啓太を動かした別の誰かなのか? もしくはメリル……? 考えてみればあのジャングルの大河にも身を浸していたのだから、さすがにバスタブは使わないとしても表皮の洗浄行動くらいはするのかもしれない。
「ダメだ……頭が働かない」
メリルと出会ってからのこの一週間を遡ってみたが、どうにも辻褄が合わないことも多く、クウヤの脳内は依然混沌としたままだった。
「ねむ……」
瞼を閉じるとそのまま眠ってしまいそうな睡魔に襲われた。が、ちょうど良くウォッシングマシーンの完了を告げるアラームが鳴る。クウヤは気だるそうにバスタブから身を起こし、フカフカのバスタオルにくるまれた。
入浴中に乾燥まで終わるとは全くもって助かるが、これを着てしまっては明日の着替えがない。裸で寝るか……と諦めかけたところ、引き出しの奥に良い物を見つけて広げてみた。
「サイズもちょうどいい~」
フワフワの白いバスローブ。寝巻代わりに包まれて、客室のベッドに横たわる。と、すぐに意識が遠のいていった。
まるでぬいぐるみを片時も放さぬ子供のように、胸にメリルの右手を抱いたまま、クウヤは夢の中へと堕ちていった。この一週間見続けた放課後の夢──とは違う、過去の記憶の断片へと──。
◆ ◆ ◆
明朝クウヤは朝食もそこそこに、昨日以上に必死な形相で捜し始めた。良く眠れたことで頭も冴えたのだろう、沢山の原子や分子が見事なまでに、一つの結晶になるべく配列されてゆく。しかしまだまだ要素が足りなかった。完全な固体へと構成されるには……やはり完璧な確信が欲しかった。
今のところこの住宅にも庭園にも格納庫にも、一切その余韻が残されている様子はなかった。いや、一切ではない……自分の予想が正しいなら……今まで疑問に思ったことから導き出された答えは、仮定から確証へと変わりつつあった。
「あ~ちくしょっ! 見つからない!!」
それでも結局半日を棒に振り、クウヤはついに音を上げた。庭園の生えそろった芝生の上に、ボヤキながら大の字になる。見える物は『ムーン・シールド』に覆われたぼんやりとした空だけだ。
「なんだよ……マザーシップみたいに『ステルス』で隠れてるってのか? ……え、あっ!?」
ボヤいた台詞から導き出された手掛かりに、クウヤはハッとして飛び起きた。
もしも本当に『ステルス効果』で隠された「空間」があるのだとしたら……! 周囲に紛れ込んだ「出入口」が何処かに隠されているのかもしれない!!
クウヤはメリルの右手を胸ポケットに突っ込み、とりあえず地面から何から、手の届く場所全てに手を伸ばした。見ている物と明らかに違う形状や感触に当たればビンゴだ。が、外庭には見つからない……ならば屋内か? 格納庫か!? いや、簡単に触れられる場所では見えなくてもいずれ見つかってしまう……「なかなか触れないが、出入りのしやすい場所」……それは一体全体何処だ!?
「……階段、下……か?」
まずは住宅内の一階から二階、二階から屋根裏部屋への階段裏を覗いたが、どちらも段板のみのスケルトン階段で見通しが良く、特にそういった感触もなかった。残るは格納庫へ続く階段だが、長いステップは蹴込み板でしっかり塞がれている。降りきってサイドの狭い通路から回り込むと、特に何もない斜めに切り取られた空間が存在した。
頭をぶつけないように階段下へしゃがみ込み、人が出て来られそうな面積の位置で床を撫で回す。と、案の定見た目は明らかに平坦であるのに、指先の感触は扉らしき段差を感じた!
掌で執拗に探った境界の真ん中に、小さなボタンを発見した。押してみると引っ込んだが、残念ながら扉が開くことはない。力ずくで引き上げようにも、指を掛けるほどの凹凸も見つからなかった。
「あ~っ、イイところまで来てるのにっ!」
ガックリと首を曲げて、勢い良く床に両手を突く。途端胸ポケットからメリルの右手がずり落ちてしまった。慌てて受け止めようと掌を返したが間に合わず、右手は見えない扉の上に落ちた──その時!!
「──……わっ!?」
床面から湧き上がるように一気に風景が変わる! 拍子で舞い上がった右手を無事キャッチして、改めて見下ろした視界には、地下へと続く階段が数段見えた。
「跳ね上げ扉だったか……でも、何で……」
階段下にぶつからないよう角度調整された扉が、床面から斜めに開いたのだとクウヤは推察したが、
──メリルの指先に反応した……?
おそらく扉の中心に見つけたボタンへ、右手の指先が触れたことで解錠したのだ── 一瞬過ぎてハッキリとは分からなかったが、けれど何処となく指紋認証とは思えない状況だった。
──此処に全ての「首謀者」がいるのだろうか?
生唾を呑み込み、足先を階段へ下ろす。背中を反らせながら扉の奥へと進むと、十段ほどで降りきり地面に到着した。目の前にはクウヤの身長でギリギリほどの高さの長い通路が伸びていた。
クウヤは躊躇なく前進した。この先に全ての疑問の答えがある。未だ仮定である要素を確定してくれる相手がいる。
研究室の無菌室のような空気の流れも感じさせない廊下の終わりには、再び上りの階段があった。上がってみると今度は見える扉が天井を塞いでいる。同じように際の中心に押しボタンがあり、同じようにそれだけではビクともしなかったので、同じようにメリルの右手の先──人差し指の先端をボタンに触れさせた。
──開いた!!
解錠の音はしたが今度は跳ね上がらなかったので、恐る恐る両腕で扉を押し上げる。開かれた僅かな隙間に頭をひょっこり出して覗こうとしたその刹那、
「誰だっ! 両手を上げろ!!」
──え……!?
「……えと……両手は、上げて、ますが……?」
まさかの命令に、つい苦々しく笑ってしまう──も、
と同時にこめかみへ突き当てられた「硬く冷たい感触」に震え上がった。
「銃口」の先へとおっかなびっくり視線を向けたクウヤは、その声の主の正体に「おっかなびっくり」どころではない、恐怖と驚愕の眼差しを向けていた──!!
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