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2章
Episode.7
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150分、2時間半か…。
傷口は空いたままだけど血は出てないし、痛みもないから何とか動ける状態ではある。
にしてもどこに去ったかもわからない犯人をどうやって見つけるか。
動けるようになってからイヴの姿は見当たらないし、人に聞きたくてもこんなところには人なんて誰1人もいない。
「…積んだわぁー」
私はまた崩れてしまった。
何とか頭を振り絞って出た答えはとりあえず清恵さんの入院している風成総合病院に向かうことだった。
だがついてからおかしなことに自動ドアがいくらたっても開かないのだ。
「えっ!?なんで開かないの!まだそんな夜も更けてないし……ん?」
そういえばもう私が病院を出て刺されて時間的には結構立っているはずなのに病院の時計は私が病院を出てから10分ほどのところで止まっているのだ。
「……これ、全部の時間というか空間そのものがが止まってる感じ…?」
きっとそうだと私の中で仮定しドアは無理やりこじ開けることにした。
「205、205…あった!」
清恵さんの病室へ向かうとそこにはやはり清江さんの姿があった。
だが、清江さんは止まっているわけでもなくひとりスタンドライトをつけ、何か読み物をしているようだった。
「失礼しまーす…」
恐る恐る中に入ってみるとどうやら動いているのは清恵さんだけで他の患者さんは寝ているか寝たまま時間が止まっているように見えた。
すると清恵さんは私の声に気づいたらしく返事をくれた。
「はい…ってあら、雛子ちゃん、こんな遅くにどうしたの?」
「あの、1つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「なあに?」
「清恵さんのことを刺した犯人ってどんな感じの人だったか覚えていますか?その…何でもいいんです。ちょっとしたことでも。」
「そうねぇ…あまりにも複雑だったからよく覚えてはいないんだけど、ちょっとカレーみたいな香辛料の匂いと洗剤の匂いがしたことは覚えているわ。」
「洗剤ってどんな洗剤かまではわかります?」
「でもねえ、お洋服から匂いがしたからきっと洗濯用の洗剤ね。でもなんというか…その洗剤の匂いも実際に着ている服のものではない、何か別のものから着ている服に染み付いたような……そんな感じだったかしらぁ。」
「……ちょっと聞いてて思ったんですけど、もしかして清恵さんって鼻が結構利くほうですか?」
「…昔からそうだったのよ。父がちょっといかがわしいお店に会社ぐるみの人たちと行ってきたときも母からは変な香水の匂いとかはしなかったって言ってたけど私には女の人特有のなんというか…あの甘ったるい感じの匂いがプンプンしてたわ。でも父が自発的に行ってたわけではなかったから怒られている父を見ると少し胸が痛んだわねぇ。それにこの鼻のせいでいじめられたりもしたわ。」
「…例えば?」
「そうねぇ…例えば掃除終わりの雑巾汁に家庭科室にあったお酢を混ぜたものをかびた食パンにしみこませて顔に近づけられたときはひどいにおい過ぎて倒れそうになったわ。で、そのあと私は帰ろうとしたんだけど体調が悪くなっちゃって救急車騒ぎになっちゃってねぇ。結局一週間ぐらい入院したわ。入院してから2,3日は食欲も出なくて退院するころには結構痩せちゃったわね…。」
「それをやったいじめっ子たちはどうなったんです?」
「……いじめそのものを学校側に隠蔽されたわ。示談金を母が受け取ってしまったから結局裁判も起こせなくてねぇ。それにうちは兄弟がたくさんいて弁護士も雇えなかったから。」
この一連の話を聞いて私は青ざめてしまった。
清恵さんも聖良と同じいじめの被害者だった。
彼女の命はあるものの私は最終的に聖良の命を奪うことになってしまった。
事の重大さは幼かった私でもわかっていたが自分のことばかり考えて言い訳だけをはいて犯してしまった過ちから目を背けていた。
そこからひねくれないよう真っ当に生きていたつもりだったけれど結局私の心や精神はあのころから一ミリも変わっていなかった。
さっきの言い合いが私のすべてを物語っていた。
自分は聖良を殺したあの頃、中学の夏から自分を守ることだけに必死で現実逃避ばかりしていたのだ。
こっちも処罰は食らわず示談になってしまっているから清恵さんをいじめていたやつらと同等ということなのだ。
むしろあっちよりも罪深いのだ。
「…どうかしたの?」
「ああ、いや、ちょっと考え事してて。…用事を思い出したんで帰ります。」
「そう。じゃあ、おやすみなさい。」
「はい、お元気で。」
病院から出て夜風にあたりながらふらふら歩いていた。
「ほんと、あいつの言ってた通りだわ。」
「あいつ自身怒りに任せてあんなこと言ってんのかと思ってたけど、普通に考えても深く考えてもこんな奴が命乞いするなんてばっかみたい。」
「……」
「もう犯人探しなんていいや。私が通り魔捕まえた英雄になったってあいつにとっては嫌でしょ。」
「悪者が英雄なんて漫画でそんな展開あったら私でもいやだわw」
「…うーん。」
「最後の晩餐、オムライスにするかぁ。」
ここから私の家まで結構かかるけどこんな奴に二時間半もくれるなんて。
聖良は結構優しかった。
いや、優しくなんかない。
そもそも見もしない犯人を捜すなんて二時間半じゃ全然足りない。
「あいつやっぱ天使なんかじゃなくて悪魔だわ。」
To be continued…
傷口は空いたままだけど血は出てないし、痛みもないから何とか動ける状態ではある。
にしてもどこに去ったかもわからない犯人をどうやって見つけるか。
動けるようになってからイヴの姿は見当たらないし、人に聞きたくてもこんなところには人なんて誰1人もいない。
「…積んだわぁー」
私はまた崩れてしまった。
何とか頭を振り絞って出た答えはとりあえず清恵さんの入院している風成総合病院に向かうことだった。
だがついてからおかしなことに自動ドアがいくらたっても開かないのだ。
「えっ!?なんで開かないの!まだそんな夜も更けてないし……ん?」
そういえばもう私が病院を出て刺されて時間的には結構立っているはずなのに病院の時計は私が病院を出てから10分ほどのところで止まっているのだ。
「……これ、全部の時間というか空間そのものがが止まってる感じ…?」
きっとそうだと私の中で仮定しドアは無理やりこじ開けることにした。
「205、205…あった!」
清恵さんの病室へ向かうとそこにはやはり清江さんの姿があった。
だが、清江さんは止まっているわけでもなくひとりスタンドライトをつけ、何か読み物をしているようだった。
「失礼しまーす…」
恐る恐る中に入ってみるとどうやら動いているのは清恵さんだけで他の患者さんは寝ているか寝たまま時間が止まっているように見えた。
すると清恵さんは私の声に気づいたらしく返事をくれた。
「はい…ってあら、雛子ちゃん、こんな遅くにどうしたの?」
「あの、1つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「なあに?」
「清恵さんのことを刺した犯人ってどんな感じの人だったか覚えていますか?その…何でもいいんです。ちょっとしたことでも。」
「そうねぇ…あまりにも複雑だったからよく覚えてはいないんだけど、ちょっとカレーみたいな香辛料の匂いと洗剤の匂いがしたことは覚えているわ。」
「洗剤ってどんな洗剤かまではわかります?」
「でもねえ、お洋服から匂いがしたからきっと洗濯用の洗剤ね。でもなんというか…その洗剤の匂いも実際に着ている服のものではない、何か別のものから着ている服に染み付いたような……そんな感じだったかしらぁ。」
「……ちょっと聞いてて思ったんですけど、もしかして清恵さんって鼻が結構利くほうですか?」
「…昔からそうだったのよ。父がちょっといかがわしいお店に会社ぐるみの人たちと行ってきたときも母からは変な香水の匂いとかはしなかったって言ってたけど私には女の人特有のなんというか…あの甘ったるい感じの匂いがプンプンしてたわ。でも父が自発的に行ってたわけではなかったから怒られている父を見ると少し胸が痛んだわねぇ。それにこの鼻のせいでいじめられたりもしたわ。」
「…例えば?」
「そうねぇ…例えば掃除終わりの雑巾汁に家庭科室にあったお酢を混ぜたものをかびた食パンにしみこませて顔に近づけられたときはひどいにおい過ぎて倒れそうになったわ。で、そのあと私は帰ろうとしたんだけど体調が悪くなっちゃって救急車騒ぎになっちゃってねぇ。結局一週間ぐらい入院したわ。入院してから2,3日は食欲も出なくて退院するころには結構痩せちゃったわね…。」
「それをやったいじめっ子たちはどうなったんです?」
「……いじめそのものを学校側に隠蔽されたわ。示談金を母が受け取ってしまったから結局裁判も起こせなくてねぇ。それにうちは兄弟がたくさんいて弁護士も雇えなかったから。」
この一連の話を聞いて私は青ざめてしまった。
清恵さんも聖良と同じいじめの被害者だった。
彼女の命はあるものの私は最終的に聖良の命を奪うことになってしまった。
事の重大さは幼かった私でもわかっていたが自分のことばかり考えて言い訳だけをはいて犯してしまった過ちから目を背けていた。
そこからひねくれないよう真っ当に生きていたつもりだったけれど結局私の心や精神はあのころから一ミリも変わっていなかった。
さっきの言い合いが私のすべてを物語っていた。
自分は聖良を殺したあの頃、中学の夏から自分を守ることだけに必死で現実逃避ばかりしていたのだ。
こっちも処罰は食らわず示談になってしまっているから清恵さんをいじめていたやつらと同等ということなのだ。
むしろあっちよりも罪深いのだ。
「…どうかしたの?」
「ああ、いや、ちょっと考え事してて。…用事を思い出したんで帰ります。」
「そう。じゃあ、おやすみなさい。」
「はい、お元気で。」
病院から出て夜風にあたりながらふらふら歩いていた。
「ほんと、あいつの言ってた通りだわ。」
「あいつ自身怒りに任せてあんなこと言ってんのかと思ってたけど、普通に考えても深く考えてもこんな奴が命乞いするなんてばっかみたい。」
「……」
「もう犯人探しなんていいや。私が通り魔捕まえた英雄になったってあいつにとっては嫌でしょ。」
「悪者が英雄なんて漫画でそんな展開あったら私でもいやだわw」
「…うーん。」
「最後の晩餐、オムライスにするかぁ。」
ここから私の家まで結構かかるけどこんな奴に二時間半もくれるなんて。
聖良は結構優しかった。
いや、優しくなんかない。
そもそも見もしない犯人を捜すなんて二時間半じゃ全然足りない。
「あいつやっぱ天使なんかじゃなくて悪魔だわ。」
To be continued…
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