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【第15章】ホテル・ニュー・カリフォルニア
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目が覚めると、時計の針は朝の七時だった。
すぐに起き上がりカーテンを開け窓から空を眺めた。
天気は良さそうだ。
と言っても北海道がどうかは定かではない。
キッチンでお湯を沸かしフレンチローストのコーヒーをドリップしながら
テレビのニュース番組が天気予報に変わるのを待った。
荷物は昨夜のうちにまとめてあるし
特に慌ただしく用意する事もなかったので、
僕は熱いコーヒーをゆっくりと飲みながらやっと始まった天気予報をチェックした。
久しぶりに訪れた上野駅は平日にも関わらず沢山の人が行き交っていた。
中央のフロアでは何やら地方の物産展が開催されており
様々な特産品が並べられていたが
飛行機の搭乗時間に余裕を持ちたかったので、
今日は諦めて中央改札を抜け
すぐに到着したJR京浜東北線の東京・品川方面に乗り込んだ。
電車内はバックパックを抱えた外国人観光客やサラリーマンで溢れていたが、
やがて到着した東京駅で殆どの人々が降り、
すっかり人の数も少なくなった。
一体この東京のターミナル駅には毎日どれ程の人々が行き交い利用しているのだろうか?
そんな事を考えているとすぐに到着した「浜松町」で下車し
「東京モノレール」の乗り場へ移動し
羽田空港第二ターミナル行きのモノレールへ飛び乗った。
なんてスマートな移動だろうか?
この東京の電車の乗り継ぎの速さは世界一だろう。
普通にホームで待っていても
僅か二、三分もあればすぐに電車は到着する。
ある意味ストレスフリーではあるが、
同時に車内の乗車率は半端がない程のストレスだ。
しかも頻繁に多発する人身事故やらが起きようものなら
人々はヒステリックになり一分一秒とて待つことが出来ない有様だ。
いつの頃からその様な生活となってしまったのだろう?
人々はカツカツの仕事に常に追われ、
秒単位で生活を繰り返す余裕の無い人生を一生送って行くだけだ。
恐らくこんな平日に旅行鞄を抱えた私服の自分は
周囲からただの暇人か無職な男にしか思われていないだろう。
いや、もしかしたら変人、
変態くらいに思われてもおかしくは無い。
僕は苦笑した。
帯広空港行きの機内席には恐らく八割程が搭乗しているだろうか。
思った以上の利用者がいた事に驚いた。
やがて離陸した機内の窓から東京を眺めると、
昔のライヴツアーを思い出した。
もっとも殆どは機材車での移動や新幹線が多かったが、
時々こうして飛行機での移動に胸を踊らせたりもしたものだった。
北海道を訪れるのは何年振りだろうか、、。
恐らく七年振りくらいにはなるかもしれない。
アマチュア時代からよく出演させて頂いていた
札幌のマスターは元気にやっているだろうか?
そうだ、時間はたっぷりある。
時間を見つけて久しぶりに訪れてみよう。
もう昔の話だ。
迷惑をかける事もないだろう。
僕は七年前に起きたあの忌まわしい出来事を思い出していた。
***
当時、僕達のアルバムは、
ロックバンドとしてはかなりな売上もあり
オリコンでもそれなりに上位へ食い込む程だった。
とは言え、
アリーナクラスのソロアーティストの人気よりははるかに劣ったものの、
古き良き時代のロックを継承するスタイルは
老若男女に受け入れられたりもした。
僕はそのスタイルや音楽の中で常に一つのテーマを重んじてきた。
それはあくまでも『リスペクト』であり
僕自身が大好きで影響を受けてきたルーツに対する継承でもあった。
世の中のミュージシャンや音楽業界は常に新しいモノを模索し
次から次にあらゆる音楽を排出しては消えて行った。
やがて音楽自体が完全に産業化され、
もはやそこには人が作り出す本当の魂や愛は失われていた。
次第に僕は自身に於けるアルバムや楽曲を「記録」として作り出す事とし
「作品」との決定的な違いとして考える様になった。
そこには懐かしさや親しみなど、
僕が幼い頃から聴き漁った音と言葉が必要であると信じていたからだ。
それは僕から言わせてもらうのならば、
今までも誰もが思い描き信じて続けてきた事であった。
しかし時代と共に音楽は聴かせるものからビジネスへと変わり、
そこに携わるアーティストやエンジニア、
レコード会社ですら右に倣って行った。
僕自身が属するその腐り切った音楽業界へ反旗を翻し
世間では賛否両論となった。
そんな中、
僕達はあの問題作と言われる事となったアルバム
『産業ロック崩壊時代』を高々と掲げた。
するとアルバムは驚く程に売上を伸ばし
確実にライヴコンサートの動員も増え続けて行った。
それ以来、
僕は公に言葉を発してアピールする事を一切やめ、
音楽と活動で我々の真意を伝えていく事に徹する様になった。
ライヴコンサートでも、
無駄に客の機嫌を伺う様なMCすら無くし、
決められた曲順を決める事も辞め、
その瞬間に感じ思った曲をファンに向かって歌う事とした。
かつての敏腕なミキシング・エンジニアや
ライヴハウスのマスター、イベンターらは皆、
僕のワガママに対し
『いいじゃん! ロックンロールしてる!』
と楽しんで応じてくれた。
ある日、僕は次のライヴツアーの日程を確認しに事務所を訪れた。
すると何となくいつもと違った雰囲気を感じマネージャーのデスクへ向かった。
「あ、お疲れ様です! 澤村さん、、ちょっと色々と進まないんですよねぇ、、。」
僕は首を傾げた。
「何が? ツアーの日程が調整出来ないって事?」
マネージャーは眉間に皺を寄せて言った。
「それもそうなんですが、、ディストリビューターから在庫の返却や出版社からも掲載中止の連絡とかもきてるんですよ、、。」
僕は驚いた。
「何でだよ? 何があったんだよ? ライブハウスは何て言ってる?」
「何処も妙な返答なんですよ。予定が一杯だとか、今回は申し訳ないとか、何か変だなぁ、、。」
「もしかしてその時期、メーカーが誰かの全国ツアーで押さえてるんじゃないか?」
「いや、、それが他の月を確認してもNGなんですよ。」
「ディストリビューターは何て言ってたんだよ?」
「それが、、年次契約はしているんですけど、、。」
すると次第に次から次へと同じ様な内容の電話が殺到し
スタッフがあたふたと対応に追われ、
誰もが駆け寄った。
「澤村さん」「澤村さん!」「澤村さん!」
一体何が起こっているのだろうか、、?
「柳沢は何処にいるんだ!?」
近くで対応していたスタッフが呆れた様な顔で言い放った。
「柳沢さん居ないんですよ! も~この忙しい時に一体何処に行ったのよ!」
一体、何がどうしたと言うのだろうか、、!?
あまりに突然の出来事を僕は受け止める事が出来なかった。
そして決意し、
直接、レコード会社のデスクへ連絡する事にした。
すると繋がれた受話器の向こうから男が話し出した。
「英司か。」
僕はその声に直ぐに感応し、柳沢に捲し立てた。
「どうなってるんだよ! 大変な事になってるんだぞ! 何があったんだよ!」
柳沢はしばらく黙ってから答えた。
「あぁ、分かってるよ。今から戻るから待っててくれ。ちゃんと説明する。」
そう言って電話を切った。
一時間後、柳沢が事務所に戻ってきた。
その表情はすっかり廃人と化しスタッフも皆驚いた様に、
何も語らずに入ってきた彼を見てそれまでの憤慨を浴びせる事も無かった。
ただ静かに鳴り響く電話の中で、
会議室へ来る様に僕に手招いた。
部屋にに入ると、
彼は椅子にもたれ僕を見つめて言った。
「英司、、力不足ですまん、、。」
そう言って頭を下げてすすり泣いた。
そんな姿の彼を見て驚き、肩を揺らした。
「どうしたんだよ! 何があったんだよ! ちゃんと説明しろよ!」
柳沢は顔を膝に押し付け泣き出した。
「俺にも分からないんだよ、、!。英司、、何が起きてるのか全然分からないんだよ、、!」
すると部屋の扉が開き、現れたその顔を見て僕は言葉を失った、、。
「浅葱さん、、!?」
彼女は変わらないしっかりとした足並で近づき僕の前で立ち止まった。
「久しぶりね、英司くん。」
僕は頭が混乱して彼女に詰め寄った。
「浅葱さん、、何があったんですか!? どうしたんですか!?」
彼女は僕の目をしっかり見つめ続けた。
そして信じられない事を伝えた。
「英司、、残念だけど、あなたは解雇よ、、。頑張りすぎたわね。」
僕は驚愕して言葉を失った、、。
これがこの音楽業界のやり方なのだ!
面倒臭い奴は排除すればいい、簡単な事だ。
そして今、自分がその立場にあると言うわけだ。
実に簡単だ!
僕は浅葱の目を強い眼差しで睨み続けた。
するとその瞳から情け無いほどの涙が溢れた。
それでも目を見開いて僕は浅葱を見続けた。
すると彼女は僕を優しく抱き寄せ、
回した手でゆっくりと背中を摩りながら続けた。
「あなたなら大丈夫でしょ。きっと大丈夫だから。どんな事があってもやって行けるわね。」
僕は彼女の腕の中で泣き崩れた。
かつて、
僕の音楽に対する姿勢を誰よりも信じ、
応援してくれた人に伝えられたこの現状。
彼女はどんな時も僕を守ってくれた大切な人なのだ。
きっと立場上、
あの忌まわしい男に下れた指令に違いない。
僕はその男を心の底から怨んだ。
そして長い時間、
僕を抱き続けた彼女はそっと耳元で言った。
「ごめんね、でもきちんとあなたに伝えるべき事を言わせてもらうわよ。」
僕は彼女の言葉をしっかりと理解して頷き、
その優しい包容から静かに離れた。
「株式会社ジミー・ミュージック・エンタテイメントは、
澤村英司を解雇とし、全ての契約を終了する事と致します。
同時に、日本国内に於ける活動及びそれらの権限は全て弊社に委ねられるものと致します。
よって、澤村英司を、国内の音楽業界より追放する事と致します。」
僕はその浅葱の通達を聞き大きな溜息をついて奥歯を噛み締めた。
そして目を閉じた彼女に近寄り静かに伝えた。
「浅葱さん、、色々ご迷惑かけて申し訳ありませんでした、、。本当にありがとうございました、、。」
浅葱は再び僕をしっかりと抱き寄せて言った。
「あなたのロックンロール黄金時代は未だ終わっていないわよ、、。
いつか、また、楽しみに待ってるから。」
僕の肩は彼女の熱い涙で濡れ、
その気高い香りの漂う柔らかい大好きな身体はいつまでも離れる事はなかった。
そして僕はいつしか、
彼女がいつも教えてくれた
「好むと好まざる事とは無関係な事。」
と言う教訓を思い出した。
僕はずっと「浅葱」に甘え過ぎていた事をやっと気付かされたのだろう。
そんな事も知らずに彼女はいつでも僕を守り続けて来てくれたのだ。
そんな事も気付かずに、、。
僕は負けた。
完敗したのだ、、。
***
約一時間半で帯広空港に到着し、
僕はロビーで次の行動の計画を練る事とした。
ホテルの手配もしていなければ、美樹子の住所すら知らないのだ。
正確には北海道である事は間違いないだろうが、
帯広に住んでいるかどうかさえ定かでは無い。
正直、全くもってどうしたら良いのか分からないが、
とにかく時間はある。
考える時間もたっぷりある。
取り敢えず市街へ向かってホテルでも探そう。
僕はダウンジャケットのジッパーを首まで閉め、
鞄を抱えタクシー乗り場へ向かった。
タクシーのラジオからは
「ロス・デル・リオ」の「恋のマカレナ」が流れていた。
僕はセクシーな金髪の女性達がお尻を振りながら踊る
ミュージック・ビデオを思い返しながら
これから起こるであろう出来事に胸を躍らせた。
運転手さんの話によれば帯広駅・北口の方がホテルは多いとの事だったので
適当な駅前で降りる事にした。
周囲を見渡して駅周辺の案内図を見つけ、
それをマジマジと見た。
なるほど、街は碁盤の目になっている様なので分かり易い。
適当にブラブラしながらホテルを見つける事とした。
街のサイズは丁度良く、
僕はとても気に入ってしまった。
東京でもよく見かけるチェーン店のホテルも多く、
泊まる事に問題は無さそうだったが、
敢えて地元ならでわのビジネスホテルを探す事とした。
すると「銀座通り」なる通りを見つけ、
僕は何故か吸い込まれる様にその通りへ入った。
飲食店やバーなどが軒を連ねその少し先にホテルらしきものを見つけた。
「ホテル・ニュー・カリフォルニア」
と掲げられた看板は完全に僕の胸を貫きその求めていた通りのイメージに惹かれた。
そうだ、そうだ、
まさにこんな感じのホテルだ!
しかも間違いなく「イーグルス」からパクったであろうそのチープさが堪らない。
入口の両脇に置かれた椰子の木は僕を手招く様に風に揺れていた。
大きなガラス扉を押して入ると、
どうやら一階は、二階のフロントへ上がる階段とエレベーターだけのフロアだった。
僕はエレベーターでフロントへ向かった。
扉が開くと、
僅か数歩のところにカウンターがあり
僕は銀色のベルを鳴らした。
二回はフロントの他、
奥に簡単な軽食が出来る小さなレストランがあった。
間もなく女性が現れカウンター越しに「いらっしゃいませ。」と丁寧にお辞儀をした。
僕は彼女の容姿に驚いた。
ムラのない完璧な金髪のボブヘアーにやや端が尖った赤いスケルトンフレームの眼鏡、
白いシャツに真っ黒いタイトなスーツ姿だった。
それはまるで「シャネル」や「プラダ」のCMに登場しそうな女性だった。
女性はそんな僕に気が付いたのか、
何か?
という様に少しだけ首を傾けニコリと笑った。
「ご宿泊でよろしいでしょうか?」
僕は彼女の綺麗に口紅が塗られた唇を見つめた。
「あ、はい、そうです。」
何だか妙に緊張していた。
「ご滞在はどれくらいになられますか?」
僕はしばらく考えた。
「多分、、一週間ほどになるかと思います。」
女性は不思議そうに僕を見つめ宿泊表を眺めながらペンでこめかみを突いた。
「ダブルの部屋でしたらご準備できます。勿論、料金はシングルと同じで構いません。」
「ありがとうございます。それじゃ、その部屋でお願いします。」
「かしこまりました」
と笑顔で告げレジストレーションカードを差し出した。
それに記入し確認すると、
カウンターから出て僕の傍まで歩み
「それではお部屋にご案内いたします。」
と言って鞄を抱えた。
僕はエレベーターが来るまでの間、
タイトな短いスカート姿からスラリと伸びた脚と真っ赤なハイヒールを感心する様に見つめた。
エレベータに僕を促しその後に入った彼女は
「お客様のお部屋は五〇一号室になります。お酒やジュース類、タバコの自動販売機は四階、コインランドリーは六階にございます。レストランのご利用は朝六時から夜七時までとなっておりますが、フロントは二十四時間対応可能ですので何かあればいつでもご連絡ください。」
僕はしっかりと聞きながら
彼女の完璧な金髪のボブヘアーの首筋をを眺めた。
エレベーターは五階に到着し
一番奥の部屋へと案内された。
彼女はドアを開け僕を招き入れてから鍵を渡し
「ごゆっくりお過ごし下さい。」
と告げお辞儀をして去って行った。
室内は想像していたよりも広く大きな窓もあった。
すぐにそれを開けてみると
下には銀座通りの商店街を眺める事が出来、
僅かに香ばしい香りが冬の風と共に漂ってきた。
ダブルベッドのシーツはパリッとし、
とても清潔感に溢れていた。
壁側には木彫のデスクが備えられており
ヴィンテージなライトが置かれてあった。
壁に飾られた油絵もとても落ち着いた装いの雰囲気だ。
ベッドの備え付けのデジタル時計は午後二時半だったが
特にする事も無かったので
お風呂に熱いお湯を注ぎ、
四階の自動販売機コーナーを訪れ「キリン・ラガー」の缶ビールを数本買った。
お湯が溜まるまでの間、
僕は缶ビールを飲みながら市内の観光案内を眺めた。
目が覚めた時、窓の外はすっかり陽が落ち暗くなっていた。
銀座通りからは相変わらず香ばしい香りが漂い、
行き交う人々で賑わいを見せていた。
少し外でもブラブラしようかと思ったが、
特に時間が限られている訳でもないので、
今夜は部屋でゆっくりと過ごす事とし、
テレビをつけてベッドに横になりながら眺めた。
思えば、
こうしてテレビを見たのもいつぶりだろうか?
僕はバラエティー番組が苦手なのだ。
くだらない内容でただゲラゲラしているだけの出演者を観ているだけで不快な気持ちになる。
決して否定している訳ではないのだが、
僕には不必要な番組であると言うだけの事だ。
それにしてもチャンネルが圧倒的に少ない。
僕は何やら北海道を散策するような番組に目が止まりそれを見続けた。
そう言えば、
帯広の名物は何なのだろうか?
三十五年間も生きて来てそんな事も知らないのだ。
明日、あの『完璧な金髪ボブヘアー』のフロントの女性に尋ねてみよう。
テレビを消し、机のライトだけの明かりにしラジオのスイッチを押した。
FM放送からは
「ビル・エヴァンス・トリオ」の「マイ・フーリッシュ・ハート」が流れていた。
それを聴いているうちに急にスコッチが飲みたくなり
フロントに連絡してみると
受話器に出た老男性が
「大変申し訳ありません、ウィスキー類は置いておりませんので、どこか外でお買い上げいただくしかありません。氷やお水でしたらご準備できますので。」
僕はお礼を言って電話を切った。
明日、何処かの店で買って来よう。
今夜は諦めてビールを飲む事とした。
しばらくすると誰かがドアをノックした。
僕は一瞬何の音か判断出来ずにいたが、
確かに誰かがドアをノックしている。
そっと近寄りドアアイを覗くと
外にはあの『完璧な金髪ボブヘアー』が立っていた。
すぐに扉を開けると、
ウィスキーの瓶と、
グラスなど一式をトレーに持った彼女が立っていた。
「もしよければお飲みになって下さい。中にお持ちしてもよろしいでしょうか?」
僕は室内に促した。
「実はこれ私の私物なんですが、これでもよろしければと思って、、。」
僕はトレーに乗っている
『グレンフィディック 十二年』の緑色のボトルを眺めて伝えた。
「完璧だよ。」
彼女は少し悪戯そうな笑顔で
「少し飲んじゃってますが大丈夫ですか?」
と封が開けられたボトルを僕に手渡した。
「全然、大丈夫だよ!」
彼女はお辞儀をしてからゆっくりと扉を開けて外へ出ながら言った。
「お金いりませんので、全部飲んじゃって下さい。」
「ありがとう。」
そう告げると彼女は扉を閉めた。
僕が思った通り
『完璧な金髪ボブヘアー』の女性は完璧だった。
すぐにグラスへ氷を入れ
スコッチを注ぎ掻き回してから一口飲んだ。
美味い!
そして僕は、
机の椅子に腰を下ろし「美樹子」を想った。
さて、どうやって探そうか?
グラスの中の氷が融け「カラン」と響いた。
FMのラジオからは、
大好きな「ワルツ・フォー・デビイ」が流れていた。
僕はしっかりと冷えた琥珀色のスコッチを
窓から入り込んだ街の灯りへ翳しながらつぶやいてみた。
悪くない、と。
次の日、僕は役所へ電話しダメ元で
「美樹子」の住所を教えて貰えるか問い合わせてみたが、
やはり無理だった。
そりゃそうだ。
世の中では個人情報の流出を警戒し
役所の人からすれば何処の誰かも分からない男に
ホイホイと女性の連絡先を教えたりする筈もない。
冷ややかな対応の電話を切り、
次に市内のタウンページを開いて探してみたが、
当然、結婚しているだろう
その変わった筈の苗字を知る故もなかった。
僕は諦めて二階に降り
ソファに座って無料のコーヒーをデカンタからカップに注いで飲みながら考える事にした。
フロントでは
『完璧な金髪ボブヘアー』の女性が
中年の夫婦を相手に観光案内をしていた。
僕はしばらく彼女を眺めながら熱いコーヒーを飲み、
レストランに入ってサンドウィッチを注文した。
店内は昭和の名残を思わせる木彫の造りで
タバコのヤニで色褪せた手書きのメニューが並べて貼られていた。
良く見ると僕が注文したサンドウィッチの文字の下にスマイルのマークが描かれていた。
しばらくするとオーダーを取った中年のおばさんでは無く、
赤髪で片鼻ピアスの若い女の子がそれを運んできた。
「お待たせいたしました。」
片耳には五つ程のピアスがぶら下がり
手首には尖ったリストバンドを巻いていた。
僕は驚いて彼女の容姿を眺め、
このホテルの自由度を改めて感心せずにはいられなかった。
彼女は眉間に皺を寄せて
「サンドウィッチで合ってますよね?」
と訝しそうに聞いた。
「あ、うん。オッケーだよ。」
するとその皿に乗せられた丸いサンドウィッチを見て驚いた。
「このサンドウィッチ、どうして丸いの!?」
僕はつい不思議になって聞いてみると、
そのパンキッシュな赤髪ピアスだらけの女の子は
指を三本立てて
「ラヴ・アンド・ピースよ!」
と言って舌先のピアスを出し
クスクス笑いながらテーブルに伝票を置いて去っていった。
そのTシャツの後ろには
「モーターヘッド」と大きくプリントされ長髪のドクロが血みどろになっていた。
僕は彼女の言葉に感心しながら
その丸いサンドウィッチを食べた。
美味い!
サニーレタスとスライスしたパルミジャーノ、
しっかりと焼かれたベーコンとキュウリだけのシンプルな味わいだがとにかく完璧だ!
僕は頷きながらメニューに描かれたスマイルマークを眺め、
頭の中で「ラヴ・アンド・ピース」と何度も呟いた。
カウンターの中には
暇そうにタバコの煙を吐く「赤髪ピアスだらけの女の子」が
美味そうにバドワイザーの缶ビールを飲んでいた。
何て自由なんだろう!
まさにこの国は自由に満ち溢れているのだ!
店を出ると
『完璧な金髪ボブヘアー』がこちらを見て近寄ってきた。
僕は再びコーヒーを注ぎながら
「夕べはありがとう。」
とお礼を言いながらソファに座った。
彼女は僕の向かいのソファに座り足を組んだ。
その太ももとふくらはぎにバランス良く付いた肉付きを眺めながら
熱いコーヒーを飲んだ。
「この店、結構評判いいんですよ。特にサンドウィッチとウィンナーコーヒーが。」
「ウィンナーコーヒー!?」
今度は絶対注文しようと心に決めた。
「確かにサンドウィッチは最高に美味かった! でもどうして丸いんだろう?」
彼女は少し考えた。
「どうしてかしら、、? でもきっと好むと好まざるとは無関係なものなんじゃないかしら? 恐らく固定観念みたいなもので、必ずしも四角じゃなければいけない決まりなんて無いし。私はコンビニなんかで売っているヨレヨレのレタスのサンドウィッチが大嫌いよ。それに、、。」
彼女はガラス越しにカウンターでタバコを吹かしている
『赤髪ピアスだらけの女の子』に目をやると、
それに気付いた赤髪は
指を三本立てて舌先のピアスを出し入れしながら獣のように威嚇した。
彼女は大きく溜息をつきながら言った。
「あれ、妹なんです。ほんと、バカ。」
僕は驚いた。
この二人が姉妹だったとは!
でも納得も出来る!
『完璧な金髪ボブヘアー』の完璧な姉と
『赤髪ピアスだらけ』の、ま
るで「ジーン・シモンズ」の様にピアスが付いた舌をを出し入れする妹。
何て自由で素晴らしい国なのだろうか!
僕は腕を組んで感心しながら
舌先のピアスを出し入れして威嚇する赤髪と
ムッチリした太ももの間から見え隠れする金髪のパンティーを交互に眺めた。
「メタルなんですよ、あの子。本人曰くヘヴィメタじゃなくメタル。」
彼女はいつまでも辞めない
赤髪の威嚇をうんざりした眼差しで見続けた。
僕は納得した。
「パンクじゃなかったんだね。なるほど、メタルか。要するに志が強いヘヴィーメタラーって事だね。実にしっかりとした志だ。」
完璧な金髪ボブヘアーは僕を見つめた。
「少しはあなたのような人に本当の音楽ってものを教えて欲しいものね。」
僕は驚いた。
恐らく彼女は僕の事を知っていたのだ。
すると彼女は恥ずかしそうに続けた。
「私よく若い頃、英司さんのライヴを観に行ってたんですよ。ほら、札幌のライヴハウスに年に何回かは来てたでしょ?」
僕はそれを聞いて嬉しかった。
「そうだったんだね。あそこは懐かしいな。」
僕はマスターを思い出した。
「あのバカも出演してるんですよ。ホント恥ずかしい、、。」
彼女は金髪の頭を抱えた。
「バカはバカなりに出来るんだよ。音楽なんて自由だし。俺みたいに失敗さえしなければ何だって出来るんだよ。」
彼女は不思議そうに僕を見つめた。
「時々カウンターにいる老男性が父なんです。つまり家族経営みたいなものです。」
僕は昨夜の電話でやりとりした紳士的な対応を思い出していた。
「あれがまた厄介なんですよ。」
僕は更に驚いて次の言葉を待った。
「一見普通に見えますが、若い頃は相当なヒッピーだった様でたまったモンじゃありません。未だにフリーセックスとか言ってるし、頭の中はピンクだらけのエロじじい。履いてるトランクスもショッキングピンクだし、時々隠れて洗濯前の私の下着を身につけたりしているんです。」
僕は益々感心し、
この一風変わった家族に興味を持ち始めていた。
「お母さんもこのホテルで働いてるの?」
すると彼女はちょっと考えてから答えた。
「母は教師だったんですが、私が中学生の頃に家を出て行ってから静岡の川で死体となって発見されました。どうせどっかの男とセックス漬けになって、マリファナやら麻薬を繰り返して殺されたんだと思います。とにかくセックス狂でしたし、家を出て行く時も父が勃起しなくなった事を罵倒してましたから。」
僕はその話を聞いて驚愕した。
何てクレイジーなんだ!
この世はクレイジーに満ち溢れているのだ!
ショッキングピンクのトランクスを履き
今でもフリーセックスを重んじ、
娘の下着を身につけるインポテンツの変態な父と、
ドラッグとセックスに溺れ、
いきり勃つペニスを愛するが故に殺された教師の母親を持つ
『完璧な金髪のボブヘアー』の長女と
『赤髪ピアスだらけ』の次女。
そしてその家族が経営する
「ホテル・ニュー・カリフォルニア」
僕はこの家族をテーマに小説でも書いてみようと思った。
そしていつか必ず映画にしよう。
挿入曲は勿論、
イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」
それとオジー・オズボーンの「クレイジー・トレイン」だ。
『赤毛ピアスだらけ』の妹が
ピアスの付いた舌を激しく出し入れして威嚇するシーンでは
モーターヘッドの「エース・オブ・スペーズ」を流そう。
夕方、部屋にフロントの
『完璧な金髪のボブヘアー』から電話があった。
「英司さん、今夜って空いてますか?」
僕はテレビのスイッチを消した。
「いや、何も予定は無いよ。」
すると彼女は嬉しそうに続けた。
「札幌のライヴハウスのマスターが会いたがってますが、良かったらどうですか?」
僕は驚いた。
「そうなんだ!? 俺も凄く会いたかったんだよ! 君が連絡してくれたの!?」
「はい、あの妹もお世話になってますし、つい連絡してみたらそんな流れになってしまって、、。」
「それは願っても無い事だよ! ありがとう!」
僕は胸を躍らせた。
すると彼女は申し訳なさそうに言った。
「実は今夜、あのバカな妹のライヴらしくて、その後にマスターがこっちまで来るって言ってるんだけど大丈夫かしら?」
僕は受話器を耳に押し当て立ち上がって言った。
「勿論、オーケーだよ!」
彼女はホッとした様に続けた。
「札幌からだと車で二時間以上はかかるから十時にフロントでお待ちしています。」
僕は何となく聞いた。
「仕事は大丈夫なの?」
彼女は即答した。
「父がいるから大丈夫です。それに今夜は妹のTバックのパンティーを履いて機嫌も良いみたい。」
僕は世界の果てで訪れた
「快楽」と「絶望」を同時に心得た神の領域へ達したかの様な驚きと許しの狭間で言葉を失った。
娘のパンティーにいきり勃ったペニスを押し付け
激しく射精する父親の快楽と慈悲を思うと
尊敬に値するほどの「愛」を感じずにはいられなかった。
もはや既に僕は、
この家族の成形に於いてその遺伝子さえも受け入れ
完全にそのイカれたクレイジーな家族間にさえ羨ましさをも感じ始めていた。
そう、「変態」だ。変態なのだ!
この小さな街のイカれた家族が経営する
小さなホテルで僕は確実にそれを受け入れ、
変態に変わろうとしている。
そして『赤髪ピアスだらけ』の妹は
舌先のピアスを「ジーンシモンズ」の様に激しく出し入れさせ、
支配人の父親は
その娘のTバックを履きスマートに紳士的に振る舞いながら
インポテンツなペニスを擦り続ける。
僕はきっと
『完璧な金髪のボブヘアー』の姉に導かれて
未知な世界へ足を踏み込むに違いないだろう。
それはきっと
今まで感じた事もない世界であろう事は間違いない。
そんな事を想像しながら長い夜に準備し熱い風呂に浸かり、
しっかりと冷やしたビールを飲んだ。
『完璧な金髪ボブヘアー』と二人で歩いて
待ち合わせのバーへ向かう途中、
僕は彼女の名前を知らない事に気がついた。
普通に考えたらいちいち宿泊客に名刺を渡したりする事はまずないだろうし、
今までも何処のホテルのフロント係の名前を聞いた事もなかった。
「ひとつ聞いてもいいかな?」
彼女は「どうぞ。」と笑顔でこちらを見た。
「君の名前を教えてもらってもいいかな?」
すると彼女は驚いて口に両手をあてた。
「ごめんなさい! 私、すっかり忘れてました!」
彼女はカバンから名刺を取り出しこちらを向いて渡した。
そのシンプルな名刺には
『佐山陽子』と印刷されていた。
「陽子ちゃんでいいかな?」
彼女は顔を赤らめて「はい。」と答えた。
「あの、英司さん、、。私、着いて行ったらお邪魔ですよね、、?」
僕は目を丸くした。
「全然、大丈夫だよ。むしろ一緒にいて欲しいし、一緒に飲みたいと思ってる。」
彼女はホッとした様な表情をした。
間もなくして待ち合わせのバーに到着した。
僕は大きく深呼吸をしてからその扉を開けた。
店員の「いらっしゃいませ~。」と言う言葉と共に
カウンターに座っていた男がこちらを振り返り大声で、
「英司ーーー!」
と両手を広げて抱きついてきた。
僕はその体重を支えきれずに後ずさりしながら、
しっかりとその男の背中に両腕を回し抱きしめた。
「英司! 変わらないな~。オマエ、全然変わらないよ!」
彼のテンションも相変わらず変わっていない。
「ツルさんも元気そうで安心したよ。」
蔓科は目に浮かべた涙を拭った。
僕達は奥のソファー席に座り
ハイネケンの瓶ビールで乾杯した。
「いや~、まさか英司が陽子ちゃんのホテルに泊まっているなんて驚いたよ!」
「俺だってびっくりだよ。でも最初から連絡しようと思ってたんだ。だから彼女に感謝だな。」
僕と蔓科は彼女に向かってビールを掲げた。
そして今回のもう一つの目的を果たす為にビールをテーブルに置き、
彼に向かって深々と頭を下げた。
すると蔓科と陽子は驚いた。
「あの時は、本当に迷惑をかけて申し訳ありませんでした。」
僕は目を瞑ったまましばらくその姿勢のままでいた。
顔を上げると
彼は昔のままの優しい表情で何度も頷いた。
「いいんだよ、英司。そういう時代だったのさ。音楽業界は腐れきっていたし今でも何も変わっちゃいないよ。俺達皆んなが思っていた事をオマエは真正面からぶつかって行ってくれた。だから弱気で何もできなかった俺達はオマエに全てを背負わせてしまったな、、。こちらこそ本当に申し訳なかったと思ってるし感謝してる。うちの店だけじゃなく全国のオマエが出演した小屋の連中は感謝してるんだよ。そしてずっと待ってる。」
僕は驚いて聞き返した。
「待ってる?」
彼は僕の肩に手を乗せた。
「そうさ、いつでもオマエが戻れる様にみんな準備して待ってるんだぞ。」
僕はその言葉を聞き熱い涙が込み上げた。
そうだったんだ。
みんな俺を許してくれていたんだ。
待ってくれているんだ。
「オマエ、都内の小屋にも顔だしていないんだろ?」
僕は頷いた。
「あれからずっと全国のマスターと連絡取ってはオマエの話をしてるよ。だから戻ったら顔出しに行けよ。特に目黒にはな。」
僕は息を整え「そうするよ。」と伝えた。
気がつくと僕の隣りの陽子は
嗚咽をあげながらハンカチを顔にあてて大泣きしていた。
僕と蔓科は彼女を眺め大笑いした。
「なんで、陽子ちゃんがそんなに泣いてんだよ!」
蔓科は泣き笑いした。
「だって、、だって、、話は分からないけど、、だって、、。」
彼女の肩を優しく抱くと、
陽子は抱きついて僕の胸の中で大泣きした。
僕達は長い前置きを終えあらためて乾杯した。
眼鏡を外した陽子はマスカラが目の周りに広がり
すっかり「ルー・リード」と化していた。
僕はあの映画の陽子が登場するシーンで
「スウィート・ジェーン」を流そうと閃いた。
「ところでなんでまた帯広なんかに来たんだ?」
僕はタバコに火をつけながら答えた。
「友人を探しに来たんだよ。」
陽子は興味津々で僕にベッタリと張り付いて頷いた。
「ところがどん詰まりでさ。実は住所も電話番号すら知らない。」
蔓科は笑った。
「相変わらず行き当たり番長だな、オマエは。で、どうするんだよ?」
「ま、時間もたっぷりあるし、ゆっくり探すよ。この街もすっかり気に入ってしまったし。」
すると、陽子が僕の腕に手を回して言った。
「うちのホテルも気に入ってくれたかしら?」
僕は大きく何度も頷いた。
「まさにドンピシャだよ! あんなクレイジーなホテルに泊まったのは初めてだよ。」
そして軽くビールを吹き出してしまうと
彼女がさっきの涙でグショグショのハンカチで拭いてくれながら言った。
「ずっと居てくれてもいいのよ。」
蔓科は不思議そうな顔をして「クレイジー?」と首を傾げた。
「そっか、そうだった! 麻理子は陽子ちゃんの妹だったもんな。あれは確かに凄い! クレイジーだ!」
蔓科は足を踏みならして大笑いし、
陽子は眉間に皺を寄せて首を振った。
「あれは俺から言わせたら『ニナ・ハーゲン』と『シド・ビシャス』を足した様な感じだ! クレイジーで破壊的で野獣そのものだよ。そのうち客にパンティー投げるかもな。」
と納得する様に僕を見つめた。
きっと『赤毛ピアスだらけ』の妹は、
ライヴでも三本指をたて、
あのピアスの付いた舌を客に向かって激しく出し入れし威嚇するのだろう。
そしてクライマックスでは
汗でびしょ濡れの熱い湯気の立ったパンティーを脱ぎ、
高々と振り回し錯乱した客席にぶん投げるところを想像した。
もし僕が彼女の熱狂的なファンだったら
間違いなく獲物を狙い飛びかかる凶暴な野犬の様に掴みかかるだろう。
そしてそのパンティーに群がる狂犬らは血だらけになりながら争い
その獲物を貪るのだ。
見ると、陽子は呆れ果てた様にソファーに後部を持たれて
瓶ビールを一気に飲んでいた。
三人で「バランタイン」のボトルをオーダーし
ロックで乾杯した時、
スピーカーから「ニューヨーク・ドールズ」の「ジェット・ボーイ」が流れていた。
僕はこの突き刺さる様なギターが大好きだ。
すると陽子がすぐに反応した。
「英司さんってジョニー・サンダース好きなんでしょ? 私も大好きよ!」
と真っ赤なハイヒールを見せた。
なるほどそういう事か。
僕は益々、彼女に惹かれた。
トイレから戻った蔓科は
幾分酔いが冷めた様でソファに座ると話し出した。
「そう言えば、あの新人の杉森舞って若い子、オマエがプロデュースしたんだろ?」
僕は驚いた。
「どうして知ってるんだよ?」
陽子も驚き、彼は自慢気な表情をした。
「この業界の人間は皆知ってるよ。皆んなオマエのファンだからな。それにシングルのサンプルを聴いたけど凄く良かった! すぐオマエが作った曲だと分かったよ。ギターだって弾いてるだろ?」
僕はあらためてこの音楽業界の人々が持つ感性に言葉を失った。
「それに一部のオマエのファン達も噂してるらしい。そりゃ、突然引退して姿を消したアーティストの動向は気になるもんだよ。でもオマエは気づいていないかもしれないが、結果そうやって皆んな『澤村英司』を求めている。大した影響力だよ。」
僕は少し考えてから答えた。
「あくまで仕事として関わってるだけだよ。彼女には然程興味も無いし、事務所としてもせいぜい印税対策なんだと思ってる。でも確かに、、。」
僕は杉森舞が持っていた僕自身のアルバムを思い出し、
それが偶然だったのか今になって不思議に思った。
そしてそのジャケットの裏には
「美樹子」へ書いた僕のサインが記されていた。
そして今、
帯広の街で途方に暮れながら懐かしい友人と再会した。
彼との話は全てが今後の僕にとって糧となるものばかりだった。
奇妙なホテルで知り合った
『完璧な金髪ボブヘアー』の陽子が導いてくれたのだ。
すっかり酔い潰れた彼女は
僕の足を枕に頭を乗せ静かな寝息を立てていた。
その整った可愛らしい顔を眺めながら
僕は完璧なボブヘアーを優しく梳かした。
「彼女は良い子だよ。」
そう蔓科が言った。
「俺が知る限り、随分と男運は無かった様だけどな。昔、うちの店でオマエの悪口を言った男の客と本気で喧嘩した事があったよ。俺が止めに入っても彼女は何度もその男に食い下がった。打たれた顔から血を流しながらその男に叫んだ言葉が今でも忘れられない。何て言ったと思う?」
僕は驚いて彼女の寝顔を見返した。
蔓科は両手を大きく広げて立ち上がって言った。
「新しい音楽なんて何処にも無い! どうして誰も分からないの!
そう言ったんだよ!。」
時間は真夜中の三時を回っていた。
僕達は長い時間、懐かしい話やお互いの本音を語り合い沢山の酒を飲んだ。
店の外に出ると蔓科は手を差し伸べた。
「英司、オマエに会えて本当に良かったよ。いつでも戻って来いよ。」
僕はその手をしっかり握った。
「ありがとう。また連絡するよ。」
陽子は眠そうな顔で「ツルさん、またね、、。」とアクビをした。
陽子は外の寒さのお陰で
大分酔いも覚めた様で抱えてあげなくても歩けるほどになっていた。
僕達は来た時と同じ様に並んで歩きホテルへ向かった。
「一人で帰れるから大丈夫だよ。もう道も覚えたし。」
陽子は無表情に僕を見つめた。
「そんな訳にはいきません。お客様の安全をお守りするのも私の役目ですから。」
僕が驚くと彼女は手を繋いで一人笑いした。
「それにホテルには部屋も沢山あるし、仮眠室だってあるのよ。」
なるほど、と思った。
空からは雪が静かに舞い散り、
僕は彼女の手の温もりを感じながら眺めた。
やがてホテルに着き、
僕達はフロントのある二階へ上がった。
彼女はエレベーターを降りる時、
僕の首の後ろに両手を回してしっかりと口付けをし熱い舌を絡ませた。
そして静かにフロアへ出て「おやすみ。」と笑顔で片手を振った。
扉が閉まり一人で五階へ向かう途中、
僕は何かがおかしい事に気が付いた。
何だろう?
その違和感は痺れの様に僕に纏った。
随分と酒も飲んだせいで身体が揺れているのかもしれない。
僅かな耳鳴りがし、
僕は壁に手を伸ばし身体を支え扉が開くのを待った。
数十秒もあれば着くはずの扉は一向に開く気配がない。
一体どれくらい時間が経っただろうか?
僕は鳴り止まない耳障りな高音波の様な小さな音に苦痛を感じ、
両耳を塞いだ。
足元はグラグラとまるでウォーターベッドの上に立っている様な感覚で身体を支えきれなくなり、
膝を地面に着けた。
やがて何処からかカビの様な匂いが漂う風が入り込んできた。
僕はその匂いで吐きそうになり必死に嘔吐するのを我慢した。
気が付くとエレベーターの電気は消え
真っ暗な中で僕は闇に支配され始め意識が遠のいていった。
すると、
やっと扉が静かに開き同時に生温かい湿った空気が入り込んできた。
僕は這いつくばりながら
懸命に扉の外へ出て力尽きた。
目が覚めた時、
陽子は僕の髪を撫でながら真っ直ぐと見つめていた。
叩きつける様な頭痛がし、
やっとのおもいで上半身を起こすと
自分が五階フロアの廊下で倒れていた事に気が付いた。
耳鳴りは止む事なく僕の脳にまで響き続け、
生温かい風のせいで身体中から大量の汗が吹き出ていた。
陽子は何処にいるんだ?
細いフロアの向こうに人影の様なものが見えた。
僕は必死にそれを見定めようと見つめると、
『赤髪ピアスだらけ』の麻理子が
三本指を立て血だらけの顔でピアスの付いた舌を激しく出し入れし威嚇していた。
するとそれは次第に近づき僕は恐怖に慄いた。
部屋に逃げなければ!
僕は必死で立ち上がると反対側の向こうに陽子が立っていた。
何て彼女は美しいのだろう。
僕は重い足を引きずる様に歩き彼女に辿り着いた。
「あなたが探しているものがここにはあるかしら?」
僕は彼女の言葉にハッとし、
記憶の何かがフラッシュバックした。
すると耳元に張り付く様に老婆が囁いた。
「あんた、あれじゃろ? どうしたもんか? 水は与えたのかい?」
僕は恐怖に支配され
必死で部屋のドアを開けようとすると、
男が怪訝そうな顔で覗き込んだ。
「好むと好まざる問題じゃないんだよ。まだ分からんのか? 扉の中だよ。オマエの扉さ、、。スイッチを押しちまえばいいんじゃよ。水を与えないと。早く入れなきゃ間に合わんぞ。」
僕は錯乱し
ドアノブが引き千切れそうなくらいに回し続けた。
すると陽子が僕のその手に触れた。
「あなたが入るべく扉はそこじゃないのよ。」
僕は激しい高音波の耳鳴りで意識を失いかけていた。
しかし確かにこの部屋に間違いない。
ここが僕の部屋なのだ!
すると彼女は鍵を取り出し
僕を隣の部屋の扉へ招いた。
隣りの部屋!?
そんな部屋がある筈もない!
僕の部屋は確かにこの建物の一番奥の部屋だったのだ!
扉を開けて中に入った彼女を追って
僕はそこへと導かれる様に入って行った。
真っ暗な部屋は
全ての音が消えて無くなってしまった様に無音で静まりかえり、
僕の耳鳴りも消えていた。
暗闇に目を凝らし、
しばらく馴れるまで待った僕は机のライトを点けた。
淡い間接照明が灯ると、
ベージュ色の壁紙に明かりが灯り、
壁には公園のベンチらしい油絵が飾られていた。
この絵?
僕はすぐにその絵の風景が何処を描いたのか理解した。
そうだ、あの公園だ。
前に「美樹子」を訪れた時に一緒に行った公園に間違いない。
気がつくとラジオから
「ビリー・ホリデー」の「奇妙な果実」が流れていた。
僕は二つのグラスに氷を入れ、
机に置いてあった『グレンフィディック』を注いだ。
それを飲みながら窓を開けると
風に乗ってお線香の香りがほのかにした。
僕は夜空に浮かぶ満月を見つめ
今まで失ったモノを一つずつ思い返し数えてみた。
『完璧な金髪ボブヘアー』は
椅子に足を組んで座りスコッチを飲みながら言った。
「あなたの答えの出口は見つかったのかしら?」
僕はタバコを一口吸った。
「そんなもの、ありゃしないし、別に求めてもいないよ。」
長い沈黙の中、
グラスの氷がカランっと響いた。
「好むと好まざるとは無関係な事なんじゃないかしら?」
僕は彼女を見つめた。
「潤いを与えるのよ。スイッチを入れないと。」
陽子は静かに立ち上がり、
ゆっくりと服を一枚一枚脱ぎ始めた。
僕はその様子を眺めながらスコッチを飲み、
彼女の仕草と身体の全てを観察していく程に勃起した。
やがて全裸になった彼女は
僕の首の後ろに手を回し激しく口の中に舌を絡めた。
僕は彼女の身体中の肉付きを確かめる様に弄り
固くなった乳首を激しく吸った。
彼女は僕のそそり勃ったペニスを口に含み
嗚咽を吐きながら何度も激しく喉の奥へと押しあて、
時間をかけ、
ゆっくりと潤ったヴァギナへ挿入した。
僕は激しい彼女の中にある柔らかい肉感の中で
やっとスイッチを見つけた様な気がした。
いや、、
でも僕は確かに何処かでスイッチを押した筈だ、、。
もがき苦しむ絶望の巨大にそそり立つ壁の向こうで。
もしかしてこれがそうなのか?
これを押せばいいのか?
「あなたが探しているものは何!?
扉を開けなさい!
早くスイッチを押しなさい!」
陽子は
僕の上で錯乱し乳房を激しく揺らしながら腰を振り続け、
やがて僕は
今まで感じた事がない程のオルガズムに達し
身体中から絞り込まれる様に
彼女のスイッチをめがけて激しく射精した。
すぐに起き上がりカーテンを開け窓から空を眺めた。
天気は良さそうだ。
と言っても北海道がどうかは定かではない。
キッチンでお湯を沸かしフレンチローストのコーヒーをドリップしながら
テレビのニュース番組が天気予報に変わるのを待った。
荷物は昨夜のうちにまとめてあるし
特に慌ただしく用意する事もなかったので、
僕は熱いコーヒーをゆっくりと飲みながらやっと始まった天気予報をチェックした。
久しぶりに訪れた上野駅は平日にも関わらず沢山の人が行き交っていた。
中央のフロアでは何やら地方の物産展が開催されており
様々な特産品が並べられていたが
飛行機の搭乗時間に余裕を持ちたかったので、
今日は諦めて中央改札を抜け
すぐに到着したJR京浜東北線の東京・品川方面に乗り込んだ。
電車内はバックパックを抱えた外国人観光客やサラリーマンで溢れていたが、
やがて到着した東京駅で殆どの人々が降り、
すっかり人の数も少なくなった。
一体この東京のターミナル駅には毎日どれ程の人々が行き交い利用しているのだろうか?
そんな事を考えているとすぐに到着した「浜松町」で下車し
「東京モノレール」の乗り場へ移動し
羽田空港第二ターミナル行きのモノレールへ飛び乗った。
なんてスマートな移動だろうか?
この東京の電車の乗り継ぎの速さは世界一だろう。
普通にホームで待っていても
僅か二、三分もあればすぐに電車は到着する。
ある意味ストレスフリーではあるが、
同時に車内の乗車率は半端がない程のストレスだ。
しかも頻繁に多発する人身事故やらが起きようものなら
人々はヒステリックになり一分一秒とて待つことが出来ない有様だ。
いつの頃からその様な生活となってしまったのだろう?
人々はカツカツの仕事に常に追われ、
秒単位で生活を繰り返す余裕の無い人生を一生送って行くだけだ。
恐らくこんな平日に旅行鞄を抱えた私服の自分は
周囲からただの暇人か無職な男にしか思われていないだろう。
いや、もしかしたら変人、
変態くらいに思われてもおかしくは無い。
僕は苦笑した。
帯広空港行きの機内席には恐らく八割程が搭乗しているだろうか。
思った以上の利用者がいた事に驚いた。
やがて離陸した機内の窓から東京を眺めると、
昔のライヴツアーを思い出した。
もっとも殆どは機材車での移動や新幹線が多かったが、
時々こうして飛行機での移動に胸を踊らせたりもしたものだった。
北海道を訪れるのは何年振りだろうか、、。
恐らく七年振りくらいにはなるかもしれない。
アマチュア時代からよく出演させて頂いていた
札幌のマスターは元気にやっているだろうか?
そうだ、時間はたっぷりある。
時間を見つけて久しぶりに訪れてみよう。
もう昔の話だ。
迷惑をかける事もないだろう。
僕は七年前に起きたあの忌まわしい出来事を思い出していた。
***
当時、僕達のアルバムは、
ロックバンドとしてはかなりな売上もあり
オリコンでもそれなりに上位へ食い込む程だった。
とは言え、
アリーナクラスのソロアーティストの人気よりははるかに劣ったものの、
古き良き時代のロックを継承するスタイルは
老若男女に受け入れられたりもした。
僕はそのスタイルや音楽の中で常に一つのテーマを重んじてきた。
それはあくまでも『リスペクト』であり
僕自身が大好きで影響を受けてきたルーツに対する継承でもあった。
世の中のミュージシャンや音楽業界は常に新しいモノを模索し
次から次にあらゆる音楽を排出しては消えて行った。
やがて音楽自体が完全に産業化され、
もはやそこには人が作り出す本当の魂や愛は失われていた。
次第に僕は自身に於けるアルバムや楽曲を「記録」として作り出す事とし
「作品」との決定的な違いとして考える様になった。
そこには懐かしさや親しみなど、
僕が幼い頃から聴き漁った音と言葉が必要であると信じていたからだ。
それは僕から言わせてもらうのならば、
今までも誰もが思い描き信じて続けてきた事であった。
しかし時代と共に音楽は聴かせるものからビジネスへと変わり、
そこに携わるアーティストやエンジニア、
レコード会社ですら右に倣って行った。
僕自身が属するその腐り切った音楽業界へ反旗を翻し
世間では賛否両論となった。
そんな中、
僕達はあの問題作と言われる事となったアルバム
『産業ロック崩壊時代』を高々と掲げた。
するとアルバムは驚く程に売上を伸ばし
確実にライヴコンサートの動員も増え続けて行った。
それ以来、
僕は公に言葉を発してアピールする事を一切やめ、
音楽と活動で我々の真意を伝えていく事に徹する様になった。
ライヴコンサートでも、
無駄に客の機嫌を伺う様なMCすら無くし、
決められた曲順を決める事も辞め、
その瞬間に感じ思った曲をファンに向かって歌う事とした。
かつての敏腕なミキシング・エンジニアや
ライヴハウスのマスター、イベンターらは皆、
僕のワガママに対し
『いいじゃん! ロックンロールしてる!』
と楽しんで応じてくれた。
ある日、僕は次のライヴツアーの日程を確認しに事務所を訪れた。
すると何となくいつもと違った雰囲気を感じマネージャーのデスクへ向かった。
「あ、お疲れ様です! 澤村さん、、ちょっと色々と進まないんですよねぇ、、。」
僕は首を傾げた。
「何が? ツアーの日程が調整出来ないって事?」
マネージャーは眉間に皺を寄せて言った。
「それもそうなんですが、、ディストリビューターから在庫の返却や出版社からも掲載中止の連絡とかもきてるんですよ、、。」
僕は驚いた。
「何でだよ? 何があったんだよ? ライブハウスは何て言ってる?」
「何処も妙な返答なんですよ。予定が一杯だとか、今回は申し訳ないとか、何か変だなぁ、、。」
「もしかしてその時期、メーカーが誰かの全国ツアーで押さえてるんじゃないか?」
「いや、、それが他の月を確認してもNGなんですよ。」
「ディストリビューターは何て言ってたんだよ?」
「それが、、年次契約はしているんですけど、、。」
すると次第に次から次へと同じ様な内容の電話が殺到し
スタッフがあたふたと対応に追われ、
誰もが駆け寄った。
「澤村さん」「澤村さん!」「澤村さん!」
一体何が起こっているのだろうか、、?
「柳沢は何処にいるんだ!?」
近くで対応していたスタッフが呆れた様な顔で言い放った。
「柳沢さん居ないんですよ! も~この忙しい時に一体何処に行ったのよ!」
一体、何がどうしたと言うのだろうか、、!?
あまりに突然の出来事を僕は受け止める事が出来なかった。
そして決意し、
直接、レコード会社のデスクへ連絡する事にした。
すると繋がれた受話器の向こうから男が話し出した。
「英司か。」
僕はその声に直ぐに感応し、柳沢に捲し立てた。
「どうなってるんだよ! 大変な事になってるんだぞ! 何があったんだよ!」
柳沢はしばらく黙ってから答えた。
「あぁ、分かってるよ。今から戻るから待っててくれ。ちゃんと説明する。」
そう言って電話を切った。
一時間後、柳沢が事務所に戻ってきた。
その表情はすっかり廃人と化しスタッフも皆驚いた様に、
何も語らずに入ってきた彼を見てそれまでの憤慨を浴びせる事も無かった。
ただ静かに鳴り響く電話の中で、
会議室へ来る様に僕に手招いた。
部屋にに入ると、
彼は椅子にもたれ僕を見つめて言った。
「英司、、力不足ですまん、、。」
そう言って頭を下げてすすり泣いた。
そんな姿の彼を見て驚き、肩を揺らした。
「どうしたんだよ! 何があったんだよ! ちゃんと説明しろよ!」
柳沢は顔を膝に押し付け泣き出した。
「俺にも分からないんだよ、、!。英司、、何が起きてるのか全然分からないんだよ、、!」
すると部屋の扉が開き、現れたその顔を見て僕は言葉を失った、、。
「浅葱さん、、!?」
彼女は変わらないしっかりとした足並で近づき僕の前で立ち止まった。
「久しぶりね、英司くん。」
僕は頭が混乱して彼女に詰め寄った。
「浅葱さん、、何があったんですか!? どうしたんですか!?」
彼女は僕の目をしっかり見つめ続けた。
そして信じられない事を伝えた。
「英司、、残念だけど、あなたは解雇よ、、。頑張りすぎたわね。」
僕は驚愕して言葉を失った、、。
これがこの音楽業界のやり方なのだ!
面倒臭い奴は排除すればいい、簡単な事だ。
そして今、自分がその立場にあると言うわけだ。
実に簡単だ!
僕は浅葱の目を強い眼差しで睨み続けた。
するとその瞳から情け無いほどの涙が溢れた。
それでも目を見開いて僕は浅葱を見続けた。
すると彼女は僕を優しく抱き寄せ、
回した手でゆっくりと背中を摩りながら続けた。
「あなたなら大丈夫でしょ。きっと大丈夫だから。どんな事があってもやって行けるわね。」
僕は彼女の腕の中で泣き崩れた。
かつて、
僕の音楽に対する姿勢を誰よりも信じ、
応援してくれた人に伝えられたこの現状。
彼女はどんな時も僕を守ってくれた大切な人なのだ。
きっと立場上、
あの忌まわしい男に下れた指令に違いない。
僕はその男を心の底から怨んだ。
そして長い時間、
僕を抱き続けた彼女はそっと耳元で言った。
「ごめんね、でもきちんとあなたに伝えるべき事を言わせてもらうわよ。」
僕は彼女の言葉をしっかりと理解して頷き、
その優しい包容から静かに離れた。
「株式会社ジミー・ミュージック・エンタテイメントは、
澤村英司を解雇とし、全ての契約を終了する事と致します。
同時に、日本国内に於ける活動及びそれらの権限は全て弊社に委ねられるものと致します。
よって、澤村英司を、国内の音楽業界より追放する事と致します。」
僕はその浅葱の通達を聞き大きな溜息をついて奥歯を噛み締めた。
そして目を閉じた彼女に近寄り静かに伝えた。
「浅葱さん、、色々ご迷惑かけて申し訳ありませんでした、、。本当にありがとうございました、、。」
浅葱は再び僕をしっかりと抱き寄せて言った。
「あなたのロックンロール黄金時代は未だ終わっていないわよ、、。
いつか、また、楽しみに待ってるから。」
僕の肩は彼女の熱い涙で濡れ、
その気高い香りの漂う柔らかい大好きな身体はいつまでも離れる事はなかった。
そして僕はいつしか、
彼女がいつも教えてくれた
「好むと好まざる事とは無関係な事。」
と言う教訓を思い出した。
僕はずっと「浅葱」に甘え過ぎていた事をやっと気付かされたのだろう。
そんな事も知らずに彼女はいつでも僕を守り続けて来てくれたのだ。
そんな事も気付かずに、、。
僕は負けた。
完敗したのだ、、。
***
約一時間半で帯広空港に到着し、
僕はロビーで次の行動の計画を練る事とした。
ホテルの手配もしていなければ、美樹子の住所すら知らないのだ。
正確には北海道である事は間違いないだろうが、
帯広に住んでいるかどうかさえ定かでは無い。
正直、全くもってどうしたら良いのか分からないが、
とにかく時間はある。
考える時間もたっぷりある。
取り敢えず市街へ向かってホテルでも探そう。
僕はダウンジャケットのジッパーを首まで閉め、
鞄を抱えタクシー乗り場へ向かった。
タクシーのラジオからは
「ロス・デル・リオ」の「恋のマカレナ」が流れていた。
僕はセクシーな金髪の女性達がお尻を振りながら踊る
ミュージック・ビデオを思い返しながら
これから起こるであろう出来事に胸を躍らせた。
運転手さんの話によれば帯広駅・北口の方がホテルは多いとの事だったので
適当な駅前で降りる事にした。
周囲を見渡して駅周辺の案内図を見つけ、
それをマジマジと見た。
なるほど、街は碁盤の目になっている様なので分かり易い。
適当にブラブラしながらホテルを見つける事とした。
街のサイズは丁度良く、
僕はとても気に入ってしまった。
東京でもよく見かけるチェーン店のホテルも多く、
泊まる事に問題は無さそうだったが、
敢えて地元ならでわのビジネスホテルを探す事とした。
すると「銀座通り」なる通りを見つけ、
僕は何故か吸い込まれる様にその通りへ入った。
飲食店やバーなどが軒を連ねその少し先にホテルらしきものを見つけた。
「ホテル・ニュー・カリフォルニア」
と掲げられた看板は完全に僕の胸を貫きその求めていた通りのイメージに惹かれた。
そうだ、そうだ、
まさにこんな感じのホテルだ!
しかも間違いなく「イーグルス」からパクったであろうそのチープさが堪らない。
入口の両脇に置かれた椰子の木は僕を手招く様に風に揺れていた。
大きなガラス扉を押して入ると、
どうやら一階は、二階のフロントへ上がる階段とエレベーターだけのフロアだった。
僕はエレベーターでフロントへ向かった。
扉が開くと、
僅か数歩のところにカウンターがあり
僕は銀色のベルを鳴らした。
二回はフロントの他、
奥に簡単な軽食が出来る小さなレストランがあった。
間もなく女性が現れカウンター越しに「いらっしゃいませ。」と丁寧にお辞儀をした。
僕は彼女の容姿に驚いた。
ムラのない完璧な金髪のボブヘアーにやや端が尖った赤いスケルトンフレームの眼鏡、
白いシャツに真っ黒いタイトなスーツ姿だった。
それはまるで「シャネル」や「プラダ」のCMに登場しそうな女性だった。
女性はそんな僕に気が付いたのか、
何か?
という様に少しだけ首を傾けニコリと笑った。
「ご宿泊でよろしいでしょうか?」
僕は彼女の綺麗に口紅が塗られた唇を見つめた。
「あ、はい、そうです。」
何だか妙に緊張していた。
「ご滞在はどれくらいになられますか?」
僕はしばらく考えた。
「多分、、一週間ほどになるかと思います。」
女性は不思議そうに僕を見つめ宿泊表を眺めながらペンでこめかみを突いた。
「ダブルの部屋でしたらご準備できます。勿論、料金はシングルと同じで構いません。」
「ありがとうございます。それじゃ、その部屋でお願いします。」
「かしこまりました」
と笑顔で告げレジストレーションカードを差し出した。
それに記入し確認すると、
カウンターから出て僕の傍まで歩み
「それではお部屋にご案内いたします。」
と言って鞄を抱えた。
僕はエレベーターが来るまでの間、
タイトな短いスカート姿からスラリと伸びた脚と真っ赤なハイヒールを感心する様に見つめた。
エレベータに僕を促しその後に入った彼女は
「お客様のお部屋は五〇一号室になります。お酒やジュース類、タバコの自動販売機は四階、コインランドリーは六階にございます。レストランのご利用は朝六時から夜七時までとなっておりますが、フロントは二十四時間対応可能ですので何かあればいつでもご連絡ください。」
僕はしっかりと聞きながら
彼女の完璧な金髪のボブヘアーの首筋をを眺めた。
エレベーターは五階に到着し
一番奥の部屋へと案内された。
彼女はドアを開け僕を招き入れてから鍵を渡し
「ごゆっくりお過ごし下さい。」
と告げお辞儀をして去って行った。
室内は想像していたよりも広く大きな窓もあった。
すぐにそれを開けてみると
下には銀座通りの商店街を眺める事が出来、
僅かに香ばしい香りが冬の風と共に漂ってきた。
ダブルベッドのシーツはパリッとし、
とても清潔感に溢れていた。
壁側には木彫のデスクが備えられており
ヴィンテージなライトが置かれてあった。
壁に飾られた油絵もとても落ち着いた装いの雰囲気だ。
ベッドの備え付けのデジタル時計は午後二時半だったが
特にする事も無かったので
お風呂に熱いお湯を注ぎ、
四階の自動販売機コーナーを訪れ「キリン・ラガー」の缶ビールを数本買った。
お湯が溜まるまでの間、
僕は缶ビールを飲みながら市内の観光案内を眺めた。
目が覚めた時、窓の外はすっかり陽が落ち暗くなっていた。
銀座通りからは相変わらず香ばしい香りが漂い、
行き交う人々で賑わいを見せていた。
少し外でもブラブラしようかと思ったが、
特に時間が限られている訳でもないので、
今夜は部屋でゆっくりと過ごす事とし、
テレビをつけてベッドに横になりながら眺めた。
思えば、
こうしてテレビを見たのもいつぶりだろうか?
僕はバラエティー番組が苦手なのだ。
くだらない内容でただゲラゲラしているだけの出演者を観ているだけで不快な気持ちになる。
決して否定している訳ではないのだが、
僕には不必要な番組であると言うだけの事だ。
それにしてもチャンネルが圧倒的に少ない。
僕は何やら北海道を散策するような番組に目が止まりそれを見続けた。
そう言えば、
帯広の名物は何なのだろうか?
三十五年間も生きて来てそんな事も知らないのだ。
明日、あの『完璧な金髪ボブヘアー』のフロントの女性に尋ねてみよう。
テレビを消し、机のライトだけの明かりにしラジオのスイッチを押した。
FM放送からは
「ビル・エヴァンス・トリオ」の「マイ・フーリッシュ・ハート」が流れていた。
それを聴いているうちに急にスコッチが飲みたくなり
フロントに連絡してみると
受話器に出た老男性が
「大変申し訳ありません、ウィスキー類は置いておりませんので、どこか外でお買い上げいただくしかありません。氷やお水でしたらご準備できますので。」
僕はお礼を言って電話を切った。
明日、何処かの店で買って来よう。
今夜は諦めてビールを飲む事とした。
しばらくすると誰かがドアをノックした。
僕は一瞬何の音か判断出来ずにいたが、
確かに誰かがドアをノックしている。
そっと近寄りドアアイを覗くと
外にはあの『完璧な金髪ボブヘアー』が立っていた。
すぐに扉を開けると、
ウィスキーの瓶と、
グラスなど一式をトレーに持った彼女が立っていた。
「もしよければお飲みになって下さい。中にお持ちしてもよろしいでしょうか?」
僕は室内に促した。
「実はこれ私の私物なんですが、これでもよろしければと思って、、。」
僕はトレーに乗っている
『グレンフィディック 十二年』の緑色のボトルを眺めて伝えた。
「完璧だよ。」
彼女は少し悪戯そうな笑顔で
「少し飲んじゃってますが大丈夫ですか?」
と封が開けられたボトルを僕に手渡した。
「全然、大丈夫だよ!」
彼女はお辞儀をしてからゆっくりと扉を開けて外へ出ながら言った。
「お金いりませんので、全部飲んじゃって下さい。」
「ありがとう。」
そう告げると彼女は扉を閉めた。
僕が思った通り
『完璧な金髪ボブヘアー』の女性は完璧だった。
すぐにグラスへ氷を入れ
スコッチを注ぎ掻き回してから一口飲んだ。
美味い!
そして僕は、
机の椅子に腰を下ろし「美樹子」を想った。
さて、どうやって探そうか?
グラスの中の氷が融け「カラン」と響いた。
FMのラジオからは、
大好きな「ワルツ・フォー・デビイ」が流れていた。
僕はしっかりと冷えた琥珀色のスコッチを
窓から入り込んだ街の灯りへ翳しながらつぶやいてみた。
悪くない、と。
次の日、僕は役所へ電話しダメ元で
「美樹子」の住所を教えて貰えるか問い合わせてみたが、
やはり無理だった。
そりゃそうだ。
世の中では個人情報の流出を警戒し
役所の人からすれば何処の誰かも分からない男に
ホイホイと女性の連絡先を教えたりする筈もない。
冷ややかな対応の電話を切り、
次に市内のタウンページを開いて探してみたが、
当然、結婚しているだろう
その変わった筈の苗字を知る故もなかった。
僕は諦めて二階に降り
ソファに座って無料のコーヒーをデカンタからカップに注いで飲みながら考える事にした。
フロントでは
『完璧な金髪ボブヘアー』の女性が
中年の夫婦を相手に観光案内をしていた。
僕はしばらく彼女を眺めながら熱いコーヒーを飲み、
レストランに入ってサンドウィッチを注文した。
店内は昭和の名残を思わせる木彫の造りで
タバコのヤニで色褪せた手書きのメニューが並べて貼られていた。
良く見ると僕が注文したサンドウィッチの文字の下にスマイルのマークが描かれていた。
しばらくするとオーダーを取った中年のおばさんでは無く、
赤髪で片鼻ピアスの若い女の子がそれを運んできた。
「お待たせいたしました。」
片耳には五つ程のピアスがぶら下がり
手首には尖ったリストバンドを巻いていた。
僕は驚いて彼女の容姿を眺め、
このホテルの自由度を改めて感心せずにはいられなかった。
彼女は眉間に皺を寄せて
「サンドウィッチで合ってますよね?」
と訝しそうに聞いた。
「あ、うん。オッケーだよ。」
するとその皿に乗せられた丸いサンドウィッチを見て驚いた。
「このサンドウィッチ、どうして丸いの!?」
僕はつい不思議になって聞いてみると、
そのパンキッシュな赤髪ピアスだらけの女の子は
指を三本立てて
「ラヴ・アンド・ピースよ!」
と言って舌先のピアスを出し
クスクス笑いながらテーブルに伝票を置いて去っていった。
そのTシャツの後ろには
「モーターヘッド」と大きくプリントされ長髪のドクロが血みどろになっていた。
僕は彼女の言葉に感心しながら
その丸いサンドウィッチを食べた。
美味い!
サニーレタスとスライスしたパルミジャーノ、
しっかりと焼かれたベーコンとキュウリだけのシンプルな味わいだがとにかく完璧だ!
僕は頷きながらメニューに描かれたスマイルマークを眺め、
頭の中で「ラヴ・アンド・ピース」と何度も呟いた。
カウンターの中には
暇そうにタバコの煙を吐く「赤髪ピアスだらけの女の子」が
美味そうにバドワイザーの缶ビールを飲んでいた。
何て自由なんだろう!
まさにこの国は自由に満ち溢れているのだ!
店を出ると
『完璧な金髪ボブヘアー』がこちらを見て近寄ってきた。
僕は再びコーヒーを注ぎながら
「夕べはありがとう。」
とお礼を言いながらソファに座った。
彼女は僕の向かいのソファに座り足を組んだ。
その太ももとふくらはぎにバランス良く付いた肉付きを眺めながら
熱いコーヒーを飲んだ。
「この店、結構評判いいんですよ。特にサンドウィッチとウィンナーコーヒーが。」
「ウィンナーコーヒー!?」
今度は絶対注文しようと心に決めた。
「確かにサンドウィッチは最高に美味かった! でもどうして丸いんだろう?」
彼女は少し考えた。
「どうしてかしら、、? でもきっと好むと好まざるとは無関係なものなんじゃないかしら? 恐らく固定観念みたいなもので、必ずしも四角じゃなければいけない決まりなんて無いし。私はコンビニなんかで売っているヨレヨレのレタスのサンドウィッチが大嫌いよ。それに、、。」
彼女はガラス越しにカウンターでタバコを吹かしている
『赤髪ピアスだらけの女の子』に目をやると、
それに気付いた赤髪は
指を三本立てて舌先のピアスを出し入れしながら獣のように威嚇した。
彼女は大きく溜息をつきながら言った。
「あれ、妹なんです。ほんと、バカ。」
僕は驚いた。
この二人が姉妹だったとは!
でも納得も出来る!
『完璧な金髪ボブヘアー』の完璧な姉と
『赤髪ピアスだらけ』の、ま
るで「ジーン・シモンズ」の様にピアスが付いた舌をを出し入れする妹。
何て自由で素晴らしい国なのだろうか!
僕は腕を組んで感心しながら
舌先のピアスを出し入れして威嚇する赤髪と
ムッチリした太ももの間から見え隠れする金髪のパンティーを交互に眺めた。
「メタルなんですよ、あの子。本人曰くヘヴィメタじゃなくメタル。」
彼女はいつまでも辞めない
赤髪の威嚇をうんざりした眼差しで見続けた。
僕は納得した。
「パンクじゃなかったんだね。なるほど、メタルか。要するに志が強いヘヴィーメタラーって事だね。実にしっかりとした志だ。」
完璧な金髪ボブヘアーは僕を見つめた。
「少しはあなたのような人に本当の音楽ってものを教えて欲しいものね。」
僕は驚いた。
恐らく彼女は僕の事を知っていたのだ。
すると彼女は恥ずかしそうに続けた。
「私よく若い頃、英司さんのライヴを観に行ってたんですよ。ほら、札幌のライヴハウスに年に何回かは来てたでしょ?」
僕はそれを聞いて嬉しかった。
「そうだったんだね。あそこは懐かしいな。」
僕はマスターを思い出した。
「あのバカも出演してるんですよ。ホント恥ずかしい、、。」
彼女は金髪の頭を抱えた。
「バカはバカなりに出来るんだよ。音楽なんて自由だし。俺みたいに失敗さえしなければ何だって出来るんだよ。」
彼女は不思議そうに僕を見つめた。
「時々カウンターにいる老男性が父なんです。つまり家族経営みたいなものです。」
僕は昨夜の電話でやりとりした紳士的な対応を思い出していた。
「あれがまた厄介なんですよ。」
僕は更に驚いて次の言葉を待った。
「一見普通に見えますが、若い頃は相当なヒッピーだった様でたまったモンじゃありません。未だにフリーセックスとか言ってるし、頭の中はピンクだらけのエロじじい。履いてるトランクスもショッキングピンクだし、時々隠れて洗濯前の私の下着を身につけたりしているんです。」
僕は益々感心し、
この一風変わった家族に興味を持ち始めていた。
「お母さんもこのホテルで働いてるの?」
すると彼女はちょっと考えてから答えた。
「母は教師だったんですが、私が中学生の頃に家を出て行ってから静岡の川で死体となって発見されました。どうせどっかの男とセックス漬けになって、マリファナやら麻薬を繰り返して殺されたんだと思います。とにかくセックス狂でしたし、家を出て行く時も父が勃起しなくなった事を罵倒してましたから。」
僕はその話を聞いて驚愕した。
何てクレイジーなんだ!
この世はクレイジーに満ち溢れているのだ!
ショッキングピンクのトランクスを履き
今でもフリーセックスを重んじ、
娘の下着を身につけるインポテンツの変態な父と、
ドラッグとセックスに溺れ、
いきり勃つペニスを愛するが故に殺された教師の母親を持つ
『完璧な金髪のボブヘアー』の長女と
『赤髪ピアスだらけ』の次女。
そしてその家族が経営する
「ホテル・ニュー・カリフォルニア」
僕はこの家族をテーマに小説でも書いてみようと思った。
そしていつか必ず映画にしよう。
挿入曲は勿論、
イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」
それとオジー・オズボーンの「クレイジー・トレイン」だ。
『赤毛ピアスだらけ』の妹が
ピアスの付いた舌を激しく出し入れして威嚇するシーンでは
モーターヘッドの「エース・オブ・スペーズ」を流そう。
夕方、部屋にフロントの
『完璧な金髪のボブヘアー』から電話があった。
「英司さん、今夜って空いてますか?」
僕はテレビのスイッチを消した。
「いや、何も予定は無いよ。」
すると彼女は嬉しそうに続けた。
「札幌のライヴハウスのマスターが会いたがってますが、良かったらどうですか?」
僕は驚いた。
「そうなんだ!? 俺も凄く会いたかったんだよ! 君が連絡してくれたの!?」
「はい、あの妹もお世話になってますし、つい連絡してみたらそんな流れになってしまって、、。」
「それは願っても無い事だよ! ありがとう!」
僕は胸を躍らせた。
すると彼女は申し訳なさそうに言った。
「実は今夜、あのバカな妹のライヴらしくて、その後にマスターがこっちまで来るって言ってるんだけど大丈夫かしら?」
僕は受話器を耳に押し当て立ち上がって言った。
「勿論、オーケーだよ!」
彼女はホッとした様に続けた。
「札幌からだと車で二時間以上はかかるから十時にフロントでお待ちしています。」
僕は何となく聞いた。
「仕事は大丈夫なの?」
彼女は即答した。
「父がいるから大丈夫です。それに今夜は妹のTバックのパンティーを履いて機嫌も良いみたい。」
僕は世界の果てで訪れた
「快楽」と「絶望」を同時に心得た神の領域へ達したかの様な驚きと許しの狭間で言葉を失った。
娘のパンティーにいきり勃ったペニスを押し付け
激しく射精する父親の快楽と慈悲を思うと
尊敬に値するほどの「愛」を感じずにはいられなかった。
もはや既に僕は、
この家族の成形に於いてその遺伝子さえも受け入れ
完全にそのイカれたクレイジーな家族間にさえ羨ましさをも感じ始めていた。
そう、「変態」だ。変態なのだ!
この小さな街のイカれた家族が経営する
小さなホテルで僕は確実にそれを受け入れ、
変態に変わろうとしている。
そして『赤髪ピアスだらけ』の妹は
舌先のピアスを「ジーンシモンズ」の様に激しく出し入れさせ、
支配人の父親は
その娘のTバックを履きスマートに紳士的に振る舞いながら
インポテンツなペニスを擦り続ける。
僕はきっと
『完璧な金髪のボブヘアー』の姉に導かれて
未知な世界へ足を踏み込むに違いないだろう。
それはきっと
今まで感じた事もない世界であろう事は間違いない。
そんな事を想像しながら長い夜に準備し熱い風呂に浸かり、
しっかりと冷やしたビールを飲んだ。
『完璧な金髪ボブヘアー』と二人で歩いて
待ち合わせのバーへ向かう途中、
僕は彼女の名前を知らない事に気がついた。
普通に考えたらいちいち宿泊客に名刺を渡したりする事はまずないだろうし、
今までも何処のホテルのフロント係の名前を聞いた事もなかった。
「ひとつ聞いてもいいかな?」
彼女は「どうぞ。」と笑顔でこちらを見た。
「君の名前を教えてもらってもいいかな?」
すると彼女は驚いて口に両手をあてた。
「ごめんなさい! 私、すっかり忘れてました!」
彼女はカバンから名刺を取り出しこちらを向いて渡した。
そのシンプルな名刺には
『佐山陽子』と印刷されていた。
「陽子ちゃんでいいかな?」
彼女は顔を赤らめて「はい。」と答えた。
「あの、英司さん、、。私、着いて行ったらお邪魔ですよね、、?」
僕は目を丸くした。
「全然、大丈夫だよ。むしろ一緒にいて欲しいし、一緒に飲みたいと思ってる。」
彼女はホッとした様な表情をした。
間もなくして待ち合わせのバーに到着した。
僕は大きく深呼吸をしてからその扉を開けた。
店員の「いらっしゃいませ~。」と言う言葉と共に
カウンターに座っていた男がこちらを振り返り大声で、
「英司ーーー!」
と両手を広げて抱きついてきた。
僕はその体重を支えきれずに後ずさりしながら、
しっかりとその男の背中に両腕を回し抱きしめた。
「英司! 変わらないな~。オマエ、全然変わらないよ!」
彼のテンションも相変わらず変わっていない。
「ツルさんも元気そうで安心したよ。」
蔓科は目に浮かべた涙を拭った。
僕達は奥のソファー席に座り
ハイネケンの瓶ビールで乾杯した。
「いや~、まさか英司が陽子ちゃんのホテルに泊まっているなんて驚いたよ!」
「俺だってびっくりだよ。でも最初から連絡しようと思ってたんだ。だから彼女に感謝だな。」
僕と蔓科は彼女に向かってビールを掲げた。
そして今回のもう一つの目的を果たす為にビールをテーブルに置き、
彼に向かって深々と頭を下げた。
すると蔓科と陽子は驚いた。
「あの時は、本当に迷惑をかけて申し訳ありませんでした。」
僕は目を瞑ったまましばらくその姿勢のままでいた。
顔を上げると
彼は昔のままの優しい表情で何度も頷いた。
「いいんだよ、英司。そういう時代だったのさ。音楽業界は腐れきっていたし今でも何も変わっちゃいないよ。俺達皆んなが思っていた事をオマエは真正面からぶつかって行ってくれた。だから弱気で何もできなかった俺達はオマエに全てを背負わせてしまったな、、。こちらこそ本当に申し訳なかったと思ってるし感謝してる。うちの店だけじゃなく全国のオマエが出演した小屋の連中は感謝してるんだよ。そしてずっと待ってる。」
僕は驚いて聞き返した。
「待ってる?」
彼は僕の肩に手を乗せた。
「そうさ、いつでもオマエが戻れる様にみんな準備して待ってるんだぞ。」
僕はその言葉を聞き熱い涙が込み上げた。
そうだったんだ。
みんな俺を許してくれていたんだ。
待ってくれているんだ。
「オマエ、都内の小屋にも顔だしていないんだろ?」
僕は頷いた。
「あれからずっと全国のマスターと連絡取ってはオマエの話をしてるよ。だから戻ったら顔出しに行けよ。特に目黒にはな。」
僕は息を整え「そうするよ。」と伝えた。
気がつくと僕の隣りの陽子は
嗚咽をあげながらハンカチを顔にあてて大泣きしていた。
僕と蔓科は彼女を眺め大笑いした。
「なんで、陽子ちゃんがそんなに泣いてんだよ!」
蔓科は泣き笑いした。
「だって、、だって、、話は分からないけど、、だって、、。」
彼女の肩を優しく抱くと、
陽子は抱きついて僕の胸の中で大泣きした。
僕達は長い前置きを終えあらためて乾杯した。
眼鏡を外した陽子はマスカラが目の周りに広がり
すっかり「ルー・リード」と化していた。
僕はあの映画の陽子が登場するシーンで
「スウィート・ジェーン」を流そうと閃いた。
「ところでなんでまた帯広なんかに来たんだ?」
僕はタバコに火をつけながら答えた。
「友人を探しに来たんだよ。」
陽子は興味津々で僕にベッタリと張り付いて頷いた。
「ところがどん詰まりでさ。実は住所も電話番号すら知らない。」
蔓科は笑った。
「相変わらず行き当たり番長だな、オマエは。で、どうするんだよ?」
「ま、時間もたっぷりあるし、ゆっくり探すよ。この街もすっかり気に入ってしまったし。」
すると、陽子が僕の腕に手を回して言った。
「うちのホテルも気に入ってくれたかしら?」
僕は大きく何度も頷いた。
「まさにドンピシャだよ! あんなクレイジーなホテルに泊まったのは初めてだよ。」
そして軽くビールを吹き出してしまうと
彼女がさっきの涙でグショグショのハンカチで拭いてくれながら言った。
「ずっと居てくれてもいいのよ。」
蔓科は不思議そうな顔をして「クレイジー?」と首を傾げた。
「そっか、そうだった! 麻理子は陽子ちゃんの妹だったもんな。あれは確かに凄い! クレイジーだ!」
蔓科は足を踏みならして大笑いし、
陽子は眉間に皺を寄せて首を振った。
「あれは俺から言わせたら『ニナ・ハーゲン』と『シド・ビシャス』を足した様な感じだ! クレイジーで破壊的で野獣そのものだよ。そのうち客にパンティー投げるかもな。」
と納得する様に僕を見つめた。
きっと『赤毛ピアスだらけ』の妹は、
ライヴでも三本指をたて、
あのピアスの付いた舌を客に向かって激しく出し入れし威嚇するのだろう。
そしてクライマックスでは
汗でびしょ濡れの熱い湯気の立ったパンティーを脱ぎ、
高々と振り回し錯乱した客席にぶん投げるところを想像した。
もし僕が彼女の熱狂的なファンだったら
間違いなく獲物を狙い飛びかかる凶暴な野犬の様に掴みかかるだろう。
そしてそのパンティーに群がる狂犬らは血だらけになりながら争い
その獲物を貪るのだ。
見ると、陽子は呆れ果てた様にソファーに後部を持たれて
瓶ビールを一気に飲んでいた。
三人で「バランタイン」のボトルをオーダーし
ロックで乾杯した時、
スピーカーから「ニューヨーク・ドールズ」の「ジェット・ボーイ」が流れていた。
僕はこの突き刺さる様なギターが大好きだ。
すると陽子がすぐに反応した。
「英司さんってジョニー・サンダース好きなんでしょ? 私も大好きよ!」
と真っ赤なハイヒールを見せた。
なるほどそういう事か。
僕は益々、彼女に惹かれた。
トイレから戻った蔓科は
幾分酔いが冷めた様でソファに座ると話し出した。
「そう言えば、あの新人の杉森舞って若い子、オマエがプロデュースしたんだろ?」
僕は驚いた。
「どうして知ってるんだよ?」
陽子も驚き、彼は自慢気な表情をした。
「この業界の人間は皆知ってるよ。皆んなオマエのファンだからな。それにシングルのサンプルを聴いたけど凄く良かった! すぐオマエが作った曲だと分かったよ。ギターだって弾いてるだろ?」
僕はあらためてこの音楽業界の人々が持つ感性に言葉を失った。
「それに一部のオマエのファン達も噂してるらしい。そりゃ、突然引退して姿を消したアーティストの動向は気になるもんだよ。でもオマエは気づいていないかもしれないが、結果そうやって皆んな『澤村英司』を求めている。大した影響力だよ。」
僕は少し考えてから答えた。
「あくまで仕事として関わってるだけだよ。彼女には然程興味も無いし、事務所としてもせいぜい印税対策なんだと思ってる。でも確かに、、。」
僕は杉森舞が持っていた僕自身のアルバムを思い出し、
それが偶然だったのか今になって不思議に思った。
そしてそのジャケットの裏には
「美樹子」へ書いた僕のサインが記されていた。
そして今、
帯広の街で途方に暮れながら懐かしい友人と再会した。
彼との話は全てが今後の僕にとって糧となるものばかりだった。
奇妙なホテルで知り合った
『完璧な金髪ボブヘアー』の陽子が導いてくれたのだ。
すっかり酔い潰れた彼女は
僕の足を枕に頭を乗せ静かな寝息を立てていた。
その整った可愛らしい顔を眺めながら
僕は完璧なボブヘアーを優しく梳かした。
「彼女は良い子だよ。」
そう蔓科が言った。
「俺が知る限り、随分と男運は無かった様だけどな。昔、うちの店でオマエの悪口を言った男の客と本気で喧嘩した事があったよ。俺が止めに入っても彼女は何度もその男に食い下がった。打たれた顔から血を流しながらその男に叫んだ言葉が今でも忘れられない。何て言ったと思う?」
僕は驚いて彼女の寝顔を見返した。
蔓科は両手を大きく広げて立ち上がって言った。
「新しい音楽なんて何処にも無い! どうして誰も分からないの!
そう言ったんだよ!。」
時間は真夜中の三時を回っていた。
僕達は長い時間、懐かしい話やお互いの本音を語り合い沢山の酒を飲んだ。
店の外に出ると蔓科は手を差し伸べた。
「英司、オマエに会えて本当に良かったよ。いつでも戻って来いよ。」
僕はその手をしっかり握った。
「ありがとう。また連絡するよ。」
陽子は眠そうな顔で「ツルさん、またね、、。」とアクビをした。
陽子は外の寒さのお陰で
大分酔いも覚めた様で抱えてあげなくても歩けるほどになっていた。
僕達は来た時と同じ様に並んで歩きホテルへ向かった。
「一人で帰れるから大丈夫だよ。もう道も覚えたし。」
陽子は無表情に僕を見つめた。
「そんな訳にはいきません。お客様の安全をお守りするのも私の役目ですから。」
僕が驚くと彼女は手を繋いで一人笑いした。
「それにホテルには部屋も沢山あるし、仮眠室だってあるのよ。」
なるほど、と思った。
空からは雪が静かに舞い散り、
僕は彼女の手の温もりを感じながら眺めた。
やがてホテルに着き、
僕達はフロントのある二階へ上がった。
彼女はエレベーターを降りる時、
僕の首の後ろに両手を回してしっかりと口付けをし熱い舌を絡ませた。
そして静かにフロアへ出て「おやすみ。」と笑顔で片手を振った。
扉が閉まり一人で五階へ向かう途中、
僕は何かがおかしい事に気が付いた。
何だろう?
その違和感は痺れの様に僕に纏った。
随分と酒も飲んだせいで身体が揺れているのかもしれない。
僅かな耳鳴りがし、
僕は壁に手を伸ばし身体を支え扉が開くのを待った。
数十秒もあれば着くはずの扉は一向に開く気配がない。
一体どれくらい時間が経っただろうか?
僕は鳴り止まない耳障りな高音波の様な小さな音に苦痛を感じ、
両耳を塞いだ。
足元はグラグラとまるでウォーターベッドの上に立っている様な感覚で身体を支えきれなくなり、
膝を地面に着けた。
やがて何処からかカビの様な匂いが漂う風が入り込んできた。
僕はその匂いで吐きそうになり必死に嘔吐するのを我慢した。
気が付くとエレベーターの電気は消え
真っ暗な中で僕は闇に支配され始め意識が遠のいていった。
すると、
やっと扉が静かに開き同時に生温かい湿った空気が入り込んできた。
僕は這いつくばりながら
懸命に扉の外へ出て力尽きた。
目が覚めた時、
陽子は僕の髪を撫でながら真っ直ぐと見つめていた。
叩きつける様な頭痛がし、
やっとのおもいで上半身を起こすと
自分が五階フロアの廊下で倒れていた事に気が付いた。
耳鳴りは止む事なく僕の脳にまで響き続け、
生温かい風のせいで身体中から大量の汗が吹き出ていた。
陽子は何処にいるんだ?
細いフロアの向こうに人影の様なものが見えた。
僕は必死にそれを見定めようと見つめると、
『赤髪ピアスだらけ』の麻理子が
三本指を立て血だらけの顔でピアスの付いた舌を激しく出し入れし威嚇していた。
するとそれは次第に近づき僕は恐怖に慄いた。
部屋に逃げなければ!
僕は必死で立ち上がると反対側の向こうに陽子が立っていた。
何て彼女は美しいのだろう。
僕は重い足を引きずる様に歩き彼女に辿り着いた。
「あなたが探しているものがここにはあるかしら?」
僕は彼女の言葉にハッとし、
記憶の何かがフラッシュバックした。
すると耳元に張り付く様に老婆が囁いた。
「あんた、あれじゃろ? どうしたもんか? 水は与えたのかい?」
僕は恐怖に支配され
必死で部屋のドアを開けようとすると、
男が怪訝そうな顔で覗き込んだ。
「好むと好まざる問題じゃないんだよ。まだ分からんのか? 扉の中だよ。オマエの扉さ、、。スイッチを押しちまえばいいんじゃよ。水を与えないと。早く入れなきゃ間に合わんぞ。」
僕は錯乱し
ドアノブが引き千切れそうなくらいに回し続けた。
すると陽子が僕のその手に触れた。
「あなたが入るべく扉はそこじゃないのよ。」
僕は激しい高音波の耳鳴りで意識を失いかけていた。
しかし確かにこの部屋に間違いない。
ここが僕の部屋なのだ!
すると彼女は鍵を取り出し
僕を隣の部屋の扉へ招いた。
隣りの部屋!?
そんな部屋がある筈もない!
僕の部屋は確かにこの建物の一番奥の部屋だったのだ!
扉を開けて中に入った彼女を追って
僕はそこへと導かれる様に入って行った。
真っ暗な部屋は
全ての音が消えて無くなってしまった様に無音で静まりかえり、
僕の耳鳴りも消えていた。
暗闇に目を凝らし、
しばらく馴れるまで待った僕は机のライトを点けた。
淡い間接照明が灯ると、
ベージュ色の壁紙に明かりが灯り、
壁には公園のベンチらしい油絵が飾られていた。
この絵?
僕はすぐにその絵の風景が何処を描いたのか理解した。
そうだ、あの公園だ。
前に「美樹子」を訪れた時に一緒に行った公園に間違いない。
気がつくとラジオから
「ビリー・ホリデー」の「奇妙な果実」が流れていた。
僕は二つのグラスに氷を入れ、
机に置いてあった『グレンフィディック』を注いだ。
それを飲みながら窓を開けると
風に乗ってお線香の香りがほのかにした。
僕は夜空に浮かぶ満月を見つめ
今まで失ったモノを一つずつ思い返し数えてみた。
『完璧な金髪ボブヘアー』は
椅子に足を組んで座りスコッチを飲みながら言った。
「あなたの答えの出口は見つかったのかしら?」
僕はタバコを一口吸った。
「そんなもの、ありゃしないし、別に求めてもいないよ。」
長い沈黙の中、
グラスの氷がカランっと響いた。
「好むと好まざるとは無関係な事なんじゃないかしら?」
僕は彼女を見つめた。
「潤いを与えるのよ。スイッチを入れないと。」
陽子は静かに立ち上がり、
ゆっくりと服を一枚一枚脱ぎ始めた。
僕はその様子を眺めながらスコッチを飲み、
彼女の仕草と身体の全てを観察していく程に勃起した。
やがて全裸になった彼女は
僕の首の後ろに手を回し激しく口の中に舌を絡めた。
僕は彼女の身体中の肉付きを確かめる様に弄り
固くなった乳首を激しく吸った。
彼女は僕のそそり勃ったペニスを口に含み
嗚咽を吐きながら何度も激しく喉の奥へと押しあて、
時間をかけ、
ゆっくりと潤ったヴァギナへ挿入した。
僕は激しい彼女の中にある柔らかい肉感の中で
やっとスイッチを見つけた様な気がした。
いや、、
でも僕は確かに何処かでスイッチを押した筈だ、、。
もがき苦しむ絶望の巨大にそそり立つ壁の向こうで。
もしかしてこれがそうなのか?
これを押せばいいのか?
「あなたが探しているものは何!?
扉を開けなさい!
早くスイッチを押しなさい!」
陽子は
僕の上で錯乱し乳房を激しく揺らしながら腰を振り続け、
やがて僕は
今まで感じた事がない程のオルガズムに達し
身体中から絞り込まれる様に
彼女のスイッチをめがけて激しく射精した。
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