答えの出口

藤原雅倫

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【第8章】三本の枯れた大木

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 仕事を終え軽く片付けてスタジオを出た。
今夜は特に約束もなかったので電車に乗りまっすぐ帰る事にした。
その途中ぼんやりと署名の無いメールについて考える。
やはりあのメールは美樹子からではないだろうか。
気がつくと僕の鼓動は早くなっていた。

 彼女と別れてから六年の間、
僕たちは一度も連絡をとった事がない。
別れた当時は僕の方が何度か訪れた事もあったが、
以前から交流のあった男と付き合いはじめ、
彼の転勤する北海道へ一緒に着いて行った。
その後に結婚したか別れたかは僕の知る余地もない。
彼女が引っ越す前日、
僕は電話で何度も引き止めたがその願いは叶う事も無かった。
もっとも、
今考えてみればそんな都合の良い話しなどある分けもないのに。


 珈琲を煎れそれを飲みながらパソコンに向かう。
長い時間デスクトップの画像を見ているわけでもなく
ただあのメールが彼女からのものだという立証のようなものを頭の中で探っていた。
 結局、確信など持てるはずもなく
ただ勝手に思い違いをしているだけなのかもしれない。
まさか彼女が今更メールなど送ってくるだろうか?
いや、それとも急に会いたくなったりでもしたのか?
僕はメールボックスを開き保存しておいたそれらのメールを何度も読み返した。


 おい、英司くん、本当はそうであって欲しいんだろう?
本当はまだ好きなんだろう?
何も変わっちゃいないんだよ君は、、。
でもそれでいいのかい?
本当にそれでいいのかい?


僕の中の誰かが繰り返し囁く。
どうしたいんだよ? と。

 台所でマイヤーズのロックをつくり一口飲んだ。
そのやけるようなラムが胃に達した時、
僕は決断した。
メールに返信してみよう。



>署名のないメールさんへ
 いつもメールをありがとう。
 返信もせずに申し訳ありませんでした。
 あなたの言う「丸い月を食べる」とはどういう意味か考えていました、、。

 
それだけ打ってすぐにメールを送った。
数秒後に鳴った送信完了の無機質な電子音の後に僕は少しだけ後悔をした。
二杯目のマイヤーズを飲みながらソファへ腰を下ろした瞬間、
一気に体中の力が抜けるのを感じた。
その脱力感の中、
美樹子との思い出を巡らせているうちに次第に沸き上がる興奮をおぼえ、
僕は独り声をあげずに笑った。


   ***


 スタジオに向かう途中、
久しぶりに事務所へ立ち寄った僕は
珍しくデスクに座っている柳沢にかるく手を振ると彼は親指を立てて返した。
珈琲でもいただこうと給湯室に入るとそこに真利江がいた。


「お疲れさまです! ビックリしましたよ。」
彼女は笑顔で振り向き小さな声で続けた。

「先日は変な事言ってすいませんでした。私酔っぱらっちゃって、、。」
そう言って俯いた。

「大丈夫だよ。心配しなくていいから。でもさ、、。」
僕は少し考えてから聞いた。

「真利江ちゃんって、もしかしてシャーマンってやつ?」
彼女は首を傾げ眉間に皺をよせて僕の目を見つめた。

「それってイタコみたいな意味ですか?」
僕はちょっと可笑しくなった

「まぁ、似たような存在かもね。」
煎れ立ての珈琲をカップに注ぎ彼女は渡した。


 柳沢は相変わらず携帯ばかり眺めている。
デスクの真利江に目配せをしながらそっと彼に忍び寄り耳元で囁いてみた。

「オマエ、相変わらず援交してんのかよ。」
するとギョッとした顔で振り返り俺の背中を叩いた。

「会社でそういう事言うなって! それにもう辞めたよ、そういうの。」
彼は苦笑いで声を低くするようにと人差し指を顔の前に立てた。
そんな彼をからかう様に言ってみる。

「あの舞って子もそうなんだろ?」
真利江はニヤニヤしながらこっちを見ていた。

「違うって! 彼女は紹介だよ。紹介!」

「ふぅ~ん、そうなんだ。ま、どっちでもいいけどさ。」
すると柳沢は強気な顔つきで反撃してきた。

「英司だってどうなんだよ? 真利江と会ったりしてんだろうが。知ってんだぜ、もぅ。」

僕はその勝ち誇った顔を見て

「犯罪は犯してないし、フリーだし何か問題でもあるか?」
と顎を上げると撃沈した彼はもう放っておいてくれと言う様に僕を追い返した。
事務所を出る途中、
僕は真利江にVサインをすると彼女は笑顔を返した。


 署名の無いメールへ返信をしてから既に三日が経った。
最近は家にいる間ずっとパソコンの前でビールを飲みながら過ごしている。
まったく中高生でもあるまいし何を期待してるんだか?
そんな夢物語に諦めはじめた僕は
日々の生活を取り戻そうと仕事から家に戻るなり掃除を行い、
溜まっていた洗濯をし
近所のスーパーで買い物をしてきちんとした夕食の支度をはじめた。

 みりんと日本酒を加えたダシ汁の中に
大きめにスライスした人参、玉葱、ジャガイモ、椎茸、
そして皮を剥ぎ軽く湯通しした鳥肉、ゴボウを入れ
コトコトとじっくり煮込みながら途中で丁寧にアクを取り除く。
それを繰り返している間、
薄く切った油揚げと玉葱をダシ入りのお湯の中へ入れ
旨味が出るのを待ってから豆腐とサヤインゲンを加え
仙台味噌をゆっくりと溶かしてゆく。
一時間くらい弱火で煮込んだ筑前煮が旨味を出してきた頃に
新鮮な銀鮭をコンロで焼き始める。

次に大きい鍋にたっぷりと沸かしたお湯に
軽く岩塩を入れホウレン草の根元を三十秒ほど浸してから葉を泳がせる。
それが青々しくなるのを見計らい
素早く取り出し氷水に浸してから水分を丁寧に絞り出す。

鮭が頃合いよく焼き上がった時、
筑前煮にきぬさやを入れ、
出来上がった料理を皿に盛り準備している間に軽く熱を通す。

こうして手間をかけて作る日本食が僕は好きだ。
テーブルに並べた夕食を前に僕は箸を持って

「いただきます!」と声に出して食べ始めた。


 しばらくゴロゴロとテレビを見ていたが、
バラエティー番組は相変わらずたわいもない話題で
ゲラゲラと笑い転げているだけで
全くリアリティを感じられなかった。

この国は平和過ぎるのだ。

 灯りのスイッチを消し間接照明に切り替えてレコードを取り出した。
ピンクフロイドの「光り・パーフェクト・ライヴ」に針をのせ
冷蔵庫からハイネケンを取り出しソファでそれをのんびりと聴いた。
デビット・ギルモアが奏でるエフェクティブなギターは
いつも僕をどこかへ導いてくれるような気がする。

『あなたがここにいてほしい』は

僕が世界中で一番好きなバラッドだ。
既にテーブルには四本の空き缶があり
僕は五本目のビールを取り出してプルタブを開けた。

 少しばかり酔いが回ったせいもあり、
パソコンのメールボックスを開いてみる事にした。
するとそこにあの署名の無いメールからの返信が届いてあった。
手にしたビールを一気に飲み干し、
六本目のビールを一口飲んで気を落ち着かせた後に、
ゆっくりとそれをクリックした。


>覚えてないの?
 メールありがとう。
 だって、あなたがよく作ってくれたあのサンドウィッチ
 丸くて満月みたいでしょ?
 でも、私、あれが好きよ。


僕はそのメールに確信し高揚しながらすぐに返信をした。


>もしかして
 美樹子なのか?
 あの丸いサンドウィッチを知ってるのは君だけだよ。
 もしかしてそうじゃないかってずっと思っていた。
 君は元気でやってるのか。


やっぱりそうだったのだ!

彼女がメールを送った本人だと言う事を知り、
僕は信じられない気持ちと同様に喜びを隠しきれなかった。
そして今すぐにでも会いたい気持ちで一杯になり
この先の行方に胸を躍らせた。

まさか彼女が連絡をくれるなんて!

 美樹子とのメールのやりとりは遅いスパンではあったが、
僕たちは確実に距離を縮めはじめていた。
その一語一語をかみしめるように読み、
返信する言葉や内容にも随分と気を使ったりもした。

仕事も毎日の生活も自分でも驚くほど快適に進み
人間関係に於いても同様であった。
そしてある日、
僕は思い切って「会いたい。」という素直な気持ちを伝えた。


『美樹子に会いたい。』


 久しぶりのオフ。
ベッドから出た時には既に午後を過ぎていた。
カーテンを開けると清々しい青空が広がり少しばかり肌寒い風が入り込んだ。
今日は音楽から離れてのんびり過ごそう。


 僕は爽快な気分で仕度をし丁寧に髭を剃り
お気に入りの白いドクター・マーチンを履いて外へでた。
最近はすっかり制作の仕事に追われ
家とスタジオの行き来ばかりだったので
久しぶりに近所をブラブラと歩き回った。

 観光地のこの町は相変わらず沢山の人で賑わっている。
寺の境内には子供の頃から慣れ親しんだ変わらない露店が立ち並び
食欲をそそるその香りにあちらこちらで人が群がっていた。
途中、フィンランドから訪れたというカップルに声をかけられ
シャッターを押したり観光案内をしたりして楽しんだ僕は、
焼きたてのベビーカステラを買いそれを持って川沿いに向かった。


 ゆるやかな川の流れを見つめる。
その時に以前、
美樹子と公園のベンチで眺めたあの風景を思い出した。

あれから六年。
彼女とやり直せるかも、、。
そんな事を思いながら、
僕はクローニンの『帽子屋の城』をカバンから取り出し夕方まで読みふけった。


   ***


 舞と会ったのは一ヶ月ぶりだった。
相変わらず首だけの会釈ではあったが以前よりも随分、
僕らは打ち解け合えるようになった。
彼女も自分から色々な事を話すようになったし
今手がけているデビュー曲に対しても積極的に取り組み始めている。
その好奇心旺盛な若さに時折面倒くさくなる事もあったが、
未来への希望を夢見るそんな姿に羨ましくなったりした自分自身もあった。

彼女はソファから立ち上がり
僕が作業しているパソコンの画面を眺め眉間に皺を寄せた。

「これって何やってるんですか?」
僕はヘッドフォンを外して簡単に説明した。

「ほら、例えばこれ。メロディの音階や音の長さを表しているものなんだけど色んな音で鳴らす事が出来るんだよ。所謂ミディってやつさ。」
スピーカーに切り替えてプレイボタンを鳴らした。

「うわぁ凄い! コンピューターが音を鳴らしてるんですか?」

「そうだよ。こうやって君が歌うカラオケのデータを作っているところ。ドラムやベース、ピアノとか色んな音をね。」

「てっきり人が演奏すると思ってた!」
僕はしばらく腕を組み考えてから丁寧に答えた。

「勿論そういう方法もある。例えばバンドとかならそうするけど、君の様なソロアーティストは一般的にミディで作る事が多いかな。データを作ってしまえばレコーディングの時間も短縮出来るし金もかからない。しかもいつだって確実な演奏をしてくれる。今、アタマからメロディ入りのオケを流すから歌詞を追いながら聴いてごらん。」

彼女がソファに腰を下ろすのを確認しプレイボタンを押した。
すると舞は驚いた様子でスピーカーから流れた音に耳を傾けた。
静かなアコースティックギターから始まるAメロ。
その途中から入るドラムとベースが
Bメロへと進み次第に盛上がりながらサビへと劇的に展開してゆくシンプルなツーハーフ。
僕もいつしか自分で作ったそのアレンジを目を瞑って聴いていた。

「凄い! 凄い!」
彼女は興奮しながら何度も声にだし手を叩いた。

「気に入ってもらえた?」

「はい! 凄く気に入りました! こんな曲になるなんてビックリしました!」
舞は目に涙を浮かべながらソファから立ち上がって喜んだ。

「これが最終ではないから実際にレコーディングする時はもっといい音になるよ。それに俺がギターも弾くしね。ギターだけは生じゃないと雰囲気も出ないから。」
舞は興奮を押さえ切れない様子でもう一度聴かせて欲しいと言った。
そして再び流れたオケの途中で彼女は僕の隣で静かに囁いた。

「澤村さんに作ってもらって本当に良かったです。」
そんな彼女の言葉が妙に嬉しかった。

「実はずっと『長い夢』みたいな曲になればいいなって思ってたんです。」
僕は咄嗟に彼女を見つめて言葉を失った。
すると舞はカバンからCDウォークマンを取り出し蓋を開けて見せた。

「澤村さんのこのアルバム。ずっと私のお気に入りだったんです。」
 僕は嬉しさと恥ずかしさで顔を赤らめていた。

「そうだったんだ。ビックリしたよ。もう昔のアルバムだからね、まさか信じられないなぁ。」

「柳沢さんも驚いてました。でも凄く喜んでくれたんですよ。だから澤村さんがプロデュースしてくれるって聞いた時ビックリしたんですよ。まさかって! お母さんも喜んでくれたし。」
僕はお母さんと聞いて少しだけ複雑な気分になったが、
それでも彼女との不思議な出会いに喜びを感じた。

「澤村さんのこのアルバム、私が高二の頃の音楽の先生がくれたんです。」
僕は彼女が言った『音楽の先生』と言う言葉に反応した。


「音楽の先生?」


舞は再びカバンからクシャクシャになった
僕のアルバムジャケットを取り出して渡した。
するとそこに僕のサインが記されていた、、!?。

「これって、、?」
舞は流れているオケに合わせてリズムをとりながら笑って言った。

「時田先生がくれたの。学校を辞める時に。」
僕は間違えようの無い自分の筆跡と確かに綴った彼女へのサインを眺め呆然とした。
まさか舞が美樹子の教え子だったとは、、。

 データを保存しシステムを終了させた僕は彼女を連れてロビーへ向かった。
自動販売機でホット珈琲を二本買いそれを渡して僕らは向かい合って飲んだ。
彼女はその沈黙を破るように穏やかに呟いた。

「先生、急に辞めちゃったんですよ、、。」
僕は煙草に火をつけて暗くなった窓の外に目をやった。

「そうか、、。伝えておくよ。君が元気でやってるってね。」
すると舞は驚いて僕の目を見つめた。

「え! それって連絡とってるって事ですか、、?」
僕はしばらく考えてから答えた。

「アハハ、彼女とは長い付き合いだからね。今でも時々メールくらいはしてるよ。」
舞は複雑な顔つきで僕を見続けやがてホッとした様子で言った。

「な~んだ、そうなんだ~。良かった~!」
彼女は胸を撫で下ろすように言ったのですぐに

「どうして?」と聞き返した。

「だって、先生が死んだってみんなが言ってたから。」
僕は驚いて声をあげた。


「死んだ?」


「噂が流れたんですよ。時田先生が死んだって。私もずっと信じられなかったけど、やっと安心しました。」

「それっていつの事?」
舞はしばらく考えてハッキリと答えた。

「高二の頃だから、二年前。秋くらいだったと思う。」
僕は彼女の言葉を聞いて大声を出して笑った。

「学校の噂だろ? 彼女は今も元気だよ!」


 スタジオを出た僕は彼女を車で送ってあげようとしたが、
電車で帰ると言い、
いつもの様に首だけの会釈をして駅に向かった。



 部屋に戻るなりすぐにパソコンを立ち上げ、
しばらく僕はメールボックスをクリックせずに座り続けた。
先日、彼女へ送ったメールの返信が気になって仕方が無い。
しかしながら、
今更「会いたい」と送ったところで一体どうなると言うのだろうか?
きっと彼女はあの男と北海道で暮らしているだろうし、
たまたまくれたメールで僕らがどうにかなる訳もない事は分かっている。
僕はつい送ってしまった恥ずかしいメールを悔やみながら台所へ行き
マイヤーズのロックを作ってソファで飲む事にした。

テレビも付けずただぼんやりと何時間も過ごしていた。
一体こんな時間にどんな意味があるのだろう。
僕は自分自身を責めながら二杯目のラムを注ぎ
すぐそこにあるパソコンを恨めしい目つきで見やった。


どうしたんだ、英司?
それをクリックすればいいだけじゃないか、、?


いつもよりも熱めの風呂を沸かしシャワーを浴びる。
石鹸で身体を洗いながら無意識に勃起したペニスに触れた僕は、
流れ続ける泡とお湯の中で静かにオルガスムスをむかえた。

 電話にはエリからの着信履歴が残っていた。
珍しく湯槽で眠っていた僕はアタマがぼうっとしていたので
冷えたビールをゆっくり飲みながらソファにうなだれた。

窓から涼しい風が入り込み次第に身体を冷やしてゆく。
パジャマを着て二本目のビールのプルタブを開けながらエリに電話をかけた。


「こんばんは。」

「あら、ゴメンね。仕事中だった?」

「いや、もう家で飲んでたよ。何かあったのか?」

「もぅ英司ってさ、私が電話するといつも何かあったと思ってるんでしょ。用事も無いのに電話しちゃ迷惑だったかしら?」
エリは幾分腹立たしげに言った。

「アハハ。そんなことないよ。ゴメンゴメン。」

「じゃいいけど。先日はありがとう。」

「うん、こちらこそ楽しかったよ。それにしても出て行くなら声くらいかけてくれればいいのに。」

「だってあなた凄く気持ち良さそうに眠ってたから。起こさない方がいいかと思ったのよ。それにまた変な夢でも見てたんでしょ? 夜中にとても魘されていたから何度も起こしたのよ。」

「魘されてた? 全く記憶にないな、、。」
僕は驚いてその夢を思い出してみた。

「そんなもんじゃない、夢なんて。」

「でも大抵は覚えてるんだけどなぁ。」

「きっとまたゴリラに噛みつかれる夢でも見たんでしょ?」
彼女はそう言って吹き出した。

「あぁ、確かにそんなの見た覚えがあるよ。つぅか笑い過ぎだろオマエ!」

「だってあの時、凄い大声だして飛び起きたのよ。私もビックリしちゃったわよ。」
僕は自分の事ながら可笑しくなって声を上げて笑いながら聞いた。

「ところで最近は何してんだよ?」

「まだ模索中ね。色々誘われてはるんだけど今はあんまり人と関わりたくないし。あなたは忙しいんでしょ?」

「まぁね。ほら、柳沢って覚えてるだろう? あいつが何処からか拾ってきた子のデビュー曲作りやってるよ。」
僕は三本目の缶ビールを冷蔵庫から取り出した。

「ふぅん、、。」

「相変わらず何でも屋みたいなもんさ。頼まれれば作るし録ってと言われたらレコーディングする。その繰り返しばかりでアーティストやクライアントなんてどうでもいいようなもんだよ。でも今回の子はちょっと面白いかな。まさか、、。」
僕はそこまで話して口を濁らせた。

「まさか、どうしたの?」

「いや、面白い子でさ。柳沢と出来てるんじゃないかって噂もあってね。」
エリはしばらくしてから興味なさそうな返事をした。

「そうなんだぁ。」
そう言った彼女は僕たちの間に流れた長い沈黙を破るように言った。

「じゃ時間が出来たらまた会いましょう。」

「そうだな、落ち着いたら連絡するよ。」

「電話ありがとう。あんまり無理しないでね。」

「あぁ、そうするよ。エリも引き蘢りにはなるなよ。いつでも連絡していいから。」

「わかったわ。あなたもね。それじゃ、おやすみなさい。」

「おやすみ。」


 電話の子機を充電器に乗せ
僕はレコードプレイヤーにのせっぱなしだった「ピンクフロイド」のレコードに針をのせた。
そのアルバムジャケットの裏にある
大木の写真を眺めているうちに、
僕は不思議な気分に陥った。


【三本の枯れた大木】


それはまるで変わらない
現在の三人の関係を表しているようでもあった。


僕と、
美樹子、
そしてエリとのように、、。
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