★戦国に英雄無し★

山光海闇

文字の大きさ
上 下
30 / 44

対立

しおりを挟む

 利家は二人が来る事を予想していたかの様に部屋に招き入れる…

不破勝光
「秀吉をよく知る前田殿は、あの態度をどう見る…」

前田利家
「秀吉は本気で引き抜くつもりだと思う。石の話も本当でしょう」

金森長近
「そうか、それと…今回の和睦の罠を勘づいている可能性はどう思う」

前田利家
「勘づいてこその、我らの調略だったと思う… だからあの場である程度本当の事を言って騙した方が良いのではと悩んでいた…」

金森長近
「そうだったのか…しょうじき前田殿が、仲が良い秀吉に寝返るのかと慌てましたよ」

不破勝光
「では、金森殿は石三倍に惑わされ無かったと…」

金森長近
「…確かに良い話だ、だがあの柴田勝家に勝てるか?私は勝家様が勝つと思う」

前田利家
「ロクヨンで秀吉が勝つ‼  ましてこの三人が寝返ればハチニイで秀吉だ、どうする?」

不破勝光
「あんな簡単に頭を下げる奴を、ずいぶん買ってるな」

前田利家
「あんな奴だから強い、今の大名達は殆んど生粋の武士、卑怯な事や敵前逃亡などを嫌う…秀吉は土下座して許しを請い敵が背中を向けたら切りつける」

金森長近
「卑怯な行為を厭わないと言うわけか…」

不破勝光
「…なるほど…そんな男に偽の和睦など通用する筈が無いな」

前田利家
「秀吉にとって勝負は強いか弱いかではない、生きてれば勝ち、死んだら負けだ…」

不破、金森
「…………」

前田利家
「純粋にイクサの強さで言えば勝家様が遥かに強い、だが奴との戦いでは勝家様のような真っ直ぐな武士は不利だ… それでも、本質を見抜く信長様には子供の様にあしらわれていたがな」

金森長近
「それで、信長様に執着するのか…」

前田利家
「そうかも知れんが、腹の底が読めん奴だ」

不破勝光
「…油断出来ないと言うことか」


 利家の話を聞き、金森と不破はそれぞれに秀吉の調略に対する対応を考えつつ、翌朝早くに柴田勝家の下に向かった。





柴田陣営


不破勝光
「秀吉は和睦を受け入れましたが…約束を守る気はないかと…」

柴田勝家
「ハハハッ…一益もそんな事を言ってたがな、何故そう思う」

不破勝光
「勝家様にバレても良いような、誘いかたで調略を受けました…」

柴田勝家
「なるほど…」

前田利家
「三人ともです…秀吉は、少しでも味方が欲しい… そして、織田家継承を勝家様と争うつもりだと思います」

柴田勝家
「サルが図に乗りおって…やはり、わしが動けない冬場に暴れるきか」

前田利家
「その可能性が高いかと…」

柴田勝家
「そうか…だが何にしても、今はまだ憶測にすぎん、しばらくは秀吉軍の動きを警戒するか」





12月某日柴田陣営


勝家腹心の家臣 毛受勝照
「秀吉が大軍で近江に向かってます」

柴田勝家
「予想通りと言えば予想通りだが、この雪では動けないな…」

「目的は、勝豊様の長浜城…」

「勝豊か…仕方ない、間者として働いてもらうか、戦力を落とさないよう直ぐ降伏するよう伝えろ」




    連絡を受けた柴田勝豊は命令通り降伏して、秀吉軍が次に織田信孝が居る岐阜城を攻める事を勝家に伝え間者としての役目を果す。

    勝家は、信孝にも偽りの降伏をさせ戦闘は柴田軍の到着を待つよう指示した。




    年が明け正月を迎えると滝川一益が柴田勝家与力として秀吉討伐を表明、勝家との約束通り先陣を切って秀吉の領土に侵攻する。



柴田陣営

柴田勝家腹心の家臣 毛受勝照
「滝川殿が伊勢を調略して決起しました、秀吉を迎え撃つ構えです」

柴田勝家
「そうか、雪が深いとは言え動けない訳じゃ無いが…どう思う、サルは直ぐ一益を攻めると思うか?」

毛受勝照
「滝川軍は強い、秀吉もそれは承知のはず、迂闊には手を出さないかと…」

柴田勝家
「…しばらく様子を見るか」


    勝家は悩んだ…出撃出来なくは無いが雪を掻き分けての進軍では疲弊してしまい戦闘では部が悪い、かと言って滝川軍だけに秀吉の相手をさせるのは武士の名折れ…大将としては戦局を見極めるべきだが、勝家の武士としてのプライドが揺れ動き、決断を決めかねていた。





    そんな折、滝川一益から柴田勝家に伝令が来た。
    内容は〝雪解けまで時間を稼ぐ〟と言う事だが、一益のその心意気に柴田勝家の男気が呼応する。



柴田勝家
「出陣の用意をしろ」

毛受勝照
「滝川殿が言う通り、雪解けを待つべきです」

柴田勝家
「サルが大軍で伊勢に向かった、これ以上黙って見ておれん‼」



    勝家は、家臣の反対を押切り出陣を決めた、その勝家の判断で前田利家がある決断をする。





二月某日 
    前田利家 隠れ屋敷


    勝家の出陣命令を受けて前田利家が不破勝光と金森長近の秀吉に調略を受けた二人を隠れ屋敷に呼び出した。



前田利家
「人払いは済んでいる、間者などの心配は要らない」

金森長近
「この三人で内密な話と言う事は、前田殿は秀吉に寝返るのか?」

前田利家
「寝返るとは、棘のある言い方だな…」

不破勝光
「まぁ落ち着け、お互い皮肉など無しでいこう無駄な時間を費やすだけだ…」

金森長近
「………」

前田利家
「さすが不破殿話が早い、二人が察してる通り俺は、秀吉に与力する」

金森長近
「やはり…勝家様を見限ると」

不破勝光
「私はまだ、決めかねるが…」

前田利家
「前にも言ったが、この三人が秀吉に与すればハチニイで秀吉…俺だけ与するとしても、秀吉の勝ちは揺るがない」

不破勝光
「前田殿が柴田軍として最後まで戦えば勝てるのでは…」

金森長近
「そうだ、早まった考えは捨てるべきだ」

前田利家
「違う…早まった考えじゃない、深く考えての答えだ…」

金森長近
「ほぅ…その考え…聞かせてもらえないか…」

前田利家
「…勝家様は、この雪の中を出陣すると決めた、戦地に着く頃には兵が疲弊していてイクサは不利な展開に成るにも関わらずだ… だが、二人が言うように俺がこのまま柴田軍で戦えば秀吉に勝てるかも知れないが、二つに割れた織田軍の戦力はがた落ちする…そこを他国は見逃さないだろう、不利な戦いを力で回避しようとする勝家様の戦いではいずれ滅びる…」

不破勝光
「先のイクサを考えての結論か…」

金森長近
「前田殿の考えは分かった。しかし、私は勝家様に与する」

「………」

無言で不破勝光の答えを待つ二人

不破勝光
「私は、まだ先を読みきれん…」

前田利家
「そうか、しかし二人は俺の部隊とほぼ一緒に行動するだろう…俺が秀吉側に回ったら、直ぐ退却して戦闘に関わるな…後の事は悪いようにはしない、心配するな」


 利家は勝家に与する二人が自分の裏切りを勝家に報告しない様に、負けた時は拾ってやると言う約束をして密談を終らせた。
   







賤ヶ岳の戦いWikipedia
柴田勝家Wikipedia
豊臣秀吉Wikipedia
前田利家Wikipedia参照
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

西涼女侠伝

水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超  舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。  役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。  家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。  ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。  荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。  主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。  三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)  涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

大罪人の娘・前編 最終章 乱世の弦(いと)、宿命の長篠決戦

いずもカリーシ
歴史・時代
織田信長と武田勝頼、友となるべき2人が長篠・設楽原にて相討つ! 「戦国乱世に終止符を打ち、平和な世を達成したい」 この志を貫こうとする織田信長。 一方。 信長の愛娘を妻に迎え、その志を一緒に貫きたいと願った武田勝頼。 ところが。 武器商人たちの企てによって一人の女性が毒殺され、全てが狂い出しました。 これは不運なのか、あるいは宿命なのか…… 同じ志を持つ『友』となるべき2人が長篠・設楽原にて相討つのです! (他、いずもカリーシで掲載しています)

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

陸のくじら侍 -元禄の竜-

陸 理明
歴史・時代
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた…… 

腐れ外道の城

詠野ごりら
歴史・時代
戦国時代初期、険しい山脈に囲まれた国。樋野(ひの)でも狭い土地をめぐって争いがはじまっていた。 黒田三郎兵衛は反乱者、井藤十兵衛の鎮圧に向かっていた。

処理中です...