全てを失った僕は生きていけるのだろうか?

ナギサ コウガ

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32.ケイに対する気持ち

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L's eyes

 ケイ達がいた洞穴を後にしてネルヤ邑方向に向かう。
 まずはネルヤ邑の状況を遠目からでも確認をしたい。その後邑に戻る。強行軍ではあるが今日中に邑に戻らないといけない。
 状況は思ったより深刻になりそうだ。
 キュメネ邑、ネルヤ邑、そして我がイキシ邑。全て正体不明の者達の襲撃を受けている。なぜいきなりこんな状況になったのか分からない。
 否、ソニヤ殿のキュメネ邑は違うか。保護した民が反乱を起こしたというのだ。ソニヤ殿は邑の運営に関わっていないため詳細は分からないようだ。
 私達はネルヤ邑の状況確認のために外出している。邑の会議でキュメネ邑の状況確認の話題が出たが遠いため後回しとなった。だがソニヤ殿という証言者を得る事が出来た。
 かなりの収穫だと思う。
 これでネルヤ邑の状況確認が取れたら情報を持ち帰ろう。
 だけど襲撃者の正体は未だに把握できない。ここ数日にかけて発生しているから共通の目的を持った者達だと思いたい。その目的が分からない。
 このような分析は私は苦手た。どちらかというと姉さんの領分だ。今も姉さんは考え事をしている。もう分析を始めているのかもしれない。
 今も何か考えているようだし。
 私は私の出来る事をやろう。
 気になるのはケイの側にいた女性だ。全身を覆っているから外見は全く分からない。殆ど言葉を話さなかった。
 どうやらケイが保護するつもりでいるようだ。自分自身の生活が確立していなかったにも関わらずだ。
 ケイは優しい。邑の男達に比べて力は完全に劣っている。しかし人となりは好意が持てる。だが現実を見ていないように思える。
 私がケイの立場であれば保護をする事など選択しない。本人の選択を否定する訳にもいかないから何も言わずに立ち去った。本当に大丈夫だろうか?
 不本意ながらソリヤ家から追い出した手前がある。彼には無事に生活を続けていって欲しい。遠くから見守る程度だ。私からは何もできない。
 今はソリヤ家を守らないといけない。それは私達の邑を守るという事だ。
 襲撃者は何者なのだろう。
 私は直接会っていないためどれほど凄い異能者なのか分からない。
 私は勝てるのだろうか?生死を掛けた戦いをした事が無い私に。


A's eyes

 私は洞穴に未練を残しながら立ち去る。
 できればケイ君と一緒に洞穴で暮らしたい。だけど・・・邑の事情が私の行動を縛る。悔しい。
 でも無事に生活できているようだったから、その点はよかった。
 ケイ君は優しい。厳しい条件で生活できるか本当に、本当に心配していたから。
 心配といえばあの怪我がすっかり治っているような感じだったわ~。
 邑から出て行ったときも足は引きずったままだったし。左腕の骨折は治っていなかったはずなのだけど・・。
 ケイ君の動作から推測するに治っているみたいよね。治癒能力が高いのかしら?怪我はして欲しくないけど治りが早いのであれば安心ではあるわね。
 でも思い切っちゃたわ。ケイ君に抱きついてキスしちゃった。
 ケイ君は記憶が無いから分からないわよね。頬にするキスは”親愛”の証。額にするのは”献身”の証。唇もあるけど・・・そっちは結婚しないとね。
 私の気持ちは頬へのキス。うふふ。他の人達には見えないようにコッソリしたから気づかれてないわ。
 
 気になるのは・・・・あの女性。
 結局正体は分からなかった。気になる。気になる。気になるわ~。
 たった数日でどうやって出会ったのだろう?邑を出てから三日程だよ?
 ケイ君の様子はきちんと分からなかったけど。あの女性は明らかにケイ君に恋している。
 私には分かる。分かるわ~。
 洞穴でふたりっきり。なんて羨ましい。
 ライラもケイ君を特別な人として意識しているみたい。珍しく態度に出ていたから分かったのだけど。
 上手く隠そうとしていたけど私には分かるわ。なんたってお姉ちゃんだからね~。
 う~。
 ライバルが増えてしまった。
 てゆーか、あの女性がかなりリードしているよね。一緒に暮らしているんだもの。
 別の意味でも気になるのよね~。なぜコートで全身をすっぽり覆っていたのか。フード目深だし。ご丁寧に口元も布で覆っていたし。手まで隠しているんだもの。
 でもね、少しだけ見えたのよ。左の腕が赤く爛れていたのを。酷い怪我だった。もしかしたら全身にあのような怪我が・・・。だから体を見せたくなかったのかもしれない。
 多分その身体的特徴で身元がばれると思ったのかもしれないわ。なんとも痛ましいと思った。
 もしかして奴隷なのかしら?近隣の邑特にキュメネ邑は奴隷を労働力としているから。今回の混乱で逃げ出したのかもしれないわね。それをケイ君が保護したのかしら?
 でもケイ君は奴隷の事を知っているのかしら?少なくても私は話をしていないわ。多分奴隷の制度を知って無いわよね。守ると言っていたから絆されたかもしれない。
 もし奴隷の女性が変な事を考えたら。ケイ君の人の良さに付け込んで危険な事を考えたら・・・。
 どうしよう。気になるわ~。

「姉さんどうしたんだい?気になる事でも?」

 ライラ。
 ・・・いけない。少し考え事していたみたい。

「うん、ちょっとね。後で相談するわ」
「?いきなりどうしたの?いいけど」

 何を一番大事にするかは私の中では答えが出ている。それは”家”の方針とは違う・・・と思う。
 でもそれは大事な事よ。
 どうしようかな。
 邑の事はできる事は少ない。それ以上に私の出来る事は少ない。各邑の長達に頑張って対処してもらうしかないわね。
 私は私の大事にモノのために行動を起こそう。
 
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