望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ

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ベルフォール帝国編

彼らの事情は知らなかったよ

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「俺は信用できねえ!親分の命を平気で狙っておいて失敗したら寝返る奴だ!絶対に裏切らない保証は全く無ねぇ。あと腐れなく殺っちまいやしょうぜ」

 う~ん。
 いきなり何言ってんの?
 こんなつもりじゃないんだけど。
 
「ぬかせ!貴様こそ傭兵じゃねえか。金で靡く奴らに裏切りの事を言われたくねえ!実際金で転んだヤツを知っているぞ!」

 こっちもか・・。
 おい、おい、おい。
 
「んだぁと!俺は卑怯なお前達とは違えよ!俺達は親分に忠誠を誓っているんだ!ねえ!親分!」
「お?・・あ、ああ。そうだね」

 ボクに聞いてきたよ。
 巻き込まないで欲しいんですけど。

「傭兵が忠誠心を言うなんざ片腹痛い。お前達の主は金だろうが。金に媚びてろ!俺はお前がいつ裏切るか心配で仕方ねえ」
「なぁんだと!親分に負けて折れていると思いきや、よく回る口だなあ。やっぱり俺が止めをさしてやるよ」
「おいおいおい。そんな事ができるのかよお。土壁から出れずに肝心の親分を守れなかった傭兵共がよお。どうやったら止めをさせるのか教えてほしいぜ」
「ケッ・・言ったな。元々気にらなかったんだ。親分の配下になってもいつ裏切るか安心できねぇ。やっぱりその減らず口を黙らしてやるよお」

 ・・抜刀しやがった。
 君ねえ・・・。
 
 なんでこうなった。
 こんなにいがみ合う事あったけ?
 
 う~ん。
 昨日の出陣時にボク達ザシャ達に襲われたじゃない。
 ルーク達は土壁に閉じ込められたから危なかったよ。
 土壁から脱出してきたルークがボクの無事を確認して全力で謝っている所までは・・特に問題無し。
 そん時はザシャは気絶していたからなぁ。ちらっとザシャ達をルークは見ていた気がするけど特に反応なかったよね?
 ルークに急かされるように当初予定の作戦を実行したよね。
 後方からの襲撃で砦前面に集中していた敵を散々に翻弄して散らしまくった。食料もほぼ全部焼いてやった。
 あっというまに敵の戦意は無くなっていった。
 文字通りの大勝利だったし。
 そういや敵方の司令官含めた結構な人数を捕虜にできたらしい。
 結構な賠償金を支払う事になるでしょうとクラウス爺は計算していたね。ま、細かい所は分からないからお任せだ。
 そこまではルークに特に変化はなかったと思うんだよね。
 回収したザシャ達を砦内の牢に拘束したまま一夜明けたよね。特にルークからは何もなかった。
 
 ちょっとおかしかったのはルークに配下が増えるよと話をしてからか。
 自分にも会わせろと引いてくれなかったんだよなあ。
 そっからザシャを見るなり喧嘩を売り始めたのがよく分からない。
 口ぶりからは知り合いな感じはするけど。
 ・・知り合いなんだよね?
 
 口喧嘩が殺し合いに発展しそうな勢いなんだけど。と、いうか剣を抜いているから既にそうか。
 殺してやりたいほど恨みがあるのか・・。
 ザシャ達は牢にいるから実際にはならないと思うけど。
 でも、なんで五分程度の時間で殺し合いに発展しそうになるのさ。

「貴方達いい加減にしなさい!」

 鈍い音とクレアの声が同時だ。
 いつの間にかクレアがルークに近づいて剣の腹で脳天を殴ったみたいだ。
 ルークは頭抱えてしゃがんでいる。かなり痛そう。
 ぷぷ・・。笑いたいけど笑っちゃダメだ。

「いいですか二人とも。殺し合いをするならレイ様の許可を得てからになさい。あなた達はレイ様の家臣なのですよ。家臣同志で殺し合いとは恥ずかしくないのですか!」

 ・・殺し合いは認めるの?ダメだよね?
 口喧嘩程度なら咎めるつもりはないけどさ。クレアをちらりと見ると。
 ブルーブラックの瞳が吊り上がっているんですけど。これは完全に怒っているな。クレアは滅多に怒らないから怒ると迫力があるんだよなあ。ボクは怒られた記憶ないけどね。・・うん。
 殺し合いに発展した事が規律を乱していると認識したんだろうか。
 ザシャは拘束されているから殴られなかったようだけど。クレアの睨みにビビっている感じだ。随分と従順になったようだ。

 クレアを怒らせちゃいけない。

「でも俺は何もしちゃいないんだ。この傭兵が勝手に喧嘩をしかけてきたんだよ」
「だからと言って買う必要なないわよね?その恰好で死にたいの?そんなに死にたいなら今殺してあげます」

 クレアは依然と睨んだままだ。ゆっくりと剣の柄に手をかけていく。
 ・・怖い。
 ザシャはもう言葉が出ない感じのようだ。顔面蒼白だもの。ちょっと効き過ぎじゃないかと思う。
 折角命を拾ったのに。ルーク挑発するからだ。ちょっと間違っていたらルークは手裏剣を投げていた可能性だってある。

「ルーク。あなたもです。主の許可も得ずに勝手に剣を抜く馬鹿がいますか?あの時の誓いは虚偽だったのですか?」
「おお・・。いつつ・・。姉御申し訳ねえ。つい血が昇っちまいやした。ですがコイツらグラウセゲワンドですぜ。信用できやせんぜ」

 クレアの一撃が相当聞いているルークは脳天を気にしつつ涙目で主張してくる。
 グラウセゲワンド?
 なにそれ?
 クレアも心当たりはなさそうだ。表情を見ればわかる。ボクも知らない。
 まだ顔色が悪いザシャを見ると・・苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
 
 ・・何かありそうだ。バックボーンも知らずに配下に置こうとしたのは失敗だったか?
 でもルークだって後ろ暗い事はあったし・・。
 
「グラウセゲワンド?知らないわね。説明して頂戴」
「へい」

 ルークは説明する。

 お金を積めば人攫いや暗殺まで何でもする裏稼業の集団の名称だそうだ。
 この集団は灰色のローブ姿に片目のライオンの紋章をつけているのが特徴らしい。
 依頼の成功率はかなり高い。謎の死をとげた貴族の殆どがグラウセゲワンドの仕業と傭兵界隈では特定されているそうだ。
 傭兵は護衛の任務も請け負う事があるそうで傭兵仲間が何度かグラウセゲワンドによって失敗したとか。
 かくいうルークも何度か依頼を達成できなかったんだって。
 詳細は不明ながらも特殊な技能を持った者達が多いと噂されている集団だとか。

 何それ・・・怖いんですけど。
 この二人暗殺者集団のメンバーだったのか。
 牢に入れているし、追加で制約を加えているから安全だけど・・・ちょっと早まったか。
 いいや・・ザシャ達は大丈夫だよ。・・・多分。
 怖い組織だなあ・・。裏の組織は帝国にもあるんだなあ。
 
「最初は食べるために誰もやらない仕事を受けていたらしいです。やがて裏の仕事が本業になってしまったと先代から聞きました」

 へ?
 へ~。

 聞こえた方向から話をしたのは・・・ボクの中では無口キャラ確定したティモだ。
 ボソボソ声で聞きづらい。目深のフードで表情や感情も伺えないし。
 なんとなくボクを見ているような気がしたので身振りで続きを促してみる。
 
「僕達はアブラム先生に拾われたんだ。魔法の才能があったみたいで魔法を教えてもらう事ができた。凄い事だと分かったのは後からだったと思う。その後先生はどこかの貴族に招聘されて筆頭門下が僕達の面倒を見てくれていたんだけど。生活力っていうのかな・・それが無かったみたい」
「困ったそいつがグラウセゲワンドと接触したらしい。俺達の能力が使えると思ったとか聞いたな。いつの間にか門下は解体され、その組織の所属となって酷使される事になったったのさ」

 ザシャも思う所があったようで後を続けてきた。変わらず苦々しい表情だ。さっきとは意味が違うように思えるけど。
 
「それが貴方達の今までね。衣食住が保証されれば裏の仕事をする必要が無いと理解しても?」

 ティモは無言で頷く。・・もう声を出さないのかよ。替わりに少し回復したザシャが引きとったようだ。

「色々なしがらみがあるから簡単じゃないが大筋はそうだ」

「・・そうだ?」
「あ・・大筋はそうです。俺達だって殺しは本意じゃないん・・です」

 クレアはザシャの言葉遣いが気に入らなかったようだ。慌てたザシャは言い直している。
 ボクは未だに舐められている感じだけど。クレアには従順だって事?随分と素直だ。

「本意じゃなくとも何人殺したんだ!貴様達は俺の仲間も殺したんだぞ」
「・・それは俺達じゃない。同じ組織に所属しているが仲間意識は全くない。俺は傭兵と戦った事は無い」

 ルークは尚も噛みつく。過去に相当あったようだ。心底許せない空気を纏っている。
 同じ空気を吸いたくないってか。
 ルークとザシャ達は役割が違うからなるべく顔を合わせないよう注意しよう。
 
「ルーク。貴方はこの者達と直接相対した事はないのよね?」
「へい。会っておりやせん。俺が知っているのはもっと長身でごつい筋肉があった。こんな弱っちい奴じゃありやせん」

 ザシャが一瞬反応を示したけどクレアの目線を感じで大人しくなる。これはクレアに任せた方がいいかも。
 
「ならば。ザシャ達に恨みは無いわね。所属している組織が問題があったけど彼らは脱退すると誓ったわ。それまでの業はどこかで清算する必要はあるけどルークは必要無いわね?」
「へ・・へい」

 渋々であるけどルークは引き下がりそうだ。いつの間にか剣も収めている。
 強引な気もするけどクレアの迫力に負けたようだ。
 ボクにはできない事だなあ。
 
 とりあえず問題はクリアしたと思うから次の話をしないと・・。



「御曹司。こちらでしたか」

 背後から声がかかる。
 クラウス爺・・か。
 戦後処理の話し合いはついたのかな。

「どうしたの?」
「些か困った事になりましてな。またしても軍勢が近づいているようです」

 朝食は何にしましょう・・みたいな雰囲気でさらりと怖い事を言われた。何?

「クラウス卿。どういう事でしょうか?ベルトラム公国の援軍ですか?」
「さて。旗印を隠しておりますので味方では無い事は確かですな。先程斥候を出しました。しばらく待てば所属が分かるでしょう。念のため捕えた者達に尋ねましたが首を捻っておりました」

 旗印は自分達の所属を示すものだ。帝国では野盗も旗印を持っているらしい。
 旗を見せない事は敵対行為とみなしていいそうな。なかなかワイルドだね。
 それにしても困った。

「また戦いにならないといいんだけど。クラウス爺はどう思っているの?」
「数はベルトラム公国軍よりは少なそうですな。まずは報告を待ちましょう。迎撃態勢は整えておりますゆえ焦る事はございませんぞ」

 お~、準備万端だね。さすがクラウス爺だよ。
 それにしても次から次へと・・。
 
 これじゃ師匠を追いかける事できないじゃん。

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