望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ

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ベルフォール帝国編

逃がしてくれないだろうな

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「レイ様!これは逃げきれない気がしますわ!」
「クラウディア様。その通りです。残念ながらレイ様の走る速度よりレッドエイプがやや速いようです。追いつかれるのは確実ですよ」

 ぜー。
 ぜー。
 ・・・クレア。
 はっきり言うねぇ。ま、事実だから反論ができないけどさ。クラウディア様の言うようになったね。
 
 悔しいけど、この中ではボクが一番足が遅い。
 
 一応魔力を脚力に回せば皆より早く走れるけどね。でも今は脚力に回している余裕はない。別の用途に使う予定だ。
 まずはボク達を追いかけているレッドエイプの様子を確認する。これ大事。
 平然とボクをデイスったクレアに向けてハンドサインを送る。走っているのに、ため息が聞こえた気がするんですけど。そんな余裕なんかい。・・夜は覚悟しとけよ。
 ため息を聞くのとボクの足元の感覚が無くなるのは同時だった。サイン通りにクレアがボクを抱えてくれたのだ。体格の差は相変わらずだ。
 
「風下に回って走ればいいのね?」
「そう。できれば足止めをして逃げたい。まだいい考えはないけどね。少なくても足は遅くするつもり。その後はボクは多分気絶すると思うから。その時は宜しくね」
「しかたないわね。でも無理は禁物よ。作戦が決まったら早く教えてね」
「うん、頼むよ」

 クレアにはこれだけで伝わる。一方クラウディア様達には伝わってないようだ。説明していないから仕方ないか。
 しかもボクの足が遅い事を気にしていると思われたみたい。間違ってないだけに反論が難しい。年下のクラウディア様にも負けているのが地味に悔しい。

「レイ様!足が遅いのを気にしてらしたのですか?それでしたら、わたくし達もお運びしますわよ」

 ・・やっぱりか。誤解は速やかに解かないと誤解されたままになる。足が遅いのは事実だけどさ。

「違いますよ。魔法に集中したいからクレアに運んでもらっているのです。走りながらは無理なんですよ」
「そうでしたか。ここで魔法を使われるのですか!」

 クラウディア様のキラキラしたブルーの目が眩しい。この人はブレない。何事も興味が優先する。好ましい性格ではあるのだけど。
 今は逃げている最中だよ。頑張って足を動かそうね。

「そうです。相手の能力を探るだけなのでクラウディア様は足を緩めないで走ってください」

 言いながら手首の腕輪に触れる。さて、練習通の精度で発動できるか・・だ。
 こんな想定で何度もやっていた。
 大丈夫!ボクはできる子だ!
 
 魔石に魔力を流し込む。
 魔石がほんのりと黄色く輝いたのを確認してから発動。キーワードを呟く。

「発動(アクティベーション)」
 
 発動した魔法を指先に絡める。最近やっと出来たんだけど、ほんと制御が難しい。でもここまで発動すれば大丈夫のはず。
 指で輪を作り目の前にかざす。単眼鏡をイメージする。
 最後のキーワードを呟く。

「魔力視(ウォッチ)」

 視力が急激に変わっていく。
 成功だ!
 これで遠くの相手を近くに見る事ができる。且つ、魔力量を確認する事ができるのが便利な点。
 本来の目的とは違うかもしれないけどボクは魔力量の情報が欲しい。これは魔法使いとしては絶対に必要な情報だ。
 この魔法は最近やっと使いこなせるようになった。ずっと前に教えてもらったエイブラム爺の指南書のお陰だ。
 現物は持っていないから小さい頃の記憶が頼りだった。失敗ばかりだったけど、やっと形になった。
 ボクもちょっとづつだけど成長していると思いたい。
 この世界には望遠鏡が無い。みんな目が滅茶苦茶良いから必要なかったんだろう。
 ボクは平均程度か。魔法発動時は二百メートル先のヒヨコのクチバシが良く見える。一番目が良いクレアでもヒヨコの視認は難しいらしい。
 滅茶苦茶見える便利な魔法だ。
 自分の視覚をほぼ占有するのがデメリットの一つ。だからボクが安心できる状態じゃないと使えない。今はボクより強い女性陣がいるから使える。ハハハ・・。
 
 気を取り直してレッドエイプに視覚を集中する。ターゲットを見つけるのも慣れた。何事も練習あるのみ!
 
 視て、すぐに分かった。
 色々普通じゃない。
 魔力が半端なく大きい。ちょっと想定以上かも。
 でも・・魔力が漏れまくりだ。これは自身の魔力制御ができていないパターンに類似している。えっと・・本当に魔物なのか?
 魔力を溜め込んで制御できるから魔物と呼ばれる。魔力漏れまくりはあり得ない。
 
 え~?
 どういう事?
 
 レッドエイプの表情も妙だ。
 顔に生気がないと表現すればいいのか。生命力が感じられない。
 そう思うと動きもぎこちない感じがするかも。バランスが取れていないような気もする。
 四足歩行を無理に二足歩行にしているからと最初思ってたけど・・。
 再度集中。今度は核となる部分の魔力を確認。魔物も魔力の源泉だ。ここを潰せば魔物の力は半減以下になる。急所だ。
 レッドエイプの核は胸骨の真ん中あたりか。人間と同じだ。なのだけど・・外に漏れている魔力よりもかなり少ない。

 なんだ?
 こんな魔力でコイツ・・生きていられるのか?
 視たままを信じると暴れすぎて魔力切れが近くフラフラという事になるんですけど。

「どう?何か分かった?」

 クレアの声に我に返る。
 そうだった。対応はどうする。
 相手の魔力が少なくなっているのは確かだと思う。
 帝国に入国してから魔物狩をしていないけど今までの経験では討伐可能と示唆する情報がある。
 だけどライラは敵わないと判断している。

 どっちを採用する?
 ボクとクレアだけなら・・・。

「大丈夫。レイ様とクレアで一当てしましょう。勝算はあるんでしょ?」

 またボクの表情から読み取ったな。そんなに表情には出していないと思っているのだけど何故かクレアはお見通しらしい。
 良いか悪いか。どっちなんだろね。
 なんにしろ後退はボクの信条じゃない。

「うん。レッドエイプは弱っていると思う。攻め方は何種類かはあるよ。クレアがいればできると思うんだ。手伝ってくれるかい?」
「勿論。一人で向かわせないからね。それでクラウディア様達はどうするの?」
「できれば宿営地に急いで報告して欲しいけど。無理だろうね」
「その通りね。距離を取って遠距離からの支援でいいと思うわ」

 クレアはクラウディア様達に声を掛けて止まる事を伝えている。
 クラウディア様はともかくライラも驚いたような表情だ。ま、そりゃそうだ。
 地面に降ろされたボクはいくつかの仕込みの準備を始める。
 このペースだと三分程度で接敵だ。時間が無いので二人への説明はクレアに丸投げ。
 
 別の腕輪に魔力を流し込む。体の力が抜けていく感じだ。魔力使いすぎたか。
 緻密な魔力制御が必要な場面だ。
 
 実践に勝る経験なし。
 何だかんだでボクはヒリヒリする実戦が好きらしい。
 
 レッドエイプを討伐する事に集中だ。

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