望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ

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サンダーランド王国編

大混乱

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 状況が全く把握できていない。
 城塞が攻撃を受けているのは鐘と狼煙で確実だと思う。
 早馬にその情報が持たされていると良いのだけど。
 焦る気持ちを抑えて梯子と階段を駆け降りる。ボクが慌てても好転はしないが急ぐ。

 ひたすら走り、砦の入口に向かう。そこにはジェフがいて、何やら指示をしている。
 早馬の指示を受け取ったのかもしれない。ボクに気づいたジェフは近づいてくる。
 
「若!閣下からの指示が届きました!それと鐘の音を聞きましたか!?」
「聞いた!城塞が攻められている!鐘もそうだけど、狼煙を確認した!それも・・白だよ!」

 聞いたジェフが驚いている。・・早馬の情報には無かったという事か。ボクはジェフに目で早馬の知らせの内容を聞きたいと促す。すぐに立ち直ったジェフは説明を始める。

「最新の伝令ではないやもしれませぬが。早馬の指示はここからの撤退です。ここと三、四の砦の兵をまとめ後退するようにとの事です。領都で防衛をするようにとの指示でした」
「ボク達の撤退時間を稼ぐために城塞で食い止めるという事だよね?でも、もう城塞内に攻め込まれているよ。城塞の兵も十分じゃない。大丈夫なの?」
「城塞内の状況は分かりかねます。ですが指示には従わねばなりません。素早く撤退しないと閣下の後退が遅くなります。非常に・・非常に残念ですが速やかに退きましょう」

 よく見るとジェフは見た事が無い厳しい顔になっている。
 戦わず撤退する事。主の緊急事態に駆けつけられない事。諸々悔しい事があるのだ。それは毎日のジェフを見ていれば分かる。
 ・・ボクは・・今のボクに出来る事をするしかない。
 撤退しろという意味は色々ある。ボクが捕まってはいけない。この戦場の兵をまとめて防衛線を構築する。

 その間にもいろいろ確認は必要だ。

 兵をまとめる撤退場所をどこにするか。ある程度離れないと安全は確保できない。
 城塞から領都に早馬は出ているのだろうか。出ていなくてもこちら側からも情報を出す必要はあるだろう。
 他の砦はどうだろうか。他の砦に指示が伝わりどのルートで撤退してくるかだ。下流の三の砦が一番離れているから行動が把握しづらい。城塞の救援に行かないかも不安だ。
 城塞からの次の早馬や他の伝達手段で続報が来ていないかの確認も必要だ。そもそも城塞内で交戦中という事実が未だに理解できていない。こちら側から早馬を出すべきか。
 ジェフが既に手配していると思うけど。砦の破棄が必要となる。敵軍に利用させたくない。だから持ち出せない糧食や武器は燃やすなりして破棄しないといけない。
 ああ、そうだ。負傷兵もいるんだ。他にも非戦闘員もいる。彼らは早めに撤退させないといけない。
 
 思った事をジェフに伝える。ボクの話を聞いている最中にも周りの兵に指示を矢継ぎ早に出している。その態度は落ちついていて安心させるものだった。さすがは副団長だ。ボクも見習わねば。
 既にジェフはいくつか指示は終えていたようだ。撤退の準備と砦の破棄を優先して進めていたみたい。ジェフ自身が見落としていた事についても、いちいち頷いて肯定してくれる。更にこうすれば良いという案にしてくれる。緊急時でありながら講義を受けているようだ。
 
「緊急時にも関わらず若が思ったより冷静で安心しましたぞ。このような状態で落ちついて考えをまとめる事は非常に大事です。是非今後に役立てて頂きたい。ですから若はご自身の命を最優先に行動してくだされ」
「うん。どのみちボクは撤退戦に役に立たないし。素直に撤退するよ。大事な荷物は部屋に残していないから、すぐ撤退しても大丈夫。それよりジェフはどうするの?」
「当然拙者は一番最後に砦を出ます。踏ん張って一針(1時間)ですな。それ以上になると撤退できなくなります。全て拙者にお任せあれ。若にはいつもの二人を護衛につけておきます。急ぎ撤退を」
「分かった。でも時間だけは気をつけてよ。後退した軍は実質的にはジェフが指揮を取る事になるんだからね」

 ジェフは一瞬だけ目を見開いたようだ。すぐに笑みに変わり、呵呵と笑う。何か気に入ったらしい。そんなジェフの笑いだ。

「そうですな。指揮を任せて頂けるなら死ぬわけには参りませぬな。すぐに準備を終わらせて若を追いますぞ。まずは御大将は早急に安全な場所に移動を。場所は既に護衛の者に伝えておりますが北の崖上を目指してもらいます。急がれよ!」
「分かった。それじゃ待っているよ」

 ボクがこの砦で出来る事は無い。出来る事は馬に乗ってきたに向かうだけだ。

 厩で馬に乗り、護衛二人と一緒に出口に向かう。
 
 負傷兵や非戦闘員は既に北口から外に出始めている。追いついたボク達は彼らを先導するように先行する。
 振り返ると二の砦は火がかけられていた。予定通り河側の外壁を燃やしているようだ。黒煙が広がっていて視界を妨げている。退避するには丁度いい。これも予定通りだ。
 ・・あとは三と四の砦の動きか。
 
 本当は城塞への救援に向かわないといけないのだろう。ジェフが言うにはフレーザー侯爵とチェスターさんがいる。そこにフィーラン第一軍団団長もいる。
 根拠は良く分からないけど。この三人がいればなんとかなるらしい。ボクはそれを信じるしかない。


 しばらく行軍ていると隘路が見えてくる。崖に挟まれた狭い道だ。この道を通ると領都に通じる。次の防衛線はこの隘路で行う事になる。集結先はこの崖上の高台だ。
 負傷兵や非戦闘員は領都に目指して撤退してもらう。最低限この隘路の道を守らないといけない。敵軍の接近がないかを確認するためボクは馬に乗ったまま登っていく。
 
「次期様。撤退する負傷者と非戦闘員の列が伸びています。様子を見るために殿を確認してきます。護衛は一人になってしまいますが宜しいでしょうか?」
「問題無いよ。寧ろ僕より負傷者達の護衛を優先して欲しいよ。上に登ったらボクは敵軍の状況を確認するだけだから」
「では申し訳ございません。・・・次期様を頼むぞ」

 もう一人の護衛にボクの警護を任せて列の最後尾に馬を走らせていく。
 ボクは残った護衛と一緒に崖を登っていく。最後尾を見ると先行している兵がちらほらと見える。二の砦は激しく燃えている。ジェフは撤退できただろうか。

 とんでもない事になったもんだ。全員の撤退は難しいだろうけど。多くの人達が逃げられるようにしないと。
 撤退の列は今の所二の砦方向からしか見えない。四の砦からは近づけば目視できるけど。三の砦はどこから撤退してくるんだろうか。下流だから早馬も簡単に到着できないのはあるけど。

 
 ん?


 変な音がするぞ。・・・なんだこれ?
 山鳴りのように地に響くような音だ。
 音の方向は西側だ。あそこは低木の木々が広がる森がある。その森の向こうは・・・レッドリバー河がある。レッドリバー河は四の砦から緩やかに蛇行している。
 この崖下には狭い道がある。その道は四の砦に続いている。撤退する時に使うと想定している道だ。森沿いだから細い道なので完全に撤退するには時間がかかる。この道の向こうの森から音がする。

 何かは分からない。でも・・嫌な予感しかしない。良い事である筈が無い。

 ボクの結論を待たずに、ソレは現れた。

 ソレは・・・・大量の水だった。

 ・・・津波・・・。僕の前世の知識がこの大きな濁流を目の前にして思い出す。

 濁流は森を飲み込み、勢いよく崖下まで流れ込んでくる。

 まずい!

 このままでは隘路まで流れ込む!

 何かをしないといけないと考えるも・・。濁流は早い。
 あっという間に隘路を飲み込んでしまう。

 ・・・そんな。あの道には・・・・。

 なんで。

 一体どこから水が・・。

 呆然とするしかなかった・・・。
 

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