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サンダーランド王国編
敵襲?
しおりを挟む今日も松明の灯りを頼りに周辺の哨戒だ。子供は夜更かししちゃいけないんだけど・・・。
砦の周辺に未確認の魔物が近づいてくるとかいう噂が流れてから、こんな調子だ。実際に襲われた兵もいるらしい。特に深夜に出て来るらしいので夜起きている事になる。
ローテーションを組んで哨戒はしているのだけど眠れない日が増えたのは確かだ。哨戒していないくても妙な奇声が聞こえてくるんだ。・・・やっぱりよく眠れない。
前線に連れていかれて数日は何もしないでいいと言われ。・・実際に何もしていなかった。その後はそれどころじゃなくなった。
最初は軍団長や主要幹部に紹介と前線の説明だった。
レッドリバー河はでかい、広い、激しい。・・よくこんな河が流れて被害がでないなぁ~と思うくらい。大きい。対岸は一番遠くて二キロ以上離れているそうだ。その対岸には戦争を仕掛けてきたカゾーリア王国がある。
対岸にはすごい数のカゾーリア王国軍がいる。天幕を広げ駐屯しているみたい。その数は・・少なくても五万はいるらしい。対してフレーザー家は一万。予備兵や寄騎の軍が合わせて三千だから・・数では圧倒的に負けている。
侵攻を防いでいるのは河のお陰らしい。流れも速く河底は馬には微妙に深くて進めない。喫水の関係で船は小船程度しか出せないみたい。つまり大軍を一度に渡河する事ができないんだ。
それでも渡河できる地点はいくつかあるそうだけど。その四か所全てにフレーザー家は砦を築いて防衛しているんだって。
一番渡河しやすい地点が一番大きい砦が築かれている。砦というよりは城砦の規模で結構大きかった。ここはフレーザー侯爵率いる主力隊が守っている。第一軍団の大半と寄騎が入っている。
上流方向の地点は第五軍団、下流方向の地点は第四軍団。それぞれ寄騎も入っている。堅守を方針として守っているそうだ。いずれも城砦とは結構離れている上流は一番離れているので連絡を密に取っているらしい。
夜も絶えず対岸の動きを監視しているそうで、不意な渡河は今までも、これからも無いそうだ。この砦群を築いてからカゾーリア王国の軍を悉く退けていたそうだ。
確かにボクが着陣してからカゾーリア王国側の攻撃を見ていない。そういう意味では安全だと最初は思っていた。
・・・魔物が出るまでは・・・。
今日の哨戒も問題はなさそうだ。一体どんな魔物が出るんだろう。どうにも腑に落ちない。
だって・・河岸は大きな石や砂利ばかりが広がっている。砦を築いている土地も砂利多めの砂地が広がっている。草木は殆どなく起伏もない。生き物が暮らせる土地じゃないのだと思うのだけど。
・・本当に魔物がいるんだろうか?しかも深夜にしか出ないなんて・・・。腑に落ちない。
「今日も問題なさそうですな。若、戻りましょう」
本日も護衛という名目でボクと行動しているジェフさん。砦に戻る事を促してくる。・・そういえばボクの呼び方も変わったし、口調も随分優しくなった。フレーザー侯爵が軍団長やその幹部にボクが次期当主だと宣言してからだ。
まだ慣れないけど・・・慣れないとね。必然的にボクも口調を変えるように言われた。いずれ家臣になるのだからとフレーザー侯爵に言われたから。・・・慣れないと・・ね。
「うん。そうだね。目撃情報が暫く出ていないよね。何もない事は良いのだけど。ここまで無いと存在を疑問に思うよね」
「・・そうですな。当直が周辺を監視している時に正体不明の魔物に襲われたと、今わの際に報告したとか。各砦の報告を合わせないと分かりませんが、現在は目撃情報すらないでしょうな」
不眠になる日々が増えるのが嫌だという事じゃないんだけど。こんなに遭遇しないものなのだろうか?亡くなった兵の報告はどの程度正確だったんだろう。
・・気になる。ボクが知っている範囲での魔物が取る行動じゃない。
少し調べてみようかな。現在のボクの役割は無い。今回の深夜の哨戒も必要無いと言われたけど。時間があるボクができるのはこれくらいだ。
「調べたそうではありますな。ですが砦間の移動は若でも禁じられてますぞ。閣下に許可を頂く必要がございますな。緊急時以外は文書での要望になります」
やっぱりか・・。勝手きままにはいかない事は承知している。
「それじゃ書くよ。亡くなった兵の目撃情報を聞いた人に話を聞きたいんだ。急ぎではないけど早めに調べたい。もし、仮にだけど誤った目撃情報であれば現状の哨戒はしなくて済むはずだからね」
「その通りですな。ですがその当人がいるかどうか。殺された者も伝えた者も寄騎と記憶しておりますな。確か領都の防衛に戻った第二軍団と一緒に寄騎も戻ったとか」
「初期段階に遭遇した人達はここにはいない可能性があるって事?寄騎って簡単に前線から戻れたりするの?」
「その例はありませんな。某が聞いた限りだと忠誠を疑われる行為があったとか。前線に置くのは危険と判断されたようです。今頃は封地で謹慎しているでしょう」
「封地は遠いという事だね?更に、寄騎となると簡単に聞き取りも難しいよね?」
「その通りですな。ですが試みても宜しいのでは?軍中の手続きについての若の勉強にもなります。やってみなされ」
調査は難しそうだけど。文書は書けと。・・成程、勉強と思えばいいのか。結果として今後の哨戒が不要となれば少しは貢献できるかもしれない。戻ったら文書を書こう。
カン!カン!カーン!カーン!
遠くから鐘の音が聞こえる。これって・・。敵襲をしらせる鐘だ。素早くジェフを見る。
「こんな夜中に敵襲とは・・。音が遠いですし、あの方向であるなら・・・。四の砦でしょうな。しかし妙ですな。暗がりであの地点の河は渡れませんぞ。一体何を考えているのやら」
厳しい顔に変わったジェフだけど口調はいつも通りだ。四の砦は上流にある渡河地点を守る砦だ。第五軍団が守っている鉄壁の砦で、殆ど攻められた事はないらしい。
上流の渡河地点は小船でも難しいらしい。ましてこんな星明りも無い暗がりで渡るのは不可能だそうだ。フレーザー家でも試みたのだけど無理と判断したんだって。
「僕達は二の砦に戻って連絡待ちでいいんだよね?」
「その通りです。河は終日警戒していますから二の砦には今の所敵の接近はなさそうです。ですが四の砦からの要請がある場合に備えないといけません。他には寝ている部下達を叩き起こさないといけませんな」
軽口をたたくジェフは松明片手に馬を器用に砦方向に促す。他にも護衛二名がボクを挟むように移動を始める。彼らも片手に松明を持っている。
敵襲警戒の鐘を聞きながら二の砦に移動する。四の砦は離れているから昼間の視界でも視認は難しい距離にある。僅かに松明の灯りが見えるようにも思えるけど・・・。堅守を旨としている四の砦ならば大丈夫なんだろう。実際にジェフは第四軍団長の実力を認めているみたいだし。
ボクは自分に出来る事をするべきだ。
規律を守り、英雄的行動をしない事。余計な事は皆に負担をかける。
そして、敵襲等の緊急時には皆の迷惑をかけないように安全な所に退避する事。大人しく言われたままに行動するのみだ。次期当主と言われても好き放題しては良くない。
沢山の人に釘を一杯刺されたからね・・・。無理はしない。安全な所にいる。これが僕のミッション。
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