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サンダーランド王国編

独り立ちを考えてみる。

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 カーライル地方はサンダーランド王国の南の国境に近い位置にある。
 周辺は深い森に接していて魔物の発生が他の地方より多い。代々この地方を治めるトラジェット家が武に特化するのは仕方ないのだろうと思う。
 特徴のある産業は無いと講義で学んでいる。領民も猟師や騎士、傭兵になる者が多い。やっぱり地方の風土なのかもしれない。
 たいした産業はないけど領主の館に近いウエストブリッジ街はそれなりの業種の店が集まっている。
 今日はお披露目の日なんだけど会場である領主の館にボクはいない。ウエストブリッジに出掛けているのだ。
 父にお披露目の邪魔になるから追い出されたからね。憤るクレアを宥めて街に出掛けたんだよね。
 もともとあの時にお披露目の出席はするなと釘をさされたし。あの日からボクは別邸で暮らすように命令された。
 別邸に暮らしてもエイブラム爺の所には通えるし、クリフォードの稽古も格段に増えた。
 生活待遇が酷くなった以外は良くなったかもしれない。
 後は・・・ボクに関連していると思うんだけど執事交代が行われたみたい。クリフォードは元執事になった。契約があるから数年はトラジェット家にいるらしいけど。

 ま、そういうことだ。

 クリフォードから聞いた話だと今日のお披露目で弟のスタンリーを次期領主と宣言するらしい。
 きちんとした手順を踏んでいないと説得したが、おそらく強硬するだろうとの事。
 そうだろうと思っていたし。正直言うとこの地方の領主にはなりたくないとボクは密かに思っている。さすがに誰にも言って無いけど。
 そろそろ意思を明確にしたほうがいいかな?
 だけどまだ準備が整っていない。

 今日ボクがこの街に来たのは単に外に出ていろと言われただけじゃない。
 そう、ボクは僕を思い出す前から地道に進めていたのだ。

 独り立ちの計画を。

 貴族の籍から抜けたら自立しないといけない。
 状況によっては使用人とか何人かついてくると思う。クレアはついてくる事確定だから除外。
 そんな人達の生活の面倒を見ないといけないん・・じゃないかな?。
 よく考えていたよね。
 それでボクはある事を実行している。今日はそこの様子を見るのが目的だ。歩きなれた街並みをスイスイと歩いていく。
 街の中心街にあるひときわ広い建物。周辺の店舗を3つ程の土地を使っているから目立つ。

 レックス商会。

 ボクが提案。有志の人達を集め設立した商会。数年前から経営が軌道に乗り、この街で一番の商会になりそうな勢い。
 この商会の収入で独り立ちしても当分は大丈夫なはずだ。この商会をモデルとして他の街にも商会を立ち上げネットワークを作っていく。
 僕もボクの考えには大賛成だ。狭い世界より広い世界を回りたい。
 この商会があればボクはどこにでも行けるかもしれない。
 商会に入るときは裏口から入らないといけない。ボクが会長である事は極力内緒にしておきたいから。

 裏に回って敷地にはいる。裏はいくつかの工房がある。この工房で商品を作って売る。商会の主力商品は殆ど裏の工房で作っている。
 工房の職人も少しづつだけど増えている。順調にいけば他の街にも商会を作る事ができるかもしれない。
 ボク達に気づいた従業員が声を掛けてくる。

「会長、おはようございます。会長代理はいつもの奥にいらっしゃいますよ」
「ありがとう。今日も頑張ってね」
「はい。会長も無理しないでくださいね」

 ニコリと笑いかけてくる。また8歳のボクに丁寧に対応してくれる。ここの従業員は皆いい人達だ。
 建物に入り会長代理がいる部屋をノックする。
 中から反応がありボク達は入室する。

「若様よく来られた。今日は遊びに来たのかな?」

 机の上で書類仕事をしている小太りの叔父さんが言う。なんか眩しい。頭ツルツルなんだもん。
 髪の毛フサフサなのに。この商売を始めてからスキンヘッドに反り上げたんだ。理由を聞いたら迫力がでないからなんだって。
 迫力を出すなら目つきも気にした方がいいのにさ。
 小じわのよったヘーゼルの目は優しい。実際に優しい。今日もニコニコとボク達を迎えてくれる。
 ほんと・・よくわかんないや。
 
「うん、時間取れたから遊びにきたよ。叔父さんボクの家で今日なにあるか知っている?」
「家・・トラジェット家でかい?今日は・・お披露目だったかな。・・・ああ、そういう事か。若様はそれでいいのかい?」

 さすが情報通。そしてボクの立ち位置も分かっている。ま、その辺の話は既にしていたみたいだったし。
 コリン叔父さんはボクの母上の父親の弟だ。確か・・大伯父っていうのだったか?
 本人も面倒らしいからコリン叔父さんでいいらしい。勿論クレアにとっても大伯父にあたる人なんだ。
 ボクは母上から色々聞いている。知らないといけない事。気をつけないといけない事。秘匿しないといけない事。色々だ。
 その話の中で叔父さんの存在も知っていた。商売の事を考えた時に手伝ってくれそうだと真っ先に思いついたのがコリン叔父だ。
 過去のボク凄い。コンタクトはクレア経由だ。
 思った通りボクの商売の話に乗ってくれた。フォレット家から独立したかったらしい。やっぱり珍しい人だ。
 
「うん。いいと思う。そもそもトラジェット家にそれ程未練はないんだ。そもそも母上がいないもの」
「ブレンダ・・か。確かにのう。私もフォレット家には未練が無いしな。家を出る時期は決まったのか?」
「まだだよ。でも今日弟が次期領主になると宣言されるから。明日からでもいいくらい。できれば当主から除籍にしてもらったほうがいいと思うんだけど」
「確かにな。私の場合で考えると・・そう簡単ではなかったな。特に若は子供だからなぁ。簡単には除籍できないと思うな」

 なんと・・・そんな簡単ではないのか。結構早く自由になるかと思ったのに。・・がっかりだ。

「除籍以外にも少々問題があるかな?」
「え?どういう事?」
「若は除籍になったら一人で家を出るとは思ってないだろ?」
「あ、うん。多分だけど何人かは一緒に来ることになると思うよ」

 多分。・・大丈夫だと思うけど。・・一人もいなくてもいいけどさ。多分いると思いたい。

「それだよ。若の事だからついてきた者の面倒は金銭面から見ると思うだろ?」
「え?・・うん。ああ、そういう事?」

 ああ、そっか。

「分かったようだな。若は本当に聡いな。今の商会の体力じゃちょいと厳しい。このカーライル地方以外で商会を運営しないとな」
「ここでは順調なの?」
「アルボーニ商店が競合していたけどね。どうやら手を引くみたいだな。他の地域にいくのかもしれない。売り上げが落ちたからだと思うが中央通りからは既に撤退しているしね」
「・・競争だから仕方ないよね。恨まれる事はしていないんでしょ?」
「勿論。きちんとした商売での競争だよ。何しろウチの店の品は優れているからね」

 ここでの商会は順調に売り上げを伸ばしているのか。競争商店が撤退するのは少し気になるけど。

「そうなんだね。こっちでは王都に進出始めているよね?あっちは順調?」
「私は明日から王都の商会に行くよ。まだ基盤はできていないかな。あと数年は必要だと思う。そうだねぇ・・・最短で三年かな?」
「三年かぁ。・・長いね」

 なんてこった。それまで我慢しないといけないのか。
 ボクががっかりしているのが分かったのか叔父さんはフォローしてくれる。

「そんな事はないさ。丁度いいと思った方がいいよ。若は今8歳だろ?この国の成人は11歳だ。成人になれば除籍の手続きも問題なく行われる」
「成程。その間に色々準備しておけと言う事だね」
「そうだな。こういうものは準備し過ぎても足りる事は無い。寧ろ上手くいかない方が多い。長いとは思わないぞ」

 ああ、確かに。これまでだって思うように事は進まなかった。努力が実ってきたも最近だものね。
 
「そうですよ。坊ちゃまは学ぶ事は多いのですよ。クレアも三年は少ないと思います。きちんと目標設定して学習していかないと時間が足りないですよ」

 クレア・・・お前もか。
 寝る間を惜しむつもりはないけど。・・・頑張ろう。

 ・・・確かに色々やる事が多い。覚えたい事が多すぎて時間が足りないというのは段々と理解できてきたかも。

 うひゃ~。
 大変だ。

「うん。そうだね。長くなかったね。ボク頑張るよ」

 独立のための第一歩。
 大変だけど頑張ろう。
 
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