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コミュ障吸血鬼、外出に成功する

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「スキルの使い方?」

 リオナが聞き返してきたので、頷いて答える。

「そういえば、言ってなかったっけ。私がやったみたいに、スキルの名前を言えば使えるはずだよ」

 言われてみれば確かに。
 早速やってみよう。

「【日光遮断】」

 ……言ってみたけど、特に変わったところはない。
 試しに、ドアを開けて日差しが当たっている廊下に手を出してみる。
 でも、何も起こらない。
 ということはつまり、スキルの効果が出てるってことになる。
 よしっ、と思って部屋を出る。

「ティアナ!?」

 相変わらずの眩しさで目が痛くなってふらつく。
 それに、出た瞬間、部屋にいた時よりぐったり感が増した。
 これは、早めにアンナのところに行かないと、力尽きる。
 力尽きる前に辿り着かないと。
 少しふらつきながら廊下を歩く。

「ちょっ、ちょっとティアナ、大丈夫!? そんなにふらふらで……本当に行くの!?」

 ふらつく僕を支えながらそんなことを訊ねてくるリオナに、僕は頷いて返す。

「だって、無理やり連れてかれて、可哀想だったから……」
(な……っ、なんて優しいの!? あんな変態に優しくするなんて、ティアナの優しさは底なしすぎるよ!)
「そ、そっか……じゃあ、私が背負っていってあげるよ。ね? それくらいはいいでしょ?」

 なんで聞いたのかよくわからないけど、取り敢えずリオナに背負われることにする。

 ◆

 リオナが背負ってくれたお陰で、ただでさえ落ちている体力を温存してお城の門の前まで来ることができた。
 ここからは自分で歩くからと、リオナに降ろしてもらい、門に近づく。
 すると、門番の人が槍を僕に突き付けてきた。

「なぜこんなところに吸血鬼がいる! おい、騎士団長を呼んでこい!」
「わかった!」

 槍を突き付けてきた門番の人が、もう一人の門番の人にそう指示を出した。
 僕はと言えば、槍を突き付けられた驚きで腰を抜かして、地面に尻餅をついていた。
 リオナに杭を突き付けられた時以来の怖さだ。
 そんな僕のところに、すぐさま駆け寄ってきたリオナが、僕を庇うように立つ。

「貴様、なぜ吸血鬼を庇う! 吸血鬼の仲間か!?」
「だったらなに? 言っとくけど、あなたごとき、私の相手にもならないから。矛を納めるなら今のうちよ?」

 勇者の末裔が言うと、説得力が違う。

「なんだと……!?」

 僕から門番の人は見えないけど、リオナの言葉で門番の人が怒っているのはわかった。
 この後どうなるのかとひやひやしていると、アンナの声が聞こえてきた。

「ティアナー!」

 おかしいな……満面の笑みを浮かべて僕を呼びながら走ってくるアンナが見える。

「ティアナ! 来てくれたのね! あれ? でもなんで灰にならない……あっ、【日光遮断】か! あぁ、もうっ、それはどうでもいいの! ティアナが来てくれるなんて、こんなに嬉しいことはないわ!」

 僕を抱き締めながら喋り倒すアンナ。
 あぁ、うん、この感じ、なんかもう実家のような安心感を覚える。
 でも、精神を削られる。

「き、騎士団長? まさか、その吸血鬼が、仰られていた……?」
「そうよ、私が面倒を見ることになった吸血鬼のティアナよ。可愛いでしょう? でも、槍を突き付けてた件については、後で話があるわよ?」
「ヒッ……!? も、申し訳ございませんでした!!」

 アンナに、笑ってるのに全く笑ってない笑顔を向けられた門番の人が、勢いよく頭を下げて謝った。

「大丈夫だった? 怖かったでしょう? あの怖い人には、後で私が教育を施しておくから、安心して? ティアナに仇なす者は、誰であろうと私が天誅を下すから!」

 数時間越しの僕との再会で気持ちが昂っているのか、言ってることがおかしい。
 いつから僕は、アンナにとって神のような存在になったんだ……。

「これだから変態は……」

 リオナがボソッと呟いたのが聞こえてきた。
 でもって、やっぱり、アンナのことを変態としか呼ばないんだ……。
 幸い、当のアンナには聞こえていなかったようで、僕のことを相変わらずの秀麗な微笑みで見つめてきている。

「それにしても、どうして来たの? もしかして、私に会いたかったの?」
「ううん」
「えっ……じ、じゃあ、なんで?」
「無理やり連れてかれて、可哀想だったから……」

 僕が答えると、アンナはショックを受けた表情から一変、ものすごく嬉しそうな表情になった。

「もうっ、ティアナってば! そんな嬉しいこと言わないでよっ、体が疼いちゃうじゃない!」

 もうっ、と言いながら僕を強く抱き締めるアンナ。
 えっ、待って、ものすごく離れてほしい。
 なに、体が疼いちゃうって。
 このまま襲われたりしないよね?
 ものすごく不安なんだけど。
 そしてやっぱりリオナは――

「これだから変態は……」

 と呟いていた。

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