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第二話 アルベルト=ランケス 2
しおりを挟む僕、アルベルト=ランケスの住んでいた所はフォルティナの最北端にあるすごくのどかな村だ。
小さな村なのでもちろん魔法師学院なんてない。
だから村の子は十四歳になったら親元を離れて近くの町にある学院で四年間寮生活をするんだ。
僕もその時がきたら近くの町の魔法師学院に入学するはずだったんだけど…。
その前に十三歳になったらどの村にも最低一人は居る魔法官に適性を見てもらうっていう通過儀礼があるんだけど、僕はその時に四属性の適性があるって言うのが判明してしまったんだ。
適性はどれだけ才能に恵まれていない人だとしても最低一属性は持っているのがほとんどで、普通の人で二属性。
秀才とか非常に優秀な人は三属性あるんだけど、それが四属性なんて言われた時はそりゃ僕も両親も喜んださ。
我が家から天才が生まれた!
将来の英雄だぞ! ってね。
小さな村だから瞬く間に僕の噂が広がっちゃって、村の希望だ! とか村の宝だとまで言われるようになったんだ。
僕もその時はそうなのかなーなんて浮わついた気持ちになっていたし、魔法官もフォルテナ魔法学院に推薦状を書いてあげるなんて言うもんだから…。
じゃあお願いします! ってお願いした結果四属性持ちが学長の目に止まり入学が認められた。
入学して始めの一ヶ月は魔法基礎理論とか体内循環法などの座学を受けて知識を深めていった。
当時は話が出来る友達と呼べる存在もいたし、クラスメイトとも普通に話をしていたと思う。
事の始まりは二ヶ月目に入ってから行われた実技訓練の時だった。
術式を構築していざ魔法を放とうとした時、魔法が放てなかった。
その時は構築が上手くいかなかったんだなぁ、とか体内循環が上手く出来ていなかったかもって事で終わったんだけど…。
その次の実技も、またその次の実技も魔法は出なかった。
さすがにおかしいと思って、学院にお願いして紹介してもらった医師に診てもらった結果、僕には先天的な障害がある事が分かった。
魔力を上手く外に放出出来ない障害。
先天性魔力放出機能不全。
体内で循環、生成した魔力が体内に留まってしまい外部に放出する事が出来ない病で、類似した障害を持つ人は何人かいるみたいなんだけど、僕ぐらい全く出ない症例は初めての事らしい。
障害がある。
それが原因で魔法を撃つ事が出来ないんだ。
そう伝えられた時は本当に目の前が真っ暗になって、あまりのショックで医師の前で地面に座り込んで泣いてしまった。
とても悲しかったし、すごく悔しかった。
英雄になれるかも。
そんな夢を見ていた自分に対しても何て馬鹿な夢を見ていたんだかと腹が立った。
そして何よりも村人総出で僕を首都に見送ってくれた皆に申し訳が立たなかったし、落胆させたり失望されるのが怖くてこの事はまだ伝えられていない。
それでも心配してくれた友達にはこの事を打ち明けた。
その時は大変だろうけど気を落とすな、なんて言ってくれたけど…。
それから徐々に友達も僕を避けるようになり、クラスメイトも話しかけてくれなくなっていった。
やがて校内を歩けば奇異な目で見られ、陰口を叩かれたり嘲笑の対象になっていって…僕の周りに味方と呼べる人はいなくなっていた。
障害の噂が広がるのも早いもので、ついたあだ名は「不発」。
毎日が辛くて学院を転校する事も考えた。
だけどフォルテナ魔法学院の入学金はとても高額である事を知っているだけに簡単には転校出来ない。
父さんと母さんが身を切る思いで僕の為にかき集めて出してくれたお金だから…。
そんな両親の期待を裏切りたくない。
今はただその一心で学院に残っている状態…かな。
でもそのお陰で、じゃあないけど分かった事があるんだ。
人気のない森で魔法を放つ練習をしていた時、魔法が飛ばないイライラでつい魔法構築を崩さないまま木を殴ってしまった事があったんだ。
そうしたら殴った木が激しい炎に包まれながらメキメキと音を立てて倒れる事態に発展しちゃってさ。
あの時はすごく焦って鎮火も出来ないままその場から逃げてしまったんだけど、あれは凄い発見だった。
結局その火災による延焼はなかったんだけど、不審火として放火の疑いあり、としばらくの間自警団が見廻りを強化するっていう事態になったんだけどね。
本来は至近距離で魔法を撃つような事はあまりしない。
いくら魔力による障壁が体を保護しているとはいえ、下手すれば自身が放った爆炎や石つぶて、真空の刃や氷の塊の余波が障壁を突き抜けて自身に当たるリスクがあるから。
魔法使用時に発生する魔法障壁は物理攻撃に対して全くと言っていいほど防御効果がない。
これは入学してから座学で習った事だけど、物理防御の魔法は別に存在していて、剣や弓矢等の攻撃を防ぐ時はそちらの魔法を使わないといけない。
魔法使用時に発生する障壁はあくまで相手の使用してくる魔法を軽減または無効化させるだけであり、弓矢などを射られた場合は普通に刺さるので注意する事、だそうだ。
だから木を殴り付けた時は手の皮が剥けたし、血が出た。
あの時は痛かったなぁ…。
あれから誰にも見られないようにひっそりと色々試してみて分かった事がある。
一つ目は「殴る強さによって魔法の威力が変わる」事。
これはそのままの意味で、対象を弱くゆっくり叩いたりした場合は弱めの威力になるし、素早く強めに殴るとそれなりの威力が出ることが分かった。
二つ目は「素肌で直接触れた時が最も威力が高い事」だ。
さすがに硬いものを殴ると手が痛いので、グローブを着けて殴ったんだけど、想像していた威力より遥かに低かった。
グローブを脱いで同じ速度と威力で殴ったら予想していた威力で魔法が発動したから、多分そういう事なんだと思う。
実戦授業で弱々しい炎しか出していないのは手に布を巻いているからっていうのもあるけど、威力を高くしてこれ以上悪目立ちして目をつけられたくないって言うのがある…。
「はぁ……卒業までずっとこんな毎日なのかなぁ…」
その前に進級試験で留年とか退学になるかもしれないけど。
ゴーーン…ゴーーーン…。
間もなく昼休みが終わりだという合図の鐘がなる。
戻りたくはないけど、教室に戻らないといけない。
僕は立ち上がってズボンについていた土と葉っぱを払い落とす。
校舎からやや離れた木々が生い茂る雑木林。
天気のいい日は問題ないんだけど、雨の日はここで時間を潰す事が出来ないから困るんだよね。
「ホント、いつまでこんな生活が続くんだろう…」
足取り重く、僕はのろのろと教室へ向かって歩き出した。
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