飛ばない魔法は魔法じゃない!? ~no distance,no magic~

セビィ

文字の大きさ
上 下
1 / 8

プロローグ 出会いは衝撃(物理的な意味)と共に

しおりを挟む



「さぁ、いらっしゃい…」

 少年からやや離れた所にいる金髪の少女が、銀髪の少年を迎え入れるかのようにそっと両手を広げる
 足元が砂地、四方が3マルトルメートル程の壁に囲まれた正方形のだだっぴろい空間。

 時刻は真夜中。

 天窓から入る月明かりだけがうっすらと二人と辺りを照らしている。

「で、でも…」

 少年は及び腰でおろおろと慌てふためく。

 年の頃は互いに十四、五歳。
 スカートとズボンの違いはあるが、二人が身にまとっているのは全く同じ色とデザインの服だった。
 学校の制服、と言った方が分かりやすいだろうか。

「遠慮しなくていいのよ…」

 シャリ…と砂を鳴らして少女が微笑みながらじわりと距離を詰める。
 詰められた距離と同じくらい少年が後ずさる。

「遠慮とかじゃなくってっ!こう…倫理的に、ね?」

 必死に友好的な笑顔を浮かべてこんな茶番を終わらせようと試みた少年だったが、少女はそれを聞いてかぶりを振る。

「違う…違うわ……」

 キッッ!と少女がブルーの瞳で少年を真っ直ぐ見据えた。

「私が…。私がそうして欲しいと言っているのよっ!!」

 真剣な顔でビシィ! っと自分の顔を親指で指しながら少女が吠える。

「さぁ!! アル!!」
「神様ぁ…」

 どうしてこんな事になってしまったんだろう。
 神に祈りながらアルは空を仰ぎ見る。

 空に浮かぶ銀色の月が目に映り、まるで僕の瞳みたいだなぁ…なんて詩的な事を考えてアルは現実から逃避しようとするが彼女はそれを許さなかった。

「アルベルト=ランケス!! 早く私を―――――思いっきり殴りなさいっ!!」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・


 四方を海に囲まれたヴァレシアーノ大陸。

 その大陸の西部一帯を領土とする国家、フォルティナ魔法王国。
 国家の名に「魔法」が入っているだけあって魔法によって栄えている国。

 国内にある村や集落を除いた中規模以上のほぼ全ての町に国家が運営する「魔法学院」なる機関が存在し、魔法を使う者、すなわち魔法師の育成に力が入れられている。

 数ある学院の中でも首都フォルテナにある学院は規模、技術共に最大・最高を誇り全国各地から秀でた能力を持った魔法師達が自薦、他薦を問わず集まっていた。

首都の学院に入学するという事は優秀な魔法師であると言うことが国によって証明されたという証拠であり、能力によっては将来的には国の中核を担う存在ともなりうる。

 そう。

 フォルテナ魔法学院に入学している魔法師は、全魔術師達にとって羨望せんぼうと憧れの存在と言っても過言ではないのである。

 これは、そんな首都の学院に通うこととなったアルベルト=ランケスという特異な力を持った一人の少年と周囲の者達が織り成す物語である。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

夫より強い妻は邪魔だそうです

小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」 夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。 この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。 そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思ったのに何故か色々と巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...