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4章
40。エピローグ
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目を開けると、森だった。
とても鮮やかな緑の樹々に、生茂る草花。
まあ目を閉じる前にも森にいたのだけど、これは随分と様子が違う。
「雪もないし、なんか全体的に青々としてるし……それにちょっと暑すぎない? こっちって季節までおかしいの?」
「いや、夏は暑いもんだし? これくらいは普通じゃね?」
あ、そうなんだ。まあ夏ならーーじゃなくて。
今って三月よね?
「フィアが消えてから三年近く経ってんの。なんか、時間の流れ方があっちとこっちで違うらしいぜ?」
「大体はこちらの方が早いらしいですが、たまに巻き戻ることもあるみたいですね」
「何それ……ワケわかんなさすぎてついていけないんだけど……」
そういえばこの世界、私の常識なんて通じなかったわね。すっかり忘れてたわ。
「もういいわ、突っ込むだけ無駄だろうし……それで、ここはあなた達の世界で間違いないのね?」
「そっ、無事に戻れたみたいで良かったよ」
「自分達だけなら何度も往復してますが、ソフィーを連れている時にどうなるかはぶっつけ本番でしたからね」
「ーーってことは今までも探しに来てくれてたの……?」
恐る恐る聞けば「当然だろ?」「条件があるので、毎日とはいきませんでしたがね」と返された。
そっか……ずっと会おうとしてくれてたんだ。ーー素直に嬉しい。
そう、感動してしんみりしてたのに。
「で、さっきの続きだけど。フィアさ、オレにしとかない?」
「へっ? え、何が?」
「だから、結婚相手ですよ。もちろん僕ですよね?」
「え、えぇぇっーー!?」
ーーまさかこんな爆弾発言が落ちてくるなんて。
「あの、その……あなた達、恋愛的な意味で私のこと好きなの? じょ、冗談じゃなく?」
「今さらそこ?! フィア鈍くない?」
「それこそ今さらですね。ソフィーは最初からこうですよ」
……ホンっとーに失礼な猫ね。ってこれも今さらか……
けど、どうしよう。これってどっちか選ばなきゃなのよね?
でも二人とも私にとっては大事な猫で、それにどちらかを選んでしまったら、選ばなかった方は……?
そんなの……
「……ごめんなさい! 私その、まだあなた達のどちらかを選ぶのは無理って言うか! 二人とも大事な家族ーーというか大事な飼い猫だと思ってるから、とりあえずそれじゃダメかしら……?」
直角になるくらい深く、勢いよく頭を下げてそんな事を一気に言えば、二匹揃ってキョトンとされた後で爆笑された。
えっ……今の笑うとこ?
「いや、ダメって言うか……なに、フィアそんな事で悩んでたわけ?」
「は? いや、そんな事って……」
「とりあえず、両方でいいんじゃないですか? 離婚制度もちゃんとありますしダメなら別れればいいだけですから……まあ逃がすつもりないですけどね?」
……ええっと。これはどこから突っ込めばいいのだろうか?
「ねぇ、普通に考えて両方はダメよね? それともなに、こっちでは重婚もアリだっていうの?」
「あー、うん。特に禁止されてないから」
「ええまあ、アリよりのナシくらいですかね?」
「……それって結局ナシじゃないの!」
なんか昔同じような、でもちょっと違う会話があったような……まあそれは置いておいて。
「ならやっぱり、どっちか選ばなきゃなんじゃないの……?」
「いや、そんな事ないと思うけど?」
どういう事かと視線だけで問えば、マゼンタはニンマリと笑った。
「誰も選ばなくていいよ。フィアがここに居てくれれば、オレはそれだけでいいから」
「……僕は、僕だけを選んでほしいですけど。今のところはそれで構いません」
まあ気長に落としますよ、とシアンが肩をすくめる。
えっと……ひとまず現状維持でオッケーってことかな?
ビックリした……無駄に驚かされて損した気分だ。
でも、とにかくお許しが出て良かった。
付き合ってすらいないのにいきなり結婚とかハードルが高すぎる。
「それはそうと……言葉の一つや二つ、今もらってもバチは当たらないと思うんですよ」
「そうそう、オレら滅茶苦茶努力したもんな! 一生分くらい頑張ったし!」
「「ちゃんとソフィー/フィアの気持ち聞かせて?」」
左右の耳から綺麗なユニゾンを吹き込まれて。
射すくめるような視線から逃げたいのに、逃げられない。
ああ、これ。詰んだかしら。
「…………大好きよ、二人とも」
「それは恋愛的な意味で?」
「うっ……ハイ……」
退路を塞がれてしょうがなく肯定すれば、二人ともニヤニヤと笑った。
「ま、ギリ及第点かな」
「ちょっと物足りないですけどね。『愛してる』くらい言って欲しかったですが」
「なっ……自分は言わないくせに人に言わせようとするのってどうなの?!」
「愛してますよ」
「……!?!?」
うわ、ダメだこれ……。
飼い主は私のはずなのに、いいように転がされる未来しか見えない。
「それじゃ……覚悟してくださいね?」
「時間なら、これからたっぷりあるしな?」
私の二度目の異世界生活はまだ始まったばかりだけど。
この二匹から逃げられないことだけは確定しているらしい。
ーーそれがこの上なく嬉しいなんて、きっと気のせいだ。
とても鮮やかな緑の樹々に、生茂る草花。
まあ目を閉じる前にも森にいたのだけど、これは随分と様子が違う。
「雪もないし、なんか全体的に青々としてるし……それにちょっと暑すぎない? こっちって季節までおかしいの?」
「いや、夏は暑いもんだし? これくらいは普通じゃね?」
あ、そうなんだ。まあ夏ならーーじゃなくて。
今って三月よね?
「フィアが消えてから三年近く経ってんの。なんか、時間の流れ方があっちとこっちで違うらしいぜ?」
「大体はこちらの方が早いらしいですが、たまに巻き戻ることもあるみたいですね」
「何それ……ワケわかんなさすぎてついていけないんだけど……」
そういえばこの世界、私の常識なんて通じなかったわね。すっかり忘れてたわ。
「もういいわ、突っ込むだけ無駄だろうし……それで、ここはあなた達の世界で間違いないのね?」
「そっ、無事に戻れたみたいで良かったよ」
「自分達だけなら何度も往復してますが、ソフィーを連れている時にどうなるかはぶっつけ本番でしたからね」
「ーーってことは今までも探しに来てくれてたの……?」
恐る恐る聞けば「当然だろ?」「条件があるので、毎日とはいきませんでしたがね」と返された。
そっか……ずっと会おうとしてくれてたんだ。ーー素直に嬉しい。
そう、感動してしんみりしてたのに。
「で、さっきの続きだけど。フィアさ、オレにしとかない?」
「へっ? え、何が?」
「だから、結婚相手ですよ。もちろん僕ですよね?」
「え、えぇぇっーー!?」
ーーまさかこんな爆弾発言が落ちてくるなんて。
「あの、その……あなた達、恋愛的な意味で私のこと好きなの? じょ、冗談じゃなく?」
「今さらそこ?! フィア鈍くない?」
「それこそ今さらですね。ソフィーは最初からこうですよ」
……ホンっとーに失礼な猫ね。ってこれも今さらか……
けど、どうしよう。これってどっちか選ばなきゃなのよね?
でも二人とも私にとっては大事な猫で、それにどちらかを選んでしまったら、選ばなかった方は……?
そんなの……
「……ごめんなさい! 私その、まだあなた達のどちらかを選ぶのは無理って言うか! 二人とも大事な家族ーーというか大事な飼い猫だと思ってるから、とりあえずそれじゃダメかしら……?」
直角になるくらい深く、勢いよく頭を下げてそんな事を一気に言えば、二匹揃ってキョトンとされた後で爆笑された。
えっ……今の笑うとこ?
「いや、ダメって言うか……なに、フィアそんな事で悩んでたわけ?」
「は? いや、そんな事って……」
「とりあえず、両方でいいんじゃないですか? 離婚制度もちゃんとありますしダメなら別れればいいだけですから……まあ逃がすつもりないですけどね?」
……ええっと。これはどこから突っ込めばいいのだろうか?
「ねぇ、普通に考えて両方はダメよね? それともなに、こっちでは重婚もアリだっていうの?」
「あー、うん。特に禁止されてないから」
「ええまあ、アリよりのナシくらいですかね?」
「……それって結局ナシじゃないの!」
なんか昔同じような、でもちょっと違う会話があったような……まあそれは置いておいて。
「ならやっぱり、どっちか選ばなきゃなんじゃないの……?」
「いや、そんな事ないと思うけど?」
どういう事かと視線だけで問えば、マゼンタはニンマリと笑った。
「誰も選ばなくていいよ。フィアがここに居てくれれば、オレはそれだけでいいから」
「……僕は、僕だけを選んでほしいですけど。今のところはそれで構いません」
まあ気長に落としますよ、とシアンが肩をすくめる。
えっと……ひとまず現状維持でオッケーってことかな?
ビックリした……無駄に驚かされて損した気分だ。
でも、とにかくお許しが出て良かった。
付き合ってすらいないのにいきなり結婚とかハードルが高すぎる。
「それはそうと……言葉の一つや二つ、今もらってもバチは当たらないと思うんですよ」
「そうそう、オレら滅茶苦茶努力したもんな! 一生分くらい頑張ったし!」
「「ちゃんとソフィー/フィアの気持ち聞かせて?」」
左右の耳から綺麗なユニゾンを吹き込まれて。
射すくめるような視線から逃げたいのに、逃げられない。
ああ、これ。詰んだかしら。
「…………大好きよ、二人とも」
「それは恋愛的な意味で?」
「うっ……ハイ……」
退路を塞がれてしょうがなく肯定すれば、二人ともニヤニヤと笑った。
「ま、ギリ及第点かな」
「ちょっと物足りないですけどね。『愛してる』くらい言って欲しかったですが」
「なっ……自分は言わないくせに人に言わせようとするのってどうなの?!」
「愛してますよ」
「……!?!?」
うわ、ダメだこれ……。
飼い主は私のはずなのに、いいように転がされる未来しか見えない。
「それじゃ……覚悟してくださいね?」
「時間なら、これからたっぷりあるしな?」
私の二度目の異世界生活はまだ始まったばかりだけど。
この二匹から逃げられないことだけは確定しているらしい。
ーーそれがこの上なく嬉しいなんて、きっと気のせいだ。
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