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4章

37★ 食べてあげる条件

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さっきの『食べる』はそういう意味かと遅ればせながら理解した三人だが、理解したからといって納得できるかはまた別の話なワケで。


「理由を伺ってもいいでしょうか?」

そう問うシアンの口調は変わらず丁寧なものだが、その実苛立ちを隠そうともせず真っ正面からジュリアスを睨みつけた。

だが射殺しそうな視線を平然と受け止めて、ジュリアスは無邪気に言葉をつむぐ。


「犬猫はーー特に飼われているのは、大して面白くもない生を送ってることが多くってね~。何回か味見をしたことはあるんだけど、どれも似たりよったりで飽きちゃった!」
「は! 人間は違うって言うのかよ?」
「んー、人間も大して変わらないんだけど。でもたまにすっごい当たりが出るんだよね! それがガチャ回してるみたいで、射幸心をくすぐられるっていうかー」

エリザベスとかSSRキター! って感じだったよ~と意味不明な単語を連発され、同じく不機嫌そうにしていたはずのマゼンタはけむに巻かれて黙り込んでしまう。


そんな短気な猫二匹とお巫山戯のすぎる神様に挟まれ、気の進まない様子を見せながらもエリザが仲裁に入った。

「おい、ジュリアス。あんまりこやつらを煽るな。猫らもイチイチ突っかかるでない、話が進まんではないか。ーー飼い猫は口に合わんと言うがな、こやつらはつい最近まで野良猫だったのじゃ」
「うん、それでー?」
「こやつらに名を与えて首輪を付けたのは迷い子じゃ。マヤとも懇意にしておるしーー以前こやつらをロクでもない組織ハコから解放したのも、迷い子の娘じゃったの」
「ーー! おい、女王様っ?!」

驚愕で目を見開くマゼンタと、ギリッと歯軋りをして女王を睨みつけるシアン。どうやら触れて欲しくない話題だったらしい。


一方ジュリアスは興味を惹かれたらしく、猫たちの方へトテトテと近づいて来た。
二匹の周りをぐるりと一周しながらあちこち視線を巡らせる。


「うーん、色がちょーっと派手なだけで、普通の猫に見えるけど……君たちその歳で迷い子に三人も会ったんだ? 引き寄せやすいタイプなのかなぁ?」
「オマエ、ジロジロ見んじゃねーよ。失礼な神様だな」
「あっはは! そっちこそ神様に向かって失礼な猫だよね! ふふ、面白いな~」
「どうじゃ、興味が湧いたじゃろう?」


ちょっとくらい味見してみないかと誘うエリザに少し考える素振りを見せるジュリアスだったが、しばらくしてにこりと頷いた。

「いいよぉ。猫くんたち、わざわざ修行だか特訓だかまでして時間もたーっぷり掛けてここに来てくれたみたいだし? それに他ならぬエリザベスの推薦だしね! でも~口直しは欲しいかな?」
「なんじゃ? 何が欲しいんじゃ」
「そうだな……君と同じくらい破天荒で、面白い人生送ってる人間がいいなー。食い出がある方がいいから、年がいってると尚いいね! 君の知り合い? というか身内にちょうどいいのがいるでしょ?」

前から美味しそうだと思ってたんだよねーとうっとりする神様に、エリザは頬を引きつらせる。

「まさかお主……サイラスのことを言っておるのか?」
「正解っ! あっはは、ぼくってとっても親切でしょー?」

なんならエリザと同じくらいの年にしてあげるよ! これで三人でまだまだ長ーく遊べるよねっ! とご機嫌になるジュリアスに対し、なんて事を言い出すのかとふるふる拳を震わせる女王様。若干涙目である。

「嫌がらせか? 嫌がらせじゃな!? 全くもって余計なお世話じゃっ!」
「あれ、いい案だと思ったんだけど、乗らないの? じゃあ猫くんたちの話もナシでいーい?」
「ぐっ……それは困るが……わらわができるのは話を持って行くことだけじゃ。確約はできん」
「いーよそれで。ふふっ、じゃあ交渉成立ってことで! ああ、もちろん今すぐとは言わないから、そのうちに、ね」


いやあ、今日は良い日だなぁ! と歌い出しそうな表情で宙返りを決めていたジュリアスは、がくりと膝をついた女王を放置して、改めてシアンとマゼンタの方に向き合った。

そのまま良い笑顔で二匹の手を掴む。


「それじゃあーー食べてあげるね、君たちの時間」
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