163 / 174
4章
36★ 猫は貢ぎ物になりません
しおりを挟む
「にしてもジュリアス、お主そんな格好で何をぐうたら寝ておるのじゃ。ほんにだらしのない奴めが」
呆れた声と裏腹にデレまくった顔で、エリザは『神』と言った相手をムギュッと抱きしめ、頬擦りまでし始めた。
中身が何であれ、可愛らしいもふもふをもふらないなんてそれこそ我慢できない! といったところなのだろう。
対して神様の方も気にするそぶりもなく、エリザにされるがままになっている。
「あっはは! いやあ、この『人をダメにするクッション』って本当にヤバいよね! この前新しく駐在になった神官が貢ぎ物でくれたんだけどさぁ、これ神様でもダメになっちゃうよ~」
気持ち良すぎるってのも罪だよね! と嬉しそうにしっぽを振る小さな狼に、マゼンタとシアンはなんとも言えない表情をした。
「フェンリルって、確か魔獣じゃなかったっけ? もっと獰猛なイメージがあったんだけど……」
「帝国では聖獣扱いですよ、国の象徴としても祀られていますしーーもっと威厳がある感じだった気はしますが」
こちらも大概不敬な内容を平然と口にしていると、ジュリアスと呼ばれた神は二匹をしげしげと見つめた。
「それにしても、また今回は随分変わった貢ぎ物だね? 神様って猫は食べないんだけどなぁ~」
「食べるとはなんじゃ。気色悪いことを言うでないわ」
「あは、勘違いしてる~? 性的な意味で言ってないのはもちろん、食用って意味でもないよ?」
そもそも食事って必ずしも必要じゃないし、猫の肉ってそこまで美味しいものでもないからね~、と可愛らしい声で不穏なことを言うジュリアスに三人ともドン引きである。
「えー、そんな引かれると傷つくよ~。食べる文化の場所もあるんだから、個人の価値観でどーこー言うのは違うと思わない? まあどうせ食べるならぼくはちゃんとした料理が食べたいから、生は遠慮するけどね! で、今日は何しに来たの? エリザベスはそれ以上若返ったら色々動きづらいと思うよ? 子供の身体って扱いづらいしーーむぐっ」
ご機嫌にしゃべり続けていた神様だったが、エリザに口を押さえられてようやく一瞬静かになった。
「うるさいっ、ベラベラべらべらいつまで喋っとるんじゃ! お喋りな男は嫌われるんじゃぞ!」
「ごめんごめん、誰かと話すのが久しぶりすぎてつい興奮しちゃったんだよ~。ねね、許して?」
子狼はつぶらな瞳でうるうるとエリザを見上げてから、その頬をペロペロと舐めて許しを乞うた。
「ーー神様のくせにあざと可愛いさを全面に出してくるのって何なんでしょうね。気持ち悪くないですか?」
「媚びる必要のない立場のヤツがわざわざやるのって逆に腹立つっていうやつな。まあ本人の趣味なんじゃね?」
「うわー、ぼくってば散々な言われっぷりだねー。これでもエラ~い神様なのにっ!」
貢ぎ物から悪口言われちゃったよーとケラケラ笑う神様を地面に下ろし、ため息をつきながらエリザが文句を入れた。
「たわけが、誰がこやつらを貢ぎ物だと言うたのじゃ。勝手に勘違いするでないわ」
「でも結局贄なんだろう? 君、その猫たちの時間をぼくに食わせたいみたいじゃないか」
「おや、考えを読んだか。ならば話も早ーー「でもお断りだよ」ーーってなんでじゃっ!?」
すげなく断った神様は「せめて最後まで話を聞かんか!」とおかんむりな幼女に向けて小首を傾げてから、その場でくるりと宙返りをして見せた。
次の瞬間現れたのは、エリザと同じくらいの背丈の男の子。
天使のように愛らしい顔で耳もしっぽもなくーーでも弧を描いた口元からは鋭利な牙がのぞいていた。
「だから、最初に言ったじゃない。『ぼくは猫は食べないよ』って」
神様の声でそう続けた男の子に、三人は「あっ」と声を上げて顔を見合わせた。
呆れた声と裏腹にデレまくった顔で、エリザは『神』と言った相手をムギュッと抱きしめ、頬擦りまでし始めた。
中身が何であれ、可愛らしいもふもふをもふらないなんてそれこそ我慢できない! といったところなのだろう。
対して神様の方も気にするそぶりもなく、エリザにされるがままになっている。
「あっはは! いやあ、この『人をダメにするクッション』って本当にヤバいよね! この前新しく駐在になった神官が貢ぎ物でくれたんだけどさぁ、これ神様でもダメになっちゃうよ~」
気持ち良すぎるってのも罪だよね! と嬉しそうにしっぽを振る小さな狼に、マゼンタとシアンはなんとも言えない表情をした。
「フェンリルって、確か魔獣じゃなかったっけ? もっと獰猛なイメージがあったんだけど……」
「帝国では聖獣扱いですよ、国の象徴としても祀られていますしーーもっと威厳がある感じだった気はしますが」
こちらも大概不敬な内容を平然と口にしていると、ジュリアスと呼ばれた神は二匹をしげしげと見つめた。
「それにしても、また今回は随分変わった貢ぎ物だね? 神様って猫は食べないんだけどなぁ~」
「食べるとはなんじゃ。気色悪いことを言うでないわ」
「あは、勘違いしてる~? 性的な意味で言ってないのはもちろん、食用って意味でもないよ?」
そもそも食事って必ずしも必要じゃないし、猫の肉ってそこまで美味しいものでもないからね~、と可愛らしい声で不穏なことを言うジュリアスに三人ともドン引きである。
「えー、そんな引かれると傷つくよ~。食べる文化の場所もあるんだから、個人の価値観でどーこー言うのは違うと思わない? まあどうせ食べるならぼくはちゃんとした料理が食べたいから、生は遠慮するけどね! で、今日は何しに来たの? エリザベスはそれ以上若返ったら色々動きづらいと思うよ? 子供の身体って扱いづらいしーーむぐっ」
ご機嫌にしゃべり続けていた神様だったが、エリザに口を押さえられてようやく一瞬静かになった。
「うるさいっ、ベラベラべらべらいつまで喋っとるんじゃ! お喋りな男は嫌われるんじゃぞ!」
「ごめんごめん、誰かと話すのが久しぶりすぎてつい興奮しちゃったんだよ~。ねね、許して?」
子狼はつぶらな瞳でうるうるとエリザを見上げてから、その頬をペロペロと舐めて許しを乞うた。
「ーー神様のくせにあざと可愛いさを全面に出してくるのって何なんでしょうね。気持ち悪くないですか?」
「媚びる必要のない立場のヤツがわざわざやるのって逆に腹立つっていうやつな。まあ本人の趣味なんじゃね?」
「うわー、ぼくってば散々な言われっぷりだねー。これでもエラ~い神様なのにっ!」
貢ぎ物から悪口言われちゃったよーとケラケラ笑う神様を地面に下ろし、ため息をつきながらエリザが文句を入れた。
「たわけが、誰がこやつらを貢ぎ物だと言うたのじゃ。勝手に勘違いするでないわ」
「でも結局贄なんだろう? 君、その猫たちの時間をぼくに食わせたいみたいじゃないか」
「おや、考えを読んだか。ならば話も早ーー「でもお断りだよ」ーーってなんでじゃっ!?」
すげなく断った神様は「せめて最後まで話を聞かんか!」とおかんむりな幼女に向けて小首を傾げてから、その場でくるりと宙返りをして見せた。
次の瞬間現れたのは、エリザと同じくらいの背丈の男の子。
天使のように愛らしい顔で耳もしっぽもなくーーでも弧を描いた口元からは鋭利な牙がのぞいていた。
「だから、最初に言ったじゃない。『ぼくは猫は食べないよ』って」
神様の声でそう続けた男の子に、三人は「あっ」と声を上げて顔を見合わせた。
0
お気に入りに追加
554
あなたにおすすめの小説
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる