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4章
閑話5★ 古い記憶①
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シアン視点になります。
****************
子猫の頃、遠い国の貴族の屋敷に囲われていた。
自分だけではなく他の多くの子猫達と一緒くたにされて、沢山の玩具が置かれた広い部屋で寝起きする。
綺麗な首輪をつけ、毎日毎日猫の姿でひらすら撫でられ、よく分からない遊びに付き合わさる。
どこからかやって来るお偉いさん達にそうやって可愛がってもらっておけばひとまず寝食については保証されて、自由はないけど危険もない、そんな生活。
ただし、長くはつづかなかった。
それから何ヶ月かして、子猫の時期が過ぎ大きくなったものの中には、ヒトの姿で客を取らされるものが出てきた。
あるいは『適正がある』と判断され後ろ暗い仕事のスキルを詰め込まれたり、『壊れにくそうだから』と怪しげな実験の被験者として使われたり。
一度部屋を連れ出されたきり、戻ってこないものも多かった。
ーーけど、その時の僕は周りの全部がどうでも良かったから。それらの光景をただただ眺めているだけだった。
自分が選ばれなかったことへの安堵も、選ばれてしまった奴への同情も意味がない。……いつかは自分が辿る道なのだから。
覚えている中で一番古い記憶は、何匹かの子猫と綺麗な白い雌猫ーーおそらく母親と兄弟達ーーと雨宿りをしているというもの。
あれは外だったから、最初は普通にノラ猫をしていたところを攫われたのかもしれないーーまあそれもどうでもいい事だった。碌に顔も思い出せない家族のことを考えても、何か益になるわけでもなし。
と、思ってはいたのだけど。
「なーなー、昨日までいた三毛猫の子、居なくなっちゃったな」
「居たっけ、そんなの」
「えー、なんで覚えてないのさ? あの子一番可愛かったじゃん!」
「別に興味ないから……ねえ、話しかけないでくれる? 僕、アンタみたいにうるさいの苦手なんだ」
「冷たっ! こんなかだとオレの兄弟ってオマエしか居ないんだから、喋るくらいいいだろー?!」
そう言えば、一応一匹だけ残ってた。隣にいつもくっついてくる、目に痛いピンク色の子猫。
しょっちゅう話しかけてきて、煩わしくてしょうがない。
確かにコイツは同じ胎から産まれたはずだから、兄弟といえばその通りなんだけど……なんていうか、僕と性格がだいぶ違う上に色もこれっぽっちも似ていないから、実感なかったんだよね。
「あーあ、また可愛い子入らないかな~?」
「……減った分はそのうち補充されるんじゃないの。まあ次連れて来られるのは、僕らより大分年下だろうけど」
「ちぇっ、やっぱそっかー。残念~。……なぁ、オマエはこの後どっちがいいの?」
「どっちって?」
「どっかのお貴族様に身請けされるか、裏組織? っていうのに入るか。ある程度体がデカくなった時にまだ生きてたら、その二択なんだってさ」
それはまた最低な二択だとため息をつこうとして、それも止めた。そんなの、なんの役にも立たないから。
……正直、全部が面倒くさかった。
会話も、考えることも、こうやってダラダラ生かされていることも。
「……どうでもいいよ。そういう自分はどうしたいの?」
「オレ? んーどっちも嫌は嫌だけど、せめてオマエと一緒の方かな!」
そしたらちっとはマシそうだし? とニッカリ笑う兄弟に、好きにしたらとおざなりな返事をした。
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子猫の頃、遠い国の貴族の屋敷に囲われていた。
自分だけではなく他の多くの子猫達と一緒くたにされて、沢山の玩具が置かれた広い部屋で寝起きする。
綺麗な首輪をつけ、毎日毎日猫の姿でひらすら撫でられ、よく分からない遊びに付き合わさる。
どこからかやって来るお偉いさん達にそうやって可愛がってもらっておけばひとまず寝食については保証されて、自由はないけど危険もない、そんな生活。
ただし、長くはつづかなかった。
それから何ヶ月かして、子猫の時期が過ぎ大きくなったものの中には、ヒトの姿で客を取らされるものが出てきた。
あるいは『適正がある』と判断され後ろ暗い仕事のスキルを詰め込まれたり、『壊れにくそうだから』と怪しげな実験の被験者として使われたり。
一度部屋を連れ出されたきり、戻ってこないものも多かった。
ーーけど、その時の僕は周りの全部がどうでも良かったから。それらの光景をただただ眺めているだけだった。
自分が選ばれなかったことへの安堵も、選ばれてしまった奴への同情も意味がない。……いつかは自分が辿る道なのだから。
覚えている中で一番古い記憶は、何匹かの子猫と綺麗な白い雌猫ーーおそらく母親と兄弟達ーーと雨宿りをしているというもの。
あれは外だったから、最初は普通にノラ猫をしていたところを攫われたのかもしれないーーまあそれもどうでもいい事だった。碌に顔も思い出せない家族のことを考えても、何か益になるわけでもなし。
と、思ってはいたのだけど。
「なーなー、昨日までいた三毛猫の子、居なくなっちゃったな」
「居たっけ、そんなの」
「えー、なんで覚えてないのさ? あの子一番可愛かったじゃん!」
「別に興味ないから……ねえ、話しかけないでくれる? 僕、アンタみたいにうるさいの苦手なんだ」
「冷たっ! こんなかだとオレの兄弟ってオマエしか居ないんだから、喋るくらいいいだろー?!」
そう言えば、一応一匹だけ残ってた。隣にいつもくっついてくる、目に痛いピンク色の子猫。
しょっちゅう話しかけてきて、煩わしくてしょうがない。
確かにコイツは同じ胎から産まれたはずだから、兄弟といえばその通りなんだけど……なんていうか、僕と性格がだいぶ違う上に色もこれっぽっちも似ていないから、実感なかったんだよね。
「あーあ、また可愛い子入らないかな~?」
「……減った分はそのうち補充されるんじゃないの。まあ次連れて来られるのは、僕らより大分年下だろうけど」
「ちぇっ、やっぱそっかー。残念~。……なぁ、オマエはこの後どっちがいいの?」
「どっちって?」
「どっかのお貴族様に身請けされるか、裏組織? っていうのに入るか。ある程度体がデカくなった時にまだ生きてたら、その二択なんだってさ」
それはまた最低な二択だとため息をつこうとして、それも止めた。そんなの、なんの役にも立たないから。
……正直、全部が面倒くさかった。
会話も、考えることも、こうやってダラダラ生かされていることも。
「……どうでもいいよ。そういう自分はどうしたいの?」
「オレ? んーどっちも嫌は嫌だけど、せめてオマエと一緒の方かな!」
そしたらちっとはマシそうだし? とニッカリ笑う兄弟に、好きにしたらとおざなりな返事をした。
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