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4章

29。家族の確執

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自室に滑り込みドアを閉めたところで、ベッドにぐったりと座り込んだ。

はぁもう……疲れた。一応家族なのに、顔を合わすだけでなんでこんなに疲れなきゃいけないのよ全く。

「お疲れ様ソフィー。頑張ったわね」
「……まさか父さんが戻ってるとは思わなかったわ……」
「あんな事があったのだもの、さすがに仕事どころじゃなかったのよ」


うーん……そんな雰囲気ではなかった気がするけど。

もし本当にそうだったとしたら、数日とはいえ行方不明になっていた子供が無事とは言えないまでも五体満足で戻ったんだからーーちょっとくらい喜んだり、向こうから声を掛けてくれても良いのに。縁が薄かろうが、これでも実の娘なんだし。

そう思って、私はこっそりとため息をつく。

父と姉は髪の色も瞳の色もお揃いで黙っていても親子と分かるのだけど、私だけは違うから。
こんな風に微妙なリアクションだと、あまり家族として歓迎されてないのではと勘繰ってしまう。


「きっと父さんも戸惑っているだけなのよ」
「私が生きて帰ってきたことに?」
「もう、ソフィー! そういう事は言わないの! ーーそうじゃなくて、大きくなったあなたがますます母さんに似てきたからだと思うわ」


言われてああ、と納得した。

性格は全く似なかったけど私の髪も目も母譲り、顔立ちも親子らしく似通っていて、確かに見た目だけは年々そっくりになってきている。

「あー、なるほどね。過去の傷を抉るつもりはないのだけど、申し訳ないことをしたわ」
「……相変わらずしょっぱい対応するのねぇ。実の父親よ?」
「養ってもらってるのはとても感謝してるわ。でも、私がちゃんと家族って思えるのはお姉ちゃんだけだもの」


そう言い切った私に、今度は姉が困った顔でため息をついた。

姉が私と父に仲良くしてほしいと思っているのは分かるのだけど……この十年で話した会話の合計時間が十分では、仲良くしようもないのよね。


「まあこの話はまた今度でいい? 今日はゆっくり休みたいの」
「そうね……ソフィーは今回のことで精神的にも辛かったでしょうから、無理してはいけないわね」

姉の認識では私は失踪中の記憶がほぼないことになってるせいだろう。すごく気を遣われているのが分かる。

気を取り直したように、殊更明るい声で話題を変えた。


「旅行中のあなたの荷物はこの部屋に運んでおいたわ。ゆっくりでいいから、気が向いたら片付けてね」
「ん、分かった。ーーねえ、私が見つかった時に着ていた物って、この中にある?」

何気ない感じで投げた質問だが、姉は目を見開いて黙ってしまった。

「? お姉ちゃんーー?」
「あ、ごめんなさい! ちょっとぼぅっとしちゃってーーあの日あなたが着ていたものは、今警察の方達が預かっているわ」
「警察? なんで?」
「一応、何らかの事件に巻き込まれた可能性も残っているから、証拠品ですって。そのうち返してくれると思うわ」


労わりに満ちた声で優しく微笑まれたがーー何かおかしい。

「そっか、じゃあ返してもらえたら教えて? あと、私ってその日、どんな格好してたの? あまり覚えてないのだけど……」

もし全部私の夢だったのなら、見つかった時の服装はワンピースにラフなパーカーとサンダル。
でも、あれはきっと夢じゃない。だったらーー

「ーー私が病室に着いたときは、もう入院着だったから知らないの。ごめんなさいね」

そう言った姉の目線は伏せられ、私を見ることはなかった。
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