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4章
19。言われて初めて気づくもの
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「ソフィー、もうそろそろ機嫌直してもらえませんか?」
「……」
「さっきのは僕が悪かったです。もうあんなことはしませんからーー」
「…………」
「ソフィー!」
カフェを逃げるように出てからずっと、私はシアンの呼びかけを全て黙殺してやっていた。
だってもう、本当に信じられないし! 人前で膝に乗せた時点でアウトだったのに、よりにもよってキスまで。
しかもあんな噛み付くようなーー
そこまで考えて恥ずかしくなり、慌てて記憶に蓋をする。
思い出すだけで顔がカッと熱くなるなんて大概終わってるわ……。本当にもう何てことしてくれたのよ。
というわけで、今現在シアンのことは絶賛放置中だ。
デート? 知らないわよそんなの。私は怒ってるんだから!
怒りを溜めたまま黙りこくってずんずん歩いていたのだが、痺れを切らしたシアンに腕を掴まれて無理やり立ち止まらされてしまったのがついさっきのこと。
それでも謝罪なんて聞いてやるものかとシアンの方を見ないように顔を背けていると、「お願いですからーー」と懇願された。
「ねえ、こっちを向いてくださいーー僕のこと無視しないで」
ここで振り向いたら負けだとは思うのに、あまりに力なく震えた声でお願いされてしまったものだから、結局折れてしまった。
分かってるわよ、どうせこの声も演技なんでしょう。
まんまと引っかかる私ってほんと間抜けだわーーそう思っていたのだが。
「なっ……シアン? どうしてーー」
まさかこんな泣きそうな顔をしているなんて。
え、これ私のせい? 私が悪いの?
で、でもこれはシアンがあんな場所であんなことをしたからで、だから怒っても仕方ないわよね?
「お願いです。無視しないで。ーーあなたに無視されたら死にたくなっちゃいます」
「ちょっと、そんな大袈裟な!」
涙目でうるうる見上げられてしまえば、それ以上怒るなんてできなくてため息をついた。
「はぁ……分かった、無視するのは止める」
「……!」
「でも、二度と同じことはしないで。本当にめちゃくちゃ恥ずかしかったんだから」
「ーー恥ずかしかった、ですか?」
泣き顔から一転ぱっと笑顔になったシアンは、そんな当たり前のことを聞きながら首を傾げた。
「そりゃそうでしょ? あんな人のいっぱいいるところでキスなんて……」
「嫌だった、ではなく? 恥ずかしくて怒ってたんですか?」
「えっ……ええ」
「あんなたくさん、その、激しめにキスしてしまったので、嫌がられて怒っているのかと思ってましたーー良かった、違ったんですね」
ーーえ?
あれ、私が怒ってたのは人前でキスされたことでーーキスされたこと自体は怒ってなかった?
今まで過剰なスキンシップをされた時は、それ自体を嫌がっていたはずなのに。
そんなわけないと思い返してみても、やっぱり今回は恥ずかしくて怒っていたようなーー
ーー嘘でしょ?
軽くパニックになりながら自問自答している間に、嬉しそうなシアンが抱きついてくる。
どこまでも人目を気にしてくれない飼い猫へのしつけも、自分の気持ちもどう説明をつけたものかと頭を悩ませる。
が、結局うまい言葉が思いつかずーーもう一度ため息をついてからジャレつく飼い猫の頭をクシャクシャと撫で、一旦考えるのを放棄してしまったのだった。
「……」
「さっきのは僕が悪かったです。もうあんなことはしませんからーー」
「…………」
「ソフィー!」
カフェを逃げるように出てからずっと、私はシアンの呼びかけを全て黙殺してやっていた。
だってもう、本当に信じられないし! 人前で膝に乗せた時点でアウトだったのに、よりにもよってキスまで。
しかもあんな噛み付くようなーー
そこまで考えて恥ずかしくなり、慌てて記憶に蓋をする。
思い出すだけで顔がカッと熱くなるなんて大概終わってるわ……。本当にもう何てことしてくれたのよ。
というわけで、今現在シアンのことは絶賛放置中だ。
デート? 知らないわよそんなの。私は怒ってるんだから!
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それでも謝罪なんて聞いてやるものかとシアンの方を見ないように顔を背けていると、「お願いですからーー」と懇願された。
「ねえ、こっちを向いてくださいーー僕のこと無視しないで」
ここで振り向いたら負けだとは思うのに、あまりに力なく震えた声でお願いされてしまったものだから、結局折れてしまった。
分かってるわよ、どうせこの声も演技なんでしょう。
まんまと引っかかる私ってほんと間抜けだわーーそう思っていたのだが。
「なっ……シアン? どうしてーー」
まさかこんな泣きそうな顔をしているなんて。
え、これ私のせい? 私が悪いの?
で、でもこれはシアンがあんな場所であんなことをしたからで、だから怒っても仕方ないわよね?
「お願いです。無視しないで。ーーあなたに無視されたら死にたくなっちゃいます」
「ちょっと、そんな大袈裟な!」
涙目でうるうる見上げられてしまえば、それ以上怒るなんてできなくてため息をついた。
「はぁ……分かった、無視するのは止める」
「……!」
「でも、二度と同じことはしないで。本当にめちゃくちゃ恥ずかしかったんだから」
「ーー恥ずかしかった、ですか?」
泣き顔から一転ぱっと笑顔になったシアンは、そんな当たり前のことを聞きながら首を傾げた。
「そりゃそうでしょ? あんな人のいっぱいいるところでキスなんて……」
「嫌だった、ではなく? 恥ずかしくて怒ってたんですか?」
「えっ……ええ」
「あんなたくさん、その、激しめにキスしてしまったので、嫌がられて怒っているのかと思ってましたーー良かった、違ったんですね」
ーーえ?
あれ、私が怒ってたのは人前でキスされたことでーーキスされたこと自体は怒ってなかった?
今まで過剰なスキンシップをされた時は、それ自体を嫌がっていたはずなのに。
そんなわけないと思い返してみても、やっぱり今回は恥ずかしくて怒っていたようなーー
ーー嘘でしょ?
軽くパニックになりながら自問自答している間に、嬉しそうなシアンが抱きついてくる。
どこまでも人目を気にしてくれない飼い猫へのしつけも、自分の気持ちもどう説明をつけたものかと頭を悩ませる。
が、結局うまい言葉が思いつかずーーもう一度ため息をついてからジャレつく飼い猫の頭をクシャクシャと撫で、一旦考えるのを放棄してしまったのだった。
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