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3章
22。これからは常識も必要です
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「良かった、まだシアンは戻ってきていないわね」
書庫からまたメイドさんに付き添ってもらい、できるだけ早足でエリザとお茶会をしていた部屋に戻る。が、そこにはシアンの姿は見当たらなかった。
どうやら話が長引いているらしい。
「何処に行ったかは分からないし……ここで待ってるしかない、かな?」
この世界にはスマホみたいな便利な物はないので待ち合わせ一つするのも大変だなぁ、なんて今さらながら思う。
ひょっとしたら通信用の魔道具なんかもあるのかも知れないが、今まで必要になる場面がなかったから聞いてみることもしてなかった。
なんせ外ではマゼンタかシアンは常に隣にいたので、こうやって待ちぼうけを喰らうことなんてなかったし。
ーー二匹とも、ここ最近ホントにべったりだったからなぁ。
低血糖騒ぎに酔い潰れての入院騒ぎと続けてしまったので、原因は自分にあるのは分かっているのだけど。それにしてもベッタリ。
これで下手にシアンを探しに行って城の中で迷ってしまいでもしたら、次は自宅に軟禁でもされかねない。
飼い猫の執着が怖いんですけどどうしましょう? って前お喋りするようになったメイドさんに冗談めかして言ったら、すっごい真顔で『ご愁傷様です』と言われたくらいだし。
あの二匹なら普通に軟禁でも監禁でもやるだろうと思えて、大人しく待つ以外の選択肢は早々に諦めたのだった。
とりあえず部屋で待たせてもらえるようにお願いして、適当に時間をつぶそうと勧められた椅子に座る。
手元にはタイミングよく本を探してきましたアピールのための資料が何冊か。
クレイにまた迷い子情報をもらう約束もしたので、今回はそれ関連の資料ではなく各国の基本情報をまとめた本と地図を借りてきた。
本当だったらもっと小説とかを読みたいところなんだけど、お城の書庫に所蔵されている本は資料的な面が強く割とお堅めなラインナップになっている。俗っぽい娯楽本は街に行かないとないらしい。
買ってしまうと後の処分が大変になるし、今度街の図書館に連れて行ってもらえないか聞いてみよう。
シアンが戻ったらお薦めの本がないか聞いてみるのもいいかもしれない。逆にこっちから気に入りそうな本を探して渡してみるのもアリかな?
ちょっと理屈っぽいところがあるから、シアンは推理小説とかも好きなんじゃないかな、なんて想像してクスリと笑う。
ーーさっきクレイに『迷い子は必ず帰っている』と聞いて気分が上がっているみたいだ。
帰るまでには何ヶ月か掛かるかもしれないけれど、それでも帰れるという確証が得られたのは大きい。
前にマヤさんに言われたように『すぐに帰れるから、こっちに居れる間は楽しめるだけ楽しむといい』という言葉にも、今なら素直に肯ける。
この際、ここが夢でも異世界でもどっちでも良いわ。
帰れる日まで飼い猫達、それに周りの皆んなと平和に楽しく過ごせれば、それでいい。
なんだか一気に肩の荷が降りた感じ。クレイに感謝しないとね。
まあ今は真面目な方の読書に勤しむとしよう。
帰るまでしばらく掛かるのなら、迷い子の身バレ防止のためにも常識はしっかり身に付けないといけない。
気合を入れ直して、本(ちなみにタイトルは『サルでも分かる世界の国々』だった)を手に持ちながらテーブルに地図を広げていく。
レジャーシートくらいの大きさで、この国と周辺国を描いたなかなか精緻な地図だ。城のような主要な建造物もポイントで示され、等高線も引かれていて地形がよく分かるようになっている。
「現在地は……ここね」
エリザが治めているブラッドレイ王国は内陸に位置し、この大陸で二番目の広さ。その中央に今いる王城ーーブラッドレイ城がある。
それ以外にも城がもう二つあるようだが、そちらは離宮扱いらしい。
王国の右側には『惑いの森』と呼ばれる広大な森が広がり大陸の面積の一割を占めているが、ここはどこの国にも属していない中立地帯。
ブラッドレイ王国の左隣が、この前会ったサイラスさんが治めていたオースティン帝国。ここが大陸、というかこの世界で一番広いらしい。地図では帝国の左と下側には海が広がっていて、その先は地図の外で描かれていなかった。
それから、この二国の上側に左右にやや細長く伸びているのがモーリタリア共和国。ここが大陸で三番目の広さ。
あとの国々はここまでの三国に比べるとどこも領土が狭く、小国扱いらしい。
なんだか、こういう風に隣接してると三国志の舞台みたいだわ。戦争とか領土争いとかはしていないんだろうか。
この世界は元の世界の区分で中世~近代くらいの感覚で、その時代だと土地をめぐって常に争いが起こっているイメージなんだけど。
加えて言えば、昔だと正確な地図っていうのは軍事機密だったりして……
……適当に持ってきたけど、ここで広げちゃいけない気がしてきた。クロエさんに見つかったら卒倒されるかもしれない。
うん、私は何も見ていないわ。砦? 防壁? そんなのあったかしら。
内心冷や汗をかきながらも、私は何食わぬ顔で広げた地図をそっと畳んでいった。
ーーどうか誰にもバレませんように!
書庫からまたメイドさんに付き添ってもらい、できるだけ早足でエリザとお茶会をしていた部屋に戻る。が、そこにはシアンの姿は見当たらなかった。
どうやら話が長引いているらしい。
「何処に行ったかは分からないし……ここで待ってるしかない、かな?」
この世界にはスマホみたいな便利な物はないので待ち合わせ一つするのも大変だなぁ、なんて今さらながら思う。
ひょっとしたら通信用の魔道具なんかもあるのかも知れないが、今まで必要になる場面がなかったから聞いてみることもしてなかった。
なんせ外ではマゼンタかシアンは常に隣にいたので、こうやって待ちぼうけを喰らうことなんてなかったし。
ーー二匹とも、ここ最近ホントにべったりだったからなぁ。
低血糖騒ぎに酔い潰れての入院騒ぎと続けてしまったので、原因は自分にあるのは分かっているのだけど。それにしてもベッタリ。
これで下手にシアンを探しに行って城の中で迷ってしまいでもしたら、次は自宅に軟禁でもされかねない。
飼い猫の執着が怖いんですけどどうしましょう? って前お喋りするようになったメイドさんに冗談めかして言ったら、すっごい真顔で『ご愁傷様です』と言われたくらいだし。
あの二匹なら普通に軟禁でも監禁でもやるだろうと思えて、大人しく待つ以外の選択肢は早々に諦めたのだった。
とりあえず部屋で待たせてもらえるようにお願いして、適当に時間をつぶそうと勧められた椅子に座る。
手元にはタイミングよく本を探してきましたアピールのための資料が何冊か。
クレイにまた迷い子情報をもらう約束もしたので、今回はそれ関連の資料ではなく各国の基本情報をまとめた本と地図を借りてきた。
本当だったらもっと小説とかを読みたいところなんだけど、お城の書庫に所蔵されている本は資料的な面が強く割とお堅めなラインナップになっている。俗っぽい娯楽本は街に行かないとないらしい。
買ってしまうと後の処分が大変になるし、今度街の図書館に連れて行ってもらえないか聞いてみよう。
シアンが戻ったらお薦めの本がないか聞いてみるのもいいかもしれない。逆にこっちから気に入りそうな本を探して渡してみるのもアリかな?
ちょっと理屈っぽいところがあるから、シアンは推理小説とかも好きなんじゃないかな、なんて想像してクスリと笑う。
ーーさっきクレイに『迷い子は必ず帰っている』と聞いて気分が上がっているみたいだ。
帰るまでには何ヶ月か掛かるかもしれないけれど、それでも帰れるという確証が得られたのは大きい。
前にマヤさんに言われたように『すぐに帰れるから、こっちに居れる間は楽しめるだけ楽しむといい』という言葉にも、今なら素直に肯ける。
この際、ここが夢でも異世界でもどっちでも良いわ。
帰れる日まで飼い猫達、それに周りの皆んなと平和に楽しく過ごせれば、それでいい。
なんだか一気に肩の荷が降りた感じ。クレイに感謝しないとね。
まあ今は真面目な方の読書に勤しむとしよう。
帰るまでしばらく掛かるのなら、迷い子の身バレ防止のためにも常識はしっかり身に付けないといけない。
気合を入れ直して、本(ちなみにタイトルは『サルでも分かる世界の国々』だった)を手に持ちながらテーブルに地図を広げていく。
レジャーシートくらいの大きさで、この国と周辺国を描いたなかなか精緻な地図だ。城のような主要な建造物もポイントで示され、等高線も引かれていて地形がよく分かるようになっている。
「現在地は……ここね」
エリザが治めているブラッドレイ王国は内陸に位置し、この大陸で二番目の広さ。その中央に今いる王城ーーブラッドレイ城がある。
それ以外にも城がもう二つあるようだが、そちらは離宮扱いらしい。
王国の右側には『惑いの森』と呼ばれる広大な森が広がり大陸の面積の一割を占めているが、ここはどこの国にも属していない中立地帯。
ブラッドレイ王国の左隣が、この前会ったサイラスさんが治めていたオースティン帝国。ここが大陸、というかこの世界で一番広いらしい。地図では帝国の左と下側には海が広がっていて、その先は地図の外で描かれていなかった。
それから、この二国の上側に左右にやや細長く伸びているのがモーリタリア共和国。ここが大陸で三番目の広さ。
あとの国々はここまでの三国に比べるとどこも領土が狭く、小国扱いらしい。
なんだか、こういう風に隣接してると三国志の舞台みたいだわ。戦争とか領土争いとかはしていないんだろうか。
この世界は元の世界の区分で中世~近代くらいの感覚で、その時代だと土地をめぐって常に争いが起こっているイメージなんだけど。
加えて言えば、昔だと正確な地図っていうのは軍事機密だったりして……
……適当に持ってきたけど、ここで広げちゃいけない気がしてきた。クロエさんに見つかったら卒倒されるかもしれない。
うん、私は何も見ていないわ。砦? 防壁? そんなのあったかしら。
内心冷や汗をかきながらも、私は何食わぬ顔で広げた地図をそっと畳んでいった。
ーーどうか誰にもバレませんように!
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