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2章

29。おつかいを頼まれました

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どうしたんだろうクレイ。急にやっぱり食べたい、ってなったのかしら。

「えっと、クレイ?」
「……やっぱり、もらっとく」
「…良いの?無理に受け取らなくても大丈夫よ?」
「いい。ちゃんと食べるから。ただ…次は、ニンジンじゃない味のお菓子がいい」

そっぽを向いたまま言葉を続けるクレイが微笑ましくて、顔がにやけてしまった。

やっぱりこのウサギさん、お菓子が好きなのね。ニンジン味でもクッキーなら食べたいって思ってくれたのかしら。
でもどうせなら、次は好きな味のお菓子を食べて欲しい。

「ええ、また買ってくるわ。何味が好きとかある?」
「……。」

返事はあったが、急に声が小さくなって全く聞き取れなかった。
どうしちゃったんだろう?

「ごめんなさい、うまく聞き取れなかったわ。何て言ったの?」
「……チョコレート味」
「チョコレート味?ならチョコレートも好き?」
「うん…どっちも」

ーークレイの頰がほんの少し赤い気がする。
チョコレートが好きって言うの、そんなに恥ずかしいのかしら?男の子ってそういうもの?

何にせよ可愛らしいなあ、と頬を緩めていたら、思いっきり睨まれた。

「子供っぽいとか考えてる?」
「ーー!考えてないわよ!」

……可愛いな、とは思ったけど。確実に地雷だから言わないけどね!


「分かったわ、良いお店探しておくわね」
「…期待せずに待ってる」

きっと男の子が可愛らしいチョコレートやクッキーを選びにお店に入るのは、抵抗があるんだろう。
私はお店探しも楽しいし、お菓子を選んでどれにしようか考えてる時間も好きだから、代わりに買ってくるのがお礼になるなら全然ウェルカムだ。

ただクレイの方に、選ぶ楽しみがないのはちょっともったいない気がするけど。あの悩む時間も幸せだったりするのよね。


「たくさん買ってくるから、好きなの選んでね」
「ーーちょっと待って、お前、お金持ってるの?」
「?シアンに自分のものを買う用にお小遣いをもらってるから大丈ーーあ」

ーーひょっとしてクレイへのプレゼント用に、シアンからもらったお金を遣うのってマズかったりするのかしら。

シアンがあんなにヤキモチ焼きと思わなかったから昨日は普通に遣ったけど、コレってバレると酷い事になったり…しないわよね?大丈夫よね?……駄目だわ、やっぱり大丈夫な気がしない。

そんな事に思い当たって青褪める私に、クレイが何を思ったかコインを渡してきた。えっと、これって大銀貨よね?

「とりあえず、次はこれ遣って」
「あなたのお金で買ったら、あなたへのお礼にならないじゃない」
「代わりに買ってきてくれるだけでも助かるから」

そうは言っても、それでお礼になるのだろうか。

「さっきもらった分もあるし、おつかいとして頼まれてくれればいいーー美味しいのじゃないと承知しないけどね」

最後に「じゃ、よろしく」とだけ言い残して、クッキーの袋を抱えたウサギさんは書庫の奥に戻っていった。


これからあの休憩室でニンジンクッキーを食べる気なのかしら?

人にバレないようにこっそりクッキーをかじるクレイを思い浮かべて、私はこっそり笑みをこぼしたのだった。
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