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2章

31。お茶会という名の女子飲み

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「ま、ソフィアさんが言うならもう夜ってことでもいいわよぉ?それより~、アタシちゃーんと手土産も持ってきたの!今日はこれで深夜のお茶会と洒落込みましょう!」

さっきまで昼間だと言い張っていたのをあっさり翻意しつつマヤさんがバスケットから次々と取り出したのは、多種多様のチーズにチーズ料理、それに大量のお酒の瓶。

ーーさっきの重そうな音はコレだったわけね。それにしても、だ。


「マヤさん……これのどこにお茶会の要素が?」

茶葉もなければお菓子もない。

チーズとアルコール成分100%だ。


「それに、一応私は未成年なので。お酒は飲めませんよ?」
「良いじゃないのぉ、そんなお堅いこと言わなくたって!飲んだことないわけじゃないでしょう~?」
「そりゃ、一口二口くらいはありますけど」

姉のお誕生日会でスパークリングワインを味見させてもらったりだとか、クリスマスマーケットで買ったグリューワインを分けっこして飲んだこともある。
けれど、どの場合でも飲んだのは極少量だ。誰かと飲み明かしたりしたことはない。

そう説明するのに、マヤさんは「問題ないわ!」とニッコリした。

「それに、ワインまではお水よ!未成年がどうとか気にすることないわ!」
「……マヤさんが酒豪なのはよく分かりました」

ワインのアルコール度数はそれなりに高い。ざっくりビールの三倍くらい。
この分だと、蒸留酒じゃなければお酒じゃない、とか言い出すんじゃなかろうか?

「あら、ソフィアさんたら蒸留酒がお好みなの?うふふ、未成年は飲めないとか言っておきながら、通なのねぇ。氷もらってきましょうか?」
「いや、ロックで飲むとかやりませんからね!?」


ダメだ、この人。絶対うちの姉と同じ“ウワバミ”って奴だ。

この手の人たちは、悪気なく無意識に一般人を潰しにかかる。
自分の姉が学生時代に宅飲みで潰していった死屍累々の被害者たちの姿が目に浮かび、私はかぶりを振った。

……ああなるのはゴメンだわ。


「私の分はお茶を淹れますので。マヤさんは氷とグラスで良いですか?」
「あらぁ、お酒付き合ってくないの?とーっても残念♪ あ、あとお水とマドラーもお願いね!」

大して残念そうでもなく、マヤさんが追加のリクエストを入れてくる。

「了解です。場所はリビングにします?」
「んー、個室の方が女子会っぽさが増して楽しいから、そこのローテーブルで良いわ♪」

ラグもクッションも敷いてあるし、この床座っても良いのかしら?と聞かれる。

「構いませんよ。あ、今スリッパ持ってくるので、靴は脱いでもらっても良いですか?」
「あらぁ、ここ土足禁止だったの?ごめんなさいねぇー」

マヤさんは一旦バルコニーに出て靴を脱ぎ、手渡したスリッパに履き替えた。

日本に馴染みすぎたのか部屋で靴を履いているのがどうにも落ち着かなくなってしまい、私の部屋は土足禁止にしていた。
玄関には靴置き場もスリッパラックも設置しているのだけど、マヤさんは窓から入ってきたから気づかなかったらしい。


「…そういえば、マヤさん何でバルコニーから来たんですか?」

家の前に転移魔法陣があるにも関わらず、マヤさんはバルコニーに現れて、外から窓を叩いてきたのだ。
どうやって二階に来たんだ、ともツッコミたいが、そもそもなんで普通に玄関から入ってこないのかというところで引っ掛かる。

「うふふ、それはもちろん~ここの猫二匹に見つからないようによ!」

玄関からだとドアベルが鳴って、アイツらにバレちゃうじゃない!と得意げに胸を張るマヤさんーーうわぁ、今すごく揺れたわね…。

じゃなくて。

そんな理由でわざわざ二階の窓からきたのか、この人。
大体、玄関から入らなくても同じ家の中だ。これだけ騒いでいたら嫌でも声は聞こえる。

「さっきから結構な大声で話していますから、とっくにバレてると思いますよ?」
「あら、そうなの?ーーその割に邪魔しにこないのねえ」
「そりゃまあ、夜中に女性の部屋に入ってくるなとは言ってますから」

そう言うとマヤさんがビックリしたような目で私の顔をマジマジと見てきた。

「あの猫どもに言うことを聞かせるなんて、ソフィアさんってば猫の躾がとぉっても上手いのね!」

さすがだわ!きっと調教スキルがもの凄く高いのね!ソフィアさんだったら猛獣使いにだってなれそうだわ‼︎とよく分からない褒め言葉を次々と投げつけられる。

これ、褒めてるつもりなのかしら。褒めてるつもり、なのよね。マヤさんだしなぁ…。

「あの、その辺でいいです……私、そろそろお茶とグラスの準備をしてきますね」
「お願いね♪アタシは持ってきたものを広げちゃうわ~」

そう言ってバスケットの中から次々と酒瓶が取り出されるが…うん、酒盛りにしか見えないわね。


絶対飲まされないようにしよう、と固く心に決め、私はお茶の準備のためにキッチンに降りて行ったのだった。
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