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2章

18。ご飯を忘れていたようです

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「はあ…雑談はもういいでしょ。その本読みに行きなよ」
「そうねえ…ね、ここで読んでもいい?」

そう言うと、信じられないものを見るような目つきで見られた。

「は?空気読めないの?早くどっか行ってって言ってんだけど」
「あえて読んでないのよ、分かんない?ーー私は、ここで読みたいの」


だって見渡す限りの本の中で、自分以外誰もいない素敵空間を独り占めなんて最高の贅沢じゃない!
多少嫌な顔をされたって、こんな機会を逃すつもりはないわ。

「誰もいないって…ボクはココにいるんだけど」
「あら、だってクレイはお仕事中でしょう?一人で読んでるから、クレイは私のことなんか放っておいて司書だか書庫番だかの業務に戻ってくれて大丈夫よ」

むしろ放置推奨で!本は一人で読みたい派なの。

という訳で、メイドさんにも先に仕事に戻ってもらう。
お城の中なら安全ってエリザも言ってたし、ここは思う存分一人を満喫させてもらおう。ボッチ最高。


「…はあ。そんなにここがいいって言うなら、好きにすれば」
「ええ、好きにさせてもらうわね。ありがとうクレイ!」

防水魔法をかけてもらった本を手に持って、いそいそと本棚の隙間の椅子に座る。

変なヤツ、と呆れた声が聞こえた気もしたが、気にせず私は目の前の本に没頭していったのだった。









「いつまでそうしてるわけ?」
不機嫌そうな声が降ってきてぱっと顔を上げると、視線が自分と同じ色の瞳にぶつかった。


「ーーー?!び、ビックリした…」
「びっくりしたのはこっち。とっくに帰ったと思ったのに、まだ居座ってるし」

もう5時なんだけど?と言われ窓を見ると、オレンジっぽい空が見えた。え、嘘ーー

「…ごめんなさい、またやっちゃったわ…」
「また?」
「本に熱中しちゃうと、時間が経つのを忘れてしまうと言うかーー気づいたら一日終わってた、ってことがよくあって」
「…あっそ。とりあえず、そろそろ書庫ここ閉めるから。出てってくれない?」
「!ご、ゴメンなさい。閉館時間だったのね」

すぐに帰るわ、と言って立ち上がった瞬間に、世界がくるりと回った。

ーーーあ、コレ倒れる。


近づいてくる地面にギュッと目を閉じるが、顔面に衝撃はこなかった。
代わりに、お腹を鉄棒で圧迫されるような感覚で苦しくなる。

「あっ…ぶな!何やってんの!」

クレイが咄嗟に支えてくれたらしい。
小さいのに、結構力あったのね。またまたビックリだわ。


「……ゴメン、たぶん、低血糖……」
「はぁ?!食べてないの!?」

…ええと、朝はおにぎり一個とお味噌汁でしょ。
その後、エリザたちとお茶をした時にクッキーを何枚か摘んだような。
お昼は…食べてないわね。


「……食べるの、わすれてた。…とりあえずなにか糖分、とれば…なおる、から……」

冷や汗と動悸が止まらず、体をむしりたくなるような強い不安感に襲われる。
指先の震えに気づいたらしいクレイが派手に舌打ちをした。

「仕方ないーーこっち」

肩を貸してもらう格好になり、そのまま書庫の奥へと連れて行かれる。

整然と並んだ本棚をいくつもいくつも通り過ぎていくと、奥に小さなドアがあった。
開けて中に入れば、狭いワンルームアパートのような部屋。

「…ここ、は?」
「ボクの休憩室。いいから座って」

一人掛けのソファーに下され、すぐさまマグカップに入ったお茶と、砂糖壺を出される。


お礼を言ってカップを受け取り砂糖を入れようとすると、「それじゃ遅い」と口の中に角砂糖をいくつも突っ込まれた。
甘くてジャリジャリになった口の中を、お茶で無理やり空にする。

震えたままの手からマグカップをひったくり、クレイがイライラと声を掛けてきた。

「低血糖で倒れるとか、ほんと何やってんの。バカなの?」
「…ごめん」

私は低血糖になりやすい体質みたいで、普段であれば常にポケットに飴を入れているのだけど。
さすがに夢の中でまで、低血糖のことなんか考えてなかったわ。
体質まで正確に反映しなくてもいいのに。


「はあ、脅かさないでよね。馬鹿馬鹿、ほんとバカ」
「ーー馬鹿でスミマセンね」
「そっちが悪いの、大人が悪口くらいで拗ねないで」
「……悪口って分かってんなら言うの止めてよね」

減らず口の応酬をしているうちに、症状がだいぶ落ち着いてくる。
何度か深呼吸をし、握りしめていた手を開くと、震えは収まっていた。
横でクレイが、詰めていた息を吐き出すのが聞こえる。

「……うん、助かりました。ありがと」


ペコリと頭を下げる。うん、やらかした。ーーこれ、後でマゼンタとシアンにも怒られるんだろうな。

……想像するだけで憂鬱だ。
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