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2章

12。女王様は幼女様でした

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え、この子が女王様?……どう見ても5、6才なんだけど?!

女王様って相当なご高齢って話じゃなかったの?!



うっ、ダメダメ、迂闊に思ってことを口に出したりしたら、きっと機嫌を損ねて不敬罪だわ…!

内心冷や汗ダラダラでスマイルをキープする。


目の前の女王様(幼女)は引き出しから懐中時計のような物を取り出し、何やら確認した。

「ふむ、残り1分か。ギリギリではあるが、一応約束通りじゃの」
あ、それタイマーだったのね。見た目懐中時計なアナログキッチンタイマーってことか。

シアンも懐中時計もどきを取り出し、隣のおば様に渡している。どうやら借り物だったらしい。

「全く、30分以内に連れてこいなんて無茶言いますよ」
「その分、他は譲歩したじゃろう?連れてきさえすれば、寝起きの格好でも構わんと言うたはずじゃ」
「あー…そーゆーことかよ。それにしたって、もう少し時間をくれても良かっただろー?」
「イヤじゃ。時間なんてやったら、その間に居なくなってしまうやもしれんからの」

なんせ迷い子じゃからのう、と言いながら幼女様…じゃなくて女王様は椅子から飛び降り、とてとてとこちらにやって来た。

そのまま私の周りをクルクルと廻る。


「ふむ…西洋人らしいが、その割には地味な顔つきじゃの?」

…こ、この子、適確にヒトが気にしている部分をエグってきたっ?!なんて迷惑な才能の持ち主なの…!

ヒクヒクと引き攣りそうになる頬を抑え込んでなんとか笑顔を保ち「そう言われる事もあります」とだけ返した。


この彫りの浅い顔立ちのおかげで、ホームステイ先の日本の高校では『あんまり白人っぽくなくて親しみやすい!』と友達もたくさんできたのだけど…地味とハッキリ言われるのは、やっぱり傷つく。

ちょっと凹みながらも反論なんてできるはずもなく、黙って次の言葉を待つことにしたが、急に肩を掴まれる感触がしてグッと背後に引き寄せられた。
あっと思うまもなく、そのままボスっと何かにぶつかる。

ユラユラ揺れる赤紫色のしっぽが見えるから、抱きとめたのはマゼンタみたいね…ってここ人前ですけど?!
しかも女王様の御前ですよ?!何してんのマゼンタっ!


「ちょっと女王様ー、ウチの飼い主にケチつけないでくれる?」
「そうですよ。彼女の清楚で可憐な容姿に嫉妬しているからって、虐めないでください」
「ちょっと二人ともっ!」

女王様に対してその態度はマズいでしょ?!というか、まずこの抱きしめている腕をほどきなさいよ!
それに、何だかシアンが気持ち悪いくらいマヤさん化してるのはどうしてなの!?
前までそこまで褒めちぎったりなんてしなかったのに、急にどうしちゃったのよ?

「…鬱陶しいくらいベッタリじゃの。それにわらわを前にしても相変わらずの不遜っぷりで、いっそ清々しいくらいじゃわ」

呆れ返った口調で女王様がため息をついた後、何処からか紙を2枚取り出した。
あ、その紙ーーー

「まあこんなモノまで城に寄越すぐらいじゃからの。大方こんな感じになっとるのだろうとは思うたがーー予想以上じゃの」

……その申請書、消えたと思ったらお城に届いていたのか。
多分あれが届けられたせいで、こうして城に呼び出されているのよね…やっぱりこの猫二匹シアンとマゼンタのせいだったんじゃない!

それにしても、二人があんな好き放題言っていても”不敬罪じゃ!”とか叫んだりはしないのね。ちょっと意外かも。
幼女だから、自分の悪口なんか言われたら即キレるか泣くかだと思ったのに…ってこれは偏見かしら。

「そんなことはせんわ。無礼講と言うたのはわらわじゃからの」
あ、あの無礼講って言葉本気だったの…ね……?



……え。


ええぇぇえーーー?!?!


い、いま、私口に出していなかったわよね?
何で普通に返事がくるのよ、あり得ないんだけどっ?!

「それはもちろん、わらわが心を読めておるからじゃな」

どーだとばかりに幼女様が胸を張っているけど、嘘でしょ?特殊スキル持ちってこと?!
猫二匹は知っていたらしく、そう言えばそうだったなーと頷き合っている。

「なんか会話してると、その時相手の考えていることが副音声っぽく聞こえるってヤツだっけ?」
「そうそう、ソフィーには言い忘れていましたが、この女王は心を読めるんですよ」

先に言っておけば良かったですね? ってほんとそれ!

そこ超超重要なとこじゃない!なんで言い忘れてるの?!

はっ…まさかワザとなの?その方が面白そうだからワザと言ってなかったの?


「いや、そ奴らはガチでド忘れしておっただけじゃ」

あ、そうなんだ…そして普通に会話が成り立ってしまう。


これ、私がさっきまで頑張って慣れない敬語を使ってたのとか、必死で笑顔をキープしてたのってモロバレだったってことね。なんてことだ。
そして色々考えていた内容を思い返すと、それこそ不敬罪に問われても仕方がないような………あ、コレ詰んだわ。


女王様は肘をついた上に載せた顔をこてり、と傾けて実に楽しそうな顔をする。

「ふむ、”詰んだ”、という表現は初めて聞いたの」
やはり迷い子との会話は知らない言葉も多く面白いものじゃの、とカラカラ笑う女王様。

「まあそういう訳じゃ。わらわには敬語も、あとオブラートとかいうのも要らん。本音そのままに話しても罪に問うたりはせんぞ?」
そう言ってにっこり可愛らしい笑みを浮かべる様は天使のようだったが、私には悪魔の微笑みに見えた。


ーーあ、これも読まれているんだったわ。
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