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2章

7。ワガママなのはどちら?

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「ねえ、迷い子は珍しいって言ってたけど、本当なの?実は結構いっぱい来てるとかじゃない?」


食事を終えて一息ついたタイミングで、そう聞いてみる。
ひょっとしたら、この近くにも私以外の迷い子がいるかもしれない。

「え、どーだろ。オレ、ソフィアしか見たことないし。前はこの国にも居たらしいけど、今は他の迷い子がいるって話は聞いてないなー」

まあ余所よその国までは分かんねーし、今もどっかには居るかもな?と軽く返され、「会ってみたいの?」と聞かれた。


「そりゃ、いるなら会ってみたいわよ」
同郷…かは分からないけど。同じ世界から来た人なら会ってみたい。

「うーん、そっかー。でも他の迷い子と会ってどうすんの?」
「それは…どんな状況でこっちに来たのかも聞いてみたいし、あとは帰る方法を一緒に探すとか?」

何気なく思いついたことを言えば、途端にマゼンタの顔が厳しくなった。ーーーあ、あれ?なんか怒らせたかも?


飲んでいた紅茶のカップを置くと、マゼンタが一気にこちらにやって来て、私の目の前に立った。
そのままの勢いで、両肩を手でギュッと押さえつけられる。
ちょっと、いや正直かなり痛いくらいなんだけど、急に張り詰めた空気に呑まれて何も言えずに黙って見上げるしかなかった。


「ーーあのさ。帰る方法を探すなら、オレらが一緒に探す。他の迷い子がどうやってきたのか知りたいなら、城の蔵書でも漁ればいくらでも調べられるから」

オマエがわざわざ余所の国まで行って、いるかどうかも分からない他の迷い子ヤツを探す必要なんてないだろ?!

いつになく強い調子で言われ、ビクッと肩を竦ませる。…マズいわ、本気で怒らせてしまった。

でも、口調は間違いなく怒っている人のそれだけどーー
ーーーなんでそんな切なそうな、辛そうな顔をしてるんだろう。

まるで、マゼンタの方が泣きそうだ。


「……ごめんなさい。軽い気持ちで言っただけで、今すぐに探しに行きたいとか、そういう訳じゃないの」

ーーもう少し考えて発言しないと駄目だった。
この国ことも分かってないのに、他の国に行くなんて無謀よね…飼い猫に余計な心配を掛けてしまったわ。

本当にごめんなさいと続けると、マゼンタが腕から力を抜き、気まずげに目を逸らした。


「…オレの方こそ、ゴメンなーー」

もし他の迷い子を見つけたら、ソフィアはオレらを置いてソイツと何処か行っちゃうのかな、とか思っちゃって……なんかスゲー嫌な気分になったんだーーー
視線を合わせないまま、マゼンタがボソボソとそんなことを呟いた。


ーーんん?
あれ、それって私に一緒にいて欲しいってーーー置いて行かれたくないって、言ってるようなものよね?


「…猫は気ままでひとりで平気、とか言ってなかった?」
「……言ってないし」

伏せた耳で、しっぽもバッタバタさせながら、マゼンタは完全にそっぽを向いた。



ーーーうん、そっかぁ。

あは、どうしよ。


さっきの言葉でこんなまんざらでもないような、浮かれた気持ちになるなんて。

…多分今でも帰るのを邪魔されたら怒って抵抗するし、これまで散々塩対応しておいてなんだけど。
引き留められそうなのが嬉しい、なんて。矛盾もいいとこだ。

…………はあ…。

ワガママで猫みたいなのは、マゼンタじゃなくて私の方だったみたいだ。
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