53 / 174
2章
5。眼福だったそうです
しおりを挟む
あああぁ……なんでこのタイミングでこんな事に気づいてしまったんだろう。
できるなら最後まで気づきたくなかった自分の気持ちに気づいてしまって、現在進行形で凹み中である。
ーーもしかしなくても私、お姉ちゃんとお兄さんに顔合わせたくないって、そう思ってたんだ。
次に会う時に、自分がどんな顔をしてしまうのかと考えるとすごく怖い。
……ちゃんとおめでとうって、笑って言えるのかしら。
姉はとっても聡い人だから、きっと心から言えなければ私の気持ちがバレてしまう。そんなのは絶対イヤだ。
大好きな姉には、好きな人と心置きなく幸せになってほしい。それが私の好きな人だったとしても。
そう思うのは本当なのに、体の中心に氷水を流されるような、この感覚はどうしたらいいのだろう。
思考と感情は別なのだと思い知らされる。
……ほんと、さっさと諦めれられれば良いのだけど。
大体、私が姉と勝負して勝てる要素が見当たらないわ。なんたって私の姉は外見も中身もリアル女神様なんだもの。
そりゃ、お兄さんもあんな人が同じ職場にいたら好きになるわよね。間違いないわ。
一昨日も、二人が一緒にいるその立ち姿だけで、すっごく絵になっていたーー私の入り込む隙間なんて、カケラも無い程に。
あーあ。せめてサッサと告白して玉砕しておけば良かったわ。
そしたら、いっぱい泣く羽目にはなっただろうけど、きっとその分早くに諦められただろう。
はぁ……私って、自分で思ってた以上に女々しかったのね。
いやそもそも性別も女だけど、それにしたってもうちょっとサバサバしてる方かと思ってたのに。
まさかまさか、こんなに引きずっているとは思わなかった。
しかも、無自覚に夢に逃げてたって事じゃないのコレ。ほんと最悪だ。
ぐるぐると一向に止まらないネガティブ思考をなんとかしたくて、同時に自分の情けなさにどうしようもなく腹が立って。私は床を睨みつけて唇を噛んだ。
と、急に目の端にザラリとした温かくて濡れた感触ーーえ、ちょっ、コレ……
「マゼンタ!アンタ何してんの?」
「ん?舐めただけだぜ?」
「だ、だけってーーってだからなんでそんなことしてんの?!」
「えーと、なんか泣いてんのかな?って思って?」
……は、え?
泣いてると思って?
ーーな、なんなのコイツ?!天然タラシなの?!
いや待て待て、セリフはそうだが、女たらしだからって顔を舐めるのはオカシイ。そこは目元を指で擦るとかまででしょ。なんで舐めてんの……って猫だからだったわ……。
思考が振り切れて言葉が出てこない私に向かって「さっきから思い詰めた顔してる。なんか知らないけど元気出せよー」ってマゼンタがペロペロ顔を舐めてくるけど……いつまでやんのよコイツ。
「いー加減ヤメなさいよっ」
顎を掴んでグイッと押すと、ぐぇっと潰れた声を出してマゼンタが離れていった。
なんで笑ってんのよ、腹立つわね。
くそう、昨日といい今日といい、何簡単にガード突破されてるのよ私。しっかりしなさい。
「ま、気のせいだってならそれでいーけど?それより、もういい時間だから飯食おーぜ!」
「いい時間って、今何時なの?」
聞けば、なんともう10時過ぎていた。
思いっきり寝坊したわ……。
まー実際疲れてたんだろーし、オレらも今日仕事ないからゆっくりすればいいんじゃね?と言われたけど。
夢だからって自堕落にグータラ過ごしていたら、現実に戻った時がツラいのよ。規則正しい生活って超大事。
そう説明すれば、分かったような分からないような顔をされた後「じゃあそろそろ着替えてみる?」と何処から出したのかも不明な大きな紙袋を渡された。中身はーー昨日買った服?
ニヤニヤこちらを見つめてくる視線に、何が可笑しいのかと自分の姿を見下ろせばーー
!!なんてことなの?!
「いやあ、女の子のパジャマ姿ってグッとくるよねー♪」
「……っ!い、いいから出てけーーーー!!」
その下のショートパンツっていうの?脚がキレイに見えててめっちゃソソられるわー、と続けるマゼンタの顔に、思いっきり紙袋を叩きつける。
ーーやっちゃった、やってしまった……完全に失念してたわ……っ!
私、まだ着替えていないじゃない……!
さっきまで寝ていて、起きてすぐにマゼンタが入ってきたから。当たり前っちゃ当たり前だけど!
マゼンタがあまりにフツーにしてるから、頭からすっぽり抜け落ちてしまってた。
うわあぁ……と頭を抱えていたら、部屋の外に避難したマゼンタから「オレ飯の準備してるから、支度終わったら下に食いに来いよー」と声が掛けられる。
あ、なんかフツーな感じ……。
……うん、なんだろ。さっきみたいに揶揄われるのも嫌だけど、今みたいに普通に対応されるのも微妙に女としての自信が傷つくといいますか……。
じゃあどうしろって話になるが、そもそも私がちゃんとしろってことなのよね……目が覚めてからのことも含めて。
ノロノロと紙袋から着替えを取り出しながら一昨日からの自分のやらかし具合を振り返り、今後の諸々の対応に頭を痛めたのだった。
できるなら最後まで気づきたくなかった自分の気持ちに気づいてしまって、現在進行形で凹み中である。
ーーもしかしなくても私、お姉ちゃんとお兄さんに顔合わせたくないって、そう思ってたんだ。
次に会う時に、自分がどんな顔をしてしまうのかと考えるとすごく怖い。
……ちゃんとおめでとうって、笑って言えるのかしら。
姉はとっても聡い人だから、きっと心から言えなければ私の気持ちがバレてしまう。そんなのは絶対イヤだ。
大好きな姉には、好きな人と心置きなく幸せになってほしい。それが私の好きな人だったとしても。
そう思うのは本当なのに、体の中心に氷水を流されるような、この感覚はどうしたらいいのだろう。
思考と感情は別なのだと思い知らされる。
……ほんと、さっさと諦めれられれば良いのだけど。
大体、私が姉と勝負して勝てる要素が見当たらないわ。なんたって私の姉は外見も中身もリアル女神様なんだもの。
そりゃ、お兄さんもあんな人が同じ職場にいたら好きになるわよね。間違いないわ。
一昨日も、二人が一緒にいるその立ち姿だけで、すっごく絵になっていたーー私の入り込む隙間なんて、カケラも無い程に。
あーあ。せめてサッサと告白して玉砕しておけば良かったわ。
そしたら、いっぱい泣く羽目にはなっただろうけど、きっとその分早くに諦められただろう。
はぁ……私って、自分で思ってた以上に女々しかったのね。
いやそもそも性別も女だけど、それにしたってもうちょっとサバサバしてる方かと思ってたのに。
まさかまさか、こんなに引きずっているとは思わなかった。
しかも、無自覚に夢に逃げてたって事じゃないのコレ。ほんと最悪だ。
ぐるぐると一向に止まらないネガティブ思考をなんとかしたくて、同時に自分の情けなさにどうしようもなく腹が立って。私は床を睨みつけて唇を噛んだ。
と、急に目の端にザラリとした温かくて濡れた感触ーーえ、ちょっ、コレ……
「マゼンタ!アンタ何してんの?」
「ん?舐めただけだぜ?」
「だ、だけってーーってだからなんでそんなことしてんの?!」
「えーと、なんか泣いてんのかな?って思って?」
……は、え?
泣いてると思って?
ーーな、なんなのコイツ?!天然タラシなの?!
いや待て待て、セリフはそうだが、女たらしだからって顔を舐めるのはオカシイ。そこは目元を指で擦るとかまででしょ。なんで舐めてんの……って猫だからだったわ……。
思考が振り切れて言葉が出てこない私に向かって「さっきから思い詰めた顔してる。なんか知らないけど元気出せよー」ってマゼンタがペロペロ顔を舐めてくるけど……いつまでやんのよコイツ。
「いー加減ヤメなさいよっ」
顎を掴んでグイッと押すと、ぐぇっと潰れた声を出してマゼンタが離れていった。
なんで笑ってんのよ、腹立つわね。
くそう、昨日といい今日といい、何簡単にガード突破されてるのよ私。しっかりしなさい。
「ま、気のせいだってならそれでいーけど?それより、もういい時間だから飯食おーぜ!」
「いい時間って、今何時なの?」
聞けば、なんともう10時過ぎていた。
思いっきり寝坊したわ……。
まー実際疲れてたんだろーし、オレらも今日仕事ないからゆっくりすればいいんじゃね?と言われたけど。
夢だからって自堕落にグータラ過ごしていたら、現実に戻った時がツラいのよ。規則正しい生活って超大事。
そう説明すれば、分かったような分からないような顔をされた後「じゃあそろそろ着替えてみる?」と何処から出したのかも不明な大きな紙袋を渡された。中身はーー昨日買った服?
ニヤニヤこちらを見つめてくる視線に、何が可笑しいのかと自分の姿を見下ろせばーー
!!なんてことなの?!
「いやあ、女の子のパジャマ姿ってグッとくるよねー♪」
「……っ!い、いいから出てけーーーー!!」
その下のショートパンツっていうの?脚がキレイに見えててめっちゃソソられるわー、と続けるマゼンタの顔に、思いっきり紙袋を叩きつける。
ーーやっちゃった、やってしまった……完全に失念してたわ……っ!
私、まだ着替えていないじゃない……!
さっきまで寝ていて、起きてすぐにマゼンタが入ってきたから。当たり前っちゃ当たり前だけど!
マゼンタがあまりにフツーにしてるから、頭からすっぽり抜け落ちてしまってた。
うわあぁ……と頭を抱えていたら、部屋の外に避難したマゼンタから「オレ飯の準備してるから、支度終わったら下に食いに来いよー」と声が掛けられる。
あ、なんかフツーな感じ……。
……うん、なんだろ。さっきみたいに揶揄われるのも嫌だけど、今みたいに普通に対応されるのも微妙に女としての自信が傷つくといいますか……。
じゃあどうしろって話になるが、そもそも私がちゃんとしろってことなのよね……目が覚めてからのことも含めて。
ノロノロと紙袋から着替えを取り出しながら一昨日からの自分のやらかし具合を振り返り、今後の諸々の対応に頭を痛めたのだった。
0
お気に入りに追加
554
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。
田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。
結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。
だからもう離婚を考えてもいいと思う。
夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
今度こそ君に返信を~愛妻の置手紙は離縁状~
cyaru
恋愛
辺鄙な田舎にある食堂と宿屋で働くサンドラ。
そこに子爵一家がお客様としてやって来た。
「パンジーじゃないか!?」叫ぶ子爵一家。
彼らはサンドラ、もといパンジーの両親であり、実妹(カトレア)であり、元婚約者(アラン)だった。
婚約者であるアランをカトレアに奪われたパンジー。婚約者を入れ替えれば良いと安易な案を出す父のルド子爵。それぞれの家の体面と存続を考えて最善の策と家を出る事に決めたパンジーだったが、何故がカトレアの婚約者だったクレマンの家、ユゴース侯爵家はパンジーで良いと言う。
ユゴース家のクレマンは、カトレアに一目惚れをして婚約を申し込んできた男。どうなんだろうと思いつつも当主同士の署名があれば成立する結婚。
結婚はしたものの、肝心の夫であるクレマンが戦地から戻らない。本人だけでなく手紙の返事も届かない。そして戦が終わったと王都が歓喜に溢れる中、パンジーはキレた。
名前を捨て、テーブルに【離縁状】そして短文の置手紙を残し、ユゴース侯爵家を出て行ってしまったのだった。
遅きに失した感は否めないクレマンは軍の職を辞してパンジーを探す旅に出た。
そして再会する2人だったが・・・パンジーは一言「あなた、誰?」
そう。サンドラもといパンジーは記憶喪失?いやいや・・・そもそもクレマンに会った事がない??
そこから関係の再構築を試みるクレマン。果たして夫婦として元鞘になるのか?!
★例の如く恐ろしく省略しております。
★タイトルに◆マークは過去です。
★話の内容が合わない場合は【ブラウザバック】若しくは【そっ閉じ】お願いします。
★10月13日投稿開始、完結は10月15日です。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションでご都合主義な異世界を舞台にした創作話です。登場人物、場所全て架空であり、時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
夫が浮気をしたので、子供を連れて離婚し、農園を始める事にしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
10月29日「小説家になろう」日間異世界恋愛ランキング6位
11月2日「小説家になろう」週間異世界恋愛ランキング17位
11月4日「小説家になろう」月間異世界恋愛ランキング78位
11月4日「カクヨム」日間異世界恋愛ランキング71位
完結詐欺と言われても、このチャンスは生かしたいので、第2章を書きます
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる