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1章

0。恋の終わり

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「ずっと君のことが好きだった」


大好きな人の声が、響いて溶ける。

ほんの5メートルくらい先に立つその人の顔は、朝靄の中で霞んでぼやけていた。
黒い髪に、ヘーゼルの瞳。少しだけ長い前髪と、黒縁の眼鏡。

男性にしては少し高い声は、緊張からか少し掠れていた。

「困らせたくなくて、ずっと我慢していたけど……もう限界なんだ。君の答えを聞かせてほしい」


その問いは私の方に向かって投げられているけれど、答えを求められているのは私ではなかった。

当然だ。
今の私は、彼からは見えていない。森の入り口に立つ大木の、太い幹の陰に隠れているから。

本当にその言葉を掛けられているのは、私と彼の丁度中間辺りに立つ、とても珍しいストロベリーブロンドの女性。

ーー私の姉、だった。


腰までを緩やかに覆う髪、スッと伸びた背筋。
私の方からは今は見えないが、深い緑の瞳は知的な色を帯びて、綺麗な桜色の唇をしている。
霧に包まれたその姿は、人間離れした美しさだと思った。


妹からの身内贔屓を抜きにしても、私の姉は女神のような人だった。
外見だけでなく、それは中身も含めて。

十年前に妻を亡くしてから仕事に逃げた、私たちの父に文句も言わず。
母親の代わり、父親の代わりをこなし。家庭を維持するための雑事も全てをこなして。
私に対して、疑うこともできないような愛情を注いでくれた。


『お姉ちゃんって、実は女神様なんじゃないの?』
『あら、なあにそれ?ソフィーったら面白いことを言うのね』
『だって、お姉ちゃんみたいな完璧な人、もはや人だとは思えないんだもの。神様って言われた方がまだ信じられるわ』
『ふふ、やあね。私はあなたのお姉ちゃんなのよ?それ以外の者になんて、なる気はないわ』

ーーこんなに可愛い妹を手放したりなんかするものですかーー

そう言った姉は、本当に私にとっての女神様だった……それは今も同じ。
自分だって、あの頃は成人もしていない子供だったのに。


姉のことを、愛している。世界中の誰よりも。

……だから、姉が彼のことをもし好きなら。この告白を受けるのならば。
私はーー


「ええ……そうね。」
姉がコクリ、と首肯するのが見えた。

「私ーー貴方の事が好きよ」

……聞きたく、ない。

なんで、どうしてーー


体温がスッと下がっていく。
頭の中が白く塗りつぶされ、グラグラと視界が揺れる。


私、私はーーーー

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