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1章

17。お昼ご飯も気が抜けません

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お礼を言って不動産屋を出た私は、先に出て行ってしまったマゼンタを小走りで追いかけた。

片手はまたもやシアンに繋がれたままだけど……まあ両側挟まれるよりはだいぶ動きやすくなったから良しとしよう。

行き先は分かっているから急がなくていいとシアンに言われ、ゆっくり歩く。
道の両側の店なんかを色々説明してもらいつつ進んでいくと、急に開けた場所に出た。


大きな噴水に、食べ物の屋台。周りに置かれたいくつものベンチに、寛ぐ人々……と、ついでにチラホラと犬耳や猫耳の方たち。
噴水の中では大勢の子供達が水しぶきをあげながら遊んでいて、随分とにぎやかだ。

少しーーいや大いにヘンなモノも混ざっているが、公園のように見えなくもない。


「えっと、ここは?」
「この街の中心の広場ですよ」

あ、ここが中心部なのね。道理で人(?)がいっぱいいる。


「家を見に行くんじゃなかったの?」

確か、郊外の方を希望していなかったかしら。

「こっちが近道なの!あと、そろそろ腹減ったろ?先に昼飯食ってこうぜ!」

いつの間にか戻ってきたマゼンタが、先に屋台で買ったのだろう食べ物を山のように抱えている。

ーーちょっと多過ぎやしないだろうか。


「ほら、好きなの選べよ!」

近くのベンチにどっかり腰を下ろして、戦利品とばかりに食べ物を並べていく。
なんだか目をキラキラさせながら見上げてくるけど……ひょっとして褒めてほしいのかしら?

「ありがとう、美味しそうね」とお礼を言うと、しっぽがピンッと立って満足げな表情ーーあ、やっぱり褒められ待ちだった。


実際少しお腹も減っていたし、何より休憩したかったので、ありがたく選ばせてもらう。
ガレットっぽい生地で炒めた野菜と焼いたソーセージを巻いたラップサンドと、アイスレモンティー。
なるべく味の想像がつくものを選んでみた。

マゼンタの向かいのベンチに座って、黙々とラップサンドを食べる。
ほんのりカレー味っぽい?
スパイスの効いたホットドックを食べているみたいで、普通に美味しい。

一気に食べ終わったあと、レモンティーを一口飲んでホッと息を吐く。ーーはあ、生き返った。

なんだかんだで、結構疲れていたみたい……主に精神的な理由で。
ほんと、昨日からイベント多すぎてキャパオーバーだ。


猫二人はまだ食事中だが、目の前の食べ物の山はみるみる減っていく。
シアンもマゼンタもどっちかというと細身で大食いに見えないのに、どこに入っていってるんだろう?不思議だわ。

気持ちの良い食べっぷりだなぁ、と見ていたら
「こっちも食べますか?」
と隣からシアンが食べていたフィッシュ&チップスの紙袋を持ち上げ聞いてくる。

美味しいですから味見しません?と袋を向けられ、じゃあいただきますと手を伸ばそうとしたところでーー

「はい、どうぞ?」

ーー手に持ったフィッシュフライを、口元にちょいっと押しつけられた。


……え。何コレ。

ひょっとして、あーんって食べさせるアレなの?え、本気?
なんでこの猫は、いちいちソッチ方向に持っていこうとするの?!まさかセクハラが趣味とか言う?


ーーって、落ち着け私。

このシアンの目は、オモチャの反応を愉しみに待ってる時のそれだ。

ジロっと睨みつけてやってから、なるべく平然とした顔でもぐもぐと食べていく。

一口で食べるには大きいけど……下手に残したら、囓りかけを目の前で食べられるに決まってる。
絶対引っ掛かってやるものか。


何とか食べ切ってアイスティーで流し込み、「美味しかったわ、ご馳走さま」と言って、ニッコリと笑ってやった。

ーーよし、問題なく乗り切ったわ!

シアンが軽く舌打ちをしたのを見て、思わず心の中でガッツポーズを決める。
ふふん、どーよ。精々悔しがりなさい。

「なぁんだ、引っ掛かってくれないんですね。残念です」

まあいいですけど、とつぶやいたシアンがこっちに手を伸ばしてくるーーなによ、まだ何かする気?

慌てて体を引こうとするけれど間に合わず、顎に手を掛けられて固定されてしまう。

そのまま、口汚れちゃいましたね、といって親指の腹で唇を拭われたかと思うと、その指をぺろっと目の前で舐められた。


ーーーーっ!?
こ、コイツまた懲りずにこんな事をーー?!?!

ニヤリ、と口の端を上げて笑われ、パッと目線を逸らす。……ダメだ、なんだか顔が熱い。

うぅっ……くそぅ。こんのセクハラ猫めっ!

誰かこの接触過剰な猫を何とかしてください。切実にお願いします。


そんな風に思うけれど、そう言えばコイツらの飼い主は自分だった、と思い出して、頭を抱えたくなってしまった。
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