ちっちゃな魔女様は家出したい! 〜異世界の巨人の国で始める潜伏生活〜

夕木アリス

文字の大きさ
上 下
13 / 30

閑話1。娘の涙は最強です①(父親視点)

しおりを挟む
ファウラン公国、宮廷魔道士団魔道士長。
それが私、アレクシス・ラミレスの肩書である。

この国では数十年戦争も起きておらず、たまに辺境に魔物が出る程度。
至って平和なため、魔道士長とはいっても主な業務は書類仕事だ。
その日も私は自分の執務室で大量の書類をさばいていた。


眼精疲労が溜まりそろそろ休憩をと思い出した頃、扉を控えめに三度ノックする音が響き「お父様、いらっしゃいますか?」と鈴を転がすような可憐な声がした。

あの声は、私の可愛いシルヴィアーナか?
どうして娘がここにーーああ、確か今日は王妃教育の日であったな。

ひょっとして、三時のお茶にでも誘いに来たのだろうか。それか一緒に帰ろうという可愛いお誘いの可能性もあるな? 急ぎの書類だけならもうしばらくで終わる。少し待ってもらうことになるが、なんとか都合はつけられるだろう。
どちらにせよ、可愛い娘のお願いを聞いてやらぬでは父親失格というものである。


入室を許可すれば控えめにドアが開き、入ってきたシルヴィアーナが見事な淑女の礼を披露した。

ふんわりと広がるプラチナブロンドの髪、宝石のような深いエメラルドグリーンの瞳。
鮮やかなトルコブルーに金糸で刺繍がされたドレスを身に纏い、まるで妖精か女神のような美しさだ。

あのドレスは私が先月の娘の誕生日に贈ったものだな。めちゃくちゃ、ものすごーく似合ってる。やはり私の見立てに狂いはなかったな!

はぁ……自分の娘が可愛すぎてツライ。マジで天使。


本音で言えばずっとお嫁にやらずに手元に置いて愛でたいのだが、この子は将来の国母となることが決まっている。

あと数年もすれば成人の儀、それが終わり次第王太子の婚約者として正式に発表され、一年の婚約期間を経て結婚してしまうのだ。

なんなのもう、なんでこの国十五歳で成人なの? もっと遅く、二十歳とかでいいのに早過ぎじゃない?
あと数年でこの娘を手放さなきゃいけないとか想像するだけで泣けてくる。ツライ。

ああでも、とりあえず今は私の目の前に最愛の娘がいるのだから! 
ちゃんと父親として魔道士長として、カッコよく威厳のあるとこを見せないとッ! 

コホンと一つ咳払いをして、私はシルヴィアーナを応接用のソファーに座らせ、自分もその向かいに腰掛けた。


「執務室に来るとは珍しいな、シルヴィアーナ。今日はどうしたんだい?」
「お仕事中お邪魔して申し訳ありませんお父様。実は折り入ってご相談したいことがあるのです。お忙しいのは承知しておりますが、少しお時間いただけませんか?」
「もちろん、構わないとも。それで相談とは?」

頬が緩まないように引き締めつつチラリとシルヴィアーナの顔を見たところで、ハッと息を止める。

大事な愛娘の顔が、哀しそうに曇っている。
よくよく見れば目元が少し赤く腫れ、擦ったような跡もあった。

ーーこれは、どういうことだ。一体娘に何があったというのだ?!


「……まずはこれを見て頂きたいのです」

そう言ってシルヴィアーナはバッグから記録用の魔水晶を取り出し、壁に向けて映写した。

そこに映し出されたのは娘の婚約者である王太子とその取り巻き達が私の大事な娘をこき下ろし、馬鹿にし、さらには婚約破棄を企む姿。

彼らには見えていなかったのだろうが、その映像の中にはシルヴィアーナ自身が同じ場所で顔をうつむかせ、両の手をギュッと握りしめて耐える姿も映り込んでいる。


「これは……」
「ーー今日の昼過ぎにあったことです。……私、王太子殿下に嫌われてしまっていたみたいでーー彼には相応しくないと……そう、皆様に言われて……」

そこまで説明したシルヴィアーナが、ついに言葉を途切れさせ、そのまま顔を覆ってしまう。
肩が小刻みに震え、指の隙間からぽたりぽたりと雫がこぼれ落ちるのが見えた瞬間、私は我を忘れて叫んだ。

「シーナ!」
「ーーッ! 大、丈夫です。……取り乱して申し訳ありません」

渡したハンカチで目元を押さえ、シルヴィアーナが顔を上げる。その顔は涙で濡れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく
ファンタジー
 私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。  目覚めると 「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。 ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!     しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?  頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?   これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。 ♪♪   注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。 ♪♪ 小説初投稿です。 この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。 至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。 完結目指して頑張って参ります

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです

桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...