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魔法

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「レッドベアーは生殖によって誕生する。けれど、ほかの獣と絶対的に違う点が一つある。それは生まれつき魔力を持っているということだ」

 魔獣も魔物も、魔力溜まりに影響を受けているため、その身には大小あれど必ず魔力を持っている。魔法が使えるかどうかは個人の資質によるが。

「成体ともなれば魔法の一つや二つ、常時展開することも可能なわけだ。……実際にこの目で見るのは初めてなわけだが……これは確かに馬鹿げてるな」

 後半は独り言のようにささやいた。事実聞かせるつもりのある言葉ではなかったのだが、身体強化魔法を発動した母熊にはしっかりと聞き取られていた。

 身体強化魔法。殺気が増幅した理由でもあるこの魔法は、対象の肉体レベルが高ければ高いほど効果が上がる。つまり熊が使えば人なんてあっという間に殺せるわけだ。

 それでもスミスが殺されていないのは、レッドベアーが賢い生物であることはもちろん、彼が先ほど言った言葉のおかげでもあった。

『やはり、魔法の存在にも気づいていたか。テイマーのスキルか?』

「俺は、お前たちのこと……種族のことな? 結構知ってるからな。それと俺はテイマーじゃないって言っただろ?」

『ではいつからか見張っていたということか? すとーかーというやつだな』

「意外と人の世界について知ってるんだな。でもストーカーはやめてくれ。魔法が効かない知り合いがいるってだけだ」

『寝床をのぞき見したわけではないというのか?』

「そうだ。お前たちがこの森のどこかにいることは知っていたが、流石に寝床を知りたいと思うほど興味があったわけでもなかったからな」

『つまりあくまでけもなーのすとーかーではないと言い張るわけだな?』

「ああ」

『では問うが、その魔法が効かない知り合いというのは、一体どこにいて、どうやって幻術を見破った?』

「ここに」

 そう言ってスミスは己の左目をえぐり出した。

『キサマ、リッチの類か……!?』
 
「俺はサモナーだって言ってるだろ? それにこいつはお前も見たことはあるはずだ」

 眼球だったものは掌の上でぷるぷると震え、溶け出しているようにも見える。

『スライム……!!』

 未だ殺気がおさまる気配はない。身体強化魔法が解除される気配もない。だというのに、母熊はジリっと音を立てて後ずさった。

 最強と言ってもいいほどの力を持つレッドベアーが、目の前に存在する得体の知れない何かに怯えるかのように。

 常識の通じない相手から逃げ出すように。けれど守るものがあるために抗う者のように。

 そして叫ぶ。

『テイムできるほどの知性を持たないスライムを手懐けているキサマは、一体何者だ!』
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