2 / 9
入学式
しおりを挟む
頭痛に苛まれたわけでもなく、誕生日を迎えたわけでもなく。神様や悪魔に出会ったわけでも、突然気絶するようなこともなく。
実にあっさりと、私は前世の記憶を取り戻した。
正確には、今いる世界の元ネタがゲームであるということを思い出したといったところか。
戦乙女の聖なる口づけというタイトルで発売されたゲームは、外伝作品や続編が製作される程度には人気のゲームだった。ノベルゲームでありながらRPG要素も多分に含んだシステムは、男女問わず人気があった。
主人公が魔王を倒すために旅に出て、それを支えるヒロインたちが主人公に恋心を抱くという、ハーレムものにありがちな設定だけれど、主人公はその中から一人だけを選び幸せに暮らすという結末を迎える。もちろん魔王を討伐した後で、だ。
王女、豪商の娘、大将軍の子、最年少宮廷魔導士というそうそうたるメンバーがそろうヒロインたち。主人公は平民出身の勇者であることを除けばごく普通の男の子。玉の輿を狙うなら私もヒロインたちに加わるべきだろう。なにせ私が記憶を取り戻したこの場所こそ、ヒロインたちが主人公と出会うことになる王立士官学校。それもその入学式の最中なのだから。
「新入生の諸君、まずは入学おめでとう。例年のおよそ3倍という、我々の予想を大きく上回る数の生徒が集まってくれた。各々の思惑はどうあれ、我々は教育者として、諸君らを歓迎する」
妙にとげとげしい言葉を発しながらも、学園長と紹介されたそのおじいさんは私たち新入生を祝福してくれた。
確かに、さっきまでの私はある目的があってこの学校に入学した。入学するにあたって邪な思いを抱いていたことは、否定できない。
この国の王女、つまりヒロイン候補の一人が、なんの気まぐれか王女専属の親衛隊を発足させ、さらにそのメンバーを今年の入学生から選ぶという噂が、平民でありただの町娘である私にも伝わってきたのだ。
ただ、今の私はその親衛隊に入りたいなどとは微塵も思っていない。なにせヒロインの一人である王女の親衛隊だ。必然的に、主人公と出会ってしまうことになる。道端ですれ違う程度ならまだしも、王女の親衛隊として主人公と接触するとなると、もしかしたら顔を覚えられるかもしれない。何より私は武闘派ではないので親衛隊はもとより軍に入隊することさえ今では嫌なのだが。
そんなわけで、今の私は学園長が敵視しているような、『王女に近づきたいがために入学した生徒』ではない。学園長が歓迎するであろう『国のために戦うことを厭わない生徒』でもないけれど。
「ちなみに、新入生の数が多いということで教員が不足している。近いうちに新たな教員を招く用意があるが、それまでは学園長である私も君たちの講義を担当する予定だ。至らない点もあるかと思うが、よろしく頼む」
学園長シルヴァ・サーランドといえば、後に主人公の師匠として深く物語に関わることになる、それはそれはものすごくつよいおじいさんである。
強さに純粋で、それ故に王女目当てで入学してきた生徒を快く思わない、理性持つバトルジャンキー。そんな彼が一般的な講義など出来るはずもない。主人公に教えるときのように、正規兵でさえ逃げ出したくなるような厳しい教えになるのではなかろうか。彼が持つわずかな理性が働いてくれることを願うばかりだ。
と、入学式はそのまま事件が起こるわけでもなく平和に終わったのだが。
「ゲームに王女の親衛隊なんて設定出てきたっけ……?」
前世の記憶を取り戻して間もないというのに、早くもシナリオ崩壊の気配が漂っていた。
実にあっさりと、私は前世の記憶を取り戻した。
正確には、今いる世界の元ネタがゲームであるということを思い出したといったところか。
戦乙女の聖なる口づけというタイトルで発売されたゲームは、外伝作品や続編が製作される程度には人気のゲームだった。ノベルゲームでありながらRPG要素も多分に含んだシステムは、男女問わず人気があった。
主人公が魔王を倒すために旅に出て、それを支えるヒロインたちが主人公に恋心を抱くという、ハーレムものにありがちな設定だけれど、主人公はその中から一人だけを選び幸せに暮らすという結末を迎える。もちろん魔王を討伐した後で、だ。
王女、豪商の娘、大将軍の子、最年少宮廷魔導士というそうそうたるメンバーがそろうヒロインたち。主人公は平民出身の勇者であることを除けばごく普通の男の子。玉の輿を狙うなら私もヒロインたちに加わるべきだろう。なにせ私が記憶を取り戻したこの場所こそ、ヒロインたちが主人公と出会うことになる王立士官学校。それもその入学式の最中なのだから。
「新入生の諸君、まずは入学おめでとう。例年のおよそ3倍という、我々の予想を大きく上回る数の生徒が集まってくれた。各々の思惑はどうあれ、我々は教育者として、諸君らを歓迎する」
妙にとげとげしい言葉を発しながらも、学園長と紹介されたそのおじいさんは私たち新入生を祝福してくれた。
確かに、さっきまでの私はある目的があってこの学校に入学した。入学するにあたって邪な思いを抱いていたことは、否定できない。
この国の王女、つまりヒロイン候補の一人が、なんの気まぐれか王女専属の親衛隊を発足させ、さらにそのメンバーを今年の入学生から選ぶという噂が、平民でありただの町娘である私にも伝わってきたのだ。
ただ、今の私はその親衛隊に入りたいなどとは微塵も思っていない。なにせヒロインの一人である王女の親衛隊だ。必然的に、主人公と出会ってしまうことになる。道端ですれ違う程度ならまだしも、王女の親衛隊として主人公と接触するとなると、もしかしたら顔を覚えられるかもしれない。何より私は武闘派ではないので親衛隊はもとより軍に入隊することさえ今では嫌なのだが。
そんなわけで、今の私は学園長が敵視しているような、『王女に近づきたいがために入学した生徒』ではない。学園長が歓迎するであろう『国のために戦うことを厭わない生徒』でもないけれど。
「ちなみに、新入生の数が多いということで教員が不足している。近いうちに新たな教員を招く用意があるが、それまでは学園長である私も君たちの講義を担当する予定だ。至らない点もあるかと思うが、よろしく頼む」
学園長シルヴァ・サーランドといえば、後に主人公の師匠として深く物語に関わることになる、それはそれはものすごくつよいおじいさんである。
強さに純粋で、それ故に王女目当てで入学してきた生徒を快く思わない、理性持つバトルジャンキー。そんな彼が一般的な講義など出来るはずもない。主人公に教えるときのように、正規兵でさえ逃げ出したくなるような厳しい教えになるのではなかろうか。彼が持つわずかな理性が働いてくれることを願うばかりだ。
と、入学式はそのまま事件が起こるわけでもなく平和に終わったのだが。
「ゲームに王女の親衛隊なんて設定出てきたっけ……?」
前世の記憶を取り戻して間もないというのに、早くもシナリオ崩壊の気配が漂っていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
悪役令嬢が死んだ後
ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。
被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢
男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。
公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。
殺害理由はなんなのか?
視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は?
*一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる