SORUA

明日葉智之

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エピローグ

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エピローグ


星界暦千五十一年

 白枠に飾られた窓からソルアの光が射している。
 真新しい王宮の外ではドラムの音が鳴り響き、星々の喧騒が聞こえる。
 微睡みから目を覚ますと、私は深く皺の刻まれた目尻を拭った。
 とても長い間、眠りについていたような気がする。
 背中を預けていた椅子から体を起こすと、ぎしりと木の軋む音がした。
 琥珀色のテーブルには、この部屋に似つかわしくない古ぼけた人形が一つ。
 女の子がモチーフになっていて、毛糸の髪に目が大きなぼたんで作られている。
「ノエル。入るぞ」
 規則正しく部屋の扉を叩きながら一人の老星が私の部屋を訪れる。
「シャウラか。相変わらずぴんぴんしておるな。七十にもなるのに腰も曲がっておらんとは」
「それはお互い様だろう」
 シャウラは皮肉めいた顔で口髭の端を持ち上げた。
「私たちもすっかり老星となってしまったか」
 彼はテーブルの人形に視線を走らせると、独り言ちた。
「仕方あるまい。あれから五十年も経ってしまったのだからな」
「……ああ。そうだな」

 五十年前、ソルアを巡り、当時の下級星街自衛軍であったアデスと星界軍との間で戦争が起こった。
 圧倒的に星界軍が優勢とされていたものの、下級星街で生まれたソルアが星界門を破壊。
 混乱に陥る隙をつき、星界軍を打破したアデスは貴族星街を制圧。
 戦いに終止符を打った。
「今でも思い出す。星界門に風穴が空いた時は、ここだけの話、笑いが止まらなかったな」
「シャウラ。貴様、地獄に落ちるぞ?」
「そうかもしれんな」
 ふん、と言いながらシャウラが鼻で笑う。
「貴様がもたもたしているのが悪いのだ。今回も私がこうして呼びに来なかったら永遠に眠りこけていたのではないか?」
「じじいの癖に相変わらず口が達者な奴よ。もう時間か?」
「ああ。皆、新星界王を待っておる」
「そうか。わかった。先に行っててくれ」
 肩を竦めてシャウラは部屋を出て行った。

 再び静まり返った部屋の中で、誰にともなく、私は語りかける。
 
 たまに君の事を夢に見る。
 ナハスの森を抜けた先にある荒野で出会った日のことを。
 君が僕に大切なことを教えてくれた。
 だから……。
「あと少しだけ、見守っていてくれないか」
 
 白枠に飾られた窓からソルアの光が射している。
 静まりかえった部屋の片隅。
 そこには銀色の髪の少女がいて、穏やかに微笑んでいた。


「行ってくるよ。スピカ」


「いってらっしゃい。ノエル」                       ……end
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